2010年度「このミステリーがすごい!」
●第1位・・・『新参者』東野圭吾(著)
立ちはだかるのは、人情という名の謎
日本橋の片隅で発見された四十代女性の絞殺死体。
「なぜ、あんなにいい人が」と周囲は声を重ねる。
着任したばかりの刑事・加賀恭一郎は、未知の土地を歩き回る。
「この町のことを思い浮かべるだけで、忽ち様々な人間が動きだした。そのうちの一人を描こうとすると、そばにいる人々の姿も描かざるをえなくなった。まる でドミノ倒しのように、次々とドラマが繋がっていった。同時に謎も。最後のドミノを倒した時の達成感は、作家として初めて味わうものだった」――東野圭吾
東野圭吾作品の中でも、「加賀恭一郎シリーズ」はかなり好きなので、迷わず購入しました。
この小説の舞台は日本橋。
その一角で起こった絞殺事件を調べるべく、着任したばかりの加賀刑事は日本橋界隈のさまざまな場所に出向いていきます。
ただし、「営業マンの上着」から始まり、加賀刑事の見事な洞察力はそれまでの作品同様に見ることができますが、事件そのものの真相は、それほどビックリするようなものではありません。
しかしそれよりも印象深いのが、日本橋界隈の人々や、加賀刑事自身が見せる「人情」です。
全九章ありますが、第一章~第八章までそれぞれ、加賀が訪れる日本橋の8か所が舞台となっています。
そして事件の調査のために訪れた加賀が、その手掛かりをつかむ様子だけでなく、彼の働きによってそこに隠されていた人々の「大切な人への想い」が前面に出てきたり、通い合っていなかった心と心が再び交流を始める様子などが描かれ、読んでいて非常に心温まりました。
どれも事件の解決に向けての「通過点」の一つに過ぎないのですが、結末が非常によく、それぞれの章がエピソードとして独立して成り立っています。
そして第九章のラストも、「心を通わせていたつもりが実はそうでなかった」という点では非常に考えさせられました。
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