ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

虚無! 伝説の復活 その①

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虚無! 伝説の復活 その①

声がする。
「――! ――!!」
誰の声だろう。
「――様!」
誰に呼びかけているのかな。
「ギーシュ様! 目を覚ましてください!」
誰――。

ギーシュはゆっくりと瞼を開けた。疲労しきっているらしく、視界がぼやける。
「あっ……よかった、ご無事で……」
ぼやけた視界の中、誰かが泣いている。その涙が、ギーシュの唇に落ちた。
右手でそっと自分の唇を撫でて、ああ、あの水は夢でも幻でもなかったのかと理解する。
続いて自分の顔の上で泣いている彼女の涙を指で拭ってやる。
「やあ……シエスタ。草原を燃やしてしまってすまない……村は無事かい?」
「ええ! 無事です、みんな生きてます。ギーシュ様のおかげです!」
「そうか……」
どうやら自分はシエスタに半身を抱き起こされているらしい。
首を横に向けてみると、自分達の周囲を火が包んでいた。
「シエスタ、逃げるんだ。このままでは君まで焼け死んでしまう」
しかしシエスタは首を横に振り、ギーシュの両脇に後ろから腕を入れ、引きずり始める。
意外と大きいシエスタの胸がギーシュの後頭部に触れるが、それどころではなかった。
「駄目だ、女の子一人の力じゃ……僕の事はいいから、早く逃げ……」
「ジョータローさんのお友達を! タルブの村を守ってくれた恩人を!
 平民の私とお友達になってくれたギーシュ様を、見捨てるなんてできません!」
頑としてギーシュを放そうとしないシエスタ。
火はますます強まり、煙が二人を包み始める。
「ゴホッ、ゴホッ……」
「し、シエスタ……もう、いいから……!」
「い、嫌です。死んじゃったら、もう会えないんですよ!」

煙が目に沁みて涙が出てくる。とても目を開けていられず、シエスタは転びかけた。
「キャッ!」
だが、そんな彼女を後ろから誰かが支える。
「大丈夫か、シエスタ!」
「えっ、お、お父さん!?」
煙で痛む目で何度もまばたきしながら、シエスタは振り返って父の姿を見た。
そして、父だけじゃない、タルブの村のみんなが向かってきている。
「あそこだ! シエスタと貴族様はあそこにいるぞ、早く助けるんだー!」
「火を消せ! 水をかけろ! 土をかけろ!」
「貴族様が怪我をしちまってる! 手当てだ、薬草と包帯の用意をさせろ!」
「火の周りの草を刈っちまえ! そうすりゃ火は広がらねえ! 農具をもってこい!」
何人もの無力な平民の村人が、力を合わせてギーシュを助けようとしている。
兵隊が逃げ出すような恐ろしいゴーレムを相手に、
たった一人で立ち向かった少年のメイジの姿に彼等は心を打たれていた。
だから、シエスタがギーシュを助けるために森から飛び出した後、
敵兵や草原の火事に恐怖しながらも、シエスタの父が村人に奮いをかけたのだ。
後はもう雪崩のように村の大人達がギーシュとシエスタの救助に向かった。
「貴族様、大丈夫ですか!?」
ギーシュはシエスタの父に背負われ、シエスタも父に寄り添って避難しているのを見ると、
ようやく安堵を感じて微笑む事ができた。
「……ありがとう」
「こちらこそ、村を守ってくれた貴族様にお礼を言いたいくらいでさ」
「僕が君達の恩人であるならば……君達も僕の恩人だ」
「き、貴族様にそこまで言っていただけるたあ……何だか無性に照れちまいます」

ギーシュと父の会話を聞いて、シエスタはとても嬉しくなった。
ついこの間まで、貴族と平民には決して越えられない壁があると信じていた。
けれどそれを承太郎が打ち破って、貴族の典型だったギーシュも態度を変えて。
同じ人間なのだから、解り合える、助け合える。
それはとても画期的な発想で、それはとても素敵なものに思えた。
そして――シエスタは空を見上げた。
日食が進む中、竜の羽衣と二匹の風竜が飛び回っている。
さらにレキシントン号が竜の羽衣目掛けて砲撃しているようだ。
「ジョータローさん……ギーシュ様はご無事です。だから、だから貴方も……!」

すでに錨を上げたレキシントン号は、後甲板を爆発させられた事に激怒し、
必要以上に謎の竜――ゼロ戦を狙い撃っていた。
いかに承太郎でも、ゼロ戦の中ではスタープラチナの能力を生かせない。
せいぜいガンダールヴの能力で得た情報を元にゼロ戦を精密操作する程度だ。
砲弾や魔法は回避できる。だが反撃はできない。逃げ回るだけだ。
シルフィードの上からタバサとキュルケが風と火の魔法で援護するが、
レキシントン号の相手はさすがに無理だし、
ワルドの操る風竜に当てるのも至難の業だった。
そして刻一刻と日食は進んでいる。このままではジリ貧だ。
「ジョータロー! 破壊の杖を持ってきてるんでしょ?
 それを使って何とかできないの!?」
「もう使っちまった。こいつも銃の一種、弾が切れちまったら役に立たねー」
「じゃあどうす――」
「しっかり掴まってろ!」
ワルドの放ったエア・スピアーが機体をかすめ、ガクンと揺れる。
膝の上にルイズが座っているため、下手に旋回などをするとルイズが危ない。
そのため先程から承太郎は戦場でありながら安全運転をしいられていた。

「大丈夫か?」
「痛たたた……だ、大丈夫」
機体が揺れたショックで、ルイズは頭を風防にぶつけたらしかった。
涙目になりながら頭をさすっていると、承太郎の足元に始祖の祈祷書が落ちていると気づく。
さっきの衝撃で落としてしまったらしいが、この竜の羽衣を動かすには、
何か足も使って変なの踏んだりしないといけないっぽいし、
邪魔になってはいけない――と、ルイズは祈祷書を拾った。
白紙のはずの祈祷書に文字が浮かんでいた。
「……はえ?」
「ん? ハエがいるのか?」
ルイズの呟きを聞き、コックピット内を見回す承太郎。無論ハエなど一匹もいない。
「ちょ、ちょっとしばらく竜の羽衣を揺らさないで!」
慌ててルイズは祈祷書を確認する。間違いなく文字、古代のルーン文字だ。
勉強家のルイズはそれを読む事ができた。

   序文。
   これより我が知りし真理をこの書に記す。
   この世のすべての物質は、小さな粒より為る。
   四の系統はその小さな粒に干渉し、影響を与え、かつ変化せしめる呪文なり。
   その四つの系統は、『火』『水』『風』『土』と為す。

「じょ、ジョータロー。その、祈祷書に何か書いてある」
「……何の事だ? 文字なんて見当たらねーが……」
「で、でも、確かに……」
ルイズは困惑した。だって何回見ても白紙だったのに、何でいきなり古代ルーン文字?
しかも承太郎には見えない? どうして自分には見える?
ルイズは恐る恐るページをめくったて文章を読み上げた。

   神は我にさらなる力を与えられた。
   四の系統が影響を与えし小さな粒は、さらに小さな粒よりなる。

「って書いてあるんだけど……何の事かしら?」
それを聞いて承太郎は眉をひそめる。
「小さな粒? まさか原子や粒子の類か?」
「ゲンシ? リュウシ?」
「科学の話だ。だがそんな物が魔法の本に出てくるという事は……。
 ルイズ、お前に文字が見えるんなら、それを全部読んでみろ。
 口には出さなくていい、舌を噛まれると困るからな」
「う、うん」
何だかよく解らないが、とにかく読んでみよう。ルイズは始祖の祈祷書に視線を下ろした。

   神が我に与えしその系統は、四のいずれにも属せず。
   我が系統はさらなる小さき粒に干渉し、影響を与え、かつ変化せしめる呪文なり。
   四にあらざれば零(ゼロ)。零すなわちこれ『虚無』。
   我は神が我に与えし零を『虚無の系統』と名づけん。

「虚無の……ええっ!? きょ、虚無の系統って書いてある!」
「そいつはたまげた。しかしガンダールヴも伝説の虚無の使い魔らしいからな。
 ほれ、とっとと続きを読みな。お前がそれを読みきるまで、ゼロ戦は沈ませねー」

   これを読みし者は、我の行いと理想と目標を受け継ぐものなり。
   またそのための力を担いしものなり。『虚無』を扱うものは心せよ。
   志半ばで倒れし我とその同胞のため、
   異教に奪われし『聖地』を取り戻すべく努力せよ。
   『虚無』は強力なり。また、その詠唱は永きに渡り、多大な精神力を消耗する。
   詠唱者は注意せよ。時として『虚無』はその強力により命を削る。

   従って我はこの書の読み手を選ぶ。
   例え資格無き者が指輪を嵌めても、この書は開かれぬ。
   選ばれし読み手は『四の系統』の指輪を嵌めよ。
   されば、この書は開かれん。

   ブリミル・ル・ルミル・ユル・ヴィリ・ヴェー・ヴァルトリ

   以下に、我が扱いし『虚無』の呪文を記す。
   初歩の初歩の初歩。『エクスプロージョン(爆発)』

その後に続くルーン文字を見ながら、ルイズは全力で呆れた。
自分の右手の薬指に嵌められた水のルビーを見て、呟く。
「つまり――この指輪が無きゃ、宝の持ち腐れって事ね。
 注意書きすら条件満たさないと読めないなんて、頭悪いんじゃないの?」
そして呆れがスッと引き、次に疑問と興奮が湧いてくる。
これってつまり、自分がその『虚無の担い手』って事なのだろうか?
昨晩承太郎とした話を思い出す。

伝説の虚無のメイジの自分と、伝説の虚無の使い魔のジョータロー。
とても素敵な夢に思えた。
でもそれは今、夢どころか、どうやら現実らしい。この始祖の祈祷書を信じるなら。
「……ジョータロー。祈祷書、読んだけど、どう説明したらいいか……」
「要点だけ掻い摘んで説明してみな」
「あー、その、祈祷書によれば、これを読めるのは、虚無の担い手だけなんだって。
 つまり私は虚無の担い手で、その、初歩の初歩の初歩の虚無の魔法の詠唱が書いてある」
「ならさっそく詠唱を頼むぜ。注文があったら先に言いな」
「で、でも、私、一度も魔法成功してない……」
「サモン・サーヴァントは成功しただろう?
 せっかくだから虚無の魔法とやらも成功させちまいな。伝説の存在になれるぜ」
ルイズは思考を走らせ、何となく身体のうちから湧いてくる『確信』を掴み取る。

「……何とか、できると思う。ジョータロー! あの一番大きな戦艦に近づけて!
 詠唱はすごく時間がかかるみたい。いつ発動できるか解らないから、よろしく!」
「アイアイサー。ちぃーとばかし無茶な注文だが、何とかしてみるか」
承太郎は機首をレキシントン号に向けた。
スタープラチナの目が、こちらに向けられる多数の砲門を確認する。
ルイズの詠唱の邪魔をしないよう無茶な回避はせず、
あの大量の砲門から発射される弾をすべて回避しながら、
追ってくるだろうワルドの魔法も回避しなくてはならない。
無茶な注文だ。だが、今の承太郎は不思議と無茶だと思っていなかった。
左手に刻まれたガンダールヴのルーンが光り輝く。

竜の羽衣がレキシントン号に向かうのを見て、ワルドは首を傾げた。
まさかレキシントン号に特攻でもかけるつもりだろうか?
いや、あのガンダールヴなら一人で戦艦を制圧しかねない。
「させるものか」
ワルドは風竜をレキシントン号へ向けた。

竜の羽衣がレキシントン号に向かうのを見て、キュルケはヒステリックに叫んだ。
「ちょ、何考えてんのよ! 自殺する気!? タバサ、どうしよう!?」
「……あの機動力なら何とかなるかも。でも私達は無理、撃ち落とされる」
「だからって……黙って見ているなんてできないわ!」
「もちろん。だから、しっかり掴まってて」
「え?」
無理、撃ち落とされる。そう言ったタバサは、シルフィードをレキシントン号へと向けた。

竜の羽衣と二匹の風竜が近づいてきて、レキシントン号の乗組員達は困惑した。
だが何を企んでいようと、撃ち落とせば問題ない。すべての砲門が竜の羽衣を狙う。


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