Dream Breaker

Dream Breaker

著者 匿名希望 氏

”人は誰しも必ず表と裏の顔を持つ。”

毎日、
彼は飢えて死にそうな人がいれば自らの頭を提供し、
『バイキンマン』が現れれば有無を言わさず撃退する。
そうしてこの世界の平和は守られていた。

そして助けられた人々は敬意を込めて、彼をこう呼んだ。
『正義のヒーローアンパンマン』と・・・・

しかし、
誰も知らなかった。
知る由も無かった。

彼の『裏の顔』を・・・


”Dream Breaker”


「お~い!アンパンマン~!!!」

またカバオか。
にんじん山を散歩していたアンパンマンは、いつもの作り笑顔を浮かべて振返った。

カバオがいつも通りの巨体を揺らしながらこちらに走ってきた。
今度は何の用だってんだ。

「どうしたんだい? カバオ君。」
「いやぁ~、実はお弁当を忘れてお腹がぺこぺこなんだよぉ~。」

またかクソッタレ。3日前もじゃねえか。
しかも腹減ったと言っている割には笑顔じゃねえか。

「ね~お願いだから、頭を分けてよお~。はらぺこだよぉ~。」

俺はお前の昼飯じゃねぇんだぞ。何考えてやがる。

そんな事を心の中で思いながらも、アンパンマンは決して顔に出さ無かった。
「そうかぁ~しょうがないなぁ~。今回だけだぞぉ。」

しぶしぶ、自分の頭を握りこぶしぐらいの大きさだけ千切って、カバオに提供した。
あぁ、ちぎった部分が痛い。
そんな俺の苦悩も知らず、カバオはあろうことか逆切れをした。

「はぁ?これだけ?あんた、こんなもんで腹が満腹になるとでも思ってんのか?」

このデブぶっ殺してやりたい。
そう思いながらも、アンパンマンは「ゴメンゴメン」としぶしぶまた頭を千切り始めた。

あぁ、痛いよ。

「けっ、ちまちま取りやがって。面倒くせえ、俺が千切ってやるよ」

次の瞬間、想像を絶する激痛がアンパンマンを襲った。

「ああああああぁぁぁ!!!!」

余りの痛みにアンパンマンは地面に突っ伏した。
頭の3分の1がカバオの手によって千切られていた。
「おっとぅ、手元が狂って千切りすぎちまったな。流石にこんなにいらねえぜ。」
あろうことかカバオはさらにその頭の欠片を2つに裂き、その片方を地面に投げ捨てた。

その時、アンパンマンの中で何かの感情が爆発した。

「じゃあな。今日もありがとよ。」

倒れているアンパンマンを尻目に、カバオはその場所を立ち去ろうと向きを変えた。

「待てよ」

背中越しに聞きなれぬ声がカバオの耳に入った。
後ろを振返ると、頭の3分の1を失ったアンパンマンが直立していた。

「お前を殺してやる」

それはもう、いつも聞き慣れたアンパンマンの声では無かった。
そして彼はベルトの背中側に手をまわした。
ちょうどそこはいつもマントで隠れて見えない部分だった。
そこから手を抜いた時、彼が握っていたのは、鈍く黒い光を発するベレッタM92拳銃だった。
カバオが身の危険を感じて逃げ出そうとした時には、もう遅かった。

乾いた音が一つ、野原に響いた。

雲ひとつ無い晴れの日。
にんじん山の中では二人の猛者達の壮絶なサバイバルが起こっていた。

「待てオラァ!!!!」

アンパンマンの掛け声共に、カバオの頬を9mm弾が2つ掠めた。
肩から血を流しているカバオは、息を切らせながら近くの木を背にした。
アイツ・・・確実に俺の頭を狙ってやがる・・・!!!!

「何処だ!!!出て来い鼻穴野郎!!!!!」
10メートルほど先のほうからアンパンマンの喚き散らす声が聞こえる。

このままじゃ確実に殺られる・・・・冷静になれ、俺・・・

「絶対仕留めてやる!!!!」

アンパンマンがでたらめな方向に銃を撃った。

そうか!
弾切れのときを狙えば・・・!!
ベレッタM92の最大装弾数は15発で・・・えっと、今まで奴が撃った数は・・・12発・・・か?

カバオは落ちていた棒切れを適当な所に投げた。
ガサッと茂みを揺らして、棒切れが落ちた。

「そこかぁ!!!!」

ベレッタM92から3発の銃弾が発射された。
そして後に”カチリ”と乾いた音。

今だ!!!!!

カバオは素早く大き目の石を拾い上げ、アンパンマンの正面に駆け出した。

「食らえ!!! アンパン・・・」

しかし、カバオが見たものは、

――――生気の無い目で消音UZI自動小銃をカバオに向かって構える、アンパンマンの姿だった。

カバオは一瞬にして凍りついた。

そして半拍の空白の後、カバオは必死で命乞いをした。

「ちょっと待ってくれ・・・!!謝る・・・!謝るから・・・!!!殺さないでくれええ!!!!!」

「死ねよ」

そう言うのとほぼ同時に、UZIの引き金が引かれた。
そして、数十の光の塊がカバオの腹を貫いた。

「うわああああああ・・・・!!!!!」

カバオは口から血の塊を吐き出すと、草むらに仰向けに倒れた。
薄れ行く意識の中でカバオはアンパンマンの声を聞いた。

「俺には愛も勇気も何も無いんだよ」

・・・・?


「金のためだよ。か・ね」

やっぱりそうだったのか・・・

俺は見ていたんだ・・・
毎回"仕事"を終えるごとに村長に金を貰っているところを・・・

やっぱりこの世に本当の"正義"などありゃしないんだな・・・

そして、カバオは静かに目を閉じた。
最終更新:2008年01月25日 16:10