F級フレーム開発コンペ応募作品

F級フレームをどう作る?ナニワアームズ編




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 今回のコンペ開催が発表されたとき国内の技術者、整備士達の頭をよぎったのは『チャンス!』の一言だった。
 なにがチャンスなのかというと、長らく頓挫していたテラ産士翼号系RB量産計画の再開である。
 エノラ・タフトと共に希望号が漂着して久しいナニワにおいては同機の運用データが着々と蓄積されており、この名作RBの量産化にいたる問題点の洗い出しと改良点の提出も済んでいる。
 彼等開発部の意気込みがどれほどのものだったか希望号取得当時の資料から引用してみよう。

『量産化計画』
  • BALLSの廃止
 制御用インターフェースとして搭載されているBALLSは世代を重ね複雑化したその内部構造の解析が困難であること、自己増殖機能の暴走抑止等の問題点が指摘され再現が断念された。
 余談だがその過程において自己増殖機能はオミット、人語を解し、工作機械などとのマッチングを優先させた機能限定型複製BALLS、通称『タコヤキ』が試作され整備士には重宝されている。
 BALLSの廃止による情報処理能力の低下は熊本戦における士翼号運用の故事に倣い、複座型にすることで解決した。
 複座型にしたコックピットブロックを収めるためにオリジナルよりも胸部及び腰部が大型化しているが、ギリギリまで装甲を排除してもやはり狭苦しい感じはぬぐえず、コックピットハッチを開いて正面から見るとパイロットがコパイロットを肩車しているようである。
  • 絶対物理防壁の解析・再現
 RBをRBたらしめているというべき絶対物防壁、いわゆるシールドの再現は開発部が最も頭を悩ませたところであった。
 素材となる『星のかけら』の絶対数が不足していたためである。これに関しては意外なことに同国サターン藩王のコレクションが解決した。
 藩国のハンガーの隅で埃を被っていた『星詠号』『流星号』等の旧型機である。これらは目覚ましいI=D系機体の進歩に置き去りにされる形で現役を退いていたが驚くべき事に内部構造に

絶対物理防壁発生装置を備えていたのである。
 どのように使用するつもりだったかは不明だが、絶対物理防壁ドリルなどを考案していた可能性はある。
 直ちに当時の設計図を元に国産絶対物理防壁発生装置の試作が行われ、旧型機から採取された『星のかけら』を用いたシールドの展開と制御に成功した。
 これを駆動するための対消滅機関は度重なる出撃を経験し『目を瞑っていても分解整備できる』と自認する整備士により完璧な複製品が提供された。

 当時の開発部に足りないのは、時間と予算であった。
 そして今回の公募である。これならば『公共事業ですから!』と大手を振って開発に打ち込める。
 立案後度重なる戦乱と藩国の危機の対応に追われ忘れ去られていた量産計画は今ここに日の目を見たのだった。

F級フレーム開発の要件

1 希望号1号機の特性継承
 同機は本場第6世界で建造された生粋のエース機である。RBの特徴であるシールドと剣鈴を備え、全領域、全距離での戦闘が可能。
 更に特筆すべきなのはシールド突撃による白兵距離での比類無き戦闘力とパイロットのスペックを限界まで引き出すピーキーなチューニングである。
 ナニワにおいては藩王、摂政を始めとしたホープ達がパイロットを務めてきたが、量産化に当たってある程度人を選ばない無難なセッティングに戻されることが決定した。
 これは一人のエースが駆る特殊な一機よりも二線級でも二人以上の人間が介在する機を多く揃えた方が総合的に高評価値を達成しやすいというコンセプトにもよる。

2 複座型への機種変更
 前述の通りBALLSを廃した事による情報及び火器管制能力の補完、及び総合的な運用方式の思想変化によるものである。
 これに伴って背面装備の有線式機銃も取り外され、フレキシブルアームの先に後方及び下方確認用の複合カメラが取り付けられることになった。
 当機では先例に則りメインパイロットがコントロール、コパイロットがガンナー及びモニタリングを務める。
 余談だがRBのパイロットはシールドの形状変化に併せて機体を自在に動かせる(ポージングできる)ことが必須であるため、ナニワのホープ達はヨガやダンスのレッスンが義務づけられているという噂である。

3 機体シルエットの変更
 複座型のコックピットブロックを採用するに当たってまず取り上げられたのがスペースの問題である。
 これに関してはサターン藩王の『なら機体を大きくすればいいじゃない』という発言がある。
 これは実際の機体デザインに反映され、オリジナルに比べると胸部と腰部が突出した形状になっている。
 つまり、コックピットブロックに押しのけられたメカニズムを腰部に移動させたわけであった。
 しかしこれも限界があり、あまり大きく機体の中心線から張り出すと、その部分がシールドの半径から漏れ、水流などの抵抗で欠損する。
 散々頭をひねった末、開発部が出した結論は『装甲を薄くする』という至ってシンプルなものであった。
 もちろんただ削っただけでは機体強度の問題が出てくる。そこで思い切ってオリジナルの外部装甲である高機能鋼鉄材を外し、代わりにナニワに産する地底怪獣の外殻を加工した有機装甲を取り付けることとした。
 地底怪獣の中には超高温高圧の地底環境に適応した種もあり、その外殻強度はI=Dに匹敵する。更に軽量な事もあり、様々なモディファイを加えたにもかかわらず機体重量はオリジナルとほぼ同水準を保つことに成功した。
 こういった涙ぐましい開発部の努力にもかかわらず最終試作機のコックピットは二人で乗るにはやはり狭く、メインパイロットが胸部オープンハッチで搭乗した後、コパイロットが背面の簡易ハッチから滑り込むという面倒な搭乗方式に落ち着いた。

4 装甲形状の変更
 メカニズムのレイアウト完了後に浮上したのが装甲形状の問題である。
 RBは水陸を問わず運用できる事が前提であるため、無骨に装甲が張り出したままでは水流などの抵抗が大きかったのである。
 これに対しては外部装甲を流線型に加工することで対応し、一部から『更に視界が悪くなる』『かっこ悪い』『ダサイ』『ジャ●ラみたい』とクレームの上がっていたフェアリング※が廃止された。
 代わりに頭部の水流抵抗に対しては頭部を楔形に加工した上で頚部をボールジョイントとターレット方式に換装、最大90°まで頭部を上向かせることで解決した。
このモディファイの副産物として頭部カメラの全方位可動、装甲に対する実体弾の侵撤軽減が報告された。
バーミーズに代表される有機的な曲面加工に優れたナニワならではの改良であると言えよう。
※抵抗軽減のために肩から頭にかけて装着するカバーのようなもの。付けると頭が無いように見える。

5 武装
 RBの主兵装はいうまでもなく最強の盾にして矛というべき絶対物理防壁である。
 絶対物理防壁で半身を覆ったまま敵機に突入するいわゆるシールド突撃と、絶対物理防壁をブレード状に展開してシールドすら貫通するいわゆる剣鈴である。
 剣鈴は国産の絶対物理防壁発生装置の特性上細長く弓形に反り返ることから特にシャムシールと呼ばれている。
 背面に装備されていた背面迎撃用の有線式機銃は、歩兵に弱いというRBの弱点を受けて後方及び下方確認用途の複合モニターカメラに換装された。これの監視をコパイロットが行い撃たれる前に察知して回避する方式である。
 脚部ハードポイントには水中以外でも使える装備が欲しいという要望に応え自律式高機動突入体が採用された。
 これはミサイルの弾頭に高出力の短距離レーザー発振装置を備えたもので、ハードポイントから足元、つまりシールドの効果範囲外に射出(水中では放流)された後に自前の推進剤に点火、レーザーで進行方向の抵抗(水やデブリ)を蒸発させながら敵機に突入するという非常にかの国らしいミサイルであった。
 その特性上射程はやや短いものの、装甲をレーザーで焼き切ってから自爆するという機構は大型ターゲット撃破やシールド突撃前の露払いとして効果的であった。

6 オプション
  • ジェットスキー
 RBの弱点である航続時間の短さを解消するために開発された簡易リフターである。水上または地上1~10m付近を滑空し、シールド突撃前の加速等に用いられる。
 使用に際しては絶妙のバランス性能が要求されるが、バーミーズの開発で培ったバランサーとカウンターウェイトの技術でそれを補っている。
 形状としてはエンジンのついたサーフボードである。使い捨て。
  • 作業用マニュピレーター
 オリジナルと同じく人間サイズの施設を使用することを前提にした小さな手である。左右両用で手袋を裏返しに使うように付け替えることが可能。
 本来は碗部に格納されているか、手首に固定されているが本機では必要なときに太腿部分に格納されているものをポケットに手を入れるようにして装着する。
 前述の通り大型化した機体をカバーできるように両碗部の絶対物理防壁発生装置を大型化した結果の措置であり、ここにもスペース確保に対する苦労が伺える。


ナニワアームズ製F級フレーム摘要
プロダクトネーム:群狼号
全高:9m+1m(巡航形態時)
推進器:ウォータージェットを背面に単発で装備
乾質量:非公開(希望号1号機に準じる)
搭乗人員:2名
エントリー方式:パイロットが前面より搭乗後ガンナーが背面ハッチよりスライディング
索敵:頭部モノアイカメラ及び背面複合フレキシブルカメラによる目視。あとは勘と先読みのみ
武装:シールド、RBシャムシール発生装置を両碗に装備。脚部ハードポイントに自律式高機動突入体を格納可能

機体構成
頭部:より抵抗の少ない楔型かつ紡錘形を基本とした形状に換装。
胴体部:複座型採用他のモディファイのためオリジナルよりもやや太め。ウェストを太くしなかったのは開発部の意地、ではなくシールド発生時のポージングを妨げないためである。
碗部:絶対物理防壁の大型化に伴いオリジナルよりも肘から先がやや太長い。マニュピレーターはオプション。
脚部:ハードポイントの搭載力向上のためオリジナルより太め。


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最終試験航行


 ナニワアームズ南方沖500㎞の海中。
 陽光が揺らめく群青の水面を見上げて一機のRBが遊弋している。
 ナニワアームズ製試作F級フレーム『群狼号』。暗青色に塗られた流線型の機体は主機関をアイドリングまで落としてこの海域に留まっていた。
「試験航行許可出ました。現刻より2時間、当該海域に船舶及び航空機が侵入してくることはありません」
「コピー。軍用機は航行計画なぞ出さないだろうがね。少し息苦しい感じだな」
 ディスプレイだけが光源の仄暗いコックピットに納まっているのは同国の女性猫名パ、乃亜・C・Oと久遠寺 那由他ペアである。
 パイロットシートに着いた乃亜は主機の出力を上げつつ気のない返事を返した。振り向けば一段高い後方コ・パイロットシートに着く那由他の膝に頭が当たりそうな狭いコックピットはその手の恐怖症がある人間には三十分と耐えられそうにない。
 今回特に二人が試験を任されたのはホープ以外によるRBの運用データを取るのが第一だが、狭いコックピットへの適応性も大きな要因になっていた。
「すいませんお姉様、これでも大型化の許容範囲ギリギリなんです…」
「ああ、そうではないよ。私もパイロットだから狭いコックピットは慣れっこだ。
 ただ、公海上とはいえ帝國領と近いからね」
 乃亜はまだ真新しい操縦桿を引きながら前後に備えられたカメラからの映像に視線を落とした。見渡す限り機影はない青く沈んだ海。本国監視システムとのデータリンクもそれを裏付けていた。
 まあ、覗き屋の用心はしておこう。短く呟くと乃亜は機体を巡航速度で前進させた。シールド無展開状態の水流を感知して頭部が進行方向、つまり機体に対しての真上を向く。
「テスト内容を送信します」
「頼む」
 後席から転送されたテスト項目に従い機体を下向かせて海底を目指す。粘り着くような水の抵抗を感じつつも速度は順調に上がっていく。
 海底から20メートルほどのところから機体を引き起こし、インメルマンターンから大きく螺旋を描いて上昇する。
 瞬く間に海底から海面まで浮上した群狼号は機体をロールさせそのまま海面に対して背面航行に入った。
「順調ですね。巡航時の機体動揺、水流抵抗ともに既定値を下回っています」
「ふむ。確かに扱いやすい印象はあるが」
「この機のコンセプトはフラッグシップに随伴して同様の作戦行動を遂行するというものです。
 我が藩国でいうならば希望号に着いていき、同一目標にシールド突撃を敢行できるスペックを備えています」
「なるほどな。その名の通りに集団戦を企図した機体なわけだ。
 それでは次のテスト項目へ移ろう」
「コピー。シールド展開からの全力航行です」
 那由他のオペレートを受けて乃亜は絶対物理領域発生装置を起動した。群狼号の上半身がシールドに覆われラムジェットが爆発的な推進力を発揮し始める。
「これは凄いな…」
 乃亜は加速によるGをはっきり感じながら嘆息した。ちょっと機動力に優れた潜水艇程度からまるで航空機に生まれ変わったように機体特性が変化している。
 それもそのはずでF級フレームは宇宙空間での運用を基本としており、これが本来の機動なのだ。
 乃亜はその滑らかな駆動に大空を舞うように自在に機体を走らせてみたい誘惑を感じつつシールドを傾けて群狼号をゆるい垂直方向のループに入れた。
 シールドの形状変化に併せて群狼号が身体をよじって抵抗を極限する。無論シールド展開中は有視界での航行は不可能である。乃亜は勘とインプットされたデータと速度から割り出される水深計の表示だけを頼りに綺麗な真円を描いてみせる。
「お見事です。最終項目は自由戦闘です。機体性能を限界まで利用して標的を撃破してください」
 前席のディスプレイに表示された標的用機動機雷のシンボルを見て乃亜は口元に微かに笑みを浮かべた。
「何か懐かしさを覚えるシチューションだな」
「火星の海を思い出しますね」
 那由他はそう答えながらHMDのバイザーを降ろし火気管制とのリンクを開始する。ここからが複座型の真価が発揮されるところである。
 ランダムな軌道要素を入力されて海中を漂う機雷を起爆させないように、かつ確実に捕捉するために群狼号が海中に複雑なステップを踏む。猛烈な速度で水蒸気の白い航跡が刻まれるそこは先読みと勘がものをいう世界だ。
 加速、急停止、ターンにロールと上下左右に攪拌されるコックピット。
「高機動突入体投下」
 ここ、と見極めたポイントで後席の那由他がトリガーを引くと脚部ハードポイントに格納されていたミサイルがプリセットされた目標に対して突入を開始する。
 獲物を追い立てる猟犬のように迫るミサイルから回避する軌道を取る機雷。限定されたそのルートに向けて群狼号が疾走する。
「さすが。良い読みだ」
 乃亜は満足そうに呟くと左腕にシャムシールを展開して一閃。両断され無力化した機雷を突入してくるミサイルごとシールドで受け止めそのまま母港へ帰還するルートに乗せる。
 航続距離節約のためにシールドをオフにしたコックピットに音と振動が戻ってくる。
「お疲れ様でした。試験航行は成功ですね。あとはこの子がちゃんと戦える場所を与えられれば良いんですが」
「そうだな。この機体ならNWを護る新しい力になってくれるだろう」
 F級フレーム、士翼号、希望号、そしてそのどれとも似て非なる群狼号。出来れば自国で運用したかったな、乃亜はようやく馴染んできたコックピットを撫でて独りごちた。
 帝國軍の次期主力RBを企図した機体は何処までも青い海を滑らかにひた走るのだった。

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最終更新:2008年07月21日 00:49