ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

第一章 使い魔は暗殺者 中編

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第一章 使い魔は暗殺者 中編



リゾットとルイズが歩いて城に戻ると、すでに次の授業は始まっていた。
ルイズは渋々ながら使い魔を引き連れて次の授業に出席しようとしたが、リゾットはそれを聞いてあっさりと首を振った。
「悪いが、仲間たちの様子を見に行きたい」
その言葉遣いにルイズはご主人様に対する礼儀がなってない! 
と叫んだが、リゾットは何処吹く風といった様子だったので、まあしょうがないわね、と許可を出した。
何しろ、これ以上遅れたら教師にどれだけ怒られるか分からない。
ルイズは近くを歩いていた黒髪のメイドに声を掛けると、リゾットを救護室まで案内することと寮の自分の部屋の場所を教えるように言った。
ルイズと同じ年頃のメイドはそれを礼儀正しく承ると、リゾットを連れて救護室へと向かった。

話は少し遡る。
まだリゾットとルイズが草原を歩いている頃、コルベールによって運ばれた六人のうちの一人が目を覚まそうとしていた。
トリステイン学院の救護室はかなり広い。
戦争が起きた場合、この学院も砦として活用されるので、大勢の兵士を収容するためなのだが、平和なときは無駄な広さである。
しかし、今はコルベールが連れてきた六人の奇妙な平民たちが眠っていた。普段使用しないベッドにもシーツを敷き、布団をかけて昏々と寝ている。
水のトライアングルメイジである治療師は全員に外傷が無いのを確認し、目が覚めたときの説明役のために椅子に座る。
地方の小貴族の三男坊だった彼は、一応貴族ではあるが、領土は持ってない。
領土がないということは、職が無いということなので、働かなければいけない。
けれど、この職が中々見つからない。実力の無いメイジだと門戸は狭いし、やっと就職できたとしても給料は安い。
そのせいで危険だけれども金になる傭兵や泥棒などになるメイジもいる。
国はそんなメイジを貴族の恥さらしと呼んで必死になってとっ捕まえようとしているが、そんなことをする前に給料上げた方がいいんじゃないのか、と彼は思っている。

ちなみに彼は水のトライアングルであったし、治癒魔法に優れていたのでけっこう門戸は広かった。
そんな中でこの学院の治療師を選んだのは年老いても出来そうな仕事だったからだ。それに、子供たちと触れ合う事も楽しかった。
そんな彼も六十の半ば。そろそろ退職時期かと考えていた。けれど後任の治療師が来ないので今に至る。
(オスマン学院長もそろそろ誰か採用してくれんかのー。この歳だと患者をベッドに寝かせるのも一苦労なんじゃ)
コルベールが手伝ってくれたからどうにかなったものの、六十代の老人には少々骨の折れる仕事だった。
何しろ全員屈強な男たちだ。一人だけ女のような奴がいたが、しっかり筋肉はつけているようで、中々持ち上がらなかった。
(にしても、奇怪な格好だわ。最近の平民の間ではこんな服が流行っとるのかの。見たことの無い材質もあるようだし……。特にあの片目を隠すのは最先端流行ファッションとかいうやつかの?)
治療師は一番奥のベッドに寝ている男に視線を移す。
最初は女だと思った平民だ。
ちゃんと見ると男だと分かるのだが、他のがっしりとした骨格の男たちに囲まれると、アレ? となる。
奇妙な対比である。
しかし、彼らが運ばれてからすでに三十分ほど経過しているが、誰も起きない。
治療師は少し退屈してきたので、自室から本でも持って来ようかと腰を上げた。
と、そのとき、
「……う……うぅ……?」
眠っている一人が僅かな唸り声を上げた。
見れば一番奥のベッドで横になっていた妙な目隠しをつけた男がもぞもぞと動いている。
治療師は驚き、彼にしては早いスピードで側に近寄った。
「おお、目が覚めたかの?」

枕に顔を擦りつけ、ごにょごにょと何かを口にしている男に、治療師はそう尋ねた。
「…………ん? 何だ、ここは……。オレはいったい…………はっ、蛇だ! 蛇が!」
すると、声に反応して目を開けた男は突如として上体を起こして叫んだ。
治療師はそれを避けようとしてひっくり返りそうになったが、後ろの壁に手をついて何とか体を支える。
「お、落ち着きたまえ。ここに蛇は居らんよ。ここはトリステイン魔法学院の救護室じゃ」
「って、ここは駅じゃない? テルミニ駅にはこんな石で出来た部屋はないはずだ……。
ということは、何者かに運ばれたという事か? ブチャラティの奴らではないな……。
ボスの配下か?」
が、男は治療師の声が聞こえていなかったらしい。
ブツブツと独り言のような声で早口に何かを喋っていた。
治療師はこの平民が『サモン・サーヴァント』で呼び出されたことを思い出して、男の混乱に納得する。
そうして、もう一度声を掛けた。
「ここはトリステイン魔法学院だよ。
君たちは生徒の『サモン・サーヴァント』によって呼び出されたんだ。
ここまではミスタ・コルベールが魔法で運んできてくれたんだよ」
ぴくっ、と男の肩が揺れた。どうやら今度はちゃんと耳に届いたようだ。
治療師はこれで一安心と息を吐きかけて、
「トリステイン魔法学院? 『サモン・サーヴァント』? 
魔法で運んだ? …………どういうことだ? 答えろ! お前は誰だ?!」
ぎょっとした。落ち着くどころか益々興奮した男が治療師の胸倉を掴んで喚く。
だらだらと汗を流して、眉は吊り上がり、目は爛々と輝き、唇の端は捲りあがっている。そのあまりの剣幕に治療師はひぃっと、小さく悲鳴を上げた。
怖すぎる。左目だけがこちらを睨んでいるのも怖い。
杖は職務机の脇に立てかけているので魔法を使うことも出来ない。
「答えろって言ってるだろ?! 
ここは……、ここは……、魔法が存在する世界なのかッ?!」
「……………………………………………………………………
……………………は?」
ああ、わしの人生オワタと、心の中で始祖ブリミルに対する祈りの言葉を唱えていた治療師は、
続いてとても嬉しそうに発された間抜けな質問に、心底気の抜けた声を出した。

プロシュートはぼんやりとした気持ちでどこかに立っていた。どこかは分からない。
というより、足に何かが触れている感じがしない。
黒で塗りつぶされた空間の中に、曖昧な感覚のまま立ち尽くしていた。
自分は死んだはずだ。と、プロシュートは思った。
ブチャラティと戦い、列車の外に飛ばされ、ブチャラティの策略にはまり落とされた。
それでもペッシを援護するために車輪に捕まり、ザ・グレイトフル・デッドを使っていたが、
段々意識が薄れていきとうとう…………途切れた。
――ペッシは娘を手に入れられたのだろうか? 
メローネとギアッチョはどうしているのだろうか? 
リゾットはボスを倒せたのだろうか?
残された仲間の事が気に掛かるが、プロシュートには確かめる術も無い。
ただ、この漆黒の闇に囲まれていることしか出来ない。
それにしても、ここはどこなのか。天国でも地獄でも無いことは確実だが。
死後の世界とはこういうものなのだろうか。
何もすることが無いので、プロシュートはこの場所について考える。
けれど、すぐに堂々巡りするだけだと気付いて、別のことを考えようとした瞬間、
ぐいっと何かに引かれる感触がした。
――何だ?
プロシュートは錆び付いた歯車のように働かない思考で呟いた。
その間にもプロシュートはぐいぐいと引っ張られていく。
上か下かは分からないが頭の方向へと、何かがプロシュートを運んでいくのを感じる。
それと同時にプロシュートを囲っていた闇が薄くなっていった。
頭上から光が射してきたのだ。
それは瞬く間にプロシュートの周りの闇を払うと、さらに輝きを強くする。
――くっ、目が!
プロシュートは反射的に顔を庇った。
そうして、あまりの眩しさに目が開けられなくなったとき、目が開いた。

「……か! ディ・モールトッ! ディ・モールトッ! よいぞぉッ!」
目が覚めた瞬間、プロシュートは自分がベッドに寝ていることに気付いた。
白い、清潔そうなシーツだ。あまり使われて無いらしく、生地は少し硬い。が、手触りはよかった。
「…………またメローネがゲームをやってるのか。
普段は冷静で頭脳派なんだが、ジャッポネーゼが絡むと途端に人が変わるからな……。
それがなけりゃあイイ奴なんだが……」
起き抜けに聞こえたメローネの歓声から、ここがチームの家だと判断したプロシュートは
二度寝をしようともう一度毛布を頭から被り――、
「ちょっと待てぇぇぇぇぇッッッッ!!!!! これはどおぉぉいう事だあぁぁぁぁぁッッッ!!!!」
有らん限りの音量を振り絞って叫んだ。
そうして、それを耳にした残りの仲間たちが、
「なんだ?! プロシュート! 敵か?!」
「おいおい、プロシュートォ。いきなり叫ぶなよ。煩いだろぉ」
「プロシュート兄貴! なんかあったんですかい?!」
「うっせぇぇなぁプロシュート。オレは眠いんだ。起こすなよ」
と、プロシュートとの関係がよく分かる言葉を発してくれた。
ホルマジオとペッシは非常事態だと思い、勢いよく上体を起こした。
イルーゾォとギアッチョは耳を塞いで眠る気満々の姿勢だ。
そんな二人の反応――ホルマジオとペッシは飛び起きたのでよしとする――にプロシュートはギアッチョよりも盛大にブチギレた。
「これが叫ばずにいられるかぁッ!!! 
なんでオレは……オレたちはここに居るんだッッ?!! 
オレたちは……それぞれに別れてブチャラティたちを追っていたはずだ!!!」
その言葉に、ベッドの上に居た六人は、この状況の異常さに気付いた!

「そうだ! オレは……ナランチャの野郎に殺されたはずだ!」
「オレはあの三人と戦って変なウイルスに……。
クソッ、もう少しで鍵を手に入れることが出来ていたのによぉ!」
「お、オレは兄貴の仇を取ろうとしてブチャラティにバラバラにされたはずなのに……。
な、なんでこんなところに?」
「オレは……、ミスタの野郎を殺そうとして、新入りのヤツに殺された……。
クソクソッ! あと一歩だったのによ!」
「オレはブチャラティを列車から落とそうとして逆に落とされた。
最後の力でザ・グレイトフル・デッドを使ったが……。駄目だったと言うわけか」
五人はベッドから飛び降りると、輪になって互いに自分たちが失敗したときのことを語り合った。
そして、全員が語り終わると同時に、部屋に沈黙が落ちる。
自分たちは負けた。それならばリーダーは? 
数少ない情報でボスを倒せたのだろうか。それとも、死んでしまったのか。
「…………とにかく、なんでオレたちはこんなところにいるんだ? 
全員、別々の場所で死んだっていうのに、こんなところに揃ってるのはおかしいだろ」
まるで通夜か葬式のような雰囲気になった気分を吹っ切るためにプロシュートは強引に話を切り替えた。
最初に気付いたせいか、当初の驚愕は比較的治まっていた。
混乱して喚いていても、任務の失敗を思い出し沈鬱としていても、意味は無い。
今やらないといけないことは、この状況を把握してリーダーのところへ帰ることだ!
五人は戸惑い揺れていた瞳に決意と覚悟を宿すとぐっと表情を引き締める。
そうして、互いの顔を見合わせた――ところで、メローネがいないことにようやく気付いた。

「おい、メローネのヤツはどうした?」
「まさかあいつだけここに来ていないとかいうオチじゃねーよな」
「そ、そんな……。メローネだけ居ないなんてこと……」
「チェッ、あいつだけ仲間はずれってことか?」
「いや、オレはあいつの声で目が覚めたんだ……」
仲間が一人居ない。そのことに妙な不安を感じて四人は顔を見合わせる。
が、一人プロシュートだけは確信をもって周りを見渡し……、
「おお! すごいぞ! こんなことも出来るのか!」
「ほっほっほっほっ。
これは基本の基本である『錬金』で、位が高いメイジならさらにすごい事も出来る。
わしはトライアングルメイジの中級クラスぐらいの実力だからそうはできんがな。
それに、『錬金』を得意とするのは土のメイジだから水のメイジであるわしはあんまり使用せん」
「なるほど、なるほど。相性というものだな? 
ふむう……しかし魔法というのは貴族の血を引かないと使えないのだろう? 
それなのに全てのこういった作業を魔法だけで行っているのか?」
「うむ。メイジは数が少ないからね、非効率ではある。
それに、こういった仕事は給料が低い事もあって専門的に行うメイジはほとんど居らん。
自分が必要だと感じたときに自分が必要な分だけ作るというのがメイジの基本になっとる」
和気藹々と語り合うメローネと、黒いローブを纏った変な老人を見つけた。
こちらがすごい覚悟をした後で、少々盛り上がっていたところなので、そのギャップはかなりすごかった。
どれくらいすごいかというと、
シリアスなシーンでスマイル全開でタップダンスを踊るリゾットを目撃してしまった! ぐらいの衝撃である。

「………………………………………………
………………………………………………」
「………………………………………………
………………………………………………」
「………………………………………………
………………………………………………」
「………………………………………………
………………………………………………」
「………………………………………………
………………………………………………」
さっきとはまた違った意味で不穏な空気が五人を包む。
ペッシは、どこからともなくゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴという音や、
ド ド ド ド ド ド ド ドという音が聞こえてきた気がした。
なんだか周りに居る仲間や兄貴の顔が大変な事になっていっている。
反対に自分はどんどん脂汗を流しているような気がしてきた。
(プロシュート兄貴ィィ~~~~~ッ。目がイってるぜ~~~~~ェェッッ)
ペッシは後退る。ブチャラティとの戦いでマンモーニから脱却したとはいえ、
まだまだ経験の浅いひよっこでしかない彼には、この本物たちの放つ気配は重い。
「なるほど! なるほど! ディ・モールト! ティ・モールト! 
よく分かったぞぉ! だからこそ貴族は平民を支配できているのだな! 
そういった科学技術を独占する事で!」
「そうとも言えるな。平民には鉄を精製したり火の秘薬を作ったりすることはできん。
ところでカガクとはなんなのだ?」
「あっ! あっ! それは秘密だな。
オレたちにとって重大な秘蘊(ひうん)だからだ。タダで教えるわけにはいかないものだ」
そんな彼らとは正反対に、メローネは至極楽しそうに会話を続けている。
ああ、こんなに楽しそうなメローネはベイビィ・フェイスの息子を操作しているときか、ジャッポネーゼ絡みのときだけだ。
そう、老人と語り合う彼は、とても、とても、とても――――幸せそうであった。





ブッチィィィィ―――――z______ンッ!!!!!




その瞬間、何かが切れる音をペッシははっきりと耳にした――と思った。
「めぇぇぇぇぇぇろぉぉぉぉぉぉねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ペッシを除く全員が、声を揃えて怒鳴る。
あまりの大音量に毛布が浮かび上がった。枕も宙に浮く。ベッドも床から足を離した。
地球のギネスブックには、『閉店だ!』と叫んだ酒屋の亭主が窓ガラスを割った記事があるが、
そのレベルの大声である。ローブを着た老人は漫画のように飛び上がった。
しかし、メローネはふんふんと鼻歌を歌いだしそうなくらいの上機嫌な空気を撒き散らしつつ、
「オマエたち起きるのが遅いな。寝てばっかりいると脳が溶けるぞ」
と、のたまった。
――ちなみにそれに対するプロシュートたちの返答は――スタンドでの容赦ないオラオララッシュであった(人、これを自業自得と言う!)。


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