ミーア@愛鳴藩国さんからのご依頼品



さて、そろそろ到着ですね…

今は烏の姿をしているけれど、人の姿であれば微笑みを浮かべていただろう自分を感じる。
数々の植物をしまい込んでいるポケットには、まだ若干の余裕がある。
引き返して、もう1国ほど立ち寄ることにするか、
それとも近くから、まだうちに置いていない植物を集めてくるか。
悩んでいたのはそこくらいで、もっとゆっくり帰宅するつもりだったのだけれど。
家でミーアが待っている気配を感じたそのとき、
次の一歩を踏み出す前に烏に変身した自分がいたのだった。

出発のときの表情を思い出す。
また泣いたりしていないでしょうか。
それとも、いつものような笑顔を見せてくれるでしょうか。

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今年の2月は、少し違っていた。
愛の季節から逃げ回るため、旅に出て行方をくらませるところまではいつも通り。
手元にないめずらしい植物を集めて諸国を巡るのも、同じ。
レンジャー連邦、鍋の国、紅葉国、リワマヒ国と
どの国も、なかなかに興味深く独特の植生が見受けられていた。
……違うのは。
例年ならめずらしい薬草、毒草を探して歩くはずなのに。
今年は、花を中心に見ていること。

店や市場で種や球根を見繕い、どのような植物なのかを説明してもらいながら。
人里離れたところで、現地の人も詳しくない植物を探し出しながら。

この花は彼女に似合うでしょうか。
こちらは、育てている間も彼女の目を楽しませるものでしょうか。
花が咲くのを見て、彼女は喜んでくれるでしょうか。

何度ミーアのことを思い出したことか。
「不思議なこともあるものですね」
独り言をつぶやきながら、野に咲く小さな花をスコップで慎重にすくい上げる。
布のポケットにしまいこもうとすると、妖精たちがその姿を見せていた。

”誰へのプレゼント?”
”プレゼントではありませんよ。私のうちに持って帰るのですから”
”ちがうでしょ? 他の人のこと想いながらポケットに入れてたもの”
”とっても優しい気配を感じたわ”
さて、この子らにどこまで話したものでしょうかね。

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窓ガラスをクチバシで軽く叩くと、ミーアがすぐに気がついて窓を開けてくれた。
「バルク様!?」
部屋に入って、人の姿に戻る。
まずは荷物を広げ……

「バルク様、バルク様!」
先にこちらですね。
ミーアを抱きとめて、挨拶をすることにする。
「おひさしぶりです。元気にしていましたか?」
「おかえりなさい・・・! いい子にしていましたよ。
 お怪我は? 大丈夫ですか?」
包帯は、飛ぶときの支障を考えての念のため程度。
人の姿に戻ってさえしまえばどうというほどの怪我でもなかったはずなのに
必要以上に心配されているようだった。
「それはよかった。私の方は特になにもなく、平穏な旅でした。
 あちこち廻ってきましたよ」

「・・・旅のお話聞かせてください、たくさん」
笑顔を向けてはくれるけれど、目元は今にも涙をこぼさんばかり。
こういうときは、どうすればいいのだろうか。
子供たちなら、抱き上げてあやしてあげればいいのだけれど。

……そうだ。
整理しておいてから紹介するはずだったものたちですが。
ミーアのために選んだ植物です。見せてあげることにしましょう。
「ええ」

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妖精たちが
”やっぱりプレゼントだったじゃなーい”
”いつ紹介してくれるの?”
”恋人? それとも奥さん?”
ときらきらさんざめく姿を見せたのは、このすぐ後のお話。


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最終更新:2008年06月30日 03:58