それはとっても幸せだなって

世界を抱きながら、少女は安らかな夢をみる
いつか出会う日を想って、穏やかに微睡み続ける・・・・。

「ボクと契約して、はじめてのお客さんになってよ!!」

新しい季節の到来を感じさせるお昼時の観光街。賑やかで明るい風景
午前中で学校を終えた生徒たちがはしゃぎながら連れ添い、家族連れで賑わういつもの見滝原
そんな平穏な町並みを楽しげに歩いていたまどかに、けたたましい声が降りかかった
驚いて振り返った先には色合いのデタラメな服をラフに着崩した色白の少年の姿
まるで女の子のようにさえ見えるその少年は、困惑するまどかに一気にまくし立てる

「どうだい、そこの可愛いおさげさん♪そんなキミには絶対この新しく発売されたケータイがよく似合うと思うよ?この出会いを機に華やかに買い換えてみないかい?それはそうとボクは常々おもうんだよね。やっぱり友達同士で一緒のものを持ってるってのはとても大切な事だってね。っていうわけでキミの友だちも一緒にボクとけいや・・・・」

洪水のように営業トークをだだもらす少年から慌てて逃げ出すまどか
息を切らせながら全力疾走した後に、ちらりと振り返ってみる
人垣の向こうで「わけがわからないよ」とばかりに首をひねる少年をみて、思わずまどかは笑ってしまう
奇妙な人々との出会いが楽しかった、笑いながら街を歩く人々が嬉しかった
今日は両親は弟と出かけていて留守なので、めいいっぱい散策を楽しめる
まどかは笑顔を浮かべながら、街中へ歩き出した。


カップを冷やさない、それでいて舌に火傷をしない適度な温度で淹れられた紅茶の香りを、少女は堪能する
目をつぶってカップを引き寄せ、音をたてずに頂く、小指は立てないのがマナー。
このお店はあたりだったらしい。大人数に振舞うようなお店では温度が低くて、あんまり美味しくないことが多いのだ。
マミは満足気に頷きながら、彼女が紅茶を好きになった理由に想いを馳せる
両親は父は日本茶を、母はコーヒーを好んで良く飲んでいた。
だから幼い彼女は両親のどちらも寂しくないように、背伸びをして紅茶を飲みはじめたのだ
かつての自分を思って笑みをこぼす、初めて飲んだ紅茶の苦さに涙を浮かべる自分を見つめる両親の目は、
とても優しかったとマミは覚えている
その時ヒョロヒョロと情けない顔でマミの対面のカフェテラスに少年が座った
その姿からいつものようにほとんど契約を取り付けられなかったのだと判断し、苦笑して熱めの紅茶を淹れてあげた
彼はマミの茶飲み友達だった。あまり頻繁に会うこともないし、お互いのこともほとんど知らない
それでも紅茶を飲むときは遠慮なく一緒にいた。それはずっと続いていたような当たり前の光景だった。
彼はかつて聞いたことがある、どうして自分なんかと一緒にいてくれるのかと。マミは笑いながらこう応えた。
「紅茶はだれかと一緒に飲んだほうが、きっとおいしいでしょう?」
優しげな香りを立てるお茶会は、あまりに穏やかで、まるでいつまでも終わらないようだった・・・・・。


視界いっぱいにお菓子の雨が降った。さやかは自分が夢を見てるのだと確信する
え?お菓子の雨?いやたしかに最近一番見たくないものは「体重計」って単語だけど
それにしたってこれはひどいんじゃない?どれだけストレス貯め込んでんのよ、わたし
乾いた笑いで呆れるさやかの意識を、強烈な尻餅の衝撃が引っ張り戻す
おしりをさすりながら見た先には、同じく尻餅をつく少女と道路一面に散らばるお菓子
さやかはその菓子類の量に呆れる。確かに今日はバレンタインだがいくらなんでも多すぎた
一体この少女は何人の男子にチョコをあげるつもりなのか?いや彼女の口周りを見る限り食べるためのようだ
じゃあ貰う方?女の子が女の子に?それってまさか同性愛?やだ、ダメだって、それは禁断の・・・・
バカな妄想を打ち消して散らばったお菓子を拾うのを手伝うさやか。無事に踏まれたりしているものはなさそうだ
そこでふと自分の用意したチョコが消えていることに気付き、慌てて少女に話しかけようとしたさやかに
「ぶつかったお詫びだ、受け取りな」とでも言わんばかりにチョコを差し出し、そのままさっそうと少女は立ち去ってしまった。
いや、これ・・・・・・・わたしのじゃないし。

困惑しながら受け取ったチョコを手に、どうしようかと途方に暮れながら歩き続ける
あれはさやかに取って大切なチョコだったのだ。別のもので簡単に代用するわけにもいかない
こんな状態では恭介への告白もうまくいくわけないし、帰ろうかときびすを返しかけ、そこで立ち止まる。
ならば、なんだったらよかったのか?自分が用意したものだったら、何が変わっていたのか
手にしたチョコを見下ろす。これは凶器だった。いつかどこかの世界で、わたしを殺した物だった
誰かの恋が実ればわたしが悲しみ、わたしの愛が届けば誰かが泣く。どうやっても後悔する
なら後悔しよう。後悔することから逃げれば・・・・それが一番後悔してしまうと知っていたから
手に握りしめたそれを胸に抱え、歩き出す。誰かに背中を押された気がした
名前も知らないその誰かにありがとうと胸の中でつぶやき、前を見据えた
その眼前には同じ恋を秘める少女が、その先には対峙するべき想い人が、そしてその果てには・・・・。


先程からひっきりなしにチョコを口に運び続けていた手を止めて、杏子は道を振り返った。
さっきぶつかった少女、名前も知らない彼女のことを思い出す
知らない少女だ。当然名前も知らない。もう会えないような、それともすぐにひょっこり会えるような、妙な気持ち
でもあいつはもう、あたしがいなくても大丈夫なんだろうな・・・と、どうしてか彼女にはそう感じられた。
寂しいぐらいにすっきりして空っぽになった胸の中を振り切るように、勢い良く空を見上げた
雲ひとつなく、馬鹿馬鹿しいぐらいに青く晴れ渡ったこの空に
不敵でいて、自信満々でいて、それでいて少し寂しげな表情を浮かべた・・・・。
その時、道を走ってきた子供たちの中のひとりが、はしゃぎ過ぎたのか転んでしまった
ベソをかきかけるその男の子に、しょうがなさそうに歩み寄る
そしてきょとんとしたその子の目の前に、チョコレートスティックをさし出して、
からかうような、元気づけるような、そしてとても楽しげな笑顔で笑いかけた。


「――――――食うかい?」


まどかは当てもなく街中を散策していた。バレンタインの静かな活気が街を包んでいる
まどかは頬に手を当ててうっとりする。今日は運命の相手と出会えそうな気さえするから不思議だ
売店で熱々のホットドックを食べ、流行りのCDを聴き、ガラス越しにお洒落な服を眺める
そうしているだけでわくわくしてくる。彼女はこの雰囲気が好きだった
そのとき、ふわりとしたいい香りと共に、艶やかで綺麗な黒髪が視界を横切る
思わずぽんやりと見惚れていたまどかのまぬけな表情を、けたたましい騒音がひっくり返す
先程の少女がカフェテラスに突っ込み大混乱になっていた。
ひっくり返ったテープルからティーセットを避難させた少女と、頭から植木に転げ落ちた少年の姿が見える
そして地面にへたりこんでいる少女のもとに近づき、おずおずと話しかけた

どうやらメガネを無くしてまともに前も見えずに学校から家に帰ろうとしたらしい
ここに来るまでの道中でも、似たようなことをやらかしてきたようだ
ね、ねえ・・・・わたしも家まで付いていってあげようか?構わないで結構よ、ひとりでも全く問題ないから。
そのまま頭に乗っかったお茶菓子を振り払い、立ち上がろうとして
少女の頭がまどかのスカートの中に勢いよく侵入してきた。
あまりの事態に悲鳴もあげられないまどかと、なにやらもがいている黒髪の少女
その少女の手に通学カバンが触れたと思えた瞬間、
まどかのスカートを跳ね上げ、彼女はすっくと立ち上がり、艶やかな黒髪をなびかせ、
「なにか問題が?」と言わんばかりの態度で歩き出した
――――――今まさに車が行き交う赤信号の只中に向かって。

あわてて少女を引き戻して荒い息を付くまどかと、まどかを下敷きにしながら呆然としている黒髪の少女
苦笑いしながらもう一度家まで一緒に行こうと提案するまどかに、少女は赤面しながら頷いた
四苦八苦しながら立ち上がり、とりあえずは危なくないように手をつないで向き合う二人


「わたし、鹿目まどかっていうの。友達はみんなまどかって呼ぶよ♪」


「暁美ほむらよ。面倒だったら、ほむらでいいわ・・・・・」


“じゃあほむらちゃんって呼んでいいかな?“

“ちゃん付けなのね・・・・別にいいけど“

“あッ!ごめんね、いやだった?じゃ、じゃあ代わりに私のこともまどかちゃんって呼んでいいよっ!“

“謹んで遠慮するわ“

“そ、そっか・・・・ごめんね?“

“クスッ、貴女って変な人ね、まどか“


ガーンと目の前の「変な少女」にそう言われてしまい、傍目から見ても情けない表情になってしまうまどか
そんなまどかに他愛のないいたずらを詫びるように目を細めるほむら
二人の少女はずっと待ち続けていた友達を迎えるような笑顔で笑いあった


ふたりは手をとりあって歩き出した。
そうしないと危ないからだけど
たとえそんな必要がなかったとしても、
きっとこの手を離そうとはしなかっただろう


世界を見守りながら、少女は夢を見続ける
いつか出会うその日まで、いつまでも願いを抱き続ける
そうしてその果てに、いつか少女は心に想う

穏やかに眠るまどかのくちもとが、やさしく笑った・・・・。



「      それはとっても幸せだなって      」




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最終更新:2011年05月06日 04:46