ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

第十話 『吹き荒ぶ風と立ち塞がる土くれ』

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第十話 『吹き荒ぶ風と立ち塞がる土くれ』

町に出かけた日の夕方、ルイズの部屋のコート掛けには学帽とヘルメットが増えていた。ふわふわした帽子みたいな何かは常に浮いているのでコート掛けには引っ掛からないのだ。
日は沈み始めているが、風はかなり強く外の木が怪しげに揺れている。
ウェザーはソファーに座りながら『お天気おじさん』を読み進めていた。意味を調べながらなので遅いがすでに四分の三は読んだ。
ルイズはルイズでベッドに寝転がりながら教科書を読む。
ウェザーはたまに意味がわからないところをルイズに聞き、ルイズはウェザーに雑談を持ちかける。
最近では食事前の日課になりつつあることである。当然、この後のことも。
カチャリ、と鍵が開いた音を耳が拾った瞬間、扉が勢いよく開かれ、キュルケが飛び込んで来た。
「あ~んダーリン会いたかったわ!あら、本なんか読んでるの?どうせ読むならあたしの体を開いてよ・ん・で」
入って早々ウェザーにくっつき色香をふりまくキュルケにルイズが噛みつく。
「勝手に人様の部屋に入るなんて、貴族の品格を疑うわねキュルケ」
「『恋は全てに優先する』。ツェルプストー家の家訓よ。知らないとは言わせないわルイズ」
「ここはゲルマニアでもあなたの家でもないわ、わたしの部屋よ!」
いつものことなのだ。この後、キュルケにキレたルイズはなぜかウェザーの飯を抜く。八つ当たりにしてもキュルケに当たれば良いものを、なぜかいつも矛先はウェザーに向く。
最近ようやく飯のレベルが良くなってきたのに、再びシエスタのお世話になっている。
が、ウェザーも貰うばかりでは気が引けるからと、皿洗いを手伝ったり、シエスタに明日の天気を教えたりしている。最初のうちは不思議がって根掘り葉掘り尋ねてきたが、口を濁していると言えないのだと悟ってくれたらしく、何も言わずにいてくれている。

今日もこの調子だと夕飯は厨房だなとか、夕飯は何だろうとか考えていると、開いたままの扉の向こうにタバサを見つけた。
助けを乞うように視線を送ると、窓を指差してポツリと一言。
「逃げた」
それが聞こえたのかルイズとキュルケも揃って窓を見る。開いた窓の向こう、暗雲たる空に帽子らしき影が飛んでいるのが見受けられた。
「あああーッ!あの帽子みたいな何か!」
「あらあら、ルイズは帽子の扱いすらできないのね。悔しかったら捕まえてきなさいな」
ルイズは歯軋りして扉から外に向かった。『フライ』が使えれば窓からすぐに追いつけるが、ルイズは魔法が使えない。
「ちょっとからかい過ぎたかしら?」
ルイズを見送りながらキュルケはそんなことを言ったが、ちっともすまなそうな感じはない。
帰ってきたルイズをまたぞろイジリ倒す気なんだろう。
ウェザーがキュルケをどけて読者を再開しようとしたその時、空気を叩き割るかの様な轟音が響いた。
「なになにッ!?」
慌てて三人が窓から外を見ると、巨人が学校の塔を破壊しようとしているところだった。
「何あれ・・・ゴーレムよね?三十メイルはあるわよ!」
「土のゴーレム」
タバサの言葉に今日のロングビルとの会話が甦る。
「『土くれ』のフーケか!」
土くれのゴーレムが再び剛腕を叩き込まんと腕を振りかぶった時、ゴーレムが爆発した。
しかしゴーレムはダメージを受けた様子もない。
三人は戦慄した。ゴーレムの頑丈さにではない。一つの可能性に戦慄したのだ。
「・・・今のってルイズの爆発よね・・・」
「この学校において魔法で爆発が起こせるのは彼女くらい」
「ようするにルイズがヤバいってことか・・・」
タバサが口笛を吹く。三人が窓から飛び降りる。飛んできたシルフィードが三人を背でキャッチする。一連の動作がまるで一ヶ月も訓練されたかのように揃う。
「シルフィード急いでッ!」
キュルケの叫びが響いた。

「あーもう待ちなさいよー!」
寮を飛び出したルイズは走っていた。頭上では帽子みたいな何かが呑気に風に巻かれている。
「むきー!何あいつ!バカにしてんのッ!」
ひらひらと飛んでいく帽子はある建物の陰に入ってしまった。ルイズも慌てて建物の陰に入る。
「見つけた!」
ルイズの視界にひらひらしたものと――黒いローブが入った。
誰だろ何をしているのだろう。瞬時にいくつも疑問がわいてきたがそれらを口に出すよりも早く黒いローブが呪文を完成させる。
ルイズの足下の土が盛り上がり、ルイズは後ろに転倒してしまった。
「いたたた・・・いったい・・・」
頭をさすりながら前を見ると土の塔が立っていた。
「いえ、違うわ。これは・・・ゴーレム!」
見上げればはるか上、ゴーレムの肩の所にローブの人間がいた。その人間がゴーレムに指示を出す。
「まずは挨拶がわりだ。砕けゴーレムッ!」
ゴーレムの太い腕が唸りを上げて塔の外壁を叩く。まるで大砲だ。
地面が割れたんじゃないかというような轟音が響いた。
「チィッ、やはり『土』じゃあ威力が足りないみたいね・・・」
なんと壁には傷一つなかった。かなり強力な『固定化』がかけられているのだ。
「こんな強力なものをかけるなんて・・・ここって宝物庫なんだわ!」
そして同時にローブの正体に気付いた。
(今巷を騒がせている怪盗、『土くれ』のフーケだわ!)
ルイズは三十メイルのゴーレムを作り出すフーケのメイジとしての格の差に逃げ出したくなった。
(私じゃ・・・ゼロのルイズじゃ敵うわけないわ・・・そうよ、誰か他の人が来てくれるわ!)

駆け出そうと足を動かそうとした時、あの日のウェザーを思い出した。
『俺はお前を信じる』
そうだった。あの男はそう言ったのだ。ゼロのルイズを信じると。何の根拠もない、出逢ったばかりの不思議な男の言った言葉だった。だが、あの時わたしは嬉しかった。腐っていたわたしの心に光が差したのだ。
「ッ!わたしはッ!逃げないッ!」
下げた足で力強く大地を踏み締める。
フーケのゴーレムが再び腕を振り上げる。次の打撃で壁が崩れるかもしれない。
「させないわッ!」
ルイズは素早く杖をゴーレムに向けて呪文を唱える。あれからさらに勉強に励んだが未だにコモン・マジックさえ使えない。
しかし今はそれがイイッ!
ゴーレムの腕が爆発する。
「なにッ!?」
いきなりの奇襲にフーケは一瞬たじろぐが一瞬で切り替えた。すぐにゴーレムの様子を確認する。だがあの程度の爆発では腕が欠ける程度だ。
フーケは辺りを見渡し爆発の犯人を探し、足下に見つけた。
「なんだい、生徒かい・・・しかもあれはゼロのルイズじゃないかい。ふーん」
正直、ここでルイズを始末するのは簡単だ。しかしフーケの心の深奥の方から「放っておけ」と声がかかった。
「・・・まあ、ゼロのルイズじゃあ障害とは呼べないしねえ。貴族は貴族らしくお家でおとなしくしてればいいのに・・・」
フーケは意識をルイズから壁に戻した。
ルイズはフーケの態度から自分が舐められていると理解した。すぐさま二発目を発動するが、今度はそれて壁が爆発してしまった。
ゴーレムの目線から見ていたフーケはルイズの爆発で壁にヒビが入ったことを確認した。
『ファイヤーボール』を唱えていたのに壁が爆発し、しかもゴーレムでもビクともしなかった壁にヒビを入れる呪文。
疑問は残ったがチャンスと見たフーケは『練金』で文字通り鉄拳と化したゴーレムの拳をヒビ目掛けて叩き込む。
「ああッ!宝物庫の壁がッ!」
ヒビの入った壁は鉄拳には耐えきれずに崩れてしまった。
「そうそう、ミス・ヴァリエール、今日の天気は・・・瓦礫の雨よッ!」
ルイズの頭上に瓦礫とかした壁が雨あられと降りしきる。
「キャアアァァァッ!」
ルイズは思わず両手で顔をかばう。そんなもの意味がないとわかっていても人としての防衛本能がそうさせる。
眼を閉じたルイズの体に衝撃が走った。

時間をほんの少し遡る。
「シルフィード急いでッ!」
キュルケが焦った声で頼む。
「風向きが悪い。これでは間に合わない」
タバサも焦っていたがこればかりはしょうがない。キュルケの顔が青ざめる。
「そんな・・・」
しかしウェザーは悲観にくれる二人を押さえつけるように背を掴む。
「ウェザー?」
「風向きが変われば・・・問題無いんだな?」
キュルケとタバサが何のことだと問おうとした瞬間、後方から物凄い風が吹いてきた。ウェザーが押さえてくれてなかったらおそらく飛ばされていた程だ。
「この風ってウェザーが?」
しかしウェザーはその問いには答えなかった。
「頼むぞ、シルフィード!」
風を掴んだシルフィードが弾丸のごとくルイズに一直線に飛んでいく。
フーケがルイズではなく壁に拳を叩き込む。瓦礫がルイズに降り注ぐ。ルイズが手で体をかばう。
シルフィードが瓦礫より先にルイズを捕まえてゴーレムの股下を潜り抜ける。
「ギリギリだったがシルフィード、何とか間に合ったな」
「きゅいきゅい!」
口にルイズをくわえたまま器用に鳴くシルフィード。その動きでルイズが状況を把握したらしい。
「ちょっとなんで私が竜に食われてるのよーッ!」
「それだけ喋れればケガはないな」
シルフィードが旋回しゴーレムに向く。いつの間にかフーケの腕には黒い筒が握られていた。
「風竜とはね、ちょいと面白そうな相手だけど・・・用は済んだから今日は引いてあげる」
ゴーレムが学校の塀を踏み潰して外に出ていく。
「逃がさないわよ!」
「やめておけ。あのゴーレム相手じゃ無闇に追っても返り討ちだ」
いきり立つキュルケをウェザーがなだめる。騒ぎを聞き付けたのかようやく教師たちが集まってきた。ゴーレムは目を離したスキに土に戻ったらしく跡形もなかった。
「ルイズも一度落ち着けた方がいいだろう」
タバサがシルフィードに着陸の指示を出した。

翌朝、嵐がやってきたというのにトリステイン魔法学校は祭りのように騒がしかった。
秘宝『破壊の杖』が『土くれ』のフーケに盗まれた。学校と言う空間はとかくスキャンダルに飢えていて、どんなに隠そうとも何処からか嗅ぎ付けてくるのだ。
そしてフーケの手口は隠すには余りに大胆過ぎた。
宝物庫の前に集まった教師たちは互いに責任をなすりつけあっている。
ルイズたち四人は蚊帳の外でそれを見ていた。そこへオスマンがやってくる。
「オールド・オスマン!ミセス・シュヴルーズが当直をサボったそうですよ!」
「君は怒りっぽくていかんな、ミスタ・ジャギ。弟の方が出来がいいからといって辛く当たってはいかんぞ」
「私はギトーです!それに兄よりできの良い弟なんていませんよ。メルヘンやファンタジーじゃないんですから」
その後オスマンが教師たちに二、三訪ねるとみな急にしぼんでしまった。そこへロングビルが駆けつけオスマンに耳打ちをする。
「ほう、さすがはわしの秘書。仕事が早いの」
尻を撫でながらそう言うオスマンに冷たい視線が刺さる。
オスマンは咳払いをして教師たちに向き直るとこう続けた。
「皆の衆、ミス・ロングビルがフーケの居所を掴んだそうじゃ!そこで捜索隊を編成する。我はと思う者は杖を掲げよ!」
誰も杖を上げない。
「おらんのか?なんと情けない!貴族として名をあげる機会だと言うのに!」
しかし誰も杖を上げない。否、一人上げた。
「ミス・ヴァリエール!あなたは生徒じゃないですか!」
「誰も掲げないじゃないですか」
決意を秘めたルイズの眼を見たキュルケも杖を掲げた。せれを見たタバサも掲げる。ウェザーはそんな三人を黙って見ていた。
しかし当然のように教師から反対意見が飛ぶ。それをオスマンがピシャリとはね除ける。
「彼女たちは敵を見ておる。その上、ミス・タバサは若くしてシュヴァリエの称号を持つ騎士だと聞いているが?」
意味のわからないウェザー以外の全員がタバサを凝視する。タバサは不動だ。

「ミス・ツェルプストーは家柄もさることながら、自身も炎の『トライアングル』クラスの実力者じゃと聞くが?」
キュルケが得意気に髪をかきあげる。
「そしてミス・ヴァリエール、彼女は・・・あ~・・・将来有望なメイジであり、その使い魔はあのギーシュ・ド・グラモンとの決闘を制したと噂じゃ」
「そうですぞ!何せ彼は『ガンダ」
「ほあたぁッ!」
オスマンの地獄突きがコルベールの喉を貫いた。
「く・・・は・・・」
「なんでもないそうじゃ」
しれっとした態度で話を進めるオスマンだった。
「この三人に勝てるという者は前に出よッ!」
誰もいなかった。オスマンは四人に向き直る。
「魔法学院は、諸君らの努力と貴族の義務に期待する」
「杖にかけて!」
ルイズたちが礼をするがウェザーはこちらの作法を知らないので軽く会釈しただけに済ませた。
「ミス・ロングビルら馬車を用意させるので案内をしてやってくれ」
「もとよりそのつもりですわ」
四人は馬車に向かった。

馬車の中でルイズはウェザーに気になっていたことを尋ねた。
「ウェザー・・・あなたさっき何も言わなかったけど、ついてきてよかったの?」
ルイズはあの時ウェザーはきっと「やめておけ」くらいは言うと思っていたが、結果はこうだ。そこが引っ掛かっている。魚の小骨のように。
「・・・俺はお前を『信じている』。それだけだ」
ウェザーは本当にそれだけ言うと眼を閉じた。

わかっていた。ウェザーの答えなど聞くまでもなかったのだ。ウェザーの言葉を支えに頑張った。努力を一層惜しまなかった。汚れなんて気にしない夜更かししたって授業では居眠りなんかしなかった。
けれど現実は『土くれ』のフーケに相手にもされなかった。相手は手練れだとは思うが、それでも一矢報いることさえ出来なかった。努力は実をつけず、挙げ句ウェザーたちに救われた。
劣等感が膨らんだ今のルイズにとって、いつもなら嬉しいハズのウェザーの言葉も、根拠のない空虚な言葉にしかならなかった。
押し黙るルイズを尻目に暇を持て余すキュルケが御者をしているロングビルに話しかけている。タバサは無言で本を読む。そんな感じで馬車は進む。かなり後方に一つの影が迫っていることに気付かずに・・・
馬車が深い森に入るとここからは徒歩で向かうらしい。ウェザー以外の四人は雨対策にローブを羽織っているが横殴りの雨と風で大した効果はないようだ。地面もぐずぐずになっており巨大な水溜まりがいくつもできている。
しばらく進めば開けた場所に出た。その真ん中に廃屋があるのが確認できた。
五人は茂みに身を隠しながら廃屋を見つめる。
「情報ではあそこがフーケの廃屋ですね」
タバサが奇襲がいいと提案した。囮がフーケを外におびき出した所を滅多撃ちにする、と言うものらしい。
「幸いこの嵐で足音は消されるわね」
「じゃあ誰が囮やるのよ?」
「俺がいこう」
全員がウェザーを見る。
「・・・雨の日は調子がいいんだ」
「まあダーリンがそう言うならいいけど・・・」
水溜まりに注意したがら小屋に近づく。
もちろん雨の日は調子がいいなんていうのは嘘だ。しかしズボンに仕込んだナイフに手をかけると不思議と体が軽くなったように感じた。

「『ウェザー・リポート』」
壁に張り付き隙間に風を入れて中の様子を調べる。
奇妙だった。『空気の動き』に乱れはない。物体の動きはおろか呼吸も感じられない。つまり生物はこの小屋にはいないということになる。
しばし考えたがウェザーは全員を呼び寄せた。
ワナを警戒したタバサが杖を振るうが扉に異常はない。ルイズが外を見張りロングビルが辺りを偵察すると言って、森の中に消えた。
残りの三人がフーケの手がかりを探すため家捜しを始めると、程なくしてウェザーがチェストの中から黒い筒を引っ張り出した。左手が触れた時、左手の文字が光りこの筒の情報が頭に流れてきた。そしてその『正体』に驚愕する。
「バカな・・・これは・・・」
「『破壊の杖』」
「あら本当ね。あっけな~い」
タバサとキュルケ曰く『破壊の杖』らしいがこれは紛れもなく――
その時ルイズの悲鳴が聞こえた。
「きゃぁああああああ!」
「外だッ!」
三人が扉から外へ出ると同時に小屋の屋根が吹き飛んだ。重い雲を背景に、フーケのゴーレムがたっていた。肩にはフーケが。
「ゴーレムッ!」
タバサが呪文を唱えて杖を振るうと巨大な竜巻がゴーレムに襲いかかる。続けてキュルケが『ファイヤーボール』を唱えてぶつける。しかしどちらもゴーレムには効かない。
「強い」
「無理よこんなの!」
弱音をはく二人。そこへゴーレムの拳が降ってくる。
「散れッ!」
四人は散り散りになって回避する。
ウェザーは思考する。
いくらデカイとは言え相手は『土』だ。接近しての風圧のパンチならおそらく貫けるが、あの拳のプレッシャーはかなりのものだ。
集中豪雨で切る・・・ダメだ、今の『ウェザー・リポート』では範囲を絞りきれない。ルイズたちにまで被害が出る。
そうこうしている内にゴーレムの拳が飛んでくるので下がる。そこでナイフを数本抜き取りフーケに向けて投擲する。自分でも予想だにしていなかった速度でフーケに襲いかかる。

咄嗟にゴーレムの腕で防ぐが一本だけ防げずにフーケに向かうが、体を捻ってかわされてしまった。
「ハンッ!そんな直線的な攻撃でェッ!」
再びゴーレムにウェザーを攻撃させようとした時、急に風向きが変わり後方から強烈な突風が吹いた。感でヤバいと悟ったフーケは咄嗟に『練金』を唱えて背後に鉄の壁を作り出す。
ガギィイィィンッ!という金属同士の衝突音が森に響く。
「チッ・・・」
「あ・・・危なかったわよ、今のは。杖を持ってないところを見ると『風』の先住魔法かしら?後ろに飛んだナイフを突風で強制的に戻すなんて、考えたじゃない」
今のは奇策に過ぎない。二度は通用しないだろう。メイジを倒せればすむかと思ったが、それすら困難だ。
その時ゴーレムを爆発が襲う。いつの間にかルイズが呪文を唱えていたのだ。
「ルイズよせ!無駄だ!」
「やってみなくちゃわからないじゃない!」
「ウェザー!ルイズ!」
ルイズと押し問答をしていると空から声がかかった。見上げればシルフィードに乗ったタバサとキュルケがいた。
「『破壊の杖』は回収したわ!一度退却しましょう!」
キュルケの提案はもっともだった。二人が上空から魔法でゴーレムを足止めしながら近づいてくる。
「ルイズ乗れ!」
渋るルイズを無理矢理シルフィードの上にのせていると、ゴーレムが襲いかかってくる。
咄嗟にシルフィードは上昇、ウェザーは横へ転がってかわす。ぬかるんだ地面に巨大な拳がめり込み辺りに泥が飛ぶ。
「ウェザーッ!」
「お前らは学院に戻って援護を呼んでこい!」
「ウェザーはどうするのよ!」
「俺はこいつの足止めをする。お話しはここまでだ。シルフィード、飛べ!」
ウェザーの覚悟を悟ったタバサがシルフィードに指示を出す。そこへゴーレムの手が伸びるが急に失速しだした。
「また『風』・・・それも『向かい風』。どうやら先にアンタを始末しなきゃあならないみたいね」
「・・・・・・」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
二人が同時に動いた。
「『ウェザー・リポート』!」
「潰せッ!ゴーレムッ!」

さっきまでルイズたちがいた場所から轟音が聞こえてきた。
「タバサ戻って!ウェザーが戦ってるのよ!」
しかしタバサはそれを無視するかのようにシルフィードを飛ばす。代わりにキュルケがルイズに言う。
「ルイズ・・・悔しいけれど、私たちが束になってもあのゴーレムは倒せないのよ。ウェザーはそれを理解していたから助けを呼んでこいといったのよ」
「その間にウェザーが死んじゃうわよ!」
キュルケは本当に辛そうにルイズの肩に手を置いた。心なしか震えている。
「・・・彼が言ったのよ。信じましょう・・・」
「・・・わかったわ」
ルイズが納得したのにタバサとキュルケは油断してしまった。ルイズはキュルケの腕から『破壊の杖』を奪うと躊躇うことなくシルフィードの背から飛び降りた。
「ルイズッ!」
瞬時に反応できたタバサが地表ギリギリで『レビテーション』をかける。着地したルイズは『破壊の杖』を抱いたままウェザーのもとへと駆け出した。
私はゼロじゃない!私は魔法を使うんだ!
そう心の中で叫びながら。

一方、ウェザーは満身創痍だった。風の力も弱くなり拳が何度か体を掠めたせいで血が流れているが、泥と混じって酷い有り様だった。足場も泥濘で体力の消耗が激しい。
何発か『ウェザー・リポート』をブチ込んだが壊れた端から直るので決定打にはならない。
フーケがゴーレムの上から笑う。
「アハハッ!随分イイ格好じゃあないかい。男前が上がったよ!」
「く・・・うっ」
優劣は明らかだった。
(ルイズたちは逃がせた・・・死んだ人間としては上々の働きだろう)
「いい加減アンタを倒さないと追い付けそうにないんでね、終わりにするよ!」
「そうはさせないわ!」
いつの間にかルイズがゴーレムの向こう側にいるではないか。しかも『破壊の杖』を両手で持って。
「ルイズ!なぜここにッ!」
「使い魔置いて逃げ出すわけないでしょ!それにわたしはもう二度と『ゼロ』のルイズと呼ばれたくないのよ!フーケを倒さなければゼロのルイズだから逃げ出したと言われるわ!私にも貴族としてのプライドがあるわ!」
それに、とルイズが付け加える。
「魔法が使えるものを貴族と呼ぶんじゃない!敵に背中を見せないものを貴族と呼ぶのよ!」
ルイズの眼には決意があった。

「食らいなさいフーケ!」
ルイズが詠唱し『破壊の杖』を振った。・・・しかし何も起きない。
「なんで・・・やっぱり私がゼロだから?」
「ふん、結局使い方を知らないのね。使えないわ」
するとフーケがウェザーを見てニヤリと笑った。
「ッ!ルイズ逃げろッ!」
しかしルイズはショックからか動こうとしない。ゴーレムが両の拳をルイズとウェザー同時に向ける。
「うおおおおッ!」
ウェザーが風向きを変えてルイズを吹き飛ばす。
「そう・・・当然そうするわよね・・・大事なご主人様をお守りしなきゃあだものね。でも、そのおかげで邪魔な『風』は消えたわ」
「ウェザーッ!」
「イッちまいなァッ!」
ルイズの叫びも虚しく、何かが砕けるような音と共にゴーレムの鉄の拳がウェザーを押し潰した。

ルイズはその光景を風に飛ばされながら見ていた。頭が真っ白になる。何も考えられない。飛ばされるがままのルイズを駆けつけたキュルケたちがつかみシルフィードの上に持ち上げる。
「ルイズッ!無事なの!」
ルイズは糸の切れた人形のようにただウェザーを押し潰したゴーレムの拳を見つめるだけだ。
(私が・・・私が来たからウェザーは死んだの?私がウェザーを?)
信じたくなかった。自分のせいでウェザーが死んだなどと。
「そうよ・・・タバサ、キュルケ!ウェザーを助けなきゃ」
しかし二人とも下を俯いて黙るだけだ。
「何してるのよ!早くウェザーを・・・」
「ルイズ!」
キュルケが震える声でルイズに諭す。
「風は・・・やんだのよ」
「嘘よ・・・」
その時ゴーレムの拳が持ち上がった。そこには――誰もいなかった。しかし大量の血だけが水溜まりに混ざっている。
「ちょいと威力がありすぎたかねえ?跡形もないじゃないかい」
フーケは視線を上げて風竜を見る。ウェザーの死がよほどショックなのか動きがとろい。今なら叩き落とせるが――フーケはゴーレムの腕を伸ばして風竜を掴んだ。呆気にとられていたシルフィードは反応が間に合わずに捕まってしまう。
「おとなしくさてれば命までは取らないよ。あたしの欲しいものは『破壊の杖』だけだからね」

しかしこの時、空から『あるもの』が降ってきていたのに気付く者はいなかった・・・


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