ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

亜空の使い魔-9

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匿名ユーザー

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その日、マルトーに夕食を御馳走になった後、年代物が手に入ったといって振舞われたワインに気をよくし、ついつい長居をしてしまったヴァニラが部屋に戻ると、既にドアに鍵が掛けられていた
「おい、ここを開けろ」
酒精のおかげで多少おおらかになったヴァニラは即座にプッツンする事は無かったが多少いらついた口調でドアをノックする
が、反応は無い
気配を感じる以上中にいるのだろうが寝ているのか無視しているのか・・・・恐らく後者だろう
しかも足元には御丁寧に綺麗に畳んだ毛布まで置いてある

ヴァニラは知る由もないが食事を終え部屋へ戻ったルイズは部屋にいない使い魔を探しに出て、ヴァニラが厨房でシエスタやマルトーたちとささやかな品評会を催しているのを見て機嫌を損ね、このような行動に出ていた

しかし先記した通りヴァニラはそのことを知らない、つまりまたルイズの高慢さから出た自分勝手な行動だと認識する・・・・つまり挟み撃ちの形にならない
バリバリとドス黒いクレヴァスが口を開け始め新しい入り口を新設してやろうか等と思い始め、即座に行動に移そうとしたのとほぼ同時に、廊下の向うからペタペタと四足歩行生物の足音が聞こえてきた
「む?」
クリームの口内へ潜り込もうとしていたのを中断し、音の方へ顔を向けると廊下の暗がりから微かに光る一対の瞳と、赤々と燃える炎が近づいてくる
「お前は・・・・」
それは今までこそこそと影からヴァニラを監視していた爬虫類
堂々と姿を現したのを戦意アリと認識したヴァニラがクリームを飛ばそうと身構える
が、相手はそれを否定するように首を振り、きゅるきゅると人懐っこい鳴き声を出す

何故かヴァニラはその鳴き声の意味が理解できたような気がし、しゃがんで視線を合
わせ、問いかけてみた
「お前は・・・誰の使い魔だ?」
「きゅるきゅる」
その問いに答えるようにサラマンダーはルイズの隣の部屋へ平べったい顔を向けた
「・・・・・隣か、迂闊だったな」
眉間に皺を寄せ、苦々しく呟くヴァニラを他所に、サラマンダーはついて来いと催促
するようにヴァニラのジャケットの裾を引っ張る
「・・・いいだろう、何の用か知らんが理由も聞きたい」
ヴァニラは軽く溜息を漏らし、隣室のドアをノックする
「どうぞ」
返って来た女の声に、女子寮なので当然といえば当然だが――呼吸を整えると不意打ちに身構えつつドアを開け、足を踏み入れる

しかし、部屋の中は真っ暗だった
ヴァニラの後からついてきたサラマンダーの周りだけぼんやりと明るく光っている
DIOの館で暗闇には慣れていたが召喚されて以来光のある生活が当たり前になっていた
ヴァニラには先の見通せないでいた
不意打ちに備え急所を庇うようにクリームを展開させるが魔法の変わりに女の声が聞こえてきた
「戸を閉めて?」
ヴァニラは言われた通りにした
逃げ道なら簡単に作れる
「ようこそ、そして初めまして・・・・でもないわね。こちらにいらっしゃい」
「この蜥蜴を通してみていたのか?」
その場から動かずヴァニラは淡々と訊ねる
ここは既に相手の領域、これ以上主導権を奪われるわけには行かない
相手が戦うつもりであると信じ込んでいるヴァニラは臨戦態勢だった

「ええ、それに直接見ることもあったわ。ねぇ、そんなに堅くならないでこっちにいらっしゃいな」
地の利と視角、絶対有利なはずのこの状況で攻撃もせず、誘うような相手の声にヴァニラは漸く疑問を持ち始める
「しかし暗いぞ」
指を弾く音が聞こえた
すると部屋の中に置かれたいたロウソクが一本ずつ燈っていく
ヴァニラの近くに置かれていたロウソクから順に火は燈り、ベットの傍のロウソクがゴールだった
道のりを照らす街灯のように、ロウソクの灯が浮かんでいる
ぼんやりと淡い幻想的な光の中、ベットに腰掛けた褐色の肌に深紅の瞳と頭髪を持つ女の悩ましげな姿があった
ベビードールというのだろうか、そういう誘惑するための下着を着けている・・・・
というかそれ以外はなにもつけていない
それを見たヴァニラの感想は
(・・・・・・・・痴女か?)
冷めていた
何せDIOの配下に扇情的な衣装の女が一人いたうえに食料の女たちも似たり寄ったりで今更動じる事は無かった

だが殆ど透けたような生地の下着を持ち上げる盛り上がりには多少驚いたが
そのベクトルもルイズと同い年でどうしてここまで違うのかという
ルイズが聞いたら激怒するであろうものだった
勿論学園のシステム上同学年であっても年齢は違うのだが
それにしてもこの差はないだろう
女はヴァニラの視線を勘違いしたのか微笑み、名乗った
「名乗るのが遅れたけど私の名前はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプトー、キュルケと呼んでくださってけっこうよ?」
名乗る際にクセなのか軽く前髪を掻き揚げるが、その動作すらも計算したように悩ましげな様子を見せる
「ではキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプトー嬢、既にご存知だろうがこのヴァニラ・アイスに何のようだろうか?」
一度聞いた名前を一字一句間違えず返し、軽い皮肉を込めて訊ねる
「あん、つれない人ね。そんなところに突っ立ってないで、いらっしゃいな」
キュルケはヴァニラの問いに答えず色っぽい声で誘う
望む答えが得られず軽い落胆の溜息を吐くとヴァニラは諦めたよう、誘われるままにキュルケの元へ向かった
「座って?」
ヴァニラは言われたとおりにキュルケの隣に腰掛けた
裸に近いキュルケの隣にいても至って平静を保っていたが流石に多少の興味は湧き
 ・・・・・DIOの姿を思い浮かべると即座に消えた

「改めて聞くが、何の用だ?」
至って平静を保った声でヴァニラが言った
燃えるような赤い髪を優雅に掻き揚げ、キュルケはヴァニラをみつめる
ぼんやりとしたロウソクの灯に照らされたキュルケの褐色の肌は野性的な魅力を放ち、ヴァニラ以外の誰かをどうにかしそうになる
キュルケは大きく溜息を吐き、そして悩ましげに首を振った。
「あなたは、あたしをはしたない女だとおもうでしょうね」
「まったくだ」
「思われても、しかたがないの。わかる?あたしの二つ名は『微熱』」
「知らん。熱なら水でも被って醒ませ」
突然の口上に呆れたように受け答える
「あたしはね、松明みたいに燃え上がりやすいの。いきなりこんな風にお呼び出ししたりしてしまうの。わかってる、いけないことよ」
「理解していて抑えられないのか、最低だな」
ヴァニラは早く解放されて適当に相槌を打った
正直相手の意図がさっぱり読めない
読めないのが逆に恐怖になりつつある
「でもね、あなたはきっとお許しくださると思うわ」
キュルケは潤んだ瞳でヴァニラを見つめた
確実にヴァニラが言った事を理解していない
「・・・・・・・・何故?」
キュルケはすっとヴァニラの手を握ってきた
一本一本、ヴァニラの手を確かめるようになぞり始めた
ヴァニラの背筋に悪寒が走った
「恋してるのよ。あたし。あなたに。恋はまったく、突然ね」
「まったく突然だ。ところで帰っていいか?」
ヴァニラは真顔で切り返すがキュルケの顔は真剣そのものだった

「あなたが、ギーシュを倒した時の姿・・・・。かっこよかったわ。まるで伝説のイーヴァルディの勇者みたいだったわ!あたしね、それを見て痺れたのよ。信じられる!痺れたのよ!情熱!あああ、情熱だわ!」
「・・・・情熱か、で?」
「二つなの『微熱』はつまり情熱なのよ!その日からあたしはぼんやりとマドリガルを綴ったわ。マドリガル、恋歌よ。あなたの所為なのよ、ヴァニラ。あなたが毎晩あたしの夢に出てくるものだから、フレイムをつかって様子を探らせたり・・・・。ほんとうにあたしってばみっともない女だわ。そう思うでしょう?でも、全部あなたの所為なのよ」
ヴァニラはなんと答えればいいのかわからずにじっと座っていた
とうか答える答えない以前に言い知れぬ恐怖を感じていた
キュルケはヴァニラの沈黙をイエスと受け取ったのか、ゆっくりと目を瞑り唇を近づけてきた
確かにキュルケは魅力的だ
カリスマ性こそ比べるべくも無いが女性という点ではDIOより明らかに魅力は上のはずだ、ヴァニラも男である
どうせ元に戻る当ても無い、このまま流されてしまうのもありか、などと一瞬浮かぶが・・・・・キュルケの肩を押し戻した
なんとなく、悪い予感がした
どうして?と言わんばかりの顔でキュルケがヴァニラをみつめる
ヴァニラはキュルケから目を離さず
「つまり今までの話を要約するとお前は惚れっぽい」
それは図星のようでキュルケは顔を赤らめる
ヴァニラにしては何を今更、といったところだが
「そうね・・・・・。人より、ちょっと恋ッ気は多いのかもしれないわ。でもしかたないじゃない。恋は突然だし・・・・」
キュルケがその台詞を言い終わらぬうちに、窓の外が叩かれた

そこには恨めしげに部屋の中を覗く一人のハンサムな男の姿があった
「キュルケ・・・・。待ち合わせの時間に君が来ないから来てみれば・・・・」
「ペリッソン!ええと、二時間後に」
「話が違う!」
ここは三階だがどうやらペリッソンと呼ばれた生徒は魔法で浮いているらしい
キュルケは煩そうに胸の谷間に差した派手な魔法の杖を取り上げると窓のほうを見もしないで杖を振る
その動きに同じてロウソクの火から炎が大蛇のように伸び、窓ごと男を吹き飛ばした
「まったく、無粋なフクロウね」
ヴァニラはすっかり元のように冷め切った目でその様子をみつめていた
「でね?聞いてる?」
「今のは?」
「彼はただのお友達よ。とにかく今、あたしが一番恋してるのはあなたよ。ヴァニラ」
キュルケはヴァニラに再び唇を近づけた
しかしそれを阻むように今度は窓枠が叩かれた
見ると悲しそうな顔で部屋の中を覗き込む精悍な顔立ちの男がいた
「キュルケ!その男は誰だ!今夜は僕と過ごすんじゃなかったのか!」
「スティックス!ええと、四時間後に」
「別けはともかく理由を言えッ!」
怒り狂いながら男は部屋に入ろうとするが再びキュルケが杖を振ると同じようにロウソクの火から生まれた蛇が男を飲み込み、地面に落ち
ていった

「・・・・今のも友人か?」
「彼は、友達というよりはただの知り合いね。とにかく時間をあまり無駄にしたくないの。夜が長いなんて誰が言ったのかしら!
瞬きする間に太陽はやってくるじゃないの!」
キュルケはヴァニラに唇を以下略
今度は窓だった壁の穴から悲鳴が聞こえた
既に予想はついていたが、ヴァニラは呆れたように窓の外に目を向ける
窓枠で三人の男が押し合いへし合いしている
三人は同じに同じ台詞を吐いた
「キュルケ!そいつは誰なんだ!恋人はいないって言ったじゃないか!」
「マニカン!エイジャックス!ギムリ!」
今まで出てきた男が全員違うのにヴァニラは感心した
(まるでホルホースだな。あいつはきちんと折り合いをつけてそうだが・・・)
「ええと、六時間後に」
キュルケが面倒そうにいうと
「朝だよ!」
三人は仲良く唱和した
キュルケはうんざりした声でサラマンダーに命令した
「フレイムー」
きゅるきゅると部屋の隅で寝ていたサラマンダーが起き上がり、三人が押し合っている窓だった穴に向かって炎を吐いた
それをもろに浴びた三人は仲良く地面にキッスすべく落下していく
「今のは?」
ヴァニラは分かりきったことを敢えて尋ねた
「さあ?知り合いでも何でもないわ。とにかく!愛してる!」
キュルケはヴァニラの顔を両手で挟むと真っ直ぐに唇を奪おうとする
その時、ドアが物凄い勢いで開けられた
正しくは内側に向かって吹き飛ばされた
また男か、と思ったら違った
ネグリジェ姿で杖を持ったルイズが立っている

キュルケはちらりとルイズを見るがドアが吹き飛ばされたにも関わらずそのままヴァニラの唇を奪おうとするが、ルイズが杖を振り上げた
のを見てヴァニラがキュルケを突き飛ばす、
それに僅かに一瞬遅れて先程まで二人の顔のあった場所の延長線の壁が爆発した
「キュルケ!」
小さく舌打ちし、艶やかに部屋を照らすロウソクを一本一本忌々しそうに蹴り飛ばしながら、ルイズは二人に近づいた
ルイズは怒る男口より先に手が動き、さらに起こると手より足が先に動くのだった
ヴァニラに似ている気がするがきっと気のせいだろう
キュルケは起き上がりながらルイズに今気づいたように顔を向ける
「取り込み中よ。ヴァリエール」
「ツェルプストー!誰の使い魔に手を出してんのよ!」
ヴァニラは我関せずといった様子で成り行きを見守っている
ルイズの鳶色の瞳は爛々と輝き、火のような怒りを表している
「しかたないじゃない。好きになっちゃったんだもん」
キュルケは両手を上げた
ヴァニラは二人の間に挟まれ心底面倒臭そうにしている
三人の温度差が物凄く激しい、ひょっとしたら陽炎が出来ているかも知れない
「恋と炎はフォン・ツェルプストーの宿命なのよ。身を焦がす宿命よ。恋の業火で焼かれるなら、あたしの家系は本望なのよ。
あなたが一番ご存知でしょう?」
キュルケは上げた両手を竦めて見せた
ルイズの手がわなわなと震える
「きなさいヴァニラ」
ルイズはヴァニラをじろりと睨む

それに応じるようにヴァニラは立ち上がり、それを見ていたキュルケが追いすがるように裾を掴む
「あら、お戻りになるの?」
キュルケは悲しそうにヴァニラを見つめる
キラキラとした目が、悲しそうに潤む
「・・・・・・」
だがヴァニラは可哀想だけど明日には以下略な目で見るとルイズに促されるままにさっさと歩き出した

部屋に戻ったルイズは身長に内鍵を閉めるとヴァニラに向き直った
「まるでサカリのついた野良犬じゃないの~~~~~~~~~ッ!」
声が震えている
ルイズは怒ると口より先に手が動き、手より先に足が動く、もっと怒ると声が震えるのだ
その震える声でツェルプストーとヴァリエールの長きにわたる因縁を語り始める
ヴァニラは初めは面倒臭そうにしていたがどうやらDIOとジョースター家のような関係なのだと理解した
したのだが
(それは殆ど逆恨みじゃないのか?)
領土の問題は別として恋人云々の話は明らかに逆恨みだ
しかも寝取られたということは開いてのほうが魅力的だったということだろう
このヴァニラ、どこまでもドライだった
一頻り文句をぶちまけ、乗馬用の鞭を振るうだけ振るったルイズは肩で息をしながらヴァニラを睨みつけている
まだ何か言う事はないかと必死に考えているようだが怒り心頭の頭では何も浮かばないらしい
因みに鞭は振り下ろす度に先端を削り取られ今は持ち手以外残っていなかった、勿論ヴァニラにかすりもしていない
「そうか、わかった。今後気をつけよう」
そのタイミングを見計らったようにヴァニラが頭を下げる
それでも何か言おうとするが文句を言い尽くしてしまった後では何も出てこない
「そ、そう。分かればいいのよ!」
仕方なく威厳を保つようにちっぽけな胸をそらしてみせた

「今度から何かあったらきちんと断りなさいよ、脅してもいいわ」
ルイズは物騒なことをぬかしたが、流石にクリームで消し飛ばしたとあっては責任問題としてルイズにも累が及ぶ、暫し考え
「あんたに剣を買ってあげる」
「剣?私には必要ない」
ヴァニラは即答するが
「いいから持ちなさい、あんたいつかあのわけの分からない力で人を殺しそうで見ちゃいられないのよ」
先程隣人の顔面に向けて失敗魔法をぶつけようとした人間の台詞とは思えない
「明日は虚無の曜日だから街に連れてってあげる」
ヴァニラの意思を無視して明日の予定を決めるとルイズはベットに潜り、灯りを消す
「おい、私は中で寝ていいのか?」
「いいわよ。またキュルケに襲われたら大変でしょ」
ヴァニラの問いに面倒臭そうに答えると程無くして静かな寝息を立て始めた
灯りの落ちた部屋で小さく溜息を吐き、ヴァニラは毛布に包まって横になる
まだ何か嫌な予感がするが、きっと気のせいだと言い聞かせ、そのまま眠りに落ちた



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