ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

烈火! 気高く咲け薔薇の戦士よ その①

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烈火! 気高く咲け薔薇の戦士よ その①

たった一人、タルブの村の草原に降り立った若きメイジは、三十メイルの巨大ゴーレムを前に臆する事なく気高き眼差しと薔薇の杖を向けた。
「久し振りだな……土くれのフーケ!」
見覚えのある金髪の美少年を前にフーケは眉をひそめ、そして相手が何者であるかを思い出すと同時にニンマリと笑った。
「あら、あなたは確か……そう……ラ・ロシェールでヴァリエール達と一緒にいたわね。
 役立たずの木偶ゴーレムを作って、女の子の影に隠れて、こそこそと錬金した坊やね。
 お友達はどうしたの? あなただけ? クスクス……まさか『独りぼっち』なの?」
「ああ、そうだ。キュルケとタバサはジョータローの救援に向かった……。
 だからッ! フーケ! お前の相手は『僕一人』という訳さ。 そして今日こそ決着をつけてやる! 貴様には……二度と負けないッ!!」
ギーシュの言葉を聞いてフーケは再び眉をひそめる。
妙だ、ギーシュの言葉はおかしい。
「負けないもなにも、悔しいけどラ・ロシェールの戦いは坊や達が勝ったでしょう?」
「ああ、そうだ。だがあれはキュルケとタバサの勝利!
 僕はただ手助けをしたにすぎない……僕がいなくても彼女達は勝っただろうね……。
 覚えていないのかフーケ? 破壊の杖を盗んだ時、ルイズと一緒にいたこの僕を」
言われフーケは記憶を探る。あのラ・ヴァリエールの小娘と一緒にいた少年を。
「……ああ、そういえば、いたわね。ちみっこい雑魚が。
 え? あれ、あなただったの? フフッ、ククッ、アーッハッハッハッハァッ!
 確か……『薔薇の棘は女の子を守るためにある』とか言ってたわね。
 でも薔薇なんてのは花壇で丁寧に手入れされて咲くなまっちょろい花よ。
 この土くれのフーケと一人で戦う……? 面白い侮辱の仕方よ……坊やッ……」
双眸が釣り上がり、瞳に殺意という漆黒の闇が渦巻き出す。
唇は獲物を前にした獣のように、しかし艶かしく濡れ、戦う前から解りきっている勝利という美酒を堪能するかのように弧を描く。

それに対しギーシュは友を守るため村を守るため国を守るため、燃える使命感が鼓動を高鳴らせ、気高き誇りが背筋を真っ直ぐに固定し、かつて土くれに敗北した恐怖に打ち克ち勇気の光に瞳を輝かせていた。

「我が名はギーシュ・ド・グラモン! 誉れ高きグラモン元帥の血を受け継ぐ者!
 二つ名は青銅……青銅のギーシュ! これより土くれのフーケを倒す男の名だ!」
「たかだか魔法学院の生徒の分際でよくそこまで吼えたわね。
 いいわ……勇気ある男気へのご褒美として地面をのた打ち回る苦痛を、そして愚かにも雑魚の分際で私に勝負を挑むという侮辱への罰として――」
ゴーレムが拳を振り上げる。戦いの幕は切って落とされた。
「死という永劫の孤独を与えて上げるわ!」
「うおおっ! 来い、フーケ!」
円を描いて上から振り下ろされるゴーレムの拳を、ギーシュは思いっきり横に転がる事で回避する。
地面が揺れるほどの轟音の後、拳が巻き上げた土が雨のように降りかかった。
太陽の光を浴びて金色に輝く髪が、白く端正な肌が土で汚れる。
「クッ……やはりパワーでは勝てない、悔しいがクイーンは精神力の無駄遣いでしかない」
「いつかのように青銅のゴーレムを出してみたらどうなの?
 ひとつ残らず踏み潰して上げるわ……虫けらのようにね!」
「いいやッ、踏み潰せないね。なぜなら僕はお前をそこから叩き落すからだ。
 ゴーレムの上という安全地帯から……叩き落してやるぞ、フーケッ!」
ギーシュが薔薇を振ると、彼の周囲に薔薇の花びらが現れ渦を巻いた。
真紅の螺旋はギーシュを防護するように包み、天高く舞い上がる。
「クスクス……所詮、一人じゃ何もできないようね。結局お友達の作戦頼り?
 そんな奇策が二度も通用する……と、本気で思っているのかしら?」
上空から薔薇の花びらが嵐のように降り注いだ。
髪の毛や服を赤く彩られたフーケは、自分のゴーレムを見回す。
ゴーレムもまた頭や肩を赤く飾られていた。フンッと鼻で笑う。
「今だッ! 錬金ッ!!」
「小賢しいッ」

ゴーレムは即座に上半身を跳ね上げた。
その勢いでゴーレムに降りかかっていた花びらがすべて跳ね除けられてしまう。
ゴーレムの肩に足をめり込ませて身体を固定していたフーケは、自身まで吹っ飛ばされるなどという失態を犯す事なく、自分についていた花びらも見事に散らせた。
「フッ……アハハハハッ! これで解ったでしょう?
 私を……叩き落すとか言ってたわね、お坊ちゃん」
絶対の自信と確信を持ってフーケは高笑いをし、無様な虫けらを見下した。

「私は上! あなたは下よ!」
「お前が下だ! 土くれのフーケッ!」

裂ぱくの気合がフーケの身を叩く。
ギーシュの双眸は戦士のように力強く、フーケを射抜くようにとらえている。
声に普段の軽薄さは微塵も無く、運命を切り開くほどの覇気を持っていた。
盗賊としてメイジとして優れたフーケの直感が警鐘を鳴らす。
馬鹿な! なぜ、土くれのフーケともあろうものが、こんな小僧を相手に危機感を抱かねばならないのか!?
「ゴーレム! その生意気な小僧を叩き潰せ!」
「ワルキューレ! その傲慢な盗賊を叩き落せ!」
影を感じた。最初の違和感はそれだった。
自分と太陽の間に、自分の上に、何か、何かがいる。
そう直感したフーケは空を見上げた。
青空の中、小さな紅い雲が浮かんでいた。その中に何かがいた。

ガンダールヴの操る竜の羽衣か?
ワルドの駆る風竜か?
タバサの乗るシルフィードか?

否。それは人と同じ形をしていた。
では人か。
否。それは人ではなかった。
答えはもう解っているはずだ。下にいるメイジが答えを口にしている。
だが! なぜ! それが! このタイミングで! そこにいる!?
「花びらを空中に舞わせたのはゴーレムにかけるためじゃあない……。 空中でワルキューレを作り、お前目掛けて落下させるためだ!」
本来ワルキューレは花びらを土に触れさせ、土を素材に作り出す。
だが今回はそのすべてを花びらで補った。
故に『土』に含まれる様々な成分を得られなかったこのワルキューレは、通常のワルキューレに比べ青銅の質も密度も非情に劣悪の、出来損ないだ。
しかも素材が足りない分無理して作ったため、精神力の消耗も甚大である。
ワルキューレ四~五体分くらいの力を使ってしまったかもしれない。
だがその劣化ワルキューレこそがこの戦況を引っくり返す可能性を持っている!
「くっ……弾き飛ばせ!」
「もう遅い! フーケ、覚悟!」
上空から一直線にフーケ目掛けて落下してきたワルキューレは、スピアを突き出してフーケの胸を狙う。
魔法で対処する時間は無い。フーケは身体を捻って避けるしかなかった。
だが間に合わない。
スピアは回避できたが、ワルキューレの体当たりをまともに受けてしまう。
「ギャウッ!」
ワルキューレの体重を一身に受け、フーケは地面へと落下した。

――このままでは押し潰される!

三十メイルの高さ、ワルキューレの体重、何とかしなくては。
ゴーレムを使う訳にはいかない。大きい分、大雑把な動きしかできないため、ワルキューレをどうにかしようとしたら密着している自分までどうにかされる。
「くっ、ぬぅ……ああっ!」
ワルキューレはスピアを握っている。だからこちらは自由に動ける。
フーケはワルキューレのスピアを足で蹴り、肩を手で掴んで身体を持ち上げる。
そうする事でワルキューレの身体の下から逃れたフーケは、咄嗟にレビテーションをかけたがすでに地面目前だったため、浮遊が間に合わず、しかし落下の勢いを半減させて地面に叩きつけられる。
「ガハッ!」
フーケの悲鳴に重なって、すぐ側で金属が砕ける音がした。
フーケを叩き落した劣化ワルキューレが地面に激突して砕け散ったのだ。
「くっ……や、やってくれる」
ギリギリと歯を食い縛りながら、フーケは杖を振ってゴーレムを操った。
早く自分を回収させなくては。ゴーレムの手がフーケに伸びる。
「気づかないのかフーケ! お前のゴーレムはすでに!
 僕の『結界』の中にいるという事に!」
「……えっ?」
フーケは見た。ゴーレムの足元が、赤い。
その赤は線を描くようにギーシュの足元へと伸びていた。
「これが……僕を勝利へ導く『花道』ってやつさ」
ギーシュが杖を振る。
「錬金! そして地を這う油を『着火』するッ!!」
紅い薔薇の花道がドロリとした油に姿を変える。
直後、再び紅い花を咲かせる。
炎という紅い花を。

炎はゴーレムの足元まで一気に伸び、燃え盛る。
だがその程度の炎で倒れるほど土くれのゴーレムはやわではなかった。
だから――。
「さらに『錬金』する! ワルキューレを作るためだけに薔薇を舞わせた訳じゃない!」
フーケは空を見上げた。ワルキューレが背にしていた紅い雲がまだ浮かんでいる。
それは雲ではなく――滞空する薔薇の花びら!
魔法を錬金の方に使ったため、もう花びらは操れない。重力に引かれて落下するだけだ。
だが、それでいい。
花びらすべてが油となると、雨のようにゴーレムに降り注いだ。
土で作られているゴーレムの全身に油が染み込み、引火する。
足元から下半身へ、上半身へ、腕の先まで、全身を焼き尽くされるゴーレム。
「何て……事……」
自分の生み出したゴーレムが成すすべも無く崩れ落ちていく様を、フーケは呆然と見つめていた。
そしてそのフーケの背後に足音が近づいてくる。
慌てて立ち上がると同時に振り返り杖をかざす。
フーケの杖を向けられた先には、ギーシュの薔薇の杖があった。
その距離ほんの数サント。

「これで……対等だ、土くれのフーケ……!」
「こ、殺す……殺してやるわ。青銅の……ギーシュ……!」

交錯する。怒りに燃えるフーケの瞳と、闘志に燃えるギーシュの瞳が。
ゴーレムを焼き尽くした炎は草原にも火が移り、まるで逃がさぬというようにフーケの背後に広がっていた。

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