「そうかもね」
美鈴が曖昧な笑みを浮かべて言った。
「…俺もまだまだだな」
「冗談はもういいわ。私をどうする気なの?」
「別に。世間話がしたかっただけだよ」
「例えば…私の同僚が婚約した話とかかしら…」
「聞きたいね」
洸至がベッドに腰掛けた。
「あれだけの事件を乗り越えたから二人だから付き合ってすぐに結婚を意識したみたい。そして二人とも
 ある男のせいで家族を全て失っていた…。だから自分たちの家族を早く持ちたかったのかもね。
でもね、結婚を決めたら、男の親戚の猛反対にあったらしいわ。
相手の女性の家族に問題があったから。それはあなたがよくご存じよね。男の家族はみんな相手の女性の
お兄さんに殺されたのよ。それにその人は世間を騒がせた犯罪者だった。親戚だったら許すわけがないわ。
…男は反対を押し切ってでも彼女と結婚する気だったみたいだけど。それぐらい彼女のことが好きなのね、彼。
それでも何度か話し合ううちに、親戚がその女性のことを気に入って婚約できたらしいわ。何ヶ月かすれば
皆から祝福された花嫁になるのよ、彼女」
「そうか…」
うつむく洸至の顔に翳がさす。それを見た美鈴の心に残酷な喜びが広がっていく。
「婚約が決まって指輪をもらったあとその子、本当に嬉しそうに笑ってたわ。お兄ちゃんに見せてあげられ
たら…って。結婚を反対される理由になったのに、それでもまだお兄さんを思うなんて優しい子よね」
洸至から表情が消え、どこか遠くを見ているような眼をしていた。
「もっと飲む?」
「ああ」
声を洸至が絞り出すようにして言った。
美鈴はボトルクーラーからシャンパンを取り出すと歩きだした。
何故か洸至の前だと、足の痛みを感じなかった。せいいっぱい気取って、美しく見えるように歩く。

「君の望みは何だ?」
シャンパンを継いでもらいなから洸至が言った。
「私の望み?」
「婚約するまであの二人のことだ、すんなりいくわけがないだろ。俺が事件を起こし、君の妹まで手にかけた。
 なのに君は遼子を助け、二人が婚約できるように助言し励ましたんだろう?」

「相変わらず耳が早いわね。ここにもあるのかしら?盗聴器」
美鈴が芝居がかった仕草で周囲を見回した。
「俺だってそこまで悪趣味じゃないさ」
「わたしは遼子が好きなのよ。天然で明るくて、いじらしくて不器用で…。どういうわけかほって
おけないのよ、彼女。それは鷹藤くんも一緒かもしれないけど」
「それだけか?」
洸至が美鈴からボトルを取り、床の上に置いた。
それから美鈴を抱き寄せる。

「何…?」
「言ったろ。あの夜が忘れられなかったって」
「嘘つきね…」
グラスからシャンパンを口に含むと、洸至が美鈴にキスをした。
二人の口が繋ぎ合わさったところから、シャンパンと舌が流れ込んでくる。
シャンパンの芳醇な香りに包まれながら、美鈴は洸至と舌を絡め合わせた。


「んっ…」
生まれたままの姿となり、ベッドに横たわる美鈴の長い脚に洸至が舌を這わせていた。
太ももから膝、膝からふくらはぎ…。
ふくらはぎを持ち、足を抱えると美鈴の足の指を洸至が口に含んだ。
「…っ」
敏感な指の股を舌で嬲られ、美鈴は思わず吐息を漏らした。
指の股をチロチロと舌で舐めたあと、洸至の唇が親指を吸いあげる。
「本当にきれいな足だ」
舌が今度は踝、アキレス腱、そして内腿へと上がっていく。
美鈴の息が期待で荒くなる。
太ももを押し開くと、美鈴の秘所に洸至が唇をつけた。

「ここもきれいな色だ…」
秘所を唇で覆い、舌先でクリトリスの包皮を剥いた。
「ひっ…」
敏感なそこに痛い位の快感が襲いかかる。
洸至がクリトリスを舌で念入りに嬲り始めた時、それだけで美鈴は達していた。
快感に震える美鈴を休ませる気などないようだった。
洸至が更に舌で秘所を責める。クリトリスを吸いながら、指を二本送り込む。
「ああっ」
自分の全身に汗が浮かんでいるのがわかる。
枕を鷲づかみにして悦楽からの声を堪えなければ、気が狂いそうだ。

美鈴は洸至と寝た後も、幾人かの男と躰を重ねた。しかし乱れたふりをしながら、心はいつも冷めていた。
それは仕事の一環でしかなかったからだ。そして誰も美鈴の心にも躰にも火をつけなかった。
今はそんな演技など必要ない。
ずっと渇いていた心と躰が、求め続けていたものを得て潤い乱れていた。

「いい味だよ、君は」
洸至が満足げに美鈴の足の間で囁く。
その息が秘所にあたり、それもまた快感となって美鈴を震わせた。
洸至が激しく抜き差しながら、クリトリスを苛めぬく。
「あっ…あああっ」
あまりの快楽に美鈴の腰が逃げるようにベッドの上を跳ねまわる。
逃げられないように洸至が指が食い込む程強く美鈴の尻を握った。
「あああっ…いいの…ああっ」
秘所から零れる蜜の音が部屋中に響く。
洸至がクリトリスを強く吸った時、美鈴はまたも達していた。

荒い息をしながら、美鈴が身を起した。
洸至の腰に唇を寄せると、微笑んだ。
「あの時、わたしももっと味わいたかった。今度は口でさせてね」
「ああ」
美鈴が洸至の肩を押し、ベッドに横になるように促した。
臍に当たるほど反り返った洸至自身を美鈴は優しく手に取ると、舌で形を確かめ始めた。
じっくりと裏筋に舌を這わせ亀頭のくぼみの形をなぞる。
「くっ」
空いている方の手で陰嚢を包み込み、今度は蟻の門渡りを舌で責める。
洸至自身が美鈴の手の中で跳ねた。
「気持ちいいのね…。素直に反応してる…かわいいわ」
そう言うや否や、美鈴は洸至自身を一気に口に含んだ。

「…!」
ハニートラップで寝る男たちにここまで奉仕はしない。
美鈴にここまでさせたのは洸至と…遠山だけだった。
名無しの権兵衛の事件が無ければ、近づくこともなかった男。
お互いに利用しあい、時に躰を交わした。
何故か美鈴の心を狂おしくかき立てるのは、あの事件で運命を狂わされた男たちばかりだった。

根元まで咥えると、今度は微かに首を震わせ唇で扱きあげる。
もちろん、その間も舌で鈴口を唆すことも忘れない。
鈴口に苦みのある潮の味がした。先走りの味だ。洸至がそこまで感じていると思うと、美鈴は嬉しかった。

首を激しく振って洸至の快楽を煽る。
「すごいな…」
奉仕する横顔がよく見えるように、洸至が揺れる美鈴の髪をかきあげた。
流し眼で視線を送りながら、唇で尚も激しく扱くと洸至が眼を閉じ枕に頭を預けた。
「もう…外してくれ…じゃないと」
「口に頂戴…」
音を立てて洸至自身から口を外すと、美鈴はそれを手で扱きながら囁いた。
「…好きにしろ」
根元も手で扱きながら、唇で舌先で洸至自身を煽り続ける。
洸至の吐息が荒さを増した。
陰のうの下にある薄褐色のすぼまった部分に美鈴が指を這わせて円を描くようにしてほぐす。
「おい…!やめろ!」
洸至が身を硬くしたが、美鈴は意に介さず指をそこに入れ始めた。

自分の運命と人生を弄んだ男を、束の間弄んでみたくなった。
洸至の躰をもっと深く知りたくなっていた。
更なる激しさで洸至自身を啜りあげながら、中指を第一関節まで入れる。
中で指をゆっくりと蠢かせポイントを探す。
洸至の太ももが大きく震えたのを見て、そこを弄くりながら舌で裏筋を嘗め洸至自身を唇で激しく扱きぬく。
そこが美鈴の中指をひと際強く締めつけた刹那、洸至が大きく息を吐いた。

「くっ…!!」
喉奥に少し苦くどろっとした液体が流れ込む。
美鈴は喉を鳴らしながら全て飲み込んだ。

「おいしかったわ。鳴海さん」
唇の端から流れ落ちる洸至の樹液を人さし指で拭きながら美鈴が言った。
その姿を見た洸至が眼を細める。
「まったく君には驚かされるよ。男たちが群がる訳だ」
自分がここまでの欲望に突き動かされたことはなかった。こんなことは他の男たちにしたことなどない。
それをおくびにも出さず美鈴は応えた。
「ねえ…今度は二人で楽しみましょうよ」

仰向けの洸至の上に美鈴が跨る。
洸至に見えるように大きく脚を拡げると、一度達したばかりなのにまたも硬度を増した洸至自身を秘裂に
あてがう。
「見てて…あなたのが入ってく…」
美鈴が腰を沈めた。
少し沈めるだけで繋がった部分から震えるような快楽が広がる。
眼を閉じその感覚に溺れたいが、美鈴は自分がこの場を支配していると思わせるように洸至を見据え洸至自身を咥えこんでいく。
その美鈴の様子を、洸至が熱のこもった眼で見つめていた。
微笑みを浮かべながら美鈴は根元まで洸至自身呑み込むと、快楽からため息をついた。


最終更新:2011年06月18日 19:52