ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

第九話 『寒冷前線最前線』

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
第九話 『寒冷前線最前線』

「町に行くわよ」
ルイズは朝の着替えを済ませるなり部屋の外で待機していたウェザーにそう宣言した。
「授業はサボりか」
「今日は虚無の曜日だから休みよ」
「服でも買うのか?」
「違うわよ。アンタの武器を買うの。感謝なさいよ?」
ルイズの心境としては、最近冷たくしすぎたかな~というもので、ここで一つご主人様の懐の深さを見せてやろうという算段であった。
もっとも、スタンドがあるウェザーとしては武器は必要ないのだが、ここが自分にとって未知の世界であることを思いだし、ナイフくらいは持つかと思い直してルイズに頷いた。
「じゃあ馬を借りなきゃね」
「馬で行くのか?」
「歩きじゃ無理ね。馬の足でも三時間くらいかかるから。もしかして・・・ウェザーって馬は初めて?」
ウェザーの無言を肯定と受け取ったルイズはにんまりと笑った。
「ふうん、そーなんだー」
「・・・なんで嬉しそうなんだよ」
「べーつーにー。使い魔相手に優越感なんて感じてませんよ~だ」
二人は門に向かった。

キュルケは悩んでいた。悩みの種はもちろんウェザーである。
「はあ・・・ウェザー、あなたのことを考えるとまるで熱にうなされたかのように私は惚けてしまうの・・・」
両手を頬に当ててくねる姿はいっそ官能的ではあるが、廊下で、それも他人の扉の前で一人でやるものではない。いっそ間が抜けて見えてしまうからだ。
そう、キュルケは今ルイズの部屋の前にいた。キュルケは悩む質だが同時に行動派である。気付けば体が動いているのだ。
行動派なキュルケはなんの躊躇いもなくドアに『アンロック』の呪文を唱えた。しかし、いつもならここで「他人の部屋に勝手に入るなーッ!」とカワイイ宿敵ルイズの怒声が飛ぶのだが今日に限って静かだった。
「ちょっと~、留守なのぉ~?」
がっくりと肩を落として窓に向かう。と、門から馬に乗って出ていく二人の姿が見えた。
「ルイズったら抜け駆けするつもり?そうはさせないわよ!」
行動派のキュルケは部屋を飛び出した。


ウェザーとルイズは城下町までの道のりを進んでいる。馬に不馴れなウェザーの歩は遅いとまでは言わないが、やはりおぼつかなかった。
そんなウェザーより一馬身ほど先行したルイズはほくそ笑む。
(ルイズ、これはチャンスなのよ!魔法はからきしな私の数少ない特技が『乗馬』。今日一日をフルに使って私の凄さをウェザーに刻み込むのよ!)
希望とやる気がムンムンわいてきたルイズは、ウェザーに見せつけるかのように『風圧シールド走法』や『マスタング走法』『つつき走法』を披露した。
「うむむむ~~~んんんんんん、予想どおりひげ牧場の馬はなじむ。この肉体に実にしっくりなじんで騎馬が今まで以上にできたぞ。なじむ、実に!なじむぞ!フハハハハハ、フフフフ、フハフハフハフハ」
再び一人で最高に『ハイ』になっているルイズをウェザーは生暖かい視線を送るだけである。
「引いて・・・・・・いるのか?ドン引きしているのかと聞いているのだ!!ウェザーッ!」
今にもナイフを投げそうな剣幕のルイズにウェザーが言えたことは、
「Exactly!」
だけだった。

ルイズとウェザーがそんなやり取りをしている頃、タバサは自室で本を読んでいた。ブルーの瞳をキラキラさせながら活字を追っていく。彼女にとって虚無の曜日とはこうでなければならないのだ。自分の世界に浸れる、数少ない『天国』だった。
しかし、楽園はえてして踏みにじられるものだ。
「タバサッ!出かけるわよッ!」
「虚無の曜日」
扉をぶち破らん勢いでやってきた闖入者はキュルケだった。他の人間ならば迷わず『ウィンド・ブレイク』一択なのだが、親友であるキュルケなのでとりあえず抗議だけにすませた。
「タバサ!急がないとあたしのダーリンがルイズの乗馬テクに骨抜きにされちゃうの!」
因みにそのダーリンは華麗すぎる乗馬テクにドン引きだった。
タバサはよくわからない顔をした。
「タバサ聞いて、ダーリンはカッコいいのよ・・・ああ・・・あのどこで終わるのって感じに伸びた脚と日焼けの肌・・・~~サイコォ~~~」
自分の世界に入っているキュルケは顔を赤らめてふわふわしている。


タバサも図書館で見た男の顔を思い出そうとするが、あのモコモコの帽子しか思い浮かばなかった。
「・・・気になる」
タバサの呟きにキュルケが目敏く反応する。
「ウッソ!タバサあんたまでライバルになるの?」
もちろんタバサにそんなつもりはない。ただモコモコの帽子を被っていた顔がボヤけているのが気に食わないのだ。気になり出すとハッキリするまで本には集中できない。
タバサは立ち上がり、窓を開けて口笛を吹く――つもりだったがそこには準備万端のシルフィードがいた。
「あら、シルフィードも準備万端じゃない!なら早速GOよ!GO!」
「どっち?」
シルフィードの背に移りながら張り切るキュルケに淡々とタバサが尋ねる。するとキュルケは急に縮こまってしまった。
「あぅ・・・慌ててわかんない・・・」
タバサは文句をつけるでもなく、シルフィードに命じた。
「モコモコ帽子。・・・取っちゃダメ」
「きゅいきゅい!(了解ねお姉様!)」
シルフィードは陽光を青い鱗で跳ね返し、力強く羽ばたいた。
仕事を始めた使い魔に安心して、タバサは頭の中であのモコモコ帽子の下の顔をモンタージュし始めた。

トリステインの城下町をウェザーとルイズは歩いていた。ハイなルイズをなだめたりあまり急がなかったせいもあり三時間半かかったが腰を痛めはしなかったのでよしとした。
「しかし狭いな」
「そう?ここ一応大通りなんだけど」
「アメリカの田舎町でもこんなくらいだが・・・」
ここは道幅五メートル程の道に大勢の人がひしめいているので余計狭く感じるのだ。
道端には果物、アクセサリー、雑貨と言った露店が並んでおり活気に満ちている。もちろんちゃんとした店もあり、それにはどれも看板がかかっており、非常にわかりやすくなっている。
「そんなことより、財布は大丈夫?スリも多いのよ」
「心配するな。アメリカのスラム街にもたくさんいたが、スられたことは一度もないんだ」
「『あめりか』ってどこよ?犯罪者にはメイジもいるから注意しなさいって言ってるの」
「メイジは貴族なんじゃないのか?」
「違うわよ。貴族はメイジだけど、中には色んな事情で身をやつして傭兵や犯罪者になる者もいるのよ」
話しているうちに狭い路地裏に入っていた。


「あ、あそこよ」
剣の看板が下がっているところを見ると武器屋であっているだろう。羽扉を開け、中に入った。
店に入るとガラの悪そうな親父がいた。
「旦那、貴族の旦那。うちはまっとうな商売してまさあ。お上に目をつけられる覚えはこれっぽっちもありやしませんよ」
「違うわ、客よ。使い魔に剣を持たせたいの」
それを聞いた途端、親父は商売人の顔になった。ごますりをしながらおべっかを使う。
「忘れておりやした。最近では貴族の使い魔も剣を振るうのようで。して、どんなのをお求めで?」
「そうね・・・大剣がいいわ。見映えもしそうだし」
「へい、かしこまりまして・・・」
親父は奥に引っ込みガサゴソと漁っている。
「これなんかいかがですかい?店一番の名刀で、こいつを鍛えたのはかの高名な練金魔術師シュペー卿でしてね、鉄さえ両断!しかも『固定化』がかかっているんで刃が欠けない!錆びないから長持ち!」
ルイズは親父の口車に乗りかけていたが、ウェザーは怪しんだ。旨い話なんてのはない。
「親父、それならその剣の耐久性を試してもいいか?」
「へえ?かまいやしませんが、どうやって試すんで?」
ウェザーは刀を持つと、ウェザー・リポートを発動した。剣の周りの酸素濃度が上がっていく。すると見る間に刀身は錆びていき、装飾は輝きを失う。
「な、なんてこったい!」
「なにこれ!騙したのね!」
騙されたとわかったルイズが親父に詰め寄る。
「貴族を騙してタダで済むと思わないことね・・・」
凄まれて親父も必至に頭を下げる。
「ひい、すみませんですはい!こ、これはちょっとした手違いでして・・・」
「許すわけな――」
「いいじゃないかルイズ」
ウェザーが興奮するルイズをなだめて言う。


「つ、使い魔の旦那ァッ!ありがとうごぜーますだ!」
いまにも抱きついてきそうな親父を押さえる。もちろんウェザーはタダで助けるつもりなど毛頭ない。
「なに、お前がこれから心を入れ換えればな・・・それでいいんだ」
「へい、モチのロンでさぁ!誠心誠意商売を――」
「じゃあその誠意、を見せてもらおうか」
ウェザーの言葉に親父の顔から血の気が失せる。ウェザーの真意に気付いたルイズもニヤニヤしながら援護射撃を行う。
「そうよね、本当に真面目になるか証拠を見せて欲しいもの・・・ね?」
この日親父の悲鳴がブルドンネ街中に響き渡った。

ウェザーとルイズはもと来た道を戻り、公園のような広場で休憩をとることにした。こんなところにも幾つか露店が見受けられた。ベンチに二人で並んで座る。
「あははは!あの親父の情けない顔ったらなかったわね!でも本当にそんにのでいいの?」
『そんなの』とは親父からタダで巻き上げたナイフの束のことだ。
「下手に慣れないモノを使う方が危険だ。大きいなら尚更な。それにナイフのほうが活用範囲が広い」
ルイズがそういうものかと納得していると声がかかった。
「あらルイズったらダーリンにそんなチャチなモノをプレゼントしたの?ねえダーリン、私ならもっと立派なものを渡してあげるわ」
「キュルケ!なんでここに?」
「愛しのダーリンがあんたに誘惑されないようにするためよ。ねえダーリン~あたしと一緒に買いに行きましょうよ」
「必要ないわよね、ウェザー!」
ウェザーは目の前で火花を散らす二人の向こうに青い髪を見つけた。
「お前も来ていたのか」
タバサは無言でウェザーに近より顔をまじまじと見つめた。
「残念。口元が違った」
本人はモンタージュと実物を比べて採点しているのだが他人にすれば電波である。
「・・・そうか、残念だったな」
「大丈夫。覚えた」


上空を仰ぎ見ればシルフィードらしき影が旋回している。手を上げると、答えるかのように鳴き声が響いた。
「ダーリン行きましょうよ!」
「ダーメ!ウェザー行っちゃダメよ!」
まだ争っている二人だった。
「正直剣はもういらないな」
正直に話すとキュルケが残念がる。
「え~、じゃあ何が欲しいの~?あ、もしかしてあたし?」
「そんなわけないでしょ!」
「ナイチッチは引っ込んでなさいな」
「うるさい!これはステータスなのよッ!」
再び言い争う二人にさすがにげんなりしてきた時、タバサが助け船を出してくれた。
「帽子」
二人がピタリと止まる。
「な~るほど。プレゼントと言えば服飾関係よね。タバサやるわね。そうと決まれば誰が一番ウェザーに似合う帽子を勝手あげれるか勝負よ!」
「面白いじゃない!乗ったわ!」
「グッド!」
二人は善は急げとばかりに駆け出していった。その後をタバサがとことこついていく。
これで当面は静かだな。・・・後でうるさそうだが。しかし喧騒は突然やってきた。
「泥棒だーッ!誰かッ!捕まえてッ!」
公園の前の道がざわついている。どうやらあそこでおきたらしい。薄汚い男が走っている。どうやら犯人らしい。
「借りるぞ」
公園の入口にいた露店商から用途不明の石をかっさらい、放り投げた。
ドシュウウウ!っと飛んだ石は、犯人には当たらず上方にそれてしまった。
それを見た犯人がこちらをバカにしたような顔をした瞬間、頭の上に看板が落ちてきて気絶した。
「ハズレたんじゃあない。ハズしたんだよ」
気絶した犯人の周りにはすでに野次馬の壁ができていた。これ以上関わるつもりのないウェザーはルイズたちのいる服屋に向かおうとしたが腕を捕まれ止められた。
「おいアンタッ!あの石は貴重なんだぞッ!弁償しろ!金貨百だッ!」
しかしウェザーはルイズに金を返したので手持ちがない。厄介なことになったと悲観していると、背後から凛とした声がかけられた。
「わたくしが弁償しますわ」
オスマンの秘書、ロングビルだった。


事態はロングビルのお陰で丸く収まり、二人はベンチに二人で座る。
「あなたは確かミス・ヴァリエールの使い魔の方でしたよね?」
「ウェザーだ。そう言うアンタは・・・?」
「学院でオスマン校長の秘書を務めております、ロングビルです」
お互いに自己紹介がすみ、軽く話す流れになった。
「へえ、じゃあ盗まれたのはあんたのだったのか」
「ええ、買い物に気をとられていて置いた荷物に気が回らなかったものですから。ありがとうございました」
丁寧な仕草でお辞儀をするところを見ると、貴族なんだなとわかる。
「だが貴族というのは余りこういった場所には来ないんじゃないのか?」
「確かにそうですね。お恥ずかしながら、わたくしの趣味は『骨董品集め』でして、こういった場所でないと見つからないものもあるんですよ」
荷物を開いて見せてくれたがガラクタにしか見えなかい。中には錆の浮いたボロボロの剣もある。鞘までボロい。
「『骨董品』、ようするに『マジックアイテム』には歴史的価値はもちろん、劣化を防ぐためにかけた魔法の名残などが見つかるので魔法的価値もあるんです。
 物によっては闇ルートでエキュー金貨数十万で取り引きされるものもあるそうですよ。まあ、わたくしも一通り愛でたら売っちゃいますけどね」
ウェザーは通貨がわからないのでイマイチ理解しかねるが、何をしてでもそういったモノを手に入れたがる人間がいることは理解できた。
「そんな高価な物ならさっきみたく盗む奴がいても不思議じゃないな」
「でも本物はあんな程度じゃないですよ。今トリステイン中を恐怖に陥れているメイジがいましてね、二つ名は『土くれ』。『土くれ』のフーケです。神出鬼没な上に手口は様々で、中でも巨大な土のゴーレムを使う時が一番被害がひどいんですって。
 拳の一撃で豪邸が消えてなくなったとか・・・」
「なるほどな・・・」
ゴーレムと聞いてギーシュのワルキューレを連想したが、どうやら比じゃあないらしい。
「あなたも気を付けてくださいね」
「あいにくと盗まれるような物は持っていないんでな。にしてもあんた、やけに詳しいな。それに貴族なら自分たちの恥だろう?」

「わたくしは貴族の名を失った者ですから。オールド・オスマンに拾われなければ路頭に迷い、家族も養えなかったでしょう」
「家族を養っているのか」
「ええ、父母はもういませんが、下の子たちがいますから」
ロングビルは家族を思っているのか遠い眼をしている。
ウェザーはそんな彼女の眼を見る。
「・・・そうか。大変だな」
「何言ってるんでしょうね、わたくし。人様に話したってしょうがないのに・・・すいませんね」
「いや・・・」
沈黙の時間が流れる。
「・・・じゃあ、わたくしはもう行きますね。本当にありがとうございました」
「ああ、気を付けるんだぜ」
ロングビルが立ち上がると袋に差し込まれたボロい剣が焦ったように見えたが目の錯覚だろうと思うことにした。「ちょ、俺の活躍は!?」なんて幻聴が聞こえるあたり馴れない馬での遠出で疲れたかな。
「サヨウナラ、ウェザーさん」
「サヨウナラ、ロングビル」
そして、二人は別れた。

あの後しばらくしないでルイズたちが戻ってきた。ロングビルと会ったことは言わなかった。
ルイズたちの選んだ帽子はお世辞にもセンスがいいとは言い難かった。
ルイズが幽霊みたいにふわふわ浮いていて捕まえようとしてもふわふわと逃げる帽子みたいな何か。
キュルケが手形のバッチがついた学帽で店員の話だと髪と一体化するらしい。
タバサにいたっては帽子ですらなく、『随行体』とか言うヘルメットらしい。
「『使い魔お天気』」
うるさい。
結局どれも保留ということで帰路についた。

武器屋の親父は休憩のために外に出ていた。
「まったく今日はついてない。貴族が二人も来るし、ナイフはほとんど持ってかれちまったし・・・でも、ま、最初に来た美人の姉ちゃんはデル公を買ってってくれたし、厄介払いはできたな」
うーん、と伸びをして空を見ると、巨大な入道雲が迫っていた。まるで巨大なゴーレムが立ちはだかるような形だ。
「こりゃあ嵐がくるな・・・」
親父は今日はもう店をしまうことにして店に引き上げた。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー