西條華音@ビギナーズ王国さんからのご依頼品


2月10日。
普段は冬空の厳しい寒さで冷え込むビギナーズ王国だったが、
この日は穏やかな日の光が差し込み、少しだけ暖かった。

天候は晴れ。雲はなし。
穏やかな小春日和のこの日は
ビギナーズ王国の人々にとって大切なものだった。

今日は、ある少女の誕生日。
そのお祝いの誕生会がビギナーズ王国で行われる事になっていたのである。

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宰相府藩国、地下庭園。
そのうちの一つである夏の園。

青い海と空を一望できる白い砂浜に、
ビギナーズ王国の人々は集まっていた。
その近くには彼らや未央と縁のある人々招待されていた。

結城小夜も、この会に招かれた人の一人で
以前未央と、ビギナーズ王国の西條華音と共に春の園で恋の話をしたことがある。
そんな思い出を思い出しながら、ひとまず小夜は誕生会の手伝いをすることにした。

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砂浜に置かれた大きなテーブル。
白いテーブルクロスをかけたその上には色とりどりのケーキが並んでいる。

その上には、小夜が焼いたケーキもある。
ケーキを生まれて初めて焼いた小夜は、様々な人の助けもあって
上手に綺麗に焼く事ができた。


私が「けーき」を焼けるなんて…


焼けたケーキを見ながら静かに小夜は感動していた。
手には、書き留めたケーキのレシピをしっかりと握っている。


この二時間は、小夜にとって初めての事だらけだった。
ケーキを焼いたのはもちろん。
他の人の恋の様子を間近で見た事も…。


「私の権限で呼べます」
その声に、はっ と意識を戻される小夜。

いけない。つい、さっきのことを思い出して感慨にふけってしまっていた…

声の主のほうを見た小夜。
彼女は、確か鋸星信児といったはず。
幸せそうに微笑んでいた信児。好きな人が居るのだと彼女は言っていた。

いつか、あんなふうに私も微笑みながらあの人が好きだと言えたら…

そんな事を考え込んでいると、背後から悲鳴が聞えてきた。
未央の声だ。
小夜は、両手両足をばたつかせながら妹人の腕のなかに無事着陸した未央を見た。

だ、男性の腕の中に落ちるなんて…

顔を赤らめながら、目をそらす小夜。
同年代の異性と接する機会の少なかった彼女には、少々刺激が強かった。


妹人と未央は顔見知りだったらしい。
お互いに再会を喜んで一段落したところで、
ビギナーズ王国の人々から、未央の誕生日を祝う声がたくさん未央に掛けられた。
小夜も未央に「おめでとうございます!」と声をかけた。
未央の嬉しそうな顔を見た小夜は、つられて笑顔になった。

誕生会が始まって、未央に誕生日プレゼントが贈られた。
小夜は、先ほどのケーキのレシピを未央に渡した。

未央さんにも、ケーキを是非作ってみて欲しい。
そして、ケーキを作る喜びを味わって欲しい。

「は、はい、どうぞ! チョコケーキの作り方です!」
喜んでもらえるだろうか。少し不安になりながら、
小夜はレシピを未央に差し出した。

「はい・・・」
未央は、そっと小夜の手からレシピを大切そうに受け取った。

「ありがとうございます。どれだけいってもたりないくらい」
瞳の端に涙を滲ませ、笑顔で感謝してくれた未央。
その言葉と笑顔に、小夜も笑顔を浮かべる。
ただ、嬉しかった。


未央の近くに座り、ケーキを食べる小夜。
時々未央と目が合ってお互いに微笑みあった。

未央が他の人と会話している間、小夜は周囲の様子を何となく見ている。
すると、先ほどの鋸星信児が大柄の少年と話しているのを見た。

「で、貴方をめとった物好きはだれですか」
「わたし? あれだけど」

信児が一人の男性を指差す。
指差された男性は少し驚いたようだった。


小夜は、彼らの様子をどきどきしながら見ていた。
彼らはどんな関係なんだろう。
そう思いながら、少し目を離して飲み物を手に取った。
飲み物を飲んで、顔を未央たちのほうに向けると。


妹人という名の少年に一人の少女が寄りかかっていた。

衝撃的な光景に、ぽかんとする小夜。
しかし、それだけでは終わらない。


「………疲れたから、ちょっと支えて欲しいなーって」
甘えるようにもたれかかる彼女を。

「いいよ・・・」
そう、妹人は抱きしめたのである。


おんなのひととおとこのひとがだきあっている…!

状況を認識した瞬間、真っ赤になる小夜。
ふ、不潔です! と思いながらも言葉にできないまま
口をパクパクさせながら見入ってしまっている。

彼女は、二人の抱き合う姿を、自然に自分と光太郎の顔にして想像してしまい、
耳まで赤くなった。

ふ、ふけつですはれんちです、なんてことをー!

もはや、小夜の顔は赤いのを通り越して湯気まで立ちそうな勢いであったが
幸い誰も彼女の様子には気がつかなかったようである。
もし彼女に声をかけていれば、目を@@にさせながらふけつですー!という彼女が見れたかもしれない。


「まさかあの転校生が恋人なんて」

心から感心したような未央の声に我に返る小夜。
直前の彼女の脳内では、自分を抱きとめてくれている光太郎の笑顔が映し出されていたのだが
我に返ったことでその笑顔は掻き消えた。
ちょっと惜しいなんて思ってしまう小夜は、その自分の考えを恥じて
そのことから自分の意識を離そうと、未央たちの会話に加わる事にした。

「古くからのお知り合いなんですね」

大分、落ち着いたように自分では言ったつもりだが声が震えていたかもしれない。
でも水を飲んだら少しだけ意識がはっきりして落ち着いた気がした。


が、しかし。

「……妹人、もっと驚かせてみる?」
「うん」

そういった澪という名の少女は、妹人という名の少年に



キスをした。




口をぽかんとさせ、一瞬固まる小夜。
「破廉恥です・・・」その未央の言葉に我に返って
再び二人の様子を見るが。

まだキスをしていた。

小夜は。
キスというものについて知識はなかったが実際にしている人を見たのは初めてであった。
それと同時にある記憶が蘇る。

アルカランドにあった、人の夢を見せ、悪夢へ誘う城・月光城。
そこでの光太郎との――

初めてのキスの記憶。

記憶の中の過去と、目の前にある現在。
交錯する二つが、小夜をより混乱させる。

そう。
目の前でのキスしている二人が、あの日の自分達に重なってしまって――


小夜は、完全に混乱した。
目を閉じながら、蘇るあの日のリアルな記憶から意識を離そうと
目を開いて、もう一度二人を見る。

まだキスをしていた。
小夜は顔を赤くしてまだキスしてる妹人と澪を見た後、未央と同時にやっぱり破廉恥だと言った。

そんな未央と目が合って。
苦笑しながら、そっと二人から目を反らしたのだった。



日は傾き、一日の終りを告げる。
楽しかった誕生会もそろそろ終りだ。


会話する他の人たちの様子を見ながら、小夜は物思いに耽った。
その中には、先ほどの澪と妹人のやりとりだった。

いつか、私もあんなふうにあの人と結ばれたい…

小夜は、そう願ったのだった。



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引渡し日:2008/07/02


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最終更新:2008年07月02日 12:49