No.399 竜乃麻衣@FEGさんからのご依頼品



[切なさは強さへ-]


 竜乃麻衣は、上着を羽織ると、両頬を『パチンっ』と軽く叩いて気合いを入れた。

「今日は、藤原さんとこのヤガミの様子を見に行くんだ、そんでもって……」

 ふっと頭をよぎる、バンダナ姿の人。
 ちょっとハワワと赤くなるが、時間を見るとギリギリだったので、慌てて家を出ていった。

「い、いってきまーすっ!」


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 待ち合わせ場所に立ち、そわそわと相手が来るのを待っているが、相手がなかなか来ない。
 ふっと吹いた風は蒸し暑い。
 見渡せば草原だ。

「砂漠の国のはずがなぁ…」

 そう呟いていると後ろに気配を感じる麻衣。

 頭にいつものバンダナを巻き、タバコをくわえた男性-FEGの藩王、是空とおるがそこに立っていた。

「よっす」

 久しぶりに見た、是空の姿に嬉しさと切なさが込み上げる麻衣。

「今日はお仕事、大丈夫なんですか?」
「まかせろ、3人いる」

 えー、っという疑いの眼で是空を見つめる麻衣。
 こんなやり取りすらも久しぶりにで、少しくすぐったい。
 久しぶりの想い人との悪ふざけの中で、ふいに込み上げた想いが溢れる。

 -是空さんのためなら、強くなれる-

 そう呟いた麻衣の言葉は聞こえない振りをする是空。
 タバコの煙りをそっとはき、麻衣の傍に一緒に佇む。

 是空はラフな姿でいた。
 この蒸し暑い気候もあるのだが、普段からラフな恰好が多い彼は、今日も普段と変わらない。
 吸い終えたタバコを携帯灰皿に入れ、新たにもう一本箱から取り出し火をつける。
 特に歩き出すでもなく、麻衣から離れるでもなく、ただ傍にいた。
 今日は何のために呼ばれたんだろう、と考えながら。


 麻衣はそんな是空に、ちょっとだけ歯がゆく思い、しかし会えた嬉しさと、傍に居てくれる嬉しさに、少し幸せを感じていた。
 だから一瞬だけその幸せを感じて、そして思い出した。

「そうだ、おーさま!今日はホントぶっちゃけますと、藤原総一郎さんが無茶苦茶気になってしょうがないんですよー」

 じたばたっと、駄々をこねて訴える麻衣。
 あー?とじたばたしている麻衣を横目に、携帯を持ち出した。

「電話してやるよ」
「この世界にブリリアント梅鉢なんかないから、倒れてそうで心配っつーか、帰ってくる藤原ひろ子さんのが心配?」

 麻衣の話は聞かずに電話を始める是空。

「あ。俺です。王様、元気ー。酒のみいかない?」

 心配?と呟き終えた麻衣と同時に是空の電話は終わっていた。
 いつもの手つきで携帯電話をおさめると、麻衣を見る。

「来るって」
「Σ 早ッ」

 ほどなくして、向こうからサラリーマン姿の男性が歩いてきた。
 麻衣は丁寧に挨拶を済ませると、藤原ひろ子へ伝えるための、ヤガミの近況を聞いた。

 麻衣は詳しく知らなかったのだが、藤原総一郎は経済の専門家らしく、FEGの物価の安定にも一躍かっていたらしい。
 ひろ子へ伝えることはないか、を聞いたが「10日もすればあえる」と言うと、仕事へと戻ってしまった。


 あまりの素っ気ない態度にぽかーんと総一郎が去っていくのを見送る二人。

「芸風が違う奴だ。藤原…」

 そんな是空の呟きに、テレ隠しなんだろうなぁ、と麻衣は思いつつ、是空を見つめた。

「ひろ子さんが帰ってくるの、楽しみですね、おーさま!」
「まったくだ。あいつがデレるのがみたい」
「ツンデレかー。うん、二人っきりになれば、絶対デレそうだー!」

 カラカラっと明朗に笑う麻衣の姿を見つつ、是空はくわえてるタバコのフィルター部分を強く噛んだ。

「二人きりでデレなら…ツンデレなのか。難しい」

 是空は難しい顔した。デレたところをどうやって見れたものか、と考えているのだろう。


 本当はもう一人、様子を確認したかった人がいたが、是空に相談したところ、不用意に会いにいかない方がいいだろう、ということになった。

 少し手持ちぶたさになってしまったが、最後は自分の幸せを。
 そう思った麻衣は、持ってきていたお酒をかばんから取り出して是空に見せた。

「おーさま、日本酒もいけますよね?今日はこれで一杯どうですか?」
「いいね。呑もうか」

 えへへー、とはにかむように笑う麻衣を、優しい笑みで見る是空。
 二人はゆっくり飲める場所-王城へと移動して飲むことにした。


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 麻衣が持ってきたお酒-泉郷-を杯へ注ぎ、是空へ渡す。

「中々呑めないけど、せめてこんな時くらい一緒に呑むですー!」
「俺も久しぶりだなー、酒のめなくてなあ」
「肴はFEG国民の笑顔で、美味しく呑めますよ。絶対w」
「ああ…」

 ふっ、と声のトーンが落ちる。
 王城の中でも、景色がいいバルコニーにテーブルと椅子が備え付けてあり、そこを陣取った二人はしんみりと国民の話をつまみに酒を酌み交わしていた。

「失うのが怖くてしょうがない」
「おーさま…」

 そう呟き、遠くを見つめる是空の横顔が切ない。
 是空にそんな顔をさせたくない。
 だから、私は強くなる、強くなろう、麻衣はそう思いながら、空になった是空の杯に酒を注いだ。


-気付けば、うっすら綺麗な月が輝く時間になっていた-


【終わり】



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最終更新:2008年06月30日 04:01