ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

見えない使い魔-12

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翌日、ワルドたち一行は山を登り、船に乗り込んだ。途中、ンドゥールは山
の港、空飛ぶ船、浮遊大陸アルビオンに驚いていたが、まあそういうことな
のだろうと一人納得していた。料金はキュルケとタバサ、のおかげで予定以
上の額を払うことになったが問題はなかったようだ。
六人は一室を借り切って、これからのことを話し合った。
「まずアルビオンに着いてからだが、真正面から城へ入ることは不可能だ」
「でしょうね。いくらこっちがトリステインからのものって主張しても追い
返されちゃうわ。もしくはその場で切り捨てられるなんてことも」
「か、勘弁してくれよ」
ギーシュがぶるると身震いした。
「だから、僕たちがするのは――」
「伏せろ!」
ンドゥールがワルドの声を遮って叫んだ。直後、船体を大きな振動が襲った。
「な、なんなの!?」
「どうやら賊のようだ。いまのは砲撃を受けたらしい。こんな空でも出るの
だな」
「なに感心してんのよ! ワルド、撃退しましょう!」
ルイズがそう言うが、ワルドは首を横に振った。
「よしておこう。乗り込んできているものたちは倒せても、砲撃をなんども
食らったらこの船がもたない。それに船員や他の乗客の命もある。さすがに
守りきることはできないよ」
その言葉にルイズは渋々とだが納得した。
六人が黙って待っていると、廊下を乱暴に歩く足音が近づいてきて、彼らの
部屋の扉が開かれた。
「おや、貴族さまがこんなにいるじゃねえか。こりゃ身代金がたんまりもら
えそうだ」

六人は空賊の船に連行されていった。ワルドやルイズなどメイジは杖を取り
上げられ、ンドゥールは剣と杖を取り上げられた。彼はその身なりと瞳から
メイジとは判断されなかったが、念のためというらしい。
船倉にぶちこまれると、見張りに聴こえぬようにルイズは言った。
「さあ、脱出しましょう」
「どうやってだい?」
ワルドが尋ねると、ルイズはンドゥールに言った。
「できるでしょう?」
使い魔に尋ねる。水を操ることができるのだ。水筒は奪われていない。なら
ば見張りを倒すことなど造作もない。しかしンドゥールは断った。
「できるが、する必要はない」
「……なんでよ」
ルイズが問う。彼女だけでなくワルド、キュルケやギーシュも疑問を持った
瞳を向けた。タバサは興味なさそうにしている。
ンドゥールは答えず、扉に近寄っていき人を呼んだ。頭に鉢巻をした男がや
ってくる。
「なんだよ。うっせえな」
「船長と話がしたい」
「はあ? んなのできるわけねえだろうが。船長はお忙しいんだよ」
「それでは、船長に扮しているアルビオン王国のウェールズ皇太子と話がし
たい」
 しばしの間、静寂に包まれた。
「なんだってえ!」
「ちょっとそれ本当なの!?」
「あらあ、ルイズったらわたしのダーリンの言葉を疑うの?」
「疑うって、そりゃ嘘とかつく男じゃないけど……て、その前になに人の使
い魔をそんな言葉で呼んでるのよ!」
「あらやだ嫉妬?」
「嫉妬って、そんなわけないでしょ!」
「だったら別にどうだっていいじゃないのよ」
「よくないわよ!」
「静かに!」

ぎゃあぎゃあ騒ぐルイズたちをワルドが一喝する。ようやくそれで静けさが
舞い戻ってきた。
「ンドゥール、それは本当なのかい?」
「本当だ。あちこちで交わされている会話から推測される。ちなみにこの見
張りの男はドレンというらしい」
男はぎょっと腰を抜かした。
その反応からそれが事実だと知れ渡った。
「なら、君」
ワルドは見張りを呼ぶ。
「こちらにおわすラ・ヴァリエール嬢はトリステイン女王陛下じきじきに任
命されたアルビオン王室への大使だ。密書を言付かっている」
ワルドがそういうとルイズは懐に隠していた手紙を出してきた。印にトリス
テイン王家の紋章が刻まれている。見るものが見れば一目で本物とわかるも
のだ。見張りは、すぐに飛び出していった。
しばらくするとその見張りがまた走ってもどってきた。彼は少し呼吸を整え
て、こう言った。
「頭がお呼び、だ」
六人は男に案内されて船倉を出て行った。ギーシュは杖のないンドゥールの
手を取って歩いていく。ルイズは極度の緊張のためか彼のことには頭が回ら
なかった。キュルケもだ。
(結構薄情じゃないか?)
そう思いながらも彼は文句を言わなかった。
歩いていくと窓から甲板が見えた。そこにはワルドのグリフォン、それとタ
バサのシルフィードにキュルケのフレイム、彼のヴェルダンデもいた。ほっ
としたところ、視界の隅に土の塊が見えた。
(なんだあれは)
そう思ったがすぐにそれを記憶の中から消してしまう。

船長室は豪華なディナーテーブルがあった。その上座に派手な格好をした船
長らしき人物が先に水晶が付いた杖をいじくっていた。なるほど、メイジで
はある。だがとても皇太子には見えない。ギーシュはそう思った。
ワルドは両脇に立っている護衛らしき男たちと、船長をじっと見る。鷲のよ
うに鋭い目だ。
「……上手い変装ですね。ウェールズ皇太子殿」
「ばれてしまっては下手の部類に入るだろ」
船長はため息をついた。そして眼帯やかつら、ひげをあっさり外した。
ギーシュ、彼だけでなくキュルケにルイズも驚いた。先ほどの野暮ったい男
が金髪の美青年になったのだ。
彼は居住まいを正し、堂々と名乗った。
「アルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ」
彼はにこりと笑って六人に席を勧めた。
「さて、それでは大使殿に用件を聞きたいところだが、その前に君たちのこ
とを教えてはくれまいか?」
「トリステイン王国魔法衛士隊、グリフォン隊、隊長、ワルド子爵」
まずはそうワルドが名乗った。そして次々とルイズたちが名乗っていく。タ
バサはキュルケが紹介した。
「そこの盲目の彼は、」
「わ、私の使い魔であられます。名はンドゥールです」
「ほう。船倉に閉じ込められながらも船員の会話を聞き取るとは、すばらし
い耳だ。しかし、本当にそうなのか?」
「というと?」
ンドゥールが尋ねる。
「なに。どこかより我々が空賊に身をやつしているという話を聴いたのでは
ないかと気になったのだ。王家の関係者でありながら貴族に寝返ったものも
いるのでな」
「つまり、俺が間諜ではないかと疑っている。こういうことか?」
「そのとおりだ」

「ち、違います! こいつは本当にただの使い魔です!」
ルイズが慌てて庇うがウェールズに睨まれると言葉が止まってしまった。美
形の好青年であるが、そこは最後の皇太子。誇り高き獣を思わせる雰囲気を
身に纏っている。
「それで、どうなのかね?」
「違うといったところで信じるのか?」
「いや、すまない。それはできない」
鳥肌が立ってしまいそうな威圧感。ギーシュはそれを向けられていないにも
かかわらず、身体の震えが止まらなかった。仮に彼が対象であれば無実であ
ろうと首を縦に振ってしまうだろう。
ンドゥールは迷っていたが、やがて名案でも思いついたのか人払いを頼んだ。
とはいえそれはルイズたちだけをである。
「それでは出て行ってくれ」
五人はすぐに追い出された。
部屋の外に出てギーシュはまず。ルイズに尋ねた。
「彼は何をする気なんだい?」
「知らないわ」
ルイズは心配なのか落ち着かなく何度も船長室の扉を見る。
中からは怒鳴り声やら何やらが聴こえてくる。そばに見張りの船員がいなけ
れば開けてしまっていることだろう。
しばらくし、扉が中から開けられた。ンドゥールだった。
「無実は証明できた」
「そう。よかったわ。でもなにやったのよ」
「個人的秘密だ」
六人は再び席に着く。ウェールズはえらく疲れた様子で深呼吸を繰り返して
いる。一体なにをしたんだとギーシュは背筋が寒くなった。
ウェールズが気を取り直したのか、衣服を正してルイズを見た。

「それで、密書とは?」
ルイズが懐から手紙を取り出した。それを持って恭しく近づいていくが途中
で立ち止まりこう尋ねた。
「その前にウェールズさま、影だということはありませんか?」
「ああ違うが、こっちが最初に疑ったからな、証拠をお見せしよう」
彼は自分の薬指に光る宝石を外してルイズの指にある宝石に近づけた。二つ
の宝石は共鳴しあい、虹色の光を振りまいた。
「水と風は、虹を作る。王家の間にかかる虹。君のそれはトリステインに伝
わる水のルビーだろ。これは風のルビーだ」
「大変失礼をばいたしました」
ルイズは一礼をして手紙を差し出した。
ギーシュはこれで任がほとんど終わったのだなと思った。あとは皇太子より
手紙をかえしてもらい、帰るだけだ。襲撃されたりすることもあったがほと
んど何事もなく終わったのだ。思い返せば、何もしなかったなあ。ギーシュ
はぼんやりと思った。
「事情は了解した。あの手紙はなにより大事なものだが姫の望みは私の望み。
しかし、今この場にはない。面倒だがニューカッスルの城にまでご足労願い
たい」
ギーシュはまだ手柄を立てられるという喜びとまだ終わらないのかという残
念と二つの感情に気づいた。矛盾するそれらはこれから先、彼がどういった
方向に進むかを決める標になる。
ただの貴族か、ただじゃない貴族か。


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