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毎日新聞「押し紙」の決定的証拠 大阪の販売店主が調停申し立て 損害6,300万円返還求め

販売店の奥に山積みにされた「押し紙」。店主さんも隠し場所に苦慮している。(別の販売店にて撮影)
 インターネットの普及で、若い人ほど新聞は読まれなくなっているが、なぜか公表される新聞の発行部数は、一向に減らない。その理由は、新聞社が販売店に買い取りを強制し、配達されないまま古紙業者に回収されていく「押し紙」が増えているからだ。新聞社は販売店を食い物にするだけでなく、部数を偽造することで、実態より高い広告収入を得ようと企む詐欺も働いている。被害者の1人、毎日新聞販売店主は今年6月、大阪簡易裁判所に調停を申し立て、内部告発に踏み切った。
 

 昨年2月、「毎日新聞140万部“水増し詐欺”の決定的資料」と題する記事を掲載し、大きな反響を呼んだ。

 それから1年半、このほど新聞販売店からの告発で、同社における「押し紙」政策の実態を裏付ける決定的な事実が明るみにでた。筆者のもとに情報を提供したのは、大阪府箕面市で毎日新聞・販売店を経営している杉生守弘さん。業界歴48年、新聞販売業界の内部を知り尽くした人である。


「新聞業における特定の不公正な取引方法」
◇「押し紙」とは
 端的に言えば「押し紙」とは、新聞社が販売店に一方的に送り付け(押し付け)、しかも卸代金を徴収する新聞のことだ。水増しされた新聞である。たとえば1,000部しか配達していないのに、1,500部を送り付け、残りの500部は業者に回収される。この500部が「押し紙」だ。公正取引委員会は「新聞業における特定の不公正な取引方法」のなかで、明確に禁じている(右記)。

 杉生さんが「押し紙」の実態について語る。

 「わたしは毎日新聞社に対して、新聞の送り部数を減らすよう何度も申し入れてきました。しかし、弁護士さんに交渉してもらうまで、申し入れを聞き入れてもらえませんでした」

 「押し紙」で生じた赤字を埋め合わせるために、杉生さんは1989年に自宅を売却。奥さんに先立たれる不幸も経験したが、それでも息子さんやアルバイトの従業員たちと一緒に、細々と自分の店を守り続けてきた。

 杉生さんが被った「押し紙」の損害は、ここ5年間だけでも約6,300万円にものぼり、2006年6月30日、弁護士と相談した杉生さんは、毎日新聞社に対して損害賠償を求め、大阪簡易裁判所に調停を申し立てた。現在、調停を重ねているところだ。

◇「杉生新聞舗」における「押し紙」
 毎日社が杉生さんに対して送り付けてきた部数(送付部数)、杉生さんが要請した部数(要請部数)、さらに杉生さんが実際に購読者に配達した部数(購買部数)を、2000年度にさかのぼり、各年の1月度の時点で紹介してみよう(→原資料)。

年/月 購買部数 要請部数 送付部数
2000/1 918 1,100 1,800
2001/1 966 1,100 1,830
2002/1 892 1,100 1,800
2003/1 815 1,100 1,820
2004/1 782 1,000 1,510
2005/1 733 900 1,510

 2005年1月でいえば、1,510-900=610部が、押し紙である。その前の5年ほどは、毎月700部ほどを強制的に買い取らされていたことになる。

 2000年以前の数字がないのは、杉生さんが資料を保管していなかったからである。しかし、本人の話によると、それ以前にも「押し紙」はあったという。

 毎日新聞の販売店を開業したのは、30年前の1976年。当時、配達部数は832部だった。が、杉生さんは拡販に力を注ぎ、3年後には配達部数を約1,900部にまで増やした。拡販のためにやむなく大量の景品を使ったが、順調に部数は増えた。しかし、やがて景品を使った拡販が裏目にでる。

 「新聞乱売が社会的な非難を浴びたために、毎日新聞社は景品類を使用しないように販売店に指示を出したのです。ところが景品を提供しなくては、新聞を購読してくれない人が多かった。しかも、そこにライバル紙がセールス・チーム(新聞拡張団)を送り込んできて、高価な景品を使った拡販を始めたので、太刀打ちできませんでした」(杉生さん)


「押し紙はいらない」と明確に伝えた要望書。これは決定的な証拠といえる。
◇毎日新聞社へ書面を送付
 一度は倍増した部数が、1年半でほぼ元に戻った。しかし、毎日社は部数減に応じて、販売店への送り部数を減らそうとはしなかった。その結果、杉生さんの販売店には、徐々に「押し紙」が増えていった。

 そこで杉生さんは1990年ごろから、再三にわたって送り部数を減らすよう、毎日社に申し入れた。しかし、それは聞き入れられなかった。

 2003年4月には、口頭ではなく書面で部数減を申し入れた(右記)。その時に杉生さんが送った手紙の一部を引用してみよう。

 

 (略)
 店にはそれなりに大きな歴史があります。今では子供達も成長し、巣立って行き、残る長男と女房、私が中心になってやって来ましたが、昨年、女房が病気で他界し、今では長男夫婦と私が中心になって頑張っておりますが、現在の社会情勢から活字離れが多く、これにくわえ数年前から販売競争が激化し、現状維持するのがやっとです。

 これ迄、数次に渡り送り数の改定を申し入れているのですが、前向きな回答がございません。本日・書簡にて失礼とは存じますが下記の通り、送り部数を改定下さい。

 現状送り部数(4月末)1820部。改定部数1000部。
 書面によると、杉生さんが要請した改定部数は1,000部であるが、実際に配達していたのは820部である。差異の180部は、予備紙というよりも、任意に負担を引き受けた部数である。

 杉生さんは郵便書留で書面を毎日社へ送った。しかし毎日社は、「押し紙」を200部減らしただけで、依然として多量の「押し紙」を送り続けたのである。その後、若干、「押し紙」は減るが、最も少ない時期でも、送り部数の約30%もの押し紙があった。

◇逆に押し紙を増やされ、弁護士に相談
 2004年の12月25日にも、杉生さんは同じような趣旨の手紙を書留で毎日社に送った。1,460部の送り部数を900部にして欲しい、という内容だ。

 すると毎日社は逆上したのか、送り部数を減らすどころか、翌月、逆に「押し紙」を50部増やしてきたのである。たまりかねた杉生さんは、弁護士に相談した。そして弁護士を通じて、正常な取引の実施を申し入れ、ようやく自分の店から「押し紙」を一掃したのである。

 毎日社は、杉生さんの店に対して「押し紙」を中止すると同時に、補助金の支給も中止した。「押し紙」がなくなったのだから、補助金も必要ないという理屈のようだ。この処置は裏を返せば、補助金で「押し紙」を買い取らせていたことの証明と言えるだろう。

 補助金を使ってでも新聞社が新聞の部数を水増しするのは、単に「押し紙」から収益を得ることが目的だけではなくて、ABC部数を引き上げることで、紙面広告の営業を有利に展開できるようになるからだ。

◇「押し紙」と補助金のカラクリ
 新聞社は「押し紙」をどのように隠してきたのだろうか。この点を明らかにすることは、新聞の商取引のカラクリを暴く作業でもある。

 驚くべきことに、新聞社は昔から一貫して「押し紙」などどこにも存在しないという見解を取ってきた。「押し紙」裁判を提起されても、この一点で強引に押し通してきた。それゆえに新聞関係者の中には、「押し紙」という言葉を避けて、「残紙」という言葉を使う人もいる。

 「押し紙」についての新聞経営者たちの言い分は、販売店が希望して実際に配達しているよりも多い部数の新聞を仕入れているというものだ。なぜ、新聞の水増しを希望するのか?折込チラシの卸枚数が、新聞の送り部数に準じて決まり、しかも「押し紙」による損失額よりも、折込チラシの水増しで得る収益の方が大きいから。それゆえに、販売店に余っている新聞は押し売りしたものではないという論理である。

 しかし、この論法は事実に反している。折込チラシの枚数が膨大にならない限り、「押し紙」の赤字を相殺したり、利益を生むことができないからだ。折込チラシの手数料が平均で1枚2.5円、「押し紙」1部の卸値が60円とすれば、24枚のチラシを折り込まなければ、「押し紙」の損害を相殺できない。それは不可能ではないにしろ、非常に難しい。

 とすれば、「押し紙」が多い販売店の経理は赤字になって、最悪の場合は倒産する。それは新聞社としても避けなければならない事態だ。新聞の宅配ができなくなるからだ。

 そこで実施するのが販売店に対する補助金の投入である。杉生さんの店でも、押し紙を買い取らせることで発生する損失を穴埋めする形で、最大60万円弱の「補助奨励金」が投入されていた。ただ、下記のように、損失のほうが圧倒的に巨額であった(→原資料)。

年月
要請部
送付部
 請求金
相当金額
補助奨励金
損失
00/1
1,100
1,800
4,219,635
2,651,880
578,150
989,605
01/1
1,100
1,830
4286824
2,651,880
560,300
1,074,644
02/1
1,100
1,800
4,219,635
2,651,880
543,800
1,023,955
03/1
1,100
1,820
4,267,851
2,651,880
515,200
1,100,771
04/1
1,000
1,510
3,573,559
2,410,800
367,000
795,759
05/1
900
1,510
3,573,559
2,169,720
227,000
1,176,839

 搬入されていた新聞の総部数に対する卸代金が「請求金」、実際に杉生さんが要請していた部数に対する卸代金が「相当金額」。補助奨励金を差し引いた金額が「損失」だ。杉生さんは、こうして積みあがった損失額の合計、6,280万2,913円の返還を申し立てたのである。

◇補助金で「生かさず、殺さず」
 新聞社は補助金を投入することで、販売店の経理の帳じりを合わせようとする。あるいは補助金の額を調整して、倒産しないぎりぎりの範囲で販売店の経理を赤字にする。補助金の支給額は、販売局の裁量で決まるので、こうしたことができるのだ。

 新聞社は「押し紙」を強制したうえで、補助金をカットすれば、販売店をたちまち赤字経営に陥れることができる。これこそが、販売店が「押し紙」を告発できないゆえんである。膨大な経費を承知のうえで景品を使った新聞拡販に走らざるを得ないゆえんである。

 これが新聞社の販売政策の裏側である。販売店を「生かさず、殺さず」にコントロールする仕組みである。

 なお、販売店の名誉のために補足しておくが、折込チラシの枚数を決める権限は販売店にはない。折込チラシの代理店が、新聞社から送られてくるABC部数などの資料を基に決定するのである。

◇発注伝票が存在せず、自ら注文部数を決められない


大阪簡易裁判所に提出した申立書。現在、調停は1回終了し、継続中。
最終更新:2008年08月09日 19:08