ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

奇妙なルイズ-24

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匿名ユーザー

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ドン、と体に衝撃が走り、次の瞬間には礼拝堂の壁に背中を激突させていた。

続いて響いてくる音、エア・ハンマーが床や壁をたたきつける音だろうか。

混濁した意識の中、ルイズは状況を把握しようと必死に視聴覚を働かせようとする。

しかし、強く背中を打ち付けたせいか、呼吸が極端に乱れ、体を動かすことが出来ない、その上ワルドの杖が左肩をえぐり、その痛みがなお呼吸を邪魔していた。

『…ズ ……ルイズ 起きろ』
頭の中に響く声は、夢の中で会った、空条承太郎の声。
その声にハッとしたルイズは、体を丸めて力を入れて、痙攣を押さえ込んだ。
「ワルド…なんで、なんでワルドが裏切るのよっ…」
と、一瞬だけ考えてから、ルイズはかろうじて顔を上げた。
礼拝堂を所狭しと飛び回るワルド達、遍在の魔法で合計七体に分身したワルドは、じわりじわりとウェールズを追いつめていった。
ウェールズもトライアングルとはいえ、かなり優秀なメイジなのか、スクエアであるワルドの攻撃をかろうじて防いでいる。
しかし服はボロボロ、頬や腕からは血を流している、このままでは時間の問題だと、素人でも理解できるだろう。
「ぐっ…杖、杖は…」
視線をワルドに向けたまま、手探りで腰に差した杖を引き抜き、ファイヤーボールの詠唱を始める。
「…ファイヤーボール!」
バァン!と破裂音が鳴り、ウェールズを背後から攻撃しようとしていたワルドの体が弾け、霧のように霧散する。
やった! と喜ぶ間もなく、別のワルドが唱えたエアハンマーで、ルイズの体は再度宙を舞った。
ルイズは勢いよく始祖ブリミルの像に衝突し、ゴォンと重たい金属音を響かせた。
「か  は 」
ドサッ、と冷たい床の上に落ちたルイズは、ブリミルの像と床に衝突したショックで、横隔膜を痙攣させて、体をビクンビクンと震わせた。

「ルイズ!邪魔をしなければ、楽に死なせてやろうと思ったのに、いけない娘だ!」
「貴様ァーーッ!」
勝ち誇ったように台詞を吐くワルド、それに怒りを顕わにし、立ち向かおうとするウェールズ。
しかし、ワルドの分身が一人減った程度では、ウェールズが圧倒的不利な状況に立たされている事に変化はなかった。


再度ルイズの頭に声が響く。
『ルイズ、体を貸せ、時間がない』
「ハァ…ッ、と、とっとと、意識を奪えば、いい、でしょ」
砕かれた肩が酷く痛み、呼吸も苦しい、いまにも気絶しそうだが、なぜか気絶できなかった。
『やれやれ…どうやら無理なようだ』
「なんでよっ」
『おまえは、『諦めていない』、だから意識を乗っ取れない』
「肝心なときに、痛っ…じゃあ、どうしろって言うのよ!」
『スタンドをおまえに預ける、俺は…』

『”痛み”を引き受ける』

その声と同時に痛みが薄れ、ルイズの体が軽くなる、ルイズはさっきまでのショック状態が嘘のように立ち上がることが出来た。
それを見たワルドの表情が変わる、そんなバカなとでも言いたいのだろうか、そんな表情だ。

頭の中で声がする。
『思ったより肩からの出血が多い』
「分かってるわよ」
苦悶に満ちていたルイズの表情に、笑顔が戻る。
『スタープラチナはおまえが思ってるほど忠実じゃない』
「分かってるわよ」
痛みなどものともしない、余裕すら感じさせるルイズの表情を見て、ワルドは攻撃対象をルイズに変更した。

「ルイズ!君の傍らに立つ”それ”が、それが君の使い魔か!土くれのフーケが言っていたが、まさかそんな”使い魔”を持っていたとは!ルイズ、やはり君は思った通り、素晴らしいメイジだ!」
そう言いながらも他のワルドが呪文を詠唱する、ワルドの戦い方のもっとも厄介な部分だ。
フライの魔法を使いながら攻撃魔法を使うのは不可能だと言われている、しかしワルドは三人以上に分身することで、浮遊と攻撃の魔法を交互に唱え、自由自在に魔法を駆使するのだ。
ワルドの台詞が終わったと同時に、右から別のワルドがライトニング・クラウドを放つ。
「おらぁーっ!」『オオオオオオラァァ!』
ルイズと同時にスタープラチナが雄叫びを上げ、始祖ブリミル像を破壊する。
その破片の中に隠れるようにして、ルイズは宙に浮き、ライトニング・クラウドの電撃は破片に吸収された。
「何ッ!?」
おそらく本体であろうワルドが驚きの声を上げる。
ルイズは破片の合間を縫って、天井近まで勢いよく飛び上がった。
しかしそこには、別のワルドが接近し、呪文の詠唱を完成させようとしていた。
ワルドが杖を向け、魔法を放つより一瞬早く、ルイズは天井に意識『破壊』のイメージを向けた。
「おらおらおらおらおらおらおらおらおらおらァッ!」
『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!』
スタープラチナの放つ拳が、轟音と共に固定化のかけられた天井を破壊する。
その破片をワルドに向かって跳ね返す、するとワルドはその破片を避けた。
ルイズは考えた、緊急回避が可能ならば、フライでもレビテーションでもない、おそらく風の魔法で飛んでいる。
スタープラチナの目が素早く下を見ると、ワルドの攻撃を必死に避けるウェールズと、こちらぬ杖を向けているワルドが一人見えた。
「スタープラチナ!」
ルイズの叫びと同時に、スタープラチナはルイズの手からブリミルの像の破片を奪う。
そしてスターフィンガーと同じように力を集中させた指先が、目の前のワルドを宙に浮かせているであろう、もう一人のワルドに向けて、その破片をはじき飛ばした。

「ぐあっ!?」
宙に向けて杖を向けていたワルドが声を上げる、破片が左目から頭を貫通し、ワルドは煙のように消えた。
目の前のワルドもあわててフライの呪文を詠唱しようとするが、それよりも早く落下途中の破片をワルドに向けて殴り飛ばした。
「ぐおっ!?」
蛙のつぶれるような声と共に、そのワルドも顔面を削られ、煙となってかき消えた。

(あと四人!)
スタープラチナを使って着地の衝撃を和らげると、ウエールズを取り囲んでいた四人のワルドのうち三人が、ルイズから離れるようにして跳躍する。
そしてウェールズと戦っていたワルドが、他の三人とは別方向に跳躍する。
ルイズはその隙にウェールズの側に駆け寄った、ウェールズは全身傷だらけに見えたが、それほど深い傷は受けてはいないようだ。
「殿下!」
「ミス・ヴァリエール、このような目に遭わせてしまって、申し訳がない」
「覚悟の上です!それより、何とかここを脱出しましょう」
「…私が活路を開く、君はその隙に逃げなさい!」
そう言うとウェールズは魔法を詠唱し、竜巻を作り出した。
竜巻はウェールズとルイズを囲み、礼拝堂の中を埋め尽くそうと勢いを増していく。
少しだけでもワルドの足止めが出来ればいい、そう考えての行動だった。
しかしルイズは、ワルドの一人が笑みを浮かべたのに気づいた。
…まずい!
そう思った次の瞬間、二人を囲む竜巻から、光り輝く刃のようなものが飛び混む。
刃はウェールズを狙って飛び込んできたが、その直前スタープラチナが刃を弾いた。
「ッ…!」
ルイズの手に痛みが走る、痛みは一瞬だったが、手の甲がパックリと裂けていた。
承太郎が痛みを引き受けてくれてはいるが、ダメージを増やすのは得策ではない。
そんなことを考えている間にも、輝く刃がは竜巻の中で数を増していく、青白い光はルイズとウェールズの血を吸おうと、不気味に輝いていた。
「殿下!風で吹き飛ばしてください!」
「く…、む、無理だ…耐えるのが、精一杯…!」
ウェールズは杖を構えたまま脂汗を流しながら返事をした、すると、それを見たワルド達が高笑いをして、言った。

「「「「ハハハハハハハハハ!」」」」
「ウェールズ皇太子殿下、君はスクエアのメイジを甘く見たな」
「この青白いはエア・ニードル、真空の渦に触れれば肉は裂け骨は砕ける!」
「さきほど、そこを歩いていたメイドからナイフとフォークを借りてね、エアニードルの核にしたのだよ」
「分身を作り出した後でも、この程度の竜巻を飲み込むのはたやすい!」

そう言ってワルドの一人が杖を振る、すると、ウェールズの顔がより厳しいものに変わる。
一人は竜巻を作り出し、ウェールズの竜巻を取り囲み、押しつぶそうとしている。
一人はエア・ニードルの魔法を食器のナイフにかけている。
一人はエア・ニードルを風の魔法で操り、竜巻の中にいる私達に狙いを定めている。
一人は…何かの袋を取り出した。

「火の秘薬だ!」
ウェールズが叫ぶ、そして、同時にワルドの竜巻がウエールズの竜巻を押しつぶし、竜巻は大人二人入るのがやっとの大きさにまで縮められてしまった。
ルイズと、ウェールズの身体をエア・ニードルが切り裂いていく、スタープラチナでナイフを弾き、致命傷を裂けてはいるものの、ルイズの手は切り傷だらけで、何カ所かは骨にまで達している。

袋を開けたワルドが、竜巻に袋を向けて、言った。
「ルイズ、君には驚いたよ、スクエアのメイジを一時的にとはいえ手こずらせたのだからね、だが…ここでお別れだ。だめ押しに火の秘薬を受けたまえ」
そう言ってワルドが竜巻に火の秘薬を流す。
「スタープラチナ!」
「もう遅い!脱出不可能よ!」
そしてワルドは杖を振って、火の秘薬に着火した。

ドォォン…と、城が響く。
火の秘薬は竜巻により、爆発に近い強烈な燃焼を起こし、超高温の竜巻がルイズとウェールズを包んだ。

竜巻が消えた後には、焼けこげた地面しか残っておらず、二人が死んだのは誰の目にも明らかだ多。

ワルドは、自分を追いつめた婚約者に敬意を払うため、地面に転がっているルイズの杖を拾おうとした。

「うあああああああああああああああああああああア!」
『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァーーーッ!!!!』
「ぐがっ!?」
上空から突如現れたルイズに驚いたワルドは、とっさにエア・ハンマーを自分に当てて逃げたが、スタープラチナの拳を胸と腕に食らい、バランスを崩して着地に失敗した。
ルイズは肩に乗せたウェールズを床に降ろしてから、ワルドに近づいた。
「な、なぜだっ!ど、どうやって逃げた!」
「…殴っても消えないって事は、貴方が本体のようね、ワルド」
ルイズの表情が、いつものものでははない、これからワルドを殺そうとしている、それだけの覚悟が感じられた。
ワルドはテレパシーのようなもので他の三人のワルドに意志を伝える、ルイズを殺せと。
分身が杖を振り、魔法を放とうとしたその時、突如分身達の目の前にナイフが現れた。
「「「!?」」」
どすっ、と、訳も分からぬうちに分身達は頭にナイフを生やして、霧散した。
「な…な…」
ワルドは、ただ呻くしかできなかった。
何が起こった?
今、何が起こったのだ?
わからない、だが、一つだけ理解できることがある。

ルイズは自分を殺そうとしている。

思い沈黙が流れた。

ドォォォンと、外から爆音が響く。
反乱軍達の侵攻が、とうとう城内に及んだのだろう。
ワルドの頭に、「もう少し時間を稼げば助かるかもしれない」という考えが浮かんだ。
それが命取りだった。
目の前のことに集中していればいいものの、彼は雑念で気を散らせてしまったのだ。
助かるかも知れない、と考えるワルドの腹に、スタープラチナのつま先がめり込んでいた。

「……!」
声にならないワルドに、再度スタープラチナで殴りかかろうとしたその時、偶然、天井が崩れた。
それに気づいたルイズは慌ててウェールズの側に飛んだ。
「スタープラチナ!」
『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァーッ!』
落ちてくる天井の破片をスタープラチナで破壊し、ウェールズの安全を確保した時、礼拝堂の入り口から転がるようにして逃げるワルドの後ろ姿を見た。


「ワルド…さよなら」
もう追いかける力も残っていない。
痛みこそないものの、出血が多く、足に力が入らない。
ワルドを追う余力も、攻め込んで来るであろう反乱軍に立ち向かう力も残っていなかった。
とにかく、ウェールズ殿下を逃がさなければいけないのだと、自分に言い聞かせたが、身体が動かない。
トリスティンの政治的には、ウェールズ殿下が生きていてはまずい、それぐらいは理解しているつもりだ。
しかし、アンリエッタはウェールズを愛しているし、ウェールズもアンリエッタを愛している。
ウェールズを助けたい!
例えその結果ゲルマニアとの同盟が反故になっても、アンリエッタを苦しめることになったとしても、この恋だけは成就させなくてはならない。
そんな使命感がルイズを突き動かした。

ウェールズを担ぎ上げようとしたが、うまくいかない。
力が入らない。
駄目なのか、私はここで死ぬのだろうか。


「アン、ごめんね…」
そう呟いて、ルイズは意識を失う。

意識を手放す瞬間、なぜか、身体が浮いたような気がした。


そして場面はキュルケ達に移る。

「もう始まってるわよ!」
シルフィードの上でキュルケが叫ぶ。
目の前に広がるアルビオンの浮遊大陸からは、大砲の音、すなわち戦乱の音が響いていた。
「これでは、ミス・ヴァリエール達を捜すどころじゃないぞ!」
「ギーシュ、あんた昨日は『例え戦地でも姫様のためなら喜んで!』とか言ってたじゃない!」
「そっ、そりゃそうだけど」
シルフィードの上で口論している二人はさておき、タバサはシルフィードの話を聞いていた。
『きゅいきゅい』『ふもー』
シルフィードが話しているのは、ギーシュの使い魔ヴェルダンデ、その得意の鼻がルイズのつけていた宝石のにおいを覚えているというのだ。
タバサキュルケとギーシュに「しっかり掴まってて」とだけ告げて、シルフィードを雲の中に突っ込ませた。

「…あれは何?」
暗雲の中をしばらく進むと、小舟が見えた。
空に浮かぶ船にしては小さすぎる船だ、大人四人が乗れる程度の大きさだろうか。
『きゅいきゅい!』
シルフィードが、ルイズのにおいがすると告げる。
タバサは迷わずその小舟にシルフィードを近づけた。

「ルイズ!」「ヴァリエール!」
突然近くから聞こえてきた声に、小舟に乗った女性…ニューカッスルの秘密港でルイズを迎えたメイドの女性は、驚いて声を上げた。
「あ、あなた方は!?」
「それはこっちの台詞よ、何よ…ルイズ、ひどい傷じゃない」
キュルケが血相を変える、ルイズの身体には包帯が巻かれていたが、出血を抑えきれてはいないと分かったのだ。

「そ、そちらに倒れてるのは…まさか」
ギーシュの疑問に、メイドが答える。
「アルビオンのウェールズ・テューダー殿下…いえ、先皇が討ち死にされた今、ウエールズ・テューダー陛下にございます」
「僕たちはトリスティン魔法学院で、そこに倒れているヴァリエールの友達だ」
「まあ!そうでございましたか、どうかお願いがございます、お二人を連れてすぐにここを離れてください」
キュルケは船に乗り移ると、ルイズを抱き上げた。
ギーシュもまたウェールズをシルフィードに乗せる。
「あなたは?」
タバサがメイドに聞くと、メイドはにっこりと笑って言った。
「私には最後の役目がございます、どうか、できるだけ遠くに離れてください」
タバサはメイドの言わんとしていることを察し、無言でうなずいた。
「あ、それと…、トリスティンのお方ならモット伯にお会いすることもありますでしょう、もしモット伯と、衛士の方にお会いすることがあれば、一人の生徒が勇敢に死んでいったとお伝えください!」
「わかった」
タバサが答えると、そのメイドは小舟の中央に設置された風石の箱を操作し、ニューカッスルの秘密港に向けてゆっくりと移動していった。
それを見送る間もなく、タバサはシルフィードに急いでここを離れろと伝える。
「おい!彼女も連れて行かないのかい!」
風を受けて喋りにくそうにしながらも、タバサに詰め寄ろうとするギーシュだったが、キュルケがそれを制止した。
「ツェルプストー、何をするんだ」
「あんたねえ、野暮って事を知らないの? …あのメイド、メイドのくせに、いっぱしの貴族みたいな目をしてるじゃない」
ギーシュはその言葉の意味が分からなかったが、次の瞬間、あの小舟が飛び去った方から輝く爆炎を見て、その意味を察した。

ごうごうと音が響き、雲が爆風に巻き込まれて散っていく、そして爆炎に巻き込まれた戦艦が看板を火の海にしていた。
ドオン!と、数秒遅れて到達した爆音。
それを見たギーシュは、メイドの言った「最後の役目」の意味が分かった。
アルビオンの下部に設置されていた火の秘薬を、あのメイドが点火したのだろう。
あの規模では、生存は絶望的だと、皆が感じていた。

ルイズは意識を失っていたが、スタープラチナの目が、爆炎を見ていた。

『あのメイドは昨日、ウェールズに詰め寄り、生きて欲しいと懇願していた奴だな』

「死ぬつもりだったのよ、あのメイド…死ぬのは怖いとか言っておきながら、笑顔で死にに行ったじゃない、ホント生意気なメイドね」

『本当に…生意気だと、思っているか?』

「生意気よ。だって………私より、貴族らしいじゃない」

シルフィードがアルビオンの下から抜け出し、太陽の下に出る。
ルイズと承太郎は、スタープラチナの目を通して、アルビオンを包み込む雲を見た。

目の錯覚かも知れないが、雲の一部が、まるで手を伸ばすように伸びた。

その雲はモット伯の別荘で戦ったメイジによく似ている。

手を差し出された雲は、先ほど笑顔で死地に向かったメイドによく似ていた。

二つの雲は、抱き合って、消えた。


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