クリスマスプレゼントのお返事~ナニワアームズ編~
2007年12月29日。
ナニワアームズ商藩国談話室。
「きたきたきたーっキタコレ!」
かなり出来上がったテンションの那由他がばたばたと入室してきた。
手にはこの日の夕刻天領から開示されたACEへのプレゼントのお返事、そのナニワ宛の電文が握られている。
酒も飲まずにこの有様はどうかとも思う。
「ハリー:メリークリスマス。姫君に幸せがあらんことを、騎士として願う。
・・・きいぃやあぁぁーーっv
騎士ですってよ、騎士!ボディガードからナイトに昇格ですよ!
ジョントラボルタがプリンセス&ウォーリアーですよ~」
勝手に乃亜宛のハリーからの返信を読み上げてばんばんコタツの天板を叩いている那由他。
何だか痛々しい・・・。
色々間違ってるし。
「んむ?おお、テンダイス更新してたんね?情報、ありあり」
そんな那由他を余所に先に入室していた兄猫は談話室の隅で年越しの準備をしている。
鏡餅なんかを飾っていた。
その言葉が耳に入ったかどうか、那由他はテンション爆超のまま再び談話室から出て行ってしまった。
そして3分後、別な電文を手に戻ってきた那由他。
「石田 咲良:よし、偉い兵士だ。ますます任務に忠勤してね!
不公平なので自分の分も晒すであります」
自分宛に咲良から送られた返事を読み上げた。
何か多少思うところがあったらしい。
「ふなーご」『偉い兵士、っていうのは完全にアレだな。他隊の事務官か何かを褒める口調だぞ。これは』
工藤 そう言えば隊長、5121には加藤祭という優秀な事務官がいるそうですわよ。
咲良 へぇー。うちの隊にも一人いたら色々助かるね。
「なご」『な、5秒で終わる会話だぞ。噂話レベルだよ、これは。
そんなに喜んでると直に対面したときがっかりするぞ』
冷静に電文を広げて解読する明宗に那由他は放送コードギリギリの恐ろしい形相でヒップホルスターから護身用の銃を抜きはなって乱射した。
炸裂するタバスコ。
逃げ去る明宗。今日もナニワ談話室は血の海である。
主に巻き込まれた兄猫氏の。
「なゆたさん、たいちょーからの返事、おめでとうー」
そんな騒ぎも何処吹く風、談話室にひょっこり顔を出した守上摂政はそれだけ告げるとにっこりと笑って談話室を後にした。
今日も色々と多忙な様子だ。
(わたしのことより滋賀君からの返事はまだですか、摂政閣下・・・)
再び電文を広げて読み返す後那由他は耳をばたばた尻尾をぐるぐるさせて狂喜したかと思うと急にぐんにゃり脱力したりしている。
(返事が来た。ヒかれてなくて良かった。ホントに、良かった・・・)
(それにしても青い毛糸を使わなかったのは正解かも知れないなあ・・・)
(受け取った直後に捨てられてたりして・・・。雑巾ルートもあり得るなぁ)
(というか、マフラーを受け取ったのはどの我が隊長なんだろぅ。というかそもそも複数いるのかすら知らないなぁ)
などなど。大概ろくでもないことを考えていた那由他は小一時間ほどぼーっとした後おもむろに再起動した。
(まぁ、難しく考えてもしょうがないねぅ。そんなことより仕事仕事)
8ビットのネコ脳はメモリのリフレッシュも簡単である。
翌日。
夜の談話室はやはりプレゼントの返事についての話題になった。
「今日はナニワ滞在の二人からです。
エノラ:わー。かわいくなーい。ありがとー。大事にするね」
「うーん?」
「これはどういう?」
エノラからの返事には藩士の誰もが首を傾げた。
「えっとですねぇ、多分かわいくない?(半音上がる)ということなんでは・・・」
「なるほど。最近の女子の言葉遣いにはおじさん、ついて行けないぞ」
そういいながらお茶をすすってコタツで背中を丸める兄猫。
そんな年ではないだろうに。
「エノラちゃんはきっと友達から貰ったものならそれだけで嬉しいタイプなんじゃないかな?」
乃亜の見解はまた違ったものであった。
「それだとウササギーは可愛くないという結論に」
「やはり言語機能のオプションを付けたのは失敗だったか?」
今回エノラ宛に贈られたウササギーの制作に主に携わった那由他とイズナはちょっとしょんぼりである。
「まあ大事にしてくれるとは思うよ」
「あれで中々多機能ですからね。漏電しないかだけが心配ですけど」
何気に恐ろしい事をさらりと言って那由他は次の電文を取り出した。
「万博は多分、誰よりも優しく微笑んだあと、アメルダを守って戦いを開始した」
「大阪氏はまた迷宮ですかい?」
「アメルダというのは前ポチ王女の侍女でしたよね」
「今頃は45階あたりかなぁ」
「やらなくちゃいけないことがあるみたいだからね。こっちはそうそう助けにもいけないし、困ったもんだ」
「でも、今回プレゼントを上げた中では大阪が一番素直に喜んでますよね」
「いや、あれは素直に喜んでないよ」
意味深な発言をする守上に那由他はちょっと怪訝そうな表情になったが、きっと二人の間には他人にはわからない繋がりがあるんだろうなぁ、とか勝手に想像してそれ以上聞くのはよした。
「そういえばハリーさんの返事はすごくないです?」
「そうそう。騎士だよ。騎士。本命宣言なんじゃない?」
「いや、騎士の誓いというのは一つと限らないし、時には矛盾することすらある。私としては距離を取られたような気がしてならないのだが・・・」
「「うーん」」
やはり複雑そうな乃亜にうなる那由他と兄猫。
中世騎士の知識などほとんど持ち合わせていない二人だけに騎士=唯一無二の主君に仕える、というイメージである。
「志士二君に仕えず、というのはどちらかというと武士道的な考えなのかも知れませんね」
「そうね。でも俺達がこの程度だとゴージャスタイムに生きるハリーさんが乃亜さんほど正確な騎士道の知識を持ってるとは限らないぜ」
「う、そういわれればそうかも」
「乃亜さんの気持ちは絶対通じてますよ。もっと自信を持ってくださいまし」
しかし、ハリー氏には正妻が・・・。
そこから先は余りに恐ろしいのでとりあえずみんな考えるのを、やめた。
二週間後。
クリスマスの返事の最終便がようやく届いた。
「スピキオはクッキーを前脚でやっつけている」
「うう、前脚でやっつけられた・・・」
結構マジにへこむ出月。
「猫パンチかわいい~」
「猫って獲物を獲ったあとびしびしやるじゃん」
「そうそう。多分食事前の儀式なんではないかと」
「だと良いけどなぁ。ちょっと希望出てきた」
「ちゃんと食べてくれてると良いですね。色々吹き込んだ身としては心配で・・・」
出月はスキピオに贈るクッキーを作る前に藩士達にアドバイスを求めていた。
カロリーが高い食品だけに猫に上げて良いものかどうか迷った末のことだったが。
「まさかマタタビとか鰹節もリアルに入れてるとは思いませんでした」
何故かそういう流れになっていた。
そして悪ノリした藩士に言われるがまま入れちゃったのである。
いろいろなものを。
「はい、では次です。
小助:もらっておいてやる」
「・・・」
「・・・」
「・・・(なんというか、コメントしづらい)」
「・・・(滋賀氏らしいというか、なんというか)」
「・・・ツンデレ・デレ抜きサビ入り、だな」
その兄猫の発言を聞いたうさぎが後ろの方で笑いをこらえている。
小さく「ツ、ツンサビ。 新しすぎ…」とか言いながら苦しそうだ。
というかうさぎは受けすぎだ。
何が気に入ったんだろう・・・。
「・・・ああ、息止まるかと思った。つぎいこう」
「はい。ラストはこちらですね。
田上は首を傾けた。死亡ってなんだろうと思った」
「青の章メンバー復活して良かったですね」
「だねぇ。もしかして返事が遅かったのはこれを待ってたんだろうか」
それはナニワ藩士達も参加したクリスマス出撃の結果、HIこと石塚が率いていた天文観測班が壊滅した事件まで遡って歴史が修正された。
これにより田上を始めとする父島の面々は復活、というか、死の運命を免れたわけだ。
「ちゃんと届いて良かったですね。兄猫さん。
でも、メッセージに含まれてない死亡云々の所まで届けなくていいのに」
「ふ。彼女さえ無事なら俺はそれでいいのさ」
「うわ、兄猫さんがカッコイイ」
「まー、あとは本人の前でカッコつけられれば完璧なんだけどな?」
「それは言うなよう~」
笑い合いながら雑談する藩士達。
いつも通り平和なナニワの風景であった。
最終更新:2008年01月28日 17:22