ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

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唐突に、ギーシュに向かって――、青銅の破片が、投げつけられた。
それを彼の傍にいた人形が、弾いて落とす。地面に叩きつけられた破片が、土にめり込み、その動きを止めた。
ギーシュはその方向を見る。
才人が、ギーシュを睨みつけながら、破片を投げた右腕をふり終えていた。
「……貴様は」
ギーシュが、才人を睨む。
「届くと思ったのか……。そんな距離から! 友を……主を失うからといって! こんなものを放りやがったな!」
ルイズを貫こうとした槍が、その矛先を変えた。
「汚らわしいぞ! そんなもので! 僕をどうにかすることなどできない!」
片腕を失ったワルキューレが、槍を地面に突き刺した。
その瞬間、――青銅は駆ける。そして、一本しかない腕を大きく、振りかぶり――。
才人の右腕を、殴りつける。……鈍く、嫌な音が聞こえ、才人は後ろに吹っ飛んだ。
「うっ……うわあああぁぁぁっ!!」
悲鳴を上げ、転げるように才人は暴れる。彼の右腕は完全に……、へし折れていた。
「サイト!」
ルイズが叫ぶ。彼まで、どうして自分から傷つこうとするのか。
ルイズには、それが理解できない。
「それは『罰』だ……。『決闘』を汚した『罰』! ……だが、貴様に止めなど刺さない。……生かしてやる。勝手に、この場から立ち去るがいい」
才人は右腕を押さえながら、しばらく呻いていたが……、痛みで額から大量の汗を流しながらも、またゆっくりと……、立ち上がった。
「……ずいぶん、上から見下すじゃねえか……。貴族ってのは、みんなそんなやつばっかだな」
苦しそうな声で、悪態をつく。
「サイト! 何よ! 何であんたまで関わるの!? あんたは関係ないじゃない!」
ジャイロの盾となっていたルイズが、才人に叫ぶ。
「下がりなさい! あんたも、それ以上痛い目みたいの?!」
その言葉は――本当に、その通りだと思った。
「決闘」それは彼が、彼の世界で見ていた――スポーツのようなものとは、遥かに違うものだった。
悪い言葉で言えば、殺し合いに違いない。
だから才人はさっきの――、ギーシュと、ジャイロの戦いを見て。……足が、竦んでいた。

目の前の相手を、才人は、決して許すことができない。
それだけのことを、したのだから。
だが、自分の代わりに、戦いの舞台に上がった男と、それを一切の躊躇なく殺そうとする相手に。
恐れた。震え上がり、背筋が寒気だった。
今まで、彼が生きてきた世界では、決して表立って、出てこない感情――殺意が、そこにあったからだ。
まかり間違えば、いや、当然の結果として相手が――自分が死ぬ、という現実が、そこにある。
自分が死ぬことに、なんの覚悟も必要無い世界から来た少年に、いきなりそれを享受しろというのは――酷なのかも、しれない。
だから……、逃げたいと思った。
……生きたい。――帰りたい。そうも、思った。
だけど。
「……で」
才人が呟く。それは、彼の、決意。
「え……?」
ルイズが聞き返す。それは遠くて、聞き取れないから、ではなく。
腕を庇いながら、才人が、一歩、また一歩と、近づく。
「目のまえで……。女の子、蹴っ飛ばされてるとこ、見せ付けられてぇ! 黙ってられるかよぉ!」
彼にもまた、譲れないものができた。
自分の信念をしっかりと掲げ、才人は立ち向かう。
そして才人は、地面に突き刺さる、一本の剣の柄を――、左手でしっかりと、握り締めた。
「や、……止めなさいサイト! その剣を引き抜いたら! ギーシュは容赦しないわ! あんたも! いいえ、あんたから殺されるわよ!」
ギーシュを睨みつけている才人は、ルイズの言葉を――無視する。
しかし。
「……がふっ。……っざっけんじゃ、ねぇぞ。……げ、ぐぼォ……、お、オメー……、オレの決闘だ! 邪魔すんじゃねェ! 下がれ! 才人ォ! ……は、……あぐッ」
倒れ、かなりの血を流しているジャイロが、激昂し才人に叫ぶ。
それに。
「悪りぃジャイロ……。俺だって……腕、へし折られてんだ。……それにな、俺だって、……こいつを、ぶちのめしたいんだよ!」
叫んだ才人は力任せに――、剣を引き抜く。
その瞬間、彼の左手にある紋章――ある意味を持つルーンが、彼の決意と、闘志に負けぬだけ――、光り輝いた。

不思議なことが起こる。
才人の、へし折れた右腕の痛みが、消える。そして、体が軽くなったように、感じた。
ギーシュは、この突然の乱入者に、憤りを隠さない。
才人の右腕をへし折ったワルキューレに命じる。今度は、しっかりを槍を持った騎士は、一撃で、この愚かな少年を絶命させようと――、突進する。
その槍が彼の心臓に届く――はずだったが。……槍は、中央から失われていた。
剣を振りかぶった才人が、騎士の槍と交差した瞬間、その槍と、青銅の太い腕を、真っ二つに断ち切ったのだ!
「う、うおおおおおおおおおおおおっ!!」
才人が叫びながら、ワルキューレの頭部に剣を振り下ろす。芯までぎっしりと青銅が詰まったその胴体は、才人が息を吸い込み、叫びながら全て吐き出す間に。
――すべて、両断された。
「……嘘」
ルイズが、呆然と、才人を見る。
それは、倒れながらも――見ていた、ジャイロも、同様だった。
「……な、……なんだと!? ……おい! オメー、一体……、そりゃ……、なんだぁ!?」
全くでたらめの剣の軌跡。腰も入らない、ただ振り回すだけの動きで、敵として向き合った青銅の騎士が、ずたずたにされる。
「……は。……はぁ、はぁ。……わ、わかんねー。でも体が、勝手に動く。……これなら!」
呼吸が整わないうちに、才人は突進する。
――馬鹿な。
小煩いだけの平民と思っていた少年が、予想以上の動きで、こちらを翻弄する。
残る手駒は、あと、三体。
次に繰り出す人形で――、確実に、仕留める。
そう誓って、繰り出したワルキューレが一直線に、才人に向かう。
激突する、力と力。
打ち勝ったのは――才人だった。
槍を断ち切り、返す刀で、人形の胴体を薙ぐ。
金属の塊を、まるで木の柱を押し切るように、力を込めて切り離す。
そして人形が完全に二つに分かれたとき。
――ピシッ。
才人の持っていた剣が、音を立てて、砕けた。

「――な?!」
それに一番驚いたのは、才人だった。
剣が砕ける。刃先から、柄まで、すべて粉々になった。
その瞬間、あれだけ力が溢れていた体が、急に重くなった。
右腕も、熱く痛み、疼く。
とても立っていられなくて――、才人は、その場に倒れこむ。
「ちょっと! どうしたのよ?!」
さっきまでの勢いを失って倒れた使い魔に、ルイズは声をかけるが。
才人は動かない。
それは――、ギーシュも、同じだった。
屈強なゴーレムが、僅かの間に、二体も、倒された。
あのジャイロとかいう男と違い、普通の平民と思っていた少年に。
その事実に――彼は数秒間、動揺した。
――ゼロは、一体何者を召還したのか!?
「……だがっ!」
才人は倒れた。どんな理由があるにせよ、これは好機に違いなかった。
あと二体のワルキューレ。うち一体は防御として、使うため、動かせない。
すでにジャイロは倒れ、瀕死の状態だったが――警戒はしておいて損はないと、判断した。
そして、残る遊撃手を、止めの槍として、放つ。
――武器だ。武器が、必要なんだ。
痛みと疲労で、おぼろげになる頭を全開にして、才人は考える。
剣を失くしたから、いま、自分は倒れている。
なら、剣に代わる武器があれば――もう一度、立ち上がれるかも、しれないと、思った。
都合のいい、話である。……もう、ここには他に、剣の一本も無い。
ワルキューレが使っていた槍も、元の土に戻っていた。
そこに――。いま、まさに止めを刺そうと、残る槍が襲い来る。
もう……駄目なのか。そう、諦めかけた、才人の手に。
……硬い感触があたった。
掴む。左手に持ったそれを、しっかりと見据えたとき、再び紋章が輝く。
――ジャイロが揮っていた鉄球を、いま才人がしっかりと、握っていた。

「……回転、だ」
彼は言っていた。回転、なんだ、と。
だが、自分に、そんなことができるか――、そう、才人は自分を疑う。
もう残された時間は無い。あと数秒も経たぬうちに、ギーシュのワルキューレは、才人を串刺しにするだろう。
やるんだ。――やるしか、ないんだ。
成功した試しなんて無い。ぶっつけ本番、しかもリハーサルもない一回勝負。
失敗する確率なんてとんでもないくらい高い。逆に成功する確率なんて、宝くじに当たるより……、低いんじゃないか、と、彼は思った。
でも……、やらなければ。そう、やってみなければ、スタートしなければ。
――確実に、ゼロなんだ!
覚悟を決めた才人が、鉄球を回転させようと――動かす。
それと同時に、迫り切ったワルキューレの槍が、才人に向かって――繰り出された。
両者の行動は同時!
全くの同一!
だからこそ、誰の目にも、才人が槍に貫かれたように――見えた。
……が。
「……え?」
思わず、バカと叫びたくなったルイズに、信じられない光景が飛び込んでくる。
――ばきっ。ごきっ。……めきり、ぐぎぃっ!
槍を突き出した姿勢のまま、ワルキューレが、停止する。そしてその中心から聞こえる――嫌な、音。
べきんっ! と、音が響くと同時に、騎士の胴体は盛大にひび割れ――。
ごばあぁっ!! 
破片となってワルキューレが砕け散り、その中心から、鉄球が飛び出す!
「……な、なに? ……なんなのよ、あれは……?」
ルイズが理解できないと言うように、ジャイロを見る。
「ありゃあ……、鉄球、だ……。だが、あれは……、違う」
「え?」
「あの……“回転”は……、実に単純な……ものだ。『破壊』する……。触れたものすべて、『破壊する』ため、だけに……。特化した“回転”……って、やつだ」
……どこで覚えやがった、あのガキ……。と、ジャイロは憎らしげに、そう零した。

「……な。……何ぃ……っ!……」
ギーシュが、動揺から、ぐらりと、体を傾けた。
「……ハハ。で、できた。俺にも、俺にもできたぜジャイロ! 回転させられたんだ! ハハ……やっ、た……」
そのまま、才人の全身から力が抜け、倒れる。
「サ、サイトッ?!」
倒れこんだ才人に、ルイズと――、シエスタが、駆け寄る。
……寝息を立てているだけだとわかって、二人は安堵したが。
決着は――もう、間近だった。
「馬鹿な……。莫迦な。……バカな」
呪文のように、目の前の現実を受け止めきれず、ギーシュは動揺を引きずっている。
その彼の前に、……誰かが、立った。
「『男の世界』だの『価値観』だの……さんざん喚いてやがったみてーだがよ……。オメーが信じてたもんのメッキが、剥がれたみてーだな」
瀕死のはずのジャイロが、――手に、あの鉄球を持って目の前に、立っている。
「な……、なん、だと?!」
言い返す。だが、強い口調と裏腹に、ギーシュの体はわずかに、後ずさった。
「所詮オメーの言うことなんざ、……本質に、ちっとも届いちゃいねーってこった」
ジャイロの視線が、ギーシュを射抜く。
「僕が……。僕が、虚構に惑わされているだけだとぉっ! ……よくも。よくもそんな!」
「違うってのか……。そんなら何でそんなに動揺してやがる。……気付いたんだろ。自分が見ていたモンが間違ってることによォ」
その言葉に、ギーシュの表情は、愕然としたものに、なる。
「ま……、オレにはどーでもいいことだがな……。それよりもよォ――。さぁどーする? ……こんだけ、近けりゃよォー。はずしっこはねぇなァ。お互いによォー!」
ジャイロがまた一歩、前に出た。
「いよいよ決着か!? 決着つけんのかァー!?」
その言葉に、ギーシュもまた、己を取り戻す。
「……決着? 当然だ! ここまで来て! 後戻りなどできない! できるわけがない!」
「お互いに……残った武器は『一つ』! 次の一撃が! 最後になるぜェ!」
「の……望むところだぁ――――――っ!!」
ジャイロが最後の投擲を全力で振りぬく!
ギーシュは最後の騎士に、命令を下す!
「オオオオォラアアアアアアァァァァァァァァァァッッッ!!!」
「ワァルキュゥゥゥゥゥゥゥゥゥウレエエエエエェェェッ!!!」

繰り出された鉄球の勢いは素早く、ギーシュのワルキューレが繰り出した槍の速度を越えた!
ワルキューレが咄嗟に、槍で鉄球の進行を防ぐ!
だが弱い! いくら密度が濃く青銅が詰め込まれているとしても! 怒涛の勢いが乗り移る鉄球の前には! 一切が止められる要因にならない!
「ワァルキュゥゥゥゥ――――レェェェエ! 最後の力を、振り絞れぇぇぇぇっ!!」
槍が盾として役に立たぬと分かると、ワルキューレは、その拳を、鉄球にぶつける!
右手を! 左手を! 右肘を左肘を右膝を左膝を!! 全身全霊を尽くし! 鉄球を骨身粉砕すべく!

連打する! 連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打
連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打
連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打
連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打ァァァァッ!!!

ワルキューレの拳に罅が刻まれた! 肘も膝も! 鉄球に当てた部位は全て、罅が入ってしまう!
だが――、遂に。
鉄球自身にも、亀裂が刻まれ――、鉄球は破壊されて……しまった!
「勝った!」
ギーシュが勝利を宣言する。
だからこそ、彼は――本質が見えていないと、暴かれたのだ。
「大したもんだ。まさか鉄球を破壊するとはなァ……。だが、まだ終わっちゃいねェー……。破片になっても、鉄球に込めた“回転”は、そのぐれーで消えやしねー」
「……な、何ぃ?」
そう、彼の言うとおり。
破片となり、微細となった鉄球が再び――ワルキューレの胴体に食い込んだ!
ばぎんっ! 罅が入る。
ごぎぃっ! 亀裂が入る!
「……あ。……ああ……あ、ああ!?」
「オタクの――、負けだぜ」
ニョホ、とジャイロが、小気味よく――笑った。
ごばんっ! と青銅の騎士を貫いた鉄球の破片が一つ、ギーシュの胴体に食い込んだ。
胸骨が砕ける音が、脳髄に響き、ギーシュは後ろに大きく吹っ飛びながら――、己が敗北したことを、……悟ったのだった。


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