ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

アホの使い魔-7

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匿名ユーザー

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「決闘だ」

デルフリンガーを買いに行ってサボった事をコルッパゲに怒られた翌日。
朝の食堂でギーシュが億泰に言ってきた言葉がコレだった。
それを聞いてにわかに周囲は白熱しだし、ルイズとシエスタが頭を抱える。

「よし!散れ!散れ!散れ!散れ!散れ!散れ!」
「残れ!残れ!残れ!残れ!残れ!残れ!残れ!三日だけ!」
「たかだか平民に決闘て……常識的に考えろよギーシュ」
「いやいや、ここは貴族が上!平民が下!を植えつけるべきだろ」
「おとなしくナンパしてろギーシュ」

一方、億泰とデルフリンガーは訳の分からない、という顔をしていた。

「なんでだ?」
「いきなりなんでぇ、貴族の坊主」

一斉に全員がコケた。

「な、なんでもないだろう!
 昨日僕を気持ち良くなる位に清々しくボコボコにしておいて!
 魔法さえ使えずに負けたのは僕のプライドが許さない、だから正々堂々決闘だ!」
「はぁ……まーいーけどよ」
「よし、ならばヴェストリの広場で待っている!すぐに来るんだ!」

そう言うなりギーシュはさっさと出て行った。


「ワザワザ売られた喧嘩買ってどうすんのよこのバカ!
 あー、もう!剣は確かに買ってあげたけどね。
 しなくていいならしない方選びなさいよ!」
「ほんと、本当です!バカです億泰さん!」
「確かにオレは頭悪いけどよォ~~、『罪』ってのはよぉ~そうなるような事をしてりゃあよぉ~
 どっかから廻りまわって『罰』がやって来る物だからなぁ~ オレのした事の結果なら受けてやるのが道理ってもんよ」

そう言うと、唖然とする二人を置いて
決闘の見物へ行こうとする集団について億泰も歩き出す。
その背中に、ルイズは一言だけ声をかけた。

「貴族の決闘は杖を落とした方が負けよ。
 完全に倒す必要なんて無いんだから」


「あの……ミス・ヴァリエール?」
「なに?」
「億泰さんって本当にただの平民なんですか?」
「私にもわかんない……」
「そうですか……」

やがて通路を曲がって億泰の姿が消えたころ、二人はそう言葉を交わした。


「さあ諸君!決闘だ!」

いつの間にか集まってきた群集でごった返すヴェストリの広場にギーシュの声が響く。
普段は閑散としたこの広場だが、今は一種の熱気に満ちている。

「決闘っていうか雪辱戦?」
「復讐?」

が、決闘の挨拶で湧き上がる歓声には幾分疑問の声が混じっている。
白熱というには随分と足りないようだ。
だが、ギーシュはそんなのは聞いていない事にした。聞きたくなかった。

「よく来てくれたね……感謝するよ。
 今度は魔法を使わせて貰う、もう負けはしないさ。
 さあ、君も剣を抜きたまえ」

華麗にスルーする事に成功したギーシュは薔薇の造花を振るい、花びらを一枚地面に落とす。
舞う花びらは地面に落ちると、甲冑を着た女戦士の像へと変わった。
朝日を受けて青銅でできたその体がきらめいている。

「別にオレはこのままでいーぜ?
 さっさとかかってきなよ」
「いや、相棒!抜けよ!抜いてくれよ!使ってくれよ!」

一方、対峙する億泰は余裕の表情だった。
むしろ武器のデルフリンガーの方が余裕が無いくらいだ。
本来貴族のギーシュが浮かべるべき表情に、ギーシュは何故か一抹の不安を覚える。


「強がりかい?
 僕は昨日の負けを清算できればいいんだ。
 二つ名『青銅』の名の通り、青銅のゴーレム『ワルキューレ』でお相手しよう」

女戦士のゴーレムが、億泰へと突っ込んでくる。
その右手を振り上げ、まさに鉄槌のごとく腕を振り下ろす……!

「『ザ・ハンド』!」

億泰がその名を呼ぶやいなや、どんな腕よりも恐ろしい右腕がワルキューレを抉りとった。
独特の音が辺りに響き、右腕から胸を通り、反対側まで『削り取られた』ワルキューレが静かに倒れる。

「オメーもマジならよォー、こっちもマジにやらねーと失礼ってモンだよな?
 だから、マジになるぜェ~~~~!」

億泰の声が、その様子に静まった広場に響く。
それを皮切りに観衆がざわめきはじめる。

「な、なんだあの平民!?何を?」
「まさか、魔法を!」
「いや、杖どころかたった一言しか言ってなかったぞ!?」
「先住魔法か!?」
「いや、でもあの平民から出てる『もや』みたいなのは一体!?」

ギーシュは混乱していた。
当初の予定では一体のワルキューレで適当に翻弄して土下座して謝らせるだけで終わらせるつもりだった。
そんでもってその勢いでモンモランシーとよりを戻すつもりでさえいた。
平民だというのに何の遠慮もなくブン殴ってきた億泰の性格に、少なからず好感も持っていた。
貴族と平民の間の絶対的な差も考えの根底に根ざしていた。
しかし、アレはなんなのだ。

億泰から出ている『もや』のような何か。
人型をとっているらしいが、何故か空気のゆらぎ程度にしか見る事のできない何か。
それが、一発でワルキューレを『切り裂いた』。
そうとしか思えなかった。

「一体何をしたんだ使い魔!?
 その『もや』みたいな物は何なんだ!」
「そうだぜ相棒!オメー一体何を!?」

億泰は最初から全く変わらないポーズでギーシュへと目を向ける。
デルフリンガーについては後で説明すればいいかな、と思ってあえて無視した。

「ほー、完全じゃあねーみてーだが見えてンのか。
 世界が違うからなのかなー、中途半端みてーだけど。
 ま!考えると頭痛くなるしやめとくぜ」
「見え……?
 だ、だからその正体は一体!?」
「『魔法じゃあねえ』。そこまでだ。それ以上親切に教えるバカはいねーよ。
 そんなくれーで自分から吹っかけた喧嘩中断するってーのか?
 ほら、近づいてきなよ」
「わ、ワルキューレ!」

一歩踏み出した億泰に、あわててギーシュが薔薇を振る。
花びらが溢れ、六体のワルキューレが現れた。
そして、地面から更に錬金された武器を手に掴む。
もう余裕とかちょいととかいうのは無しだ。
目の前に居るのはただの平民ではない。
メイジ、それも自分よりも格上を相手にするつもりでも良いのかもしれない。

「やれ、ワルキューレ!」

二体のワルキューレが左右から億泰へと切りかかる。
タイミングも完全に同時、避ける事も受け止めることもできない威力で振り下ろされる剣。
しかし、ほれっという億泰の声と共に片方の頭が消え去り、もう一体が物凄い力で倒される。
倒されたワルキューレの顔には足の形が深々とつけられていて、蹴られたのだと分かった。

「ん~、金属の塊にしちゃー予想外のスピードだけどよォ~~~。
 承太郎さんの『スタープラチナ』やクソッタレの『チリ・ペッパー』はおろか……
 俺の『ザ・ハンド』や康一の『act3』よりもおせえよ」

そう言うのと同時に『もや』が倒されたワルキューレの頭を踏み砕く。

「そういやよー、オメーシエスタにまだ謝ってなかったよな?
 傷ついたレディが二人とか言ってたけどよォー、
 どー見てもあの時一番傷ついてたのはシエスタだよなー!
 俺が勝ったらちゃんと謝ってもらうぜェー!」
「っ!」


ギーシュが杖を振り、砕かれたワルキューレの破片を『レビテーション』で持ち上げる。
それを億泰の方へと勢いを付けて放り、更に四体のワルキューレで同時攻撃を仕掛けた!

「真正面から何体来ても無駄だぜェ~!
 削り取ってやる!」
「フ、ただ真正面から突っ込むだけだとでも思ったのかい!
 『錬金』を食らえ!」

ギーシュの本命はワルキューレによる攻撃ではなく、『破片』の方だった。
ワルキューレが三体破壊された所に、青銅の塊が『錬金』されて砂の塊に変わり億泰の顔へと襲い掛かる!

「う……イデェェエェ!」

思いっきり引っかぶった億泰は目を瞑ったまま『ザ・ハンド』の腕を振り下ろす。
しかし、その腕が最後の敵を削り取ることはできなかった。
ただ、舞う砂を削って空間を作っただけだ。
それを見てギーシュはニヤリと笑みを浮かべる。

「そして!この砂で理解ができた!
 君のその力!大体人の姿をしているがどうやら殆ど遠くへは行けないな!
 行けるならば最初から僕を攻撃していた!
 そして、右腕にさえ気をつければ怖くないようだ!」

『ザ・ハンド』の右腕を逃れたワルキューレが億泰へと剣を突き立てようとする。

「空振りした所ならこの剣は避けられまい!勝った!
 アホの使い魔、完!」



喜びながら電波を受信したギーシュだったが、その喜びは億泰の余裕タップリの声に中断される。

「五十点って所だなァ。
 甘いぜオメーは。空振りしたって『空間を削っている』んだぜ!
 そしてェ、削った空間は閉じ……オメーは最初から全く動いてね~~~」
「何を言って……ハッ!」

その瞬間、ギーシュの腕から杖がすっぽ抜け、億泰の手に収まった。
同時に、ワルキューレの動きが止まり、不自然な姿勢のワルキューレはバランスを崩して横へ倒れる。

「瞬間移動って奴さァ~~~」

その様子を見て観衆は沸いた。
急に広場がざわめきだす。

「へ、平民が杖を奪ったぞ!?」
「って事はギーシュの負けか!」






「俺……ひょっとして要らない子か?」

デルフリンガーの嘆きはそっと広場の騒ぎに掻き消えた。

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