美鈴さんと遠山で考えてたら、いつの間にか美鈴さんとお兄ちゃんが
またもエロいことしてる話になった。


美鈴さんとお兄ちゃんの組み合わせは、上級な香りがするw

ハイヒール by313 さん  投稿日2011/06/10


兄×美鈴、という至極どうでもいい組み合わせなんですが、エロくなる組み合わせでもあります。
二人は美鈴さんが鳴海家居候時に一発やってた設定になってます。長すぎごめんなさい。



ハイヒールを履いた足が痛い。
普段は痛みを感じることはあまりないが、退屈になると無理をさせている足が悲鳴を上げる。
それとも女であることを装うことに飽きると、この痛みを感じるのだろうか。

ホテルのバーカウンターに座りながら、美鈴はぼんやりとそんなことを考えていた。

自分の肉体を美しくみせるための苦痛すら自分を飾る道具になる時もあれば、それがただひたすら厭わしく
感じる時もある。
今日はそんな夜だった。

「巻瀬さん、あなた、今日もこのまま帰るんですか」
美鈴の隣にいた男が声を潜めて言った。
「ええ。これからまた仕事なの」
足の痛みも物憂げな気分も、眼の前のこの退屈な男のせいだ。腹の中ではそう思っているが、美鈴は華やかな
微笑みを浮かべた。
「欲しいものを取るだけとったら用済みってことですか」
メガネの下にある男の眼に、剣呑な光が宿る。
思いつめて風呂に入るのを忘れているのだろうか、髪が少し脂ぎり、汗の臭いがした。
国会議員の私設秘書―――それがこの男の職業だった。
美鈴は、今をときめく若手議員の私生活を知ろうと近づいた。初めは口も堅かった男も、美鈴と幾度か会い、
美鈴が二人きりでの逢瀬をちらつかせる度に少しずつ議員の秘密を明かすようなり、褒美のような形で美鈴も
男の望むものを与え続けた。

しかし、得るものは得た。この男と親密な関係を保つ理由ももうそろそろなくなりつつある。
「わたし、川俣さんと楽しい時間を過ごせて良かったと思っているのに。そんな風に仰るなんて」
美鈴は傷ついたような顔をして、少し拗ねてみせる。
「それもまた演技なんだ」
川俣は表情を崩すことなく、ねめつけるような眼で美鈴を見た。

―――深入りさせすぎたかしら…。
笑顔で川俣の顔を見返しながら美鈴は思った。

ハニートラップならお手の物のはずだった。
事実、今までは男をある程度悦ばせ手なずけ、相手を深入りさせないうちに情報を手に入れ、幾度もスクープを
ものにしてきた。
今回もいつも通りに仕事をしてきたつもりだ。
思わせぶりな言葉、仕草―――視線。それで籠絡し、欲しいものを手に入れる。
美鈴は情報を得、男は美鈴の躰をほんのわずかな間得る。
男どもを満足させても美鈴にとってはエクスタシーも何もない退屈な抱擁でしかなかったが。

そして得るものを得た後には引くのみ。しかし今回は引き際を間違ったのだろうか。
川俣がグラスの横にあった美鈴の手首をとった。
「あなたに情報を流しているのが先生にばれましてね。いつもならそういったことは気になさらない先生が、
今回僕が情報を流したことが気に入らないらしく、当たりがきつくてね。最近は事務所に居づらいんですよ。」
他人が見ても判るほどのぼせあがった自分を責めるべきだろうが、川俣にそんな考えは毛頭ないようだった。

「僕に抱かれている時、悦んでいるようなふりをしてあなたは退屈そうな顔をしていたんですよ。
気付いてなかったんでしょうね。だからそんな顔をさせたくなくて、僕は必死になった。それなのに、尽くし
た僕をあっさり捨てる気ですか」
川俣の目つきがおかしい。
美鈴の手首に痛みが走った。川俣が手首を握る手に強い力を籠めたようだ。
「痛い…川俣さん、離して。川俣さん、そんなことする人じゃないのに」
「あんたのせいだろ」
川俣の眼が血走っていた。
そこに恐怖を感じ、美鈴は手をひねり手首を自由にすると立ち上がった。
「ごめんなさいね…川俣さん。わたし、もういかないと」
「俺を置いてか」
川俣が美鈴の肩に手を置いて、行かせまいとする。肩に置かれた指が、美鈴の服に食い込んだ。
カウンターの向こうのバーテンダーが心配そうな顔をしてこちらを見ていた。
川俣は完全に頭に血が上っている。誰かに助けを求めて切り抜けるべきか…。
そうしてもこの男は今後もきっとつきまとうだろう。
この男に抱かれていた時に、他の誰かを思い浮かべていた自分のミスだった。
自分らしくもない。そしてそれを、この男に気付かれていた自分の甘さに美鈴は唇を噛んだ。

「巻瀬さんじゃないですか」
聞き覚えのある声だった。
背後から声をかけられた美鈴が振り返ると、大柄の男が立っていた。
黒ぶちの眼鏡をかけているが、いかつい顎のラインは忘れもしない―――。

川俣が驚いた顔をして男を見上げていた。
「あんたは…」
「楠田といいます。あなたは…彼女のお知り合いですか?」
男の視線を感じ、川俣が肩に置いていた手を引いた。

「知り合いというか…。なあ、美鈴」
その手を今度は美鈴の腰に廻す。美鈴を独占しているのを誇示するように腰に廻した手に力を籠め抱き寄せた。美鈴が驚いて川俣を見た。川俣が卑屈な笑みを浮かべて見返した。
「そうですか…。他人の女に手を出すとはいい度胸ですね」

男は丁寧な口調で言ったが、低い声音が恫喝しているかのように響いた。
川俣の表情が強張る。
そして川俣の言葉など意に介さぬように、今度は男が美鈴を抱き寄せ、自分の傍らに置いた。
「彼女が迷惑していると言っていたのはあんたのことか」
川俣が助けを求めるように美鈴を見た。
美鈴は眼を逸らした。

「あまり出過ぎた真似をすると仕事も信用も失うことになりますよ。本来なら議員が世話になっている相手に
 ばらまく為の金券を自分の小遣いにしていると知られたら、あなただって、いよいよ事務所にいられなくなるでしょう?」
「何でそれを知ってるんだよ…」
川俣が蒼ざめる。
「わたしもこう見えてジャーナリストのはしくれでしてね。見たところ飲み過ぎのようだ…お帰りになれらた
方がいいんじゃないですか」
男は余裕たっぷりに言った。
川俣が男を見て、それから美鈴に視線を移した。
その時の川俣の瞳の奥には怯えが滲んでいた。

そうだろう、いまの川俣は蛇に睨まれた蛙と一緒だ。
誰かの威光を笠に着て威張るのではない、純粋に暴力と恐怖で他人を支配する男―――それがいま美鈴の隣に
立っている男なのだから。

「みす…巻瀬さん、じゃ、僕はこれで」
川俣は紙幣を数枚カウンターに置くと、そそくさと立ち去った。

「余計なことをしたかな」
隣に居る男が美鈴を見た。
「いいえ、助かったわ。たまに誰かに守られるお姫様気取りも悪くないものね。ありがとう、鳴海さん」
それを聞いた男――-鳴海洸至の頬が緩んだ。


「手回しがいいのね。部屋をとってあるなんて」
バーの階上にあるセミスイートに二人は居た。
「まさか。懐かしい顔を見かけたんでね。慌ててフロントに電話して部屋をとってもらったんだ」
「懐かしい顔を見かけたら、鳴海さんはすぐに部屋に誘うのかしら」
美鈴は眼下に広がる夜景を見るふりをしながら、硝子に映る洸至の姿を見つめていた。
硝子の中では、ルームサービスでオーダーしたシャンパンをリラックスした様子の洸至がグラスに注いでいる。
「この方がゆっくり話せるだろ。人前に長居出来ない境遇だからね。通報もせず、君があっさり俺についてくる
とは思わなかったから、正直少し驚いたよ」
「あなたに興味があるの。警察なんかに邪魔されたくないもの」
美鈴の横にグラスを持った洸至が来た。
美鈴にシャンパンを手渡す。
「再会を祝して、でいいのかしら」
「君の好きにすればいい」
二人はグラスを合わせた。

「妹の仇を相手に乾杯するなんてね」
「…すまない。それだけで済まないのはわかっている」
美鈴はシャンパンを喉に流し込んだ。細かな泡が喉を心地よくおりていく。
「で、何の用かしら鳴海さん。あなたがわざわざ私に会いに来るなんて。何をたくらんでいるの?」
「あの夜が忘れられなかったんだよ」
「まさか」
美鈴が冷然と笑った。だが心の中はざわついていた。

名無しの権兵衛に妹を殺され、身の危険を感じて転々としていた美鈴が落ち付いた先のひとつが鳴海家だった。
警視庁公安部の刑事である兄鳴海洸至と、その妹で美鈴の同僚である遼子の家なら安心して過ごせた。

そしてある夜――-。
信じていたが裏切られそれでも忘れられなかった男のことを思い出した美鈴は、束の間忘れたくて、
洸至と躰を重ねた。
あの夜、洸至も誰かと美鈴を重ね合わせていたようだった。
お互い、そこには居ない誰かを抱き、そして抱かれた。

それからまもなく、名無しの権兵衛の正体が明らかになった。

美鈴を保護し、そして一夜だけ自分を抱いた男―――鳴海洸至だった。

妹の仇。美鈴の信頼も何もかもを裏切り全てをズタズタにした男。
しかし美鈴は憎しみしか抱けないはずの男のことを思い出すたびに、何故か心の奥が疼いていた。

「君はあっさり忘れたのか」
洸至がグラスを傾けた。
シャンパンが喉を通る時に、喉仏が動く。男らしい首筋の線に、美鈴の視線は思わず吸い寄せられていた。


最終更新:2011年06月18日 19:50