ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

第八話 『青色上昇気流』

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第八話 『青色上昇気流』

微熱の誘惑から一日たった昼休み、ウェザーは図書館へ向かっていた。
飯は抜かれたがシエスタからの供給ルートを絶たないでくれたので腹は膨れている。良心が残っていたのか、それを忘れるほど頭に血が上っていたからかはわからないが。
図書館を目指す理由は、今ルイズの側にいると理不尽な怒りを買いそうだったからである。
代々ライバル関係にあるツェルプストー家の女と自分の使い魔がベッドで一つになれば、プライドの高いルイズが爆発するのも頷けるが、鞭で叩かれてやる気は毛頭なかった。
もっとも、いい加減帰る手段を見つけなければならなかったのもあるが。ルイズとは使い魔になる代わりに情報をもらう約束だったがとんと見つからないと言う。ならば自分で探すしかない。
正直決着はもうとっくについたハズだが、確認しないことには安心できない。
シエスタに図書館の場所を聞いてきたのだ。
そんなこんなで図書館についたウェザーは早速屹立する本棚を物色し始めてあることに気が付いた。
文字が読めないのだ。
英語に近い感じはするし、ニュアンスは掴めそうだがそんないい加減な情報ではお話にならない。
ルイズ曰く使い魔の特典として言葉が通じるようになっているらしいので、文字も大丈夫と高をくくっていたがこれでは時間がかかりすぎる。
本棚の前で顎に手を当て途方に暮れていると、とすん、と脇腹に何かがぶつかってきた。横を向くと青色の髪が目についた。どうやらこの少女がぶつかってきたらしい。少女はぶつけた頭をさすりながらウェザーの目をじっと見てきた。
「ごめんなさい。よそ見をしていた」
それだけ言うと踵を返したので思わず呼び止めた。
「・・・何?」
「・・・すまないんだが簡単な語学書かなんか知らないか?探してるものがあるんだが俺の国の字と違うから読めない・・・」
首だけこちらを向いていた少女はしばらく固まっていたが、すぐに杖を振るった。身の丈に合っていない杖が本棚を差すと、そこから一冊の本が一人でに抜き取られ、ウェザーの手元にやってきた。
以前見た『レビテーション』だと気付く。


「しかしこれは・・・児童書じゃあないか?」
「文字が読めないのなら語学書は無意味。まずは視覚から学ぶべき」
淡々と言われて納得する。確かにその方が覚えやすそうだからだ。
「何て題名なんだ?」
「・・・『お天気おじさん』」
「・・・そうか」
表紙には雲に乗ったサンタクロース見たいなおじさんの絵が描かれていた。
少女も自分が探していた本を見つけたのか、机に座ったのでウェザーも正面に座る。
しばらくは本を読む静かな時間が流れていたが、本に慣れていないウェザーは飽きてきたので、ウェザー・リポートで風を起こし手を使わずに適当にパラパラとページを捲っていた。
すると、コツン、と何かが頭にあたった。どうやらあの長い杖で叩かれたらしい。
ジロリと少女を睨むが、淡々とした口調を崩すことなく、
「行儀が悪い」
とだけ返されてしまう。
この程度で叩くなと言おうとしたが、少女からは反抗を許さない『凄味』があったのでやめた。怒っているのだろうか?
その時、昼休みの終わりを告げる鐘がなった。少女は本を借りるらしく司書のもとに向かう。ついでとばかりにウェザーから本をかっさらい、まとめて借りてくれた。
「本は手で読むもの」
借りた本を手渡して少女は去っていった。
貸出し名簿に書かれた少女の名を見て呟く。
「タバサ・・・か」
感謝を述べ忘れたことを悔いながら、また会えたときでいいかと納得した。


ウェザーはせっかくの天気だからと、裏庭にある木に腰をおろして『お天気おじさん』を読み進める。木漏れ日とそよ風が優しく肌に触れるのを楽しみながら。
そんな様子を別の木の陰から覗く影があった。
(きゅいきゅい、シルフィードはお姉様に言われた通りあのモコモコ帽子さんを見張っていますのね!)
つい先ほどウェザーと接触したばかりのタバサの使い魔、風韻竜の幼竜シルフィードである。
もっとも、幼竜とはいえ竜は竜。かなりの大きさがあり、当然木に隠れきれるはずもなく、体の四分の三がはみ出ていた。
誰が見ても隠れる気があるのかと突っ込みたくなるのだが本人はいたって真面目である。敬愛するタバサから託された使命に燃える瞳が空回りしているのは確実だった。
当然ウェザーはとっくに気付いていた。それこそルイズ、フレイムの三人?でこっそりウェザーを尾行していた時から気づいていた。が、実害がない以上は手を出すつもりはなかった・・・なかったのだが。
(あれは突っ込み待ちなんじゃなかろうか・・・)
そんな心配をよそにシルフィードはほくそ笑む。
(我ながら完璧な隠密なのね。モコモコ帽子さんちっとも気付いてないし)
「おい」
(む、誰かを呼んでるのね!きゅいきゅい、こんな場所で密会なんてこれは報告しないと)
「おい、お前だよ」
(きゅい?何かこっちを見てるのね)
シルフィードは後ろを振り向くが誰もいない。不思議に思い首を戻すといつの間に移動したのか、ウェザーが目の前に立っていた。
思わず固まるシルフィードとそれを見上げるウェザー。シルフィードの顔には見る間に嫌な汗が浮きだしている。二人の視線だけが交差したまま時は流れる。
(あるうぇ?こ・・・これはもしかしてバレてるのでは?じっと見てるし~!わ、私は一体どうしたら?)


切羽詰まって頭の中がぐるぐるになり始めた時、ある日のタバサの言葉が思い浮かんだ。
(何?悪事がバレてどうすればいいかわからない?それは隠し通そうとするから。逆に考えることが大事。『捕まらなければ無問題だ』と考える。)
(ハッ!お姉様ッ!わかったわお姉様!お姉様の考えが『言葉』でなく『心』で理解できました!)
逃げ出すと思った時はお姉様!すでに行動は終わっているのね。
死中に活を見い出したシルフィードは素早かった。まず脚力を駆使し一瞬で空中へ飛び上がり、ウェザーを吹き飛ばすように羽ばたいて一気に五十メイルまで舞い上がったのだ。
「きゅいきゅい!(何とか振りきれた見たいね!)」
下を見るとウェザーの姿はない。吹き飛ばし過ぎたかと慌てたが、尻尾に違和感を感じた。
「『ウェザー・リポート』・・・ギリギリだったが掴めたな」
何とウェザーはシルフィードが飛び立つ瞬間に尻尾を掴んでいたのだ。何とか振り落とされないようにさらに強く握ると、急にシルフィードが身悶えし始めた。
「きゅいきゅいきゅい!(ああ!やさしくしてやさしく!尻尾をにぎにぎしないでッ!感じる、うあああ、ダメもうダメ~ッ!)」
そのまま、二人仲良く墜落してゆく。
(ああ、さようならお姉様。いつも食事に少しづつはしばみ草を混ぜていたのを見たときはさすがに逃げようかと思いましたがやっぱりお姉様が大好きでした・・・)
シルフィードは完全に諦めていた。しかし、地上五十メイルから落ちた地面はやけに柔らかかった。まるで空気に包まれているかのように。
「『ウェザー・リポート』エアバッグをつくった」
何かでクッションを作ったということしかわからなかったが、
(と、とにかく助かったわ・・・)
しかし安堵の息を吐く間もなく、ウェザーが凄む。
「なぜ監視していたのかは知らないが、見つかったからには『覚悟』はできているよな?」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・
(あ、やっぱりさようならお姉様)


地表からマグマのように吹き上げる上昇気流に乗り、風になった青は太陽を目指す。百・・・三百・・・五百・・・ぐんぐんと上昇して遂には雲を突き破る。
「きゅいきゅい!きゅ~いきゅい(スゴイスゴイ!こんな良い風初めてなのね!)」
「悪いなこんなこと頼んで。『ネバーエンディングストーリー』を見て以来竜に乗るのが夢だったんだ」
「きゅいきゅい!(こんな良い風ならいくらでも飛んじゃうのね)」
シルフィードを捕まえたウェザーは、空を飛んでみたいと頼んだのだ。命が助かるならと変に勘違いしたシルフィードは二つ返事で請け負った。風をつかんで飛ぶというシルフィードにウェザーは上昇気流を与えたのだ。
シルフィードは腹を雲にかすめるように滑空しながら上機嫌に話をする。ウェザーは『雲のスーツ』で体を保護しているので高所でも問題はない。
「きゅいきゅい!(最後はは急降下でシメね!)」
何を言っているのかウェザーにはわからないが、何か動くことだけは理解できたので突き出た背びれを強く握る。
それが合図となり、シルフィードが勢いよく雲海に潜る。視界が真っ白になるがしばらくする遥か下方には粒ほどになったトリステイン魔法学院が見えた。みるみる地表が目の前に近づき、激突寸前で一気に地面と水平になり、勢いを殺すために体を立てて着地する。
「きゅい~(到着~)」
「ありがとう。いい経験ができた」
ウェザーが労っていると第三者の声がした。
「おかえり」
「きゅ、きゅい(お、お姉様)」
声の主はタバサだった。生徒である彼女がいるということはもう放課後か。少し遊びすぎたか。
「お前も竜に乗ってみたいのか?」
「この子は私の使い魔」
「なに?そうとは知らずに勝手に乗り回してしまったな、すまない」
素直に謝るとタバサは首を横に振りシルフィードに歩み寄った。
「悪いのはこの子」
その一言でシルフィードは固まってしまった。


(あなたは一体何をしているのか)
(隠れて監視してたら見つかりました。あの人スゴイです)
(どこに?)
シルフィードが首で隠れていた細い木を示す。
(・・・あなたには再教育が必要)
(お姉様怒らないで、お姉様)
因みにこのやり取り、ウェザーの視点からだと少女と竜が見つめあっているだけにしか見えない。
言うべきことを言ったタバサが帰ろうとするのを呼び止める。
「本、ありがとう」
「それだけ?」
「ああ、さっき言い忘れてたろ」
タバサはその言葉を噛み締めるように頷くと、視線を上げた。
「私はタバサ、この子はシルフィード。それとあなたの主人があなたを探していた」
それだけ言うとタバサは歩き出した。その後ろを項垂れたシルフィードが追いかける。

寮の入り口で腕を組んで立っているルイズを見つけた。同時に向こうもこちらに気付いたらしく大股で歩み寄ってきた。
「あんた今日一日どこにいたのよ!」
「ああ、本を探していた。俺を探していたらしいな」
「誰に聞いたのよ?」
「タバサだ」
「タバサって・・・キュルケの友達の?あんたいつの間に手出したのよ!」
「本を探してもらっただけだ」
「ふーん?ならいいけど・・・」
半信半疑な眼でこちらを見るルイズの頭に手を置く。
「一日ほっぽいたからってすねるな」
「す、すねてなんかないわよ!子供じゃないんだから頭に手なんか置かないでよね!」
「すまないな。で?探してた理由はなんだ?」
腕をどかそうとしていたルイズがピタリととまりそっぽを向く。
「つ、使い魔は常にご主人様の側にいて危険から身を守らなきゃダメなんだから、アンタは私の側にいなさいよ!」
「・・・わかった」
「だから食事もあんまりメイドのところで食べないでよね」
それはつまり食堂で食えということか。しかしそれだと・・・
ウェザーの心配を悟ったのかルイズが付け加える。
「いざというときにお腹がすいて動けないんじゃ困るから、少しだけ私のご飯を分けてあげるわ。わかった?ウェザー」
心配そうに覗き込んでくる瞳を見つめながら、監獄で出会った少年を思い出す。彼もいつもこんな不安そうな目をしていた。はたして神父との戦いで生き残れるだろうか。
ウェザーは知らない。その少年が託した力を使い『悪』を倒したことを。
「わかったよ。だがまだ夕飯まで時間があるから、部屋で本を読ませてくれ」
「いいけどなんの本を借りたの?」
「・・・『お天気おじさん』」
「・・・そう」
中に入る前に、ふと空を見上げて飛行機雲を探したが見つからなかった。
「そうか、シルフィードは竜だったな」
一人で苦笑していたらルイズに「変なやつ」と笑われた。

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