多岐川佑華@たけきの藩国様からの依頼より



青空の下で再会を

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「………。アフロのまま会いに行かないの?」
「行かないよ。てか、もしアフロなっててもコテ当てて髪形直してからショウ君に会いに行くもん」
「えー、もったいない」
「もったいなくないわ、馬鹿」
「アフロの女に引く男なんかこっちから捨ててしまえ」
「やだ、私ショウ君と別れない!!」

 以上、とある執筆者と依頼人の馬鹿会話。
 何故アフロ? と思った方は6月23日の16時ごろのNWCログをご覧下さい。
 ちなみに、多岐川佑華さんはいつもの髪型・帝國仕様を想像してSSをお楽しみを。
 それでは前フリ、終了本編をどうぞ。


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 たけきの藩国。
 ウーウーウー、と空襲警報が鳴り響き。
 国民の皆さんがとっくに避難して無人と化した往来を。
 多岐川佑華はケーキの入った箱を抱えてウロウロしていた。

「ホント、どうしたもんだか」

 小さく呟くが、言葉を返してくれる人も側にはいなく。声も足音も昼間なのにやたら響いて聞こえた。気がした。

 ちなみに今日の日付は6月23日。
 その前日、6月22日は多岐川の恋人……と信じたいが、相手にどう想われているかイマイチ自信が持てない相手。小カトー・多岐川の誕生日だった。
 その日を盛大にお祝いしよう、と1ヶ月前から張り切って誕生日プレゼントに戦闘機を贈ろうと自国の人の力を借りて開発にいそしんでいたのだが。
状況が変わったのはターン10の終盤。
 帝國と共和国が戦争する事になるかもしれない。そんなきな臭い噂が飛び交ったのがきっかけだった。
 ちなみに、最後に小カトーに会った時。彼は西方有翼騎士団に所属していた。

 西方有翼騎士団=帝國の騎士団
 多岐川の現在の出身藩国=FEG=共和国
 もし、このまま戦争が勃発した場合………………。

 小カトー・多岐川VS多岐川佑華(チーン)

 どうにかその事に関して小カトーと連絡を取ろうと手紙を送ったのだが。返事はいっこうに届かず。
 多岐川はぐるぐるが納まらないままFEGを離れ、帝国の一国・たけきの藩国に移住をしたのだが。
 何故か入れ違いに、小カトーは騎士団を辞めFEG国民になっていたのだった。

 事態は一転二転し、帝國と共和国の戦争は免れた。が、ISSの崩壊・難民問題・共和国天領の襲撃………………。移り変わる状況は、好転しているのかどうかはともかく、帝國と共和国の行き来が困難になっているのは事実だった。

 結局プレゼントするはずだった戦闘機はFEGで未完成のままドッグのどこかで放置されているだろうが。せめてもと思いケーキ1ホール用意した訳だが。肝心の渡す方法が見つからないまま、現在に至る訳だ。

「どうしよ、とりあえず共和国の国境行くか? でも徒歩だと2ヶ月はかかるらしいし………。ケーキその間に腐るよ、てか食料として私が食べちゃう。I=D乗る? でも私今アイドレス着てないし。じゃあ「呼ぶと飛んでくる相方」使う? でも距離離れすぎてたら使えないしなぁ………………」

 ちなみに前回、この多岐川専用強制イベントを発動させようとして失敗している。流石に共和国と帝國では距離が開きすぎたか。

 などと延々・悶々としている所だった。

「おこまりでしょうか」
 天からの助けに
「はい、無茶苦茶困ってます」
 即答したのは。
 思わず声の方に顔を向けると、知らない人。背が高くて肌が黒く、どこかで見覚えのあるイエロージャンパーを羽織っていた。

「あのー、失礼ですがどちら様でしょうか?」
 え? 何かの罠? 少々疑心暗鬼に陥りながらも、多岐川はそれとなく聞いてみる。
 不審者丸出しの多岐川にもこの親切な人は笑顔で答えてくれた。笑った時口から見えた歯は白かった。
「こんにちは。モシン・イブラヒムといいます。どぞよろしく」

 その名前で多岐川は危うくケーキを落とすところだった。
 彼は知る人ぞ知る、ガンパレードマーチの作詞者にして先日ニューヨークの核爆弾を解除した栄えあるエースの1人だった。一部何かおかしい所があったような気がするが、気にしては負けなので気にしないでおく事にした。

「今はとても危険なんです。それで、います。貴方の護衛です」

 その言葉に泣けた。誰がこんな凄い人護衛によこしてくれたかは分からない。ともかく誰かが自分の身を案じてくれるなんて、こんな嬉しい事はない。
 しかし、未だ警報は鳴り止まないので、とっとと移動した方が良さそうだ。

 歩きながら説明する事にした。モシンが多岐川の歩調に合わせてくれているのが、滅茶苦茶不安な中余計ありがたく感じられた。

「私の彼氏……だと思う。多分。その人FEGにいるんですけど会いに行けないかなあと考えてた所です」
 おいおい、お前微笑青空取ったんちゃうんかと言ってやりたいが。この女の中では小カトーにとって自分は戦闘機より優先順位下だと思っていたのだ。お前、小カトー何だと思っている。いや、多岐川佑華の「小カトー関わるとボンクラ3割増し」という悪癖が1番問題なのだが。これは今は関係のない話だ。
「なるほど。FEGですか」
 多岐川がぐるぐるしているのが顔にまで出ていたのだが、モシンはにこやかに笑ってくれて頷いた。裏表なく、穏やかに。そして、こう返した。

「それなら空港で会えるかもしれませんね」
 その言葉に、多岐川は一瞬考えてから聞いてみた。
「空港ですか? たけきの? FEG?」
「たけきのの。燃料補給で来ると思いますが」

 その言葉でぐるぐるしていた不安が治まった気がした。

「ありがとうございます!! えっと、一緒に来てもらって構いませんか? 私今いろんな事情で全然戦えないんですよ」

 その言葉で、モシンはまた笑顔で言った。笑った時また白い歯が見えた。

「もちろん」

 再び何回も何回も多岐川が礼を言いながらも、2人は歩き出した。
 あったらまず何を言おう? 会いたかった、誕生日おめでとう、それから、他には………。
 言いたい事を精一杯頭の中でまとめ、ブツブツ呟く多岐川を、やはり穏やかな笑顔で。しかし周囲への注意を怠らずモシンは見守った。


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 空港は比較的安全らしく、警報の音は聞こえなかった。しかし状況が状況なだけあって人の数はまばらだった。まあ、整備とかここを仕事場とするらしい人はそれなりにいたが。

「誕生日が悲しくなったら、残念ですからね。時間はあと15分くらいですね。給油に来るはずです」
「ありがとうございます。うちの子すぐ無茶するから心配で心配で」
多岐川は再び何度も何度も頭を下げた。そして、この1ホールのケーキが2人で食べきるには大きすぎると思った。

「あの、よろしければケーキ一切れどうぞ。2人じゃ食べきれませんので」
「ありがとうございます」

 モシンがにこっと笑って姿を消した。
それを見届けてから、多岐川は後でちゃんと分けとこうと思いながら辺りを見渡し、滑走路を見つめた。再び再会の言葉を口の中で反芻しながら。


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 10分もすると、外からごーという音がし始め、多岐川は我に返るや否。音の方に走り出した。
ショウ君、ショウ君ショウ君ショウ君ショウ君………………。

考えながら走ったのが失敗だったらしい。気がつくと多岐川は空港を飛び出して滑走路の真ん中に立っていた。
しかも、そこは偶然にも音の原因が降りる位置だったらしい。

て、何で私出過ぎてるの。
我に返ったがもう遅い。航空機は進路変更して機体を浮かし、どこかに飛んで行ってしまった。
一瞬で飛んでっちゃったからハッキリとは見えなかったけど。機体に帝國のマークが見えなかったから、恐らく共和国のもの。見たことないのだったけど。そして、私の知ってる中で戦闘機に乗ってるのは………………。

多岐川の脳裏に見覚えのあるピンクの髪の少年が浮かび、当然無茶苦茶いじけた。

「私の馬鹿ーあんぽんたんー考えなしー」

 コンクリートにのの字を書き出したところで、モシンが何事かと多岐川の方に来てくれた。

「私今すごく落ち込んでます。自分の馬鹿さ加減に。ごめんなさい、折角教えてくださったのに」
「どうされたんですか?」
 流石にモシンも多岐川の涙目と泣き出しそうな声に心配そうに眉をひそめた。
「私の彼氏……らしい人私のせいで補給に来れなかったみたいです。思わず滑走路の前出ちゃったから」
「…ああ。なるほど。じゃあ、近くの別の空港かも知れませんね」
「近くのですか? あのう、近くの空港まで連れて行ってもらっていいですか?」
「3箇所ありますけど、どこがいいかな。タイミングがあわないかもしれませんね」

 その3箇所の場所を頭に浮かべながらモシンがそう言うと多岐川も思いついた事を言ってみた。

「燃料の補給だったらもう燃料そんなに積んでないと思うんで、ここに一番近い空港だと思うのですが」
「…ここでもう少し待ってみますか?」

その言葉にピンと背筋を伸ばして多岐川は立ち上がった。

「燃料がギリなら、再度着陸しに来るかも」
「はい……そうします」

最初に言う言葉は謝罪になりそうだなぁ、誕生日関係なくなってきた気が………。
思いながらも、おとなしくモシンに連れられ空港に戻り、例の滑走路を睨み続けた。


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 しばらくすると、再びごーという音がした。先ほどと同じ音だ。多分。

 多岐川は再び空港の外に出て、滑走路に向かった。今度は飛び出さず、慎重に。
程なくして空から:航空機が降りてきて、先ほど多岐川が飛び出した場所に優雅に着陸した。
 やっぱり、知らない機体。少々の不安をよそに、整備士らしい人達がぞろぞろ駆けつけ、迅速に補給が開始されていく。多岐川は邪魔にならないようどきながら、今か今かと待つ事にした。
 多岐川の邪念、いや想いが通じたのか。程なくしてパイロットが飛び降りた。ヘルメットを外すと、見覚えのあるピンク色の髪。小カトー・多岐川だった。
 そう確認し確信した瞬間。

「ショウ君ー!!!」
もう何回泣いたか分からないが、今回もとうとう泣いてしまった。多岐川はベソをかきながら小カトーに抱きついた。ちなみにケーキの箱を抱えたままだったから少々おかしな姿勢になっていたが、気にならなかった。

言いたい事は一杯あったが涙が先に勝ってしまって。

「よお。元気そうだな。どしたの?」

いつもどおりの変わらない態度と言葉が余計嬉しくて、多岐川はしばらく泣き続けた。


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それから2人並んで近くのベンチに座って、ケーキを食べた。
やっぱり多岐川はまた泣いて、それを小カトーは笑ってなだめながらも。今戦闘機に乗れることが凄く嬉しそうだった。ケーキをうまうまと美味しそうにほうばる姿を多岐川は可愛いと思ったのは内緒の話だ。
補給が終わり、ピットから連絡が入った時。多岐川は最後に小カトーの唇にキスをした。気のせいか、いつかキス魔と言われた通りになってしまった。
「ケーキついてた?」
「ううん。おまじない。頑張ってね。頑張りすぎないでね。私貴方にまた忘れられて生きていく自信ないから」
「わーったわーた」

 そして笑顔で歩いていく小カトーの背中を多岐川はいつまでもいつまでも見送った。
 またね、また会いに行くからね。
 飛び立つ戦闘機が見えなくなって飛行機雲だけになるまで、多岐川は手を振り続けた。

 ちなみに、これは全くの余談なのだが。小カトーは戦争続きのせいで、自身の誕生日については多岐川から聞くまではすっかり忘れていたそうだ。

 まあ、本当にバタバタが続いたのだから仕方ないけど。
 今度会う時はそんな慌ただしくなく穏やかにただ一緒にいれる事を楽しめたらいい。
 そんな事を思いながら、多岐川は1ピースだけ残ったケーキを手に空港に戻る事にした。
 そうだ、自販機があったらお茶かコーヒーも持って行こう。
 私を守ってあの人に会わせてくれたモシンさんの為に。
 そんな事を思いながら。


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最終更新:2008年07月04日 21:24