ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

使い魔ファイト-13

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匿名ユーザー

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「空! ハゲ空飛んだ! スゲェ!」
 空くらい飛ぶでしょメイジなんだからわたし除く。
「ね、この字みたいなの何?」
「わたしの使い魔になったって証のルーンよ」
「使い魔? あたしが? 使い魔ねぇ。家来みたいなもんなの?」
 なんか軽いわねぇ。もうちょっとその格調高いというかさ。
「ルイチュの家来だったらなってもいいかな。かわいいし、魔法使えるし、それに貴族!」
 ……ルイチュって誰?
「いいわね。メス豚どもに囲まれてるよりいい生活ができそう。なーんか世界も終わりそうな雰囲気だったしさ」
「メス豚? あんた養豚場で働いてたの?」
「ううん。水族館ってとこにいたんだ。ろくでもねーとこさ」
 水族館で豚に囲まれて……水棲の豚?
「ねえヘアバンド無い? あれがないと自分って感じしなくてさ」
 知らないわよ。あんたが置いてきたんでしょ。
「知り合いがみてもあたしだって気づかないかも」
 面倒くさいわね。買い物に行く時にでも好きなの選べばいいじゃない。
「月! 月が二つ! 嘘じゃなかったんだ! 本当にファンタジー!」
 月見て興奮する気持ちは分かるけど、ちょっとオーバーじゃない? たしかに今日の月はいつもよりエロチックな感じだけど。
「あたしってこういうの憧れてたのよねぇ。ファンタジアとかさ」
 しかしこいつ、いちいちリアクションが激しくて疲れるわ。
 ミキタカの使い魔見習ってほしい。枯れてるといか落ち着いてるというか、静かなもんよ。
 ミキタカの使い魔、名前はぺティ、ぺティ……ペッティング? そんな名前の人いないわよね。
 なんだったっけ。思い出せいないな。本人に聞くってのは気まずいし。もう面倒くさいからぺティでいいや。
 わたしのグェスに比べると、人生経験の差っていうのかね。
「ねえ、ぺティ。あなたはどこで何をやっていたの?」
「山奥で修行をしておった。たまに里へ下りることもあったが、戦ってばかりじゃったな」
 簡潔! かつ、頼もしい! うーん、老師って感じ。

 少しは感銘を受けるとか、己を恥じるとか、そういう殊勝な反応を期待していたんだけど、
「美味しい! ああ、アイスなんて何年ぶりかな」
 なんかバクバク食べてるし。
「これだから平民は困るのよね。ガツガツしてみっともない」
「そんな意地悪言わないで食べてみてよルイチュ。ほら」
 こんな得体の知れないものが美味しいわけないでしょ……冷たっ! う、うまっ!
「何これ。ちょっとだけ美味しいじゃないの……」
「でしょ、でしょ。これならチーズ味のペンネ無しでもいいかな」
「老師もいかがです? 他にも色々ありますよ。ロースト・チキン、白身魚のスープ、はしばみサラダ」
 車座になって遅すぎるご馳走に舌鼓をうつ。
 なぜこうも遅くなったのかといえば、やっぱりそれもグェスのせい。
 何かを目にするたび質問を口にして、わたしの説明を中断させる。
 その質問への回答の途中で別の質問をはさみ、話はどんどん逸れていく。
 彼女に全て納得してもらうまで質疑応答を続け、その間に日はとっぷりと暮れてしまった。
 ぺティとミキタカはニコニコ笑って見てるだけ、グェスは気のむくままに聞くだけで、結局わたし一人が損してる。
 美味しいものでも食べなきゃやってられないってものよね。あ、これも美味し。
「なんだか見慣れない料理が多いけど、厨房に新しいコックでも入ったの?」
「いいえ、これは私が作ったんです」
「ひょっとしてまた例の変身?」
「その通りです。これらの料理は私の身体の一部を変身させたものです。遠慮なく食べてください」
「大丈夫なの? 食べ過ぎて気がついたらあんたがいなくなった、なんてのは嫌よ」
「その辺は考えてあります。髪の毛の先や伸びた爪が無くなる程度ですから」
 なんだか食欲の失せる話をしてくれるじゃないの。いいわよ、それもある意味背徳的なものがあってそそるってことにしといてあげるわよ。
「例の変身? 何それ、どういうこと?」
 こいつはまたいらない部分に食いついてくるし。

 グェスのいらない好奇心のせいで、立場を分かってもらうための説明会は夜までかかった。
 まだまだ教えるべきことはたくさんあったんだけど、夜遅くまで男子の部屋にいりびたるってのもまずいからね。
 ある意味私の宿敵ともいえる存在、オールド・オープン・オスマンが作った決まり事のおかげで、
 比較的緩めに男子エリア女子エリアを行き来することはできるようになった。
 きっとこのルールは、誰かのお腹が膨らむか、誰かの背中が刺されるかするまでは続くんだろう。
 その時が来るまでは、せいぜい使ってやればいいのよ。キュルケほどじゃないにしてもね。
 ミキタカとは当分の間協力体制でいかなきゃいけないだろうし。
 途中、ギーシュの部屋の前で頑張ってるモンモランシーを横目に……何やってるんだろ彼女? 私は自室まで戻ってきた。
「さ、グェス。ここがわたしの部屋。つまりあなたが寝る場所になります」
「ふうん。まぁまぁかな」
「あのね。口の利き方に気をつけなさい。言葉使いを丁寧にするとか、もう少しやりようが……」
「ポスター貼ってもいい?」
「聞きなさい! ここはわたしの部屋なの。あなたの自由にできる場所じゃないの。本来ならね、使い魔なんだから納屋なり自室前の廊下なりで寝てもらうべきなんですからね」
「あーあ、今日は本当疲れたわ。ねえルイチュ、さっさと寝ましょうよ」
 わたしは確信を持った。こいつは本来ミキタカの使い魔になるべきだったんだ。人の話というかわたしの話を聞き流す能力はミキタカに勝るとも劣らない。
 ふん、そっちがその気ならわたしにだって考えがあるんだからね。どっちが上なのか分からせてやる。
「うわ、すんげえネグリジェ。いかにも貴族って感じ。下着もキュートッ。ルイチュに似合いそうっ」
 ぐ、ぐ、ぐ、ぐぐぐぐひひひひひひひひひ。耐えるのよルイズ。この女に自分の立場というものを……。
「そんじゃちょっと借りとくよ。おやすみルイチュ」

「ちょっと待ってグェス。あんたはベッドじゃない。あんたは床」
 言ってやった! 言ってやった!
「ほら、これ使っていいわ。わざわざ先生からもらってきてあげたのよ。ありがたく思いなさい」
 汚い毛布、投げてやった! 投げてやった!
 あっはは、グェスぽかんとしてるよ! 分かった? あんたは使い魔、あたしはご主人様。あたしのベッドで寝られるだなんて考えるだけでも恐れ多いってのよおーほほほほほほ。
「ルイチュ……」
 正直、わたしはグェスをなめていた。グェスの反応を勝手に予想し、決め付けていた。
 怒る、泣く、侮辱する、諦める、反論する、唖然とする、脅す。
 グェスがとった行動はそのいずれでもなかった。グェスはなんとも優しげに微笑み、わたしを抱きしめた。
「分かるわ……その気持ち」
 は?
「私も昔はあなたと同じ事を考えてた」
 何が?
「でもね、聞いてルイチュ」
 はあ。
「人間は鳥やネズミとは違うの。人間は人間なのよ。貴族でも人間をペットにしちゃいけない。たとえそれが使い魔であってもね」
 むう。
「そのルールを破るとけっこうひどい目にあう。たとえばボコボコに殴られるとか」
 わたし脅されてるの? でもグェスの顔見るとそんなことでもないみたい。
「あとボールペン何本も盗られたり、弁当の中の大好物だけ食べられたり」
 何それ? 実体験?
「あたし達は使い魔とご主人様である前に友達同士でしょ。ね、窓際の方は譲ってあげるから」

 さ……諭されている……! しかもわりと正論! 平民をペットのように扱う貴族がいないわけじゃないけど、わたしの信条としてそういう貴族大ッ嫌いなのよね。だいたいにしてオープン助平だし。
 しかもわたしにとってのキラーワードである「友達」を混ぜてくるわ、抱きしめることでおっぱいを押し当ててくるわ……まさか全部分かってやってるんじゃないでしょうね。この女……できる!
「そう、なるほどね」
 今回ばかりは負けを認めるわ、グェス。でもあっさり兜を脱ぐわけにはいかないのがわたしのキャラの難しいところ。
「あんたがどうしてもベッドで寝たいってのは分かったわ」
 わざと冷たくグェスを押しのけ、ベッドの中へ潜り込んだ。
「そんなに寝たいのなら半分のベッドで寝ればいいじゃない」
「ありがとう、ルイチュ」
「な、何よお礼なんか言われる筋合いないんだからね! もう明かり消すわよ」
 うん、いい感じ。これでわたしの人となりが分かってもらえたんじゃないかな。
 しっかし寝床につくだけで一苦労ね。これから先が思いやられるわ。
 ミキタカの方は上手くやってんのかしら。ぺティも大物っぽかったけど、ミキタカには参るんじゃないかな。
 わたし達みたいにどっちがベッドで寝るかなんてことで揉めてたりして。
 もぞもぞとグェスが入り込んできた。一つのベッドを二人で使うだなんて、何か変な感じ。
 ミキタカとぺティも同じ事してんのかな。
 てことは、儀式の流れ上とはいえ、キスをした男と男が同じベッドで寝るってことになるわけか。

「ご主人様、今日はお疲れになりましたろう」
「ええ、使い魔召喚は初めてのことでしたからね」
「そりゃいかん。そこへ寝てくだされ。修行者時代に培ったマッサージで肉体疲労を解消してさしあげましょう」
「どうもありがとうございます。それではお願いします。……んっ、これは効きそうですね」
「そうじゃろうそうじゃろう」
「えっ、ちょっと、そ、そこは……あっ」
「ふふふ、力を抜きなされ」
「あっ、あっ、や、やめて……」
「おかしいのう。肉体の方はやめてほしくないようじゃが」

 そこで逆にミキタカの反撃……だけどぺティの熟練の技が……修行者なんて男ばっかりだろうしやっぱり……。
「ねえ、ルイチュ」
「なによグェス」
「鼻血出てるみたいだけど……大丈夫?」
「鼻水の見間違いでしょ。夜だからちょっと冷えてるのよ」
 グェスに背を向け、窓の方を向いた。二つのお月様は妖しくも美しく下界を照らしてくれている。これじゃランプ消しても鼻血が見えるはずだわ。
 下らないことを考えるのはやめにしなくちゃ。……それにしても、どっちが上でどっちが下なのかしら。
「……ルイチュ、あたし達友達よね?」
「早く寝ないと明日困るわよ。使い魔はご主人様を起こさなくちゃいけないんだから」
「ルイチュ、あたしを置き去りにしたりしないでね」
「早く寝なさいって」
「もう猟奇殺人とかしないからさ……おやすみルイチュ」
「おやすみなさい、グェス」
 ん? 何かサラッととんでもないこと言われた気がする。気のせいかな?


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