ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロの来訪者-10

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「何考えてんのよ、あいつは!」
ルイズが廊下を走っている。
「私が…ご主人様が心配してあげてるっていうのに…」
いくら腕力が強かろうと、ギーシュの操るゴーレムの前ではひとたまりも無いだろう。
「何のために剣を買ったと思ってるのよ!」
剣を使えば勝てないまでも、一矢報いることが出来るかもしれない。
そうしたらあの使い魔も、臆病者と呼ばれる心配もなくなり、素直に謝るだろう。
「ボロ剣!あんたの出番よ!!」
勢いよく自分の部屋の扉を開けて、デルフリンガーが置いてある場所に向かって叫ぶ。
「あ~ん?出番…いいよ、相棒には俺なんていらねーんだ。もう実家に帰る!」
しかしデルフリンガーはすっかり駄目になっていた。
「実家ってどこよ!?」
「武器屋。だいたい俺が必要な相手ってなんだ?ドラゴンの大群でも湧いたか?」
「なに大口叩いてんのよ!貴族よ、貴族!ドットだけど平民が素手で、
 あんたがいても無理だと思うけど…とにかく勝てるわけ無いでしょ!」
「じゃ俺帰るわ」
「どうやってよ!?そうじゃなくて!あーもうこのボロ剣、とにかく行くわよ!」
デルフリンガーを掴んで走り出す。
「あいつ、私が行く前にやられたら承知しないんだから…」


「今日はどんな風にミス・ロングビルとスキンシップをとろうかのう…」
学院長室にて、オールド・オスマンはこれからやってくる秘書に、
いかにセクハラするかを考えていた。老いて益々盛んなスケベジジイである。
「やはりここはオーソドックスにモートソグニルに覗かせるべきか、
 ボケたフリをして尻をさわるべきか、悩むのう…そうじゃ!
 胸を揉まねば治らない発作というのはどうか!?
 しかし流石に胸はまずいかのう、本気で殺されるかもしれん…尻でさえあれじゃから」
今朝、尻を触ったら『こいつはメチャ許せんよなあああああ!』とバックブリーカーを
決められた時の事を思い出していると、ノックの音が聞こえた。
「む、誰じゃ?」
「オールド・オスマン、私です!」
「ふむ、入ってきたまえ」
立てかけてあった杖を振って扉を開けると、秘書のミス・ロングビルがそこにいた。
「ヴェストリ広場で、決闘をしようとしている生徒達がいます!
 何人かの教師が止めようとしましたが、生徒達に邪魔されて、止められないようで…」
「なんじゃ、それぐらいの事で騒々しい…で、その暇な貴族は誰と誰なんじゃ?」
「一人は貴族なのですが…その、もう一人はイクロー君…
 いえ、ミス・ヴァリエールの使い魔の平民です」
「なんと、あの少年か!相手の貴族は?」
「ギーシュ・ド・グラモンです。教師達は、決闘を止めるために『眠りの鐘』の
 使用許可を求めおりますが…」
「ふむ…」
鬚をいじりながらしばし黙孝した後、オスマン氏は口を開いた。
「たかが子供のケンカを止めるのに、秘宝を使うわけにはいかん、放っておきなさい」
「はい…」
不満そうなミス・ロングビルに、オスマン氏は続ける。

「…と、言いたいところじゃが。ミス・ロングビル、君が止めてきなさい。
 なに、少々手荒な事をしてもかまわん。ワシが許可する」
「は、はい!」
その言葉を受け、急いで部屋を出ようとすると、一人の教師がドアの外に立っていた。
「おや、これはミス・ロングビル。どうかしたのですか?」
「すいません、急いでいるもので…」
入れ替わりで、太陽拳ができそうな教師が部屋に入ってくる。
「何かあったのですか?」
「いや、グラモンの馬鹿息子が平民と決闘をするとかいう話でな。
 ミス・ロングビルに止めに言ってもらったのじゃよ、ミスタ…コルレル?」
「コルベールです!しかし、彼女に止められるなら、他の教師達が止めているのでは?」
チッチッチッ、と指を左右に振ってオスマン氏が答える。
「相手の平民なんじゃがな…ありゃミス・ロングビル、たぶん惚れとるな」
「なななな何ですと!?」
実はコルベールは影ながらミス・ロングビルを狙っていたのだ。
「ま、実際は惚れとるとまでいかんじゃろうが、きっかけがあればすぐじゃ」
うんうんと一人で納得するオスマン氏。
「そこでじゃ!そのきっかけを与えてやったというわけじゃ」
「というと?」
「察しが悪いのう、ミスタ・ブリトヴァ」
「コルベールです…」
「良いか?はっきり言ってただの平民では、すぐにやられてしまうじゃろう…
 ミス・ロングビルが駆けつけるころには、少年はボロボロになっておる。
 彼女は間に合わなかった事を悔やんで、せめて少年を看病しようとする
 保健室で若い男女が二人きり…これはもう何か起こることは間違いない!」
「そ、そうでしょうか?」
「わかっとらんのう…一人はやりたい盛りの年頃、一人は婚期を逃した女ざかり。
 これで何かおこらんはずがあるまい!というかワシなら無理にでもおこすね!
 少年は真面目そうじゃったから、責任を取ってミス・ロングビルとゴールイン!
 ミス・ロングビルはきっかけを作ったワシに感謝!きっと尻を触っても許してくれる!
 あるいは胸もOKになるかもしれん!いや、なるに違いない!」
「おい、ジジイ」


そのころミス・ロングビルこと、土くれのフーケは
「ふふふ、ボロボロになった坊やを看病することによって、アタシへの高感度はアップ!
 東方の情報や、ラ・ヴァリエール家の情報をゲット!夢がひろがるねぇ!」
あんまりオールド・オスマンと変わらない事を考えていた。

「ところで何しに来たんじゃ、ミスタ・ガブル?」
「コルベールです!ってそうでした、大変な事がわかりました!」
先程の冷めた態度とはうってかわって、コルベールが興奮した様子で告げる!
「あのミス・ヴァリエールの呼び出した少年なんですが、
 変わったルーンだったので調べてみたら…これを見てください!」
コルベールが机の上に、ルーン文字のスケッチと、古びた本を置く。
「『実践!ブリミル式毛根復活法 私はこれでフサフサに!』もう手遅れじゃと思うがのう…」
「それは部屋に置いてあるはず!?」
「嘘だよお~~ん!冗談じゃ、冗談ッ!
 しっかしそんな本、本当にあるんじゃな。適当に言ってみただけなんじゃが」
キレそうになるのを必死で抑えて、コルベールが本を開けて話を続けようとする。
「…見てください、彼のルーンは始祖ブリミルの使い魔『ガンダールヴ』に
 刻まれていた物とまったく同じだったのです!
 つまりあの少年は…伝説の『ガンダールヴ』になったんですよ!」
机を叩いて、オスマン氏に詰め寄る。
「落ち着かんかい、ミスタ・ラスヴェート。あと顔が近い。
 ルーンが同じじゃからといって、そうと決まったわけではないじゃろう」
「コルベールです!まあ、それはそうですが…」
「しかし、それはちょうど良いかもしれんな」
「は?」
オスマン氏が壁に掛かった大きな鏡に向かって杖を振ると、ヴェストリ広場の様子が
映し出された。コルベールが、人だかりの中心にいる2人の少年の片方に目を奪われる。
「彼は!?」
「そうじゃ、先程の話の平民じゃよ」
はっ、となってオスマン氏を見るコルベール。
「もし少年が『ガンダールヴ』なら、これではっきりするはずじゃ…」



「諸君!決闘だ!」
ヴェストリ広場の中心でギーシュが薔薇の造花を掲げた後、育郎にそれを向けた。
「とりあえず、逃げずに来た事は、褒めてやろうじゃないか」
隣ではモンモランシーが『あ~~~ん…頼もしいわ!アタシのブルりん!』という目で
ギーシュを見つめている。
「モンモランシー、この勝利を君に捧げよう」
薔薇を口にくわえ、優雅に礼をするギーシュをさらに熱っぽい目で見るモンモランシー。
ギーシュは、思わずこの状況を作り出した育郎に感謝したくなってくるが、
もちろんそんな態度はおくびにも出さない。
「………」
対する育郎は、ギーシュとは対照的にその心は沈んでいる。
彼自身、本来争を好まない性格という事もあるのだが、ここ数日で魔法にいくらか
触れてきたとはいえ、さすがに戦いに使う魔法など見たことがないのだ。
危険な状態になれば、取り返しがつかなくなるかもしれない。
しかしそれでも、震えるシエスタの姿を、そして自分の事を『ゼロ』と言った時の
ルイズの悲しそうな顔を思い出すと、決闘をやめる気にはなれなかった。
「では始めようか…ワルキューレ!!」
ギーシュが叫んで薔薇を振ると、花びらが一枚宙に舞い、それが全身金属でできた、
戦乙女の姿に変化した。
「僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュ!
 従って青銅のゴーレム、ワルキューレがお相手するよ。行け!僕の美しき戦乙女よ!」

ワルキューレが育郎に向かって走り出し、その青銅の拳を突き出す。
しかしその拳の先には育郎はいない、軽く体を捻ってかわしている。
ワルキューレは次々と拳を繰り出すが、その全てが空を切った。
自分に向かって放たれた銃弾すら知覚できる今の育郎にとって、ワルキューレの拳は
止まっているに等しい。
「なかなかやるじゃないか、あの平民」
「ギーシュが遊んでるだけだろ。おいギーシュ、そろそろ本気を出せよ!」
「はっはっはっ、まかせたまえ!」
周りの生徒の声に答え、ギーシュは薔薇を振ってさらに3体のワルキューレを生み出し、
育郎を襲わせる。

ひょっとしてこれはまずいんじゃないか?

ギーシュは少しだけ焦っていた。
4体に増えてもワルキューレ攻撃はさっぱり当たらないのだ。
モンモランシーの方を見ると『何やってんの?』という顔でこちらを見ている。
勿論自分が負けるわけは無いのだが、そもそもモンモランシーは野蛮な事は
嫌いなのである、長々と戦いを見せても喜ばれる事は無い。

逆に考えるんだ、避けられると言うのなら…

「…避けられない攻撃をすれば良い!来いワルキューレ!!」
育郎から離れ、ギーシュの傍に移動したワルキューレ達が横一列に並んでいく。
「突撃だ!!」
その声と共に4体のワルキューレ全てが、一斉に育郎に向かって突進する。
これなら例え避けようとしても、全てのワルキューレを避けた方向に動かせば、
完全に避けられる事は無いだろう。

対して育郎は、なんと突進するワルキューレに向かって走り出した。
「ふっ、恐怖のあまりおかしく…ってワルキューレを踏み台にしたぁ!?」
確かに横方向には対応できただろうが、縦の方向は想定していなかった。
もっとも、突進するワルキューレに向かって飛び上がり、その頭を踏み台にする
という事を、想像出来る物はこの場にはいなかっただろうが。
一呼吸の後、ギーシュの後ろに育郎が降り立つ。
そしてその瞬間、ギーシュの背筋に冷たいものが走った。
「うわわわわわ!!」
ギーシュ・ド・グラモンの中に眠る軍人の血が、あるいは生物の純粋な本能が、
自分の後ろのいる生き物が、尋常な代物で無いと激しく警告する。
「わ、ワルキューレ!」
振り向きながら薔薇を振り、さらに2体のワルキューレを、今度は素手ではなく、
槍を持たせた状態で練成し、攻撃の指令を与える。
しかし、その槍は受け止められた。
並みの人間よりは強い力を持つはずのワルキューレが、特別に体格がいいわけでもない
育郎に、それぞれ片手で攻撃を止められている様は異様であった。
この瞬間、彼は自分が相手にしているのは、人間であるという認識は吹き飛んだ。

育郎はこのまま、手に持った槍を投げ飛ばし、ギーシュの杖を奪えば終わりと考えた。
この数日の出来事で、魔法を使うのには杖が必要だという事はわかっている。
これで終わり、そう安堵していた。
しかしそれは油断だった。

ギーシュにとっての幸運は、それほど強力なメイジではないという事だった。
故に育郎はその力を使う必要は無いと判断した。
ギーシュにとって不幸は、それでも彼はメイジであり、簡単に人を殺せる力を
持っているという事だった。


「ぐぅ…ッ!?」
育郎の腹部から槍が突き出ていた。
彼の背後にはその槍の持ち主、ギーシュが作り出せる最後のワルキューレが佇んでいる。
育郎がギーシュの杖、薔薇を奪おうと手を伸ばすと、ギーシュはその手を払うように
杖を振った。もっともそれは、育郎にはそう見えたというだけであって、
実はワルキューレを作り出す為の行動だったのだ。
それが分からなかった育郎は、背後に現れたワルキューレに気付かず、その攻撃を
まともに受ける事となった。

「ああ……」
呆然とするギーシュ。
いくら相手が平民でも、ここまでする気など無かった。
しかしあの瞬間、己の体を駆けずり回った恐怖が、彼を過剰な行動に移らせた。
「ギーシュ!後ろから攻撃するなんて卑怯だぞ!」
「平民相手に情けないぞ!」
周りの声でなんとか冷静になっていくギーシュ。
モンモランシーを見ると、口を押さえて真っ青になっている。


「そんな!?」
ルイズが広場にたどり着き、人ごみを掻き分けて見た物は、自身の使い魔が
槍に貫かれている姿だった。

こんな事なら剣なんてとりにいかなければ良かった
何としてでもあの時止めるべきだったのだ
これは自分のせいなんだ…

涙で視界がぼやけてくる。

やっぱり自分はゼロなんだ
使い魔も止められない、おちこぼれのメイジ
あの傷じゃ死んでしまうかもしれない
自分がゼロだからあの使い魔、イクローが死んでしまう…

「泣くな娘っ子、相棒なら大丈夫だ」
手の中のデルフリンガーが、ルイズに声をかける。
「何が…何が大丈夫なのよ…あいつが、イクローが…私がゼロのせいで…」
「しゃーねーな……相棒を見てみな」
「………え?」


『変化』がおきていた


「なななななな何だこれは!?」
ギーシュの目の前で信じられない光景が展開されていた。
育郎を貫いている槍が、ひとりでに押し出されたのだ。


『「寄生虫バオー」の麻酔作用開始!
 育郎の肉体を槍が貫いた瞬間、体内の「寄生虫バオー」は育郎の精神を麻酔し、
 彼の肉体を完全に支配した!』

渇いた音を立てて槍が地面に落ち、その傷が見る見るうちに塞がっていく。

『「寄生虫バオー」の分泌液は血管をつたって細胞組織を変化させ………
 皮膚を特殊なプロテクターに変える!』

育郎の肌の色が変わっていき、顔にひび割れが入り、髪が伸びていく。
蒼い、その肉体は人間にはありえない質感と色をしていた。

『筋肉・骨格・腱に強力なパワーをあたえるッ!』

そこに立っていたのは人間ではなかった
金色の目と蒼い肌、蒼い髪を持つ異形が唸り声を上げたッ!

              こ れ が ッ !
              こ れ が ッ !!

             バルバルバルバルバル!!!

          こ れ が 『 バ オ ー 』 だ ッ !
          そいつに触れることは死を意味するッ!
              アームド・フェノメノン
              武 装 現 象 ッ !

        ウォォォォォォォォォオオオオオオオム!!!!


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