宰相府帝國軍兵器開発コンペ
独自I=D公募作品
2008/05/07 1:43版
プロダクトネーム LA-W 生甲冑白銀
全長 15m
搭乗人員 1~2名
要点:人騎兵を軸とした開発。詠唱戦可能な機体。古レムーリアでの運用。遠距離戦闘可能。
とろりとした常闇の中。髪を靡かせて魔術的舞踏子が跳躍する。
とん、とん、と不可視の足場を軽い足取りで進む先。
篝火の炎を映して眩く白銀に輝く一領の甲冑が台座に置かれている。
いや、その前に降り立った舞踏子が見上げるそれは、優美な曲線を描く騎士の装いをした巨人であった。
『ごきげんよう。雪白』
ふわり、と巨人の胸の前に浮遊した舞踏子が目覚めのコマンドワードを口にすると、主を感知した巨人の胸甲がゆっくりと下向きに開いた。
『我は甲冑 御身を護る盾とならん』
胸甲の内側に刻まれた、操縦者を護る魔術文字。その胸甲の下、露わになった胸部にはエメラルドグリーンの巨大なオーブが埋め込まれていた。
表面を円形に魔術紋で彩られたそれを核珠という。操縦者を機体とリンクさせ、同時に外界から護る羊水でもある。
宙を滑るように移動した舞踏子がその表面に触れた瞬間、その姿は細波のようにゆらゆらとした光を放って核珠の中に取り込まれていた。
主を身の内に迎え入れた巨人が胸甲を閉じる。その手がゆっくりと上がりのっぺりした仮面を手にした。
瞳を閉じた女性の顔を模した頭部、その額に刻まれた『emeth』の文字。それを覆い隠すように仮面が装着されると目の部分に嵌め込まれたグラスアイが光を宿す。
この瞬間から舞踏子は身の丈十数mの巨人と感覚を共有する。
人騎兵をベースとしたI=D、生甲冑・白銀。それは低物理域のメタルライフと第5世界の生命工学の融合が生み出した身に着けるゴーレム。
人工筋肉を白銀に輝くメタルライフの甲冑で鎧った巨人は低物理域で稼働しその膂力と魔力によってあらゆる敵を蹂躙するために開発された。
本来交わることのない二つの世界の狭間で生み出された巨人は、傍らに添えられたロングソードとカイトシールドを携え、仮面の視線を上向かせた。腰部に取り付けられた結印用の副碗が核珠の中で詠唱に入った舞踏子と同調して高速で複雑な印を結ぶ。
高く低く、歌うように闇を満たす詠唱の高まりと共に甲冑の各部に嵌め込まれたオーブが魔力を増幅し、巨大な体躯を魔力で満たす。膝を折って姿勢を低くした巨人は次の瞬間光に包まれて常闇の中を飛翔する。
塒から転移する先、そこが巨人の生まれ故郷。
つまりは狂気と流血、戦禍にけぶる揺籃、戦場。
細長く扇状に開けた山地の裾野。わずかな平地を埋め尽くす幻獣の影。
表情のない視線で敵地を睥睨した巨人はおもむろにロングソードを抜刀すると空を滑るように移動を開始した。まとわりつくように殺到する小型幻獣を蹴散らし、あるいはロングソードで薙ぎ払って巨人はひたすらに前進する。
立ちふさがった中型幻獣を2体まとめて斬り捨てると、浮遊型の光砲幻獣からその間隙を狙うように狙撃が加えられた。
これは左手にかざしたカイトシールドが受け止め、周囲に拡散した生体レーザーが虹色の光輝を散らす。その間にも腰部の副碗は詠唱を開始している。
『白銀の氷雪 銀嶺吹き抜ける風 我が右手に顕れよ アイス・ジャベリン』
舞踏子の詠唱と共に右腕に固定装備されたバリスタの砲身に、大人の身長ほどもある氷の槍が顕現する。碗部上で分割された人工筋肉が収縮し、氷の槍は全てを貫く凶弾となって空を走った。
二射目を充填中だった光砲幻獣は装甲の薄い腹部を貫かれ自爆。炎を噴き上げながら多数の小型幻獣を巻き込み地面に激突した。
主力を失い混乱に陥った幻獣の群れをロングソードを振るう巨人が蹂躙する。もはや大勢の決した戦場で優美な巨人の騎士は、歓喜に打ち震えながら死を撒き散らす舞を舞った。
『・・・装甲破損、人工筋肉筒の放熱ともに許容範囲内です。
シミュレーションは成功、ということでよろしいでしょうか』
『まあな。騎士抜きでこの程度なら十全だろうさ。魔術と科学の融合。それは現代に甦るフランケンシュタインの怪物だ。
見てみろよ。何とも禍々しい姿じゃないか』
戦場の劫火を照り返す白銀の巨人を映した水晶板を前に、男女一組の声が交叉する。
それは帝国軍の次期レムーリア主力機の座を巡る開発競争の一幕。
果たして闇の狭間に生まれた巨人に光差す表舞台は与えられるだろうか。
答えはイグドラシルの示すままに。
設定的補足
♯その機体はまるで白銀の甲冑を纏った優美な騎士のようである。
帝国の娘達による運用を前提に、除装時のボディラインは胴がくびれ胸と腰が大きく張り出した女性的なものを意識している。
これは後述する機構を採用するに当たって空間的効率を求めた結果でもあった。
♯生甲冑、という名は低物理域に存在するメタルライフに着想を得ている。これに高物理域の生命工学による人工筋肉の技術を融合させて生み出された。
魔術によって生を得た、身に着けるゴーレム。それがこの機体の本質である。
♯コックピットとなる核珠は胸の下に埋め込まれており、外見上はエメラルドグリーンの宝石のようである。
円形に魔術紋で彩られた表面に操縦者が触れることで内部に取り込み、その瞬間から操縦者の感覚はこの機体と共有され、視聴覚など周囲の状況は頭部に詰め込まれた魔術的触媒を介して操縦者に送られる。
核珠の内部は粘性の高い羊水のような液体で満たされており、外部の衝撃から操縦者を保護すると共にその意思をタイムラグ無く機体の隅々に伝達する役目を持つ。
外から見ると操縦者が核珠の中で胎動するように機体と同じ動作をする様が見受けられるが、戦闘時にはこの上からメタルライフ製の甲冑を纏うため外部から完全に遮断される。
♯人工筋肉で構成された素体のうち、唯一白銀で形作られた頭部は瞳を閉じた女性の顔を意匠し、その上から兜を兼ねた仮面を装着。視覚は仮面に嵌め込まれたグラスアイの方から送られる。
あえて本体から視覚情報を得ないのは操縦者との過度の情報逆流障害を防ぐためであり、同様の対策は古式に則り額に刻まれた『emeth』の文字、胸当ての内側に刻まれた『我は甲冑 御身を護る盾とならん』という言葉にも見られる。
人型をしたものには魂、意思が宿りやすい。ましてや魔術と科学の間に生まれたこの機体では神経質なほどに操縦者主導による制御が求められている。
♯燃料は人と同じ食糧、特にタンパク質を主としており、背面の取り入れ口から放り込むと分解され、人工筋肉に文字通り血肉として取り込まれる。
素体を構成する人工筋肉は自己再生機構と自然治癒魔法によりある程度の自己再生能力を有するが、損傷の程度によっては再生に時間と食糧を多く要するため交換した方が早い場合もある。
♯外殻を構成するメタルライフ製の甲冑は専門的なメンテナンスを要するため、これも損傷時には部位ごとに交換するのが望ましい。
♯戦闘能力としてはその巨体に相応しい膂力による白兵戦闘と、胴体下部に増設された結印用副碗による詠唱戦を可能とする。
その他独自の固定兵装として右腕に筋力で弾き出すバリスタを装備し、中遠距離戦をフォローする。このバリスタは弾丸にアイススピアの魔法を用いるが、必要に応じて人間用のジャベリンをセットすることも可能。
場合によっては専用サイズに建造された弓などを構えることも出来るだろう。
♯プロダクトモデルでは外観を重視しメタルライフ製軽甲冑に強化魔法を付与したロングソードとカイトシールドを装備しているが、素体の特性上装備の着脱が容易であり操縦者ごとにバリエーションが豊富になると予想される。
♯基本的には魔術的素養のない操縦者単体でも稼働可能だが、本来のスペックを活かすためには魔術師もしくは騎士(パイロット)と魔術師(コパイロット)の2名で運用するのが望ましい。
正し、その際は操作系に雑多な思念が混じりやすくなるため、基本動作を騎士が行い副碗のみを魔術師が操作するなど操縦者の息のあった連携を要する。
余談だが核珠に二人で入ると結構狭い。
♯執筆に際しNWCにて質問にお答えいただいた皆様に多くの貴重な示唆を頂きました。
この場を借りてお礼申し上げます。
最終更新:2008年06月08日 03:45