理想郷


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理想郷

著者 夜氏


理想郷~その1~

こんにちは、旅人さん。この国は初めてでしょう。
きっと気に入ると思いますよ。なんせ、この国は『理想郷』ですからね。
え?この国のどこが理想郷かって?
この国は、まず戦争をしません。
他国から攻撃されることもありません。
環境もよく、自然災害は一切起こりませんし
貧富の差もなく皆、平等に暮らすことができます。
どうです、すばらしいでしょう!
え?なんでそんな夢のような暮らしができるのかって?
それはですね・・・。



理想郷~その2~

この国には、神様がいるんですよ。
あー・・・、その顔は信じていませんね。
いやっ!本当にいるんですよ!
あそこに大きな白い建物があるでしょう。
あそこは病院なんですが、そこの第二病棟に一人の女の子が入院してたんです。
その子は、肺を患っててもう長くなかったんです。
その子の両親は神様に毎日お祈りしました。
「どうか娘を助けてください!」ってね。
するとどうでしょう!
次の日には、女の子の肺に喰らい付いていた病巣はすっかり消え
その子は2週間後に退院する事ができたんです!
それだけではありません。
ある家が火事で焼けてしまい、財産も何もかも失ってしまった家族は
神様に「どうか助けてください。」とお願いしました。
次の日に焼けた家に戻ってみると・・・・なんと家が元通り建っていたのです!
このようにこの国は何か困ったことが起きたら神様に頼みます。
すると次の日には全て元通り・・・・、怖いくらいに
全部の失敗や事故がなかったことになります。



理想郷~その3~

神様に守られている国なんかそうないですよ。
どうです、旅人さん1日と言わず、この国で暮らしてみては?
え・・・?先を急いでいるから?住むことはできない?
それは・・・残念ですね・・・。
もう、この国を出発なされるのですか・・・。
又この国に来てくださいね。
今度はいろんな所を案内してあげますよ。
さよなら、旅人さん!道中お気をつけてくださいねー!



理想郷~その4~

パタン。男は本の扉を閉じた。
ほこりっぽい古本屋の中、男の黒のロングコートが舞う。
部屋の隅に置かれた安楽椅子。座っていた老人が尋ねた。
「どうですか?私が書いた物語は?」
男は、少し考えて
「この物語は、あなたが体験した話なのですか?」と聞いた。
「ははは・・・・まさか、」


『そんなわけないじゃないですか。』



理想郷~その5~

「旅人さんは理想郷はあるとおもいますか?」
「さあ・・・?あるんじゃないんですか?世界はひろいですし・・・。」
老人は絶望的な口調で言った。
「ないんですよ。この世には理想郷なんてありえないんですよ。」
旅人はにやりと笑った。
「ほう・・・。なんでそう言い切れるんですか?」
「私は今まで理想郷とやらがどこにあるのか世界中を旅してきました。
そして・・・、私は見てきました。
人間が起こした戦争を、災害を、そして・・・・悲しみを。」



理想郷~その6~

「この世の不幸。戦争や災害は人間たちが起こしてきたもの・・・。
人間が居るからこそ、世界は壊れていく・・・。
人間が居るから理想郷なんてできないんですよ。」
通りで子供たちが遊んでいる声が聞こえる。

「私は気づいてしまったのです。理想郷などないことに。」

「・・・・・・。」
旅人は何も喋らず、老人の言葉に耳を傾けている。
「だから・・・せめて、物語の中だけでも理想郷を・・・「だがまったく面白くない。」
いきなり、旅人は口を開いた。
「・・・・・・なんですって?」
「面白くないと言ったんですよ。その物語は。」



理想郷~その8~

老人のむせび泣く声が店の中に響く。
「・・・認めなくてもいいんですよ。」
老人は顔を上げた。
「認めるか認めないかはあなたの自由です。逃げるか逃げないかもね。」

カラリンコロリン。
立ち尽くしている老人を残し、旅人は店を出て行った。
店が薄暗かったからなのか、夕日がやけに目にしみた。



理想郷~その9~

とある町のカフェテラスにて。
「なに、その本。・・・『理想郷』・・・?」
若い女は目の前の自分の彼氏が読んでいる本に目を留めた。
「ん?ああ、この本のこと?」
「何か古い本だね~。どこで買ったの?」
若い男は通りの向こうを指差した。
「あそこの古本屋で見つけたんだよ。」
「ふーん・・・。あんたが本を読んでるのって珍し~。」
「あはは・・・。1冊だけしかなかったし、内容が気に入ってね。」
「へー。どんな話?」
カチャン。テーブルの上に置かれたアイスコーヒーが音を立てる。
「んー・・・。或る所に、貧困もないし戦争もない理想郷があるんだけど、
いきなり隣国の奴等が攻めてくるわ、火山の噴火がおこるわ・・・・、
いきなり不幸のどん底に叩き落されるんだよ。その国が。」
「うーん・・・・。それってパニック小説?」
「そんなもんかな。まあ・・・・。」


「面白かったけどね。」