ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

第十一話 『ゼロを包む風』

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匿名ユーザー

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意識が不意に覚醒する。
最初に感じたのは冷たさ。当然だ、雨が降っているのだから。辺りには何もないが目の前を横切るように道が延びている。どこか懐かしい空気の中完全に意識が覚醒した。
そうだった。俺は行く場所があって、ヒッチハイクをしているんだった。
道の向こうからエンジン音が聞こえてきた。車だ。止まってもらわなければ。
向こうもコチラに気付いたのか、徐々に速度を落として目の前を少し過ぎたところで止まった。
「え・・・?」
すれ違い様に、中に乗っている少年と目があった。泣いているらしい少年に、どこか見覚えがあった。
「エンポ・・・リオ?」
少年とは『初対面』のハズだった。そのハズなのになんで俺は彼の名前を知っているんだ?それだけじゃない。運転席に座る男も、助手席の女も、少年の隣に座る女にも見覚えがあった。
酷く懐かしい感じがして、俺は急いで車に向かおうとするのに、動いてくれない。
いや、『俺』は確かに車に向かっていた。ただ、俺だけが魂が抜けたみたいにその後ろ姿を見つめていた。
(ウェザー、神父は僕が倒したよ。君から託された能力と皆から受け継いだ意志で)
心の中に声が響く。初めて聞く声のはずなのに少年の声だと瞬時に理解できた。
「君は・・・なぜ俺の名を?」
しかし少年は答えてはくれない。
(ウェザー、ここは一巡した世界なんだ。徐倫もアナスイもエルメェスもいない。もちろんウェザー、きみもだ。けど・・・これから物語を紡いでいくんだ)
「徐倫・・・アナスイ!エルメェス!そうだ!俺は・・・」
(君がなぜ今ここにいるのかはわからない。けれどウェザー、君も新しい物語を紡ぎ始めたんだね)
『俺』を乗せた車が動き出す。俺は必死に手を伸ばすのにやっぱりその場から動けない。
(ウェザーの思いは確かに僕の・・・いや、みんなの中に届いたんだ。だから、ほんの少し寂しいけれど、ここでお別れだ)



「まてエンポリオ!俺も連れて行ってくれッ!」
しかし車はどんどん遠くなってゆく。
(どうしてだい?ウェザーはまだ彼女の『成長』を見終わっていないだろう?君は彼女に『信じる』と言ったんだ。信頼には責任がある)
「彼女?彼女だと・・・?」
(君は最期の時、もう一度僕らに会いたいと願った。彼女が叶えてくれたのさ。彼女が生き返らせてくれたから、今こうして再び出逢えた。アイリーンたちは徐倫たちじゃあないけれど、同時に徐倫たちなんだ)
生き返してくれた。その言葉にハッとする。俺はまだやらなきゃならないんだ。
(能力は返すよ。僕にはもういらないからね)
車はもう点にしか見えなくなっていた。
その時、空から『声』がした。風に乗ってきたのだろうか?それともただの気のせいか?違う。この声は俺が聞きたいと願った『声』だ!
エンポリオが最後に声をかけてくれた。
(頑張ってウェザー。きっとできると信じているよ・・・)
心の中に響いた声は徐々に小さくなり、完全に消えた。
「ありがとうエンポリオ。ありがとうエルメェス。ありがとうアナスイ。ありがとう徐倫。俺はお前たちに出逢えてからの幸福な日々を忘れない」
そしてウェザーは天から聞こえる『声』に引っ張られるかのように意識を委ねた。

第十一話 『ゼロを包む風』



フーケが肩に異変を感じたのはシルフィードを捕まえた時だった。何だろうと思い、肩に手を当てるとぬるっとした感触があり、思わず鳥肌がたってしまった。
「なんだってんだい一体・・・ヒッ!」
ぬるりとした感触を我慢してつかみ上げてみると、なんとカエルだったのだ。慌てて放り投げるが、ボタリ、と頭に何かが落ちてきた。再び掴むがまたカエル。その瞬間、カエルが本降りになった。
「何でカエルが『降ってくる』のよッ!」
一瞬ゴーレムの力が緩むのをタバサは見逃さなかった。瞬時にゴーレムの腕から抜け出しカエルの雨から逃れる。
「今のって何なの?カエルが空から降ってくるなんて聞いたことないわよ!」
「ウェザーだ・・・」
キュルケの悲鳴に近い叫びにルイズが呟く。
「ウェザーが生きてるんだわ!」
三人がゴーレムの後方を覗き見れば、人影が見えた。泥と血で見る影もないが帽子も見えた。間違いない。
「ウェザーッ!」

ルイズたちの叫びにフーケは我が耳を疑い、振り返って我が眼を疑った。
「あ・・・アンタなんで生きてるんだい・・・確かに潰した手応えはあったはずなのに!」
そこには自分が殺したハズの男が立っていたのだ。しかしよく見れば所々ケガをしているし満身創痍は明らかだった。その男が訥々と話し出す。
「俺が・・・この世界に来て・・・最初に戦ったのが・・・お前だったのは幸運だった・・・なるほど少し『引力』ってやつを信じたくなったな」
シルフィードの上の三人が同時に叫ぶ。


「ギーシュ!?」
「YES I AM!」
何とウェザーの後ろにはギーシュが立っていたの。立てた親指を縦に振って格好をつけるあたり本物だ。
「一瞬意識が飛んだが・・・助かったぜギーシュ・・・だが下がっていな。巻き込まれたくないのならな」
「・・・わかった。気を付けたまえ」
ギーシュは言われた通りに森に隠れる。
フーケが歯軋りしながらウェザーを睨む。切れ長の目は猛禽類の様に吊り上がり視線が突き刺さる。再び立ち塞がった男に殺意の限りを向ける。
「どうやって生き延びたのかは知らないけど、どうやらあなたが死ななきゃわたしは先には進めないみたいね」
ウェザーも帽子の陰から射抜くような眼でフーケを見る。
「それはお互い様だろう『土くれ』のフーケ。いや、ミス・ロングビル」
フーケが驚愕に眼を見張り、まじまじとウェザーを見回して観察する。
「成る程ね、ただ者じゃあなかったわけだ、ミスタ・ウェザー」
二人の視線がぶつかり火花を散らす。一触即発の空気の中、先に動いたのはフーケだった。ゴーレムの拳が唸りを上げて襲いかかる。ウェザーはかろうじてかわすが傷に響き思わず唸ってしまう。
「ぐう・・・」
「へえ、まだ動けるなんてタフね。タフな男は嫌いじゃないわ。でも残念ね、あんな小娘を守ったせいでその有り様なのよ?あなただって好きで使い魔になったわけでもないんでしょう?なぜ見捨てなかったの?」
「・・・俺は死ぬはずだった男だ。全てが終わったら殺してもらうつもりでもいた。しかし仲間に幸福だった日々の礼を言えずに死んだことが心残りだったんだ。そんな時にルイズが俺を召喚してくれた。俺は生き返ったんだ。
 死んでいた俺を生き返らせてくれたもののためには命を懸けれる」


カエルはやんだが雨足は強まった。ウェザーがゴーレムに近づくのを合図にゴーレムの拳がウェザーに迫る。
しかし腕はウェザーに届くことなく地に落ちた。ゴーレムの腕が中ほどから切断されている。
「な・・・なんだい今のは!雨が腕を切るなんて!」
「本日の天気は南西からの強い風を孕んだ嵐です。時々強い『ヤドクガエル』が降るでしょう。所によっては雹、さらに超々局地的な集中豪雨にご注意ください」
フーケは首筋がチリチリと熱くなるのを感じた。空を見上げると何かが落ちてくる。
(何か・・・マズイ!)
咄嗟に『練金』でドームを作り防ぐ。
ガンガンガンと、鍋を叩くような騒音がドーム内のフーケに恐怖を与える。
「って嘘でしょ!」
なんと鉄のドームがべこべこにへこんでいるのだ。一体何が降ってきているのか。見えない恐怖がフーケの精神を削る。
「はえ?」
直後に足場が傾いているのに気付いて思わず間抜けた声を出してしまった。フーケの足場――つまりゴーレムが刃で裂かれたようにキレイに真っ二つになっていた。
驚く暇もなくさらに雨の刃が空から降り注ぎ、ゴーレムをブロックに変えていく
足場をなくしたフーケが三十メイルの高さから落下し、ウェザーが飛び上がり上を取った。
「何をしたァーッ!アンタは一体何なんだァァァッ!」
「その問いにはこの一言で答えてやる。『ウェザー・リポォーット』!!」
ウェザーの風圧のパンチがフーケに迫る。
「キ、キャアァァァッ!」
フーケは自分が馬車に轢かれたカエルのような姿で地面に転がるのを想像して目をキツく閉じた。短いような長いような人生に別れを告げるが、背中に柔らかい感触を感じただけだった。


「・・・あれ?私生きてる・・・」
「エアバッグを作ったからな」
ウェザーがフーケの顔の横に手をついた格好で話す。
「殺らないのかい?アタシは全国で手配されてる大悪党だよ?捕まえたら名前だって売れる」
「俺はルイズの身を守ることができれは別に他はどうでもいい。むしろ俺はお前を逃がす気さえある」
ウェザーの意外な言葉にフーケは目を丸くした。まさか自分と命のやり取りをした相手が見逃すと言うのだ。だからフーケが裏を勘ぐるのは当然と言えた。
「何が目的だい?」
「目的?特にはないがしいていうなら信じてみたくなったからだな。一瞬だがお前はルイズたちへの攻撃を躊躇った。魔法学院でも、さっきもだ。でなければ俺は間に合わなかったかもしれなかったからな。案外いいやつかもしれない」
「そんなのはたまたまかもしれないじゃないか」
「俺はここに来る以前わけあって監獄にいたから色んな犯罪者を見てきた。どいつもこいつも、死んだ目をしてて・・・ド汚く生きるのに必死だった。だが、その中で確固たる『覚悟』を秘めた瞳を俺は見た。
 そして俺は生き返ったんだ。お前も『覚悟』してる眼だった。己の行いを『悪』と理解し苦悩しながら、手を汚す『覚悟』をしている目だ。家族がいるんだろう?」
「嘘かもしれないじゃない・・・」
「それならそれでいい。お前は自分を悪党と言ったが、真の『悪』とは自分が『悪』だと気付いていない者のことを言うんだよ。お前は違う。だから生かしといてもいいかと思ってな」
ウェザーがどこか遠い目をしているのをフーケは見ていた。
「一つ聞きたいんだけど、その『覚悟』を秘めた瞳ってヴァリエールのことかい?」
「さあな」
フーケはそれだけ聞くと全身の力を抜いた。
「おい大丈夫か?」
「あの大きさのゴーレムを操ったんだ。さすがに疲れたよ。もう何もする力は残ってないね」
「脱獄に関しては経験者だが、手助けがいるか?」
「まさか!わたしは腐ったって大怪盗『土くれ』のフーケ様だよ、誰が自分を捕まえた奴の手なんか借るかってーの!見てなさいな、華麗に脱獄したらいの一番にあんたのところに行って一泡吹かせてやるからね!」



フーケは自信満々に言った。策があるにしろただの虚勢だったにしろ、これ以上ウェザーから言うことはなかった。脱走できればそれでいいし、できなければそれまでの事だ。
エアバッグを解く頃にはギーシュも含めた四人が集まってきていた。フーケに抵抗の意志はないが念のため縛ることになり、タバサが御者を務めた帰りの馬車で並走するギーシュに全員がどうやってウェザーを助けたのかを尋ねた。
これにはフーケも興味があるらしく耳をそばだてる。
「そもそも何であなたがここにいるのかが疑問よね」
「ああ、それはだね、今朝起きてみれば学院中が大騒ぎじゃないか。気になって聞いてみたら、あの『土くれ』のフーケが学院に侵入して『破壊の杖』を奪ったと言うじゃないか。
 その討伐にルイズ、キュルケ、タバサが向かったと聞いて馬を借りて急いで飛んできたと言うわけさ。薔薇の棘は乙女を守るためにあるのだからね」
いちいち身振り手振りが大きく、下の馬が歩きにくそうだった。
「で?肝心のウェザーを助けた方法は?」
「僕が君たちの馬車を見つけた時はもうすでにもぬけの殻だったから森の中を探したんだ。開けた場所に出たと思ったら、ゴーレムがウェザーに襲いかかる所だったんだ。
 だから急いでワルキューレをウェザーの前に呼び出して咄嗟に足下を油の沼に変えて沈んでもらったんだ」
もっとも、ワルキューレは盾にもならなかったけどね、と自嘲気味にギーシュが言う。フーケはあの時の砕けるような音はギーシュのワルキューレが砕ける音だったかと納得した。
「だがその一瞬で俺はエアバッグを作ってクッションにできた。ギーシュがいなければマジに死んでいたな。ギーシュ、改めて礼を言う」
頭を下げるウェザーにギーシュが頭をかいて照れる。
「いやあ、君には借りもあることだしね。勝ち逃げは許せないだけさ」
「そうよね~あなたダーリンと戦ってしちゃったものねー、おもら・・・」
キュルケの言葉に有頂天だったギーシュが青ざめて叫びだした。


「わーわーわーッ!な、何で君がその事を!モンモラシーしか知らないはずなのに!」
「あなた以前ダーリンと一緒にナンパしたでしょ?怒ったモンモラシーがあたしに愚痴ってきた時にね」
ギャイギャイ騒ぐ二人を遠くに感じながらルイズは落ち込んでいた。
(ギーシュはウェザーの命を救った。以前はヘタレでそんな機転が利くようなやつじゃなかったのに、強くなってるんだわ。
 なのにわたしは相変わらず魔法の使えないゼロのルイズのまま・・・ウェザーの足まで引っ張っちゃったわ)
沈んでいるルイズをウェザーは見ていた。声をかけることは簡単だ。励ますことなど容易だ。しかし今のルイズにかけるべき言葉はどれでもない気がした。
ウェザーは思考が鈍くなるのを感じ、キュルケに介抱を任せて馬車に揺られるまま眠りについた。

学院長室で帰ってきた五人はオスマンに事の顛末を話した。
「酒場でバイトしていた彼女の尻を撫でたらその形がわしの手にあまりにしっくりきたので、秘書にならんかと言ったら二つ返事だったから・・・」
「で?何が言いたいんですか」
「彼女は美尻だと・・・」
「オワチャアッ!」
今朝の仕返しとばかりにコルベールはオスマンに延髄切りを叩き込んだ。
「あいたたた・・・老人は敬えバカもんが・・・ま、とにかくよくぞフーケを捕まえ『破壊の杖』を取り返してくれた。これにて一件落着じゃ」
キュルケたちがため息を漏らす横でルイズは俯いたままだった。
「それと『シュヴァリエ』の爵位申請を宮廷に出しておいた。ミス・タバサはすでに持っとるから、精霊勲章になるかのぉ」
その言葉にキュルケたちは顔を輝かせた。と、ここでようやくルイズが口を開いた。
「今回の件はウェザーがいなければどうしようもありませんでした。なのに彼には何もないのですか?」
「・・・残念ながら彼は貴族ではない」
「俺は別にそんなものいらん」

「そうか・・・今日は『フリッグの舞踏会』じゃ。丸く収まったし、予定通り執り行う。主役は君たちじゃ。せいぜい着飾ってきなさい」
四人が礼をして退出するが、ウェザーはオスマンを見たままだ。
「ウェザー?」
「先に行っていろ」
ルイズは心配そうに見ていたがやがて部屋を出ていった。
「この老いぼれに何か用かの?」
「あの『破壊の杖』、俺の元いた世界の兵器だ」
オスマンの眉毛が上がる。
「ふむ。元いた世界とは?」
「俺はこの世界の人間じゃあないんだよ」
「本当かね?今時赤ん坊でもそんなもの信じんぞい。おぬしゴーレムに頭ブッ叩かれて・・・」
「信じなくても別に構わないが、蹴り殺すぞ」
「わかった信じよう」
あっさり信じたオスマンはあの『破壊の杖』を手に入れた経緯を話した。ワイバーンに襲われたが『破壊の杖』の持ち主に助けられ、持ち主は死んだことを。
「三十年も昔のことじゃ。以来わしはあれを恩人の形見として宝物庫にしまいこんだんじゃ」
「それとこの左手だ。武器を持つとその情報が流れてくる。しかも体が軽くなった」
「こいつはの・・・伝説の使い魔であるガンダールヴの印じゃ。伝説ではあらゆる武器を使いこなしたと聞いとる」
「なぜ俺なんだ?」
「それもわからんが、もしかしたらおぬしがこっちの世界にやってきたことと何か関係があるかもしれん。今は力になれんがわしはおぬしの味方じゃよ」
「わからないだらけだな・・・」
ウェザーは踵を返して部屋をあとにした。

食堂の上のホールで舞踏会が行われている。ウェザーはバルコニーの手すりにもたれて空を見上げていた。嵐は去ったが空は未だに曇ったままだった。ちなみに服は汚れたので厨房のやつらに借りたが、帽子だけは洗って即行で乾燥させた。
手すりの上にはキュルケが選んだワイン、シエスタが持ってきたくれた肉料理、タバサに渡された野菜が置いてあった。
ちなみにキュルケは群がる男共と器用に話している。タバサは変なオーラを纏って料理の山を壊滅させていた。あまりのフォーク捌きに料理が宙を舞うように見えるのだ。近づいた時にコーホーと言っていた気もした。
シエスタはそのタバサ相手に料理の補充で奮闘しているが分が悪そうだった。ギーシュはモンモラシーと早々にどこかにしけこんだ。
しかし何だかんだで全員楽しんでいるらしかった。
「ヴァリエール公爵が息女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブランド・ラ・ヴァリエール嬢のおな~~り~~!」
ルイズは普段からは想像もつかないような美しさを放ってやってきた。普段ノーマークな女の子の美貌に気付いた男共がダンスの申し込みをしているらしい。
主役が揃ったところで楽士たちが音楽を奏で始めた。さすがに疲れたウェザーは今日ばかりはナンパをする気にもなれなかった。
肉料理を食べてワインで流し込む。
「随分と寂しいパーティーね」
いつのまにかルイズが目の前に立っていた。室内の光を受けた装飾品が逆光で暗いルイズの輪郭をキラキラと輝かせる。
「クラブならまだしも、貴族様のパーティーは堅苦しくていけない。お前こそ踊ればいいだろう」
「相手がいないのよ・・・ごめんなさい」
ルイズが急にしゅんとしだした。
「わたしが足を引っ張って死にかけたんでしょ?あなたはわたしを信じてくれてるかもしれないけど、やっぱりわたしは『ゼロ』なのよ・・・」
ルイズは今にも泣き出しそうに震えた声で何とかそれだけ言った。
「俺はお前がなんと言おうともお前を信じる」
「何で?何の根拠もないのになんでそんなことが言えるの?わたしのせいでまた命が危険になるかもしれないのよ!」
「お前が恩人だからだ」
「え?」
ルイズがわかりかねている顔で聞き返してくる。

「俺は世界に絶望したことがある。復讐のためだけに生きた。しかし俺は仲間に救われたんだ、心をな。俺は俺を生き返らせてくれたもののためには命を懸けれる。ルイズ、お前は俺の命が救えたんだから『ゼロ』なわけがない」
「わたしがあなたを?」
ルイズは信じられないという表情でウェザーを見上げる。
「そうだ。だから俺はお前が立ち止まるなら後押しする『追い風』になろう。お前の障害は『嵐』となって打ち払おう。疲れたときは『そよ風』を送ろう」
ウェザーが真っ直ぐにルイズの目を見る。ルイズは何だか恥ずかしくなって顔を俯けた。
ウェザーはそんなルイズを見ながら、タバサに渡された野菜を口に運んだ。ウェザーは知らなかった。星屑のように輝く精神を持つ男も、鉄のごとき固い意志と冷静さを持つ男も、数多の戦士がその野菜の前に膝を折ったということを。
そして当然耐性のないウェザーはいきなりそれを吐き出したのだ。
「ちょっとウェザー!どうしたの?」
「うぇあ!ペッペッ、にっがッ!有り得ねえぞこの苦さ!」
ルイズがその野菜を手にとって見ると、なるほど、煉獄のごとき苦さで有名な『はしばみ草』だった。スゴい苦そうな顔をしているウェザーを見ていたらなぜだかさっきまでのモヤモヤが吹き飛んでしまった。
「ぷっ・・・あははははは!変な顔ー!」
「お前なぁ・・・笑うんじゃねー!」
「だって変な顔なんだもの!あっはははははは」
「・・・く、ガハハッ!」

「あははははは」
「ガハハハハハ」
二人は笑いながらいつの間にか手を取って踊り出していた。品の欠片もなかったが、咎めるものは誰もいない。
「あはは。ねえウェザー、元の世界に帰りたい?」
「いや、今は正直そうでもないな。今日仲間たちに会えたんだがな、お前はお前の物語を紡げと言われてここに戻された。アリガトウが言えたから俺は満足だよ。しばらくはお前といてもいいな」
それを聞いたルイズは顔をこれでもかというくらいに赤らめた。
「あ、当たり前でしょ!アンタはわたしの使い魔なんだからね!」
二人は音楽に合わせてステップを刻む。

いつもは無口で爪先歩きがくせなのにナンパななやつで、でも真顔で恥ずかしいことを言ってきたりしたと思ったら苦い顔して笑いだす。
何だか山の天気みたいなやつだけど、一緒にいるぶんには飽きなさそうだな、とルイズは思った。

嵐は去り、いつの間にか雲さえなくなり月だけが二人を見守る空に二人の笑い声が響いていた。

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