ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

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「……ぐ、ぅ……!」
ジャイロが呻いた。
左の脇腹にぐっさりと――ワルキューレの槍が食い込み、貫通していたから。
それは腹から背中にかけて、大きな穴を穿っている。どれほどの痛みがあるものなのか。少なくとも――これからまた戦おうなどと、普通は考えないぐらい、痛いはずだろう。
――勝負、あった。
誰もが、そう思う。すでにジャイロの傷口からはおびただしい出血があり、芝生は赤く、絨毯のように染め広がっていた。
だが、それでも――、ギーシュは矛を収めようとしない。
槍を引き抜いたワルキューレに、命令を下す。再び、……血に塗れた切っ先が、獲物に狙いを、定める。
「……ま、待ちなさい! 待って! ギーシュ!」
声を上げたのは、ルイズだった。自分の使い魔がいま、まさに止めを刺されようという場面にきて、ようやく。
取り返しのつかないことが起きていたのだということに……、気が付いたのだった。
「一撃目は……、君の動きを止めるために、放った。……だが、二撃目は違う。これで完全に……この『決闘』に。……決着を、つける」
ギーシュの視線は、貫くべき敵の心臓から外れない。
だから――この争いを止めるために、二人の間に割り込んだルイズにも、視線は、移動しなかった。
「そこまでよギーシュ! この決闘は貴方の勝ちよ! だから! もうお互いに敵意を向け合う必要は無いわ! ワルキューレを収めて!」
ルイズが宣言する――この戦いは、私の使い魔の、私達の、負けだと。
「……ぐっ。……げほォ……。……な、何言ってやがる……チビ。……ま、……まだ決着は、ついちゃいねぇ……、ぜ」
口から込みあげた血反吐を吐きながら、ジャイロが強がって見せたが。
「何言ってるのよ! そんな様で、これ以上戦えるわけないじゃない!」
何か言いかけたジャイロだったが、血を吐き出して、言葉が不鮮明なまま、途切れる。
「負けよ! あんたの負け! それでいいでしょ!? それ以上強がって、なんになるっていうの!? あんたホントに死ぬ気?!」
ルイズが、血を吐いてうつ伏せているジャイロに叫ぶ。
彼女も、知っていた。彼がこんな姿になったのは、――自分の、せいだと。

あの、とき。
ジャイロがルイズを見て、彼女に襲い来る破片を防いだから。
彼が、その代わりに、――致命的な傷を負う契機を作ってしまった。
それに、我慢できなかった。
それが、許せなかった。
自分の命令を無視する使い魔も許せなければ。
魔法が使えない、未熟なメイジである自分も許せなかった。
もし魔法が使えたなら、自分に飛んできた破片くらい、自分でどうにかできただろうに。
だから、ルイズは。この決闘を、ここで決着させたいと、思った。
終わりにしたかった。
これ以上、使い魔が傷を負う姿を――見たいと、思わなかったから。
「ここで死ぬっていうの!? 何よそれ!? こんなところで死んで、あんたに何の得があるっていうのよ!?」
その答えに。……ジャイロは、腕で見えない何かを、どかすような、仕草をした。
「……ど、」
「もう止めるの! ここで終わりにして!」
「……け。……どけ、おチビ……そこに突っ立ってると、ヤベェ、ぞ……」
そいつ……、槍を、突き出す気だ。と、咳篭りながら、ジャイロが言った。
はっと目を開いて、ルイズはギーシュを見つめた。
彼の使役する青銅の騎士が――今にも、その槍を、ジャイロの盾となっているルイズごと、貫こうとしていた。
「ギ、ギーシュ! もう決闘は終わったの! バカな真似は止めて!」
「ルイズ! どくのは貴方のほうよ! 早く逃げて!」
ルイズに、そう叫んだのは、ギーシュの後方から成り行きを見守る、……モンモランシーだった。
「な、何を言ってるのよ?!」
「ルイズ! ギーシュは! そこにいる彼は! 私達が知っている彼じゃないわ! 今の彼には! やると言ったら“やる”! 凄味があるのよ!」
『決意』と『決断』そのどちらもが、かつての彼には未熟な部分であったのだが。
今の彼はそれが、心で理解できているのだと。
モンモランシーは、それを――誰よりも彼を知るが故に、理解してしまった。
「ギーシュは止めない! 貴方がそこにいようと! いまいと! 彼が今見ているものは! 貴方の後ろしかない!」
貴方は助かる――後ろにいる彼の前に、立ちふさがらなければ。と、彼女は言ったのだった。

「……何言ってるのよ。そんなの! ギーシュが今すぐ! 止めてくれたら終わるじゃない! ギーシュ! 遊んでないでもう終わりにして! もう――」
突風が、おきた。
ルイズの右頬を、ワルキューレの槍が通り抜けたのだった。
凍りつく。この場の空気も。ざわめきも喧騒も。……このときになってようやく、周りの観客も、彼の変化がただ事ではないことを、理解した。
「暴れ馬が一頭……、猛烈な勢いで走りながら自分のほうへ向かってきた、……と、する」
突き出した槍を再び、引絞るように構える青銅の騎士の前で、ルイズは、足が震えるのを感じた。
「これを……、道の真正面でぼさっと突っ立って、……向こうが避けてくれるだろうと考えて待つ者は、いない」
いれば、それは頭が悪いか、自殺したいかの、どちらかだろう、と。
足の震えは全身に及び。……ルイズは、気持ちの悪い汗が、首元へ流れるのを感じた。
「一度だけ言おう……。ミス・ヴァリエール。これは『決闘』……何者にも邪魔はできない。僕か彼か――そのどちらかが、決着をつけねばならない」
彼が彼女を、見る。その視線は――、とても冷たいもので。喉を伝って胸まで流れた汗が、酷く気持ち悪いほど、冷えていた。
「君がそこに立って彼を守ろうとするのは――、非常に、意味が無い。……何故なら、僕のワルキューレの槍は、君を貫いて――」
ぎしゃり、と青銅が一歩、踏み出す。
「後ろの彼に止めを刺すことなど――簡単だからだ」
ルイズの体は、ワルキューレにとってすれば、張りぼての壁にすぎないと。
槍がさらに、高く掲げられた。降り注ぐように、突き下ろそうと。
「二秒あげよう……今すぐ、彼の前から、どきたまえ」
ルイズの足が、竦む。
今すぐ、ここから――彼の前から、逃げ出したかった。
彼女の言うとおりだ。彼は――、彼じゃ、ない。
私が知っている、彼じゃない。
――怖い。
心から、そう思った。
一。
でも、足が、……動かない。
それが恐怖のためなのか。
それとも……。彼を助けようという、気持ちが、まだ折れずにいるためなのか。
彼女にも――、分からなかった。
二。
――槍が、振り下ろされる。


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