ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

サブ・ゼロの使い魔-23

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
学院長室。四人のメイジと一人の使い魔は、オールド・オスマンに事の次第を
報告していた。全てを聞き終えたオスマンは、ステレオタイプな仙人ヒゲを
いじりながら口を開く。
「ミス・ロングビルが土くれのフーケじゃったとはな・・・全く騙されたわい」
一体どこで採用されたのですか、という隣に立つ教師の問いで彼が秘書を
適当に採用していたことが分かり、オスマンは全身に彼女達の非難の視線を
浴びるハメになった。
「ま、まぁ問題はそこではない 重要なのは今君達が成し遂げたことじゃ」
老齢の学院長は無理やりに話を戻し、コホンと一つ咳払いをして続ける。
「よくぞ土くれのフーケを捕まえ、我が学院の至宝を取り戻した!」
誇っていいのかよく分からない顔で二人、いつも通りの無表情で一人、そして
これ以上なく誇らしげな顔で一人がオールド・オスマンに一礼した。
「フーケは城の衛士に引渡し、『破壊の杖』は無事この宝物庫に収まった
これで一件落着と言うわけじゃ・・・そこで!」
オスマンは生徒一人一人の頭を撫でながら続ける。
「君達の『シュヴァリエ』の爵位申請を、宮廷に出しておいた また追って沙汰が
あるじゃろう ミス・タバサは既に『シュヴァリエ』の爵位を持っているからの 
彼女には精霊勲章の授与を申請しておいた」
「本当ですか!?」
四人の生徒達は一様に喜んでいる。
「勿論じゃよ 君達はそのぐらいのことをしたのじゃから」
しかしルイズは、ハッと気付いてギアッチョを見た。

「・・・あの 彼には・・・ギアッチョには何もないんですか?」
松葉杖をついたルイズの質問に、
「残念ながら・・・彼は貴族ではない」
オスマンは申し訳なさそうな顔で答える。
「そんな・・・オールド・オスマン 彼は一番の手柄を立てましたわ!」
「彼女の言う通りです ギアッチョがいなければ今頃僕らはどうなっていたことか!」
「・・・大戦果」
キュルケ達が一斉にフォローに入るが、
「すまんの・・・そうしたいのはやまやまなのだが、ここはトリステインなのじゃ
平民が貴族になることは――出来ない」
聞き分けてくれ、とオールド・オスマンは言う。ギアッチョはそんな彼女達の
抗弁を意外そうに見ていたが、やがて口を開いた。
「別に褒美が欲しくてやったわけじゃあねー その辺にしとけ」
本人のその言葉にルイズ達は不本意ながらも口を閉ざし、それを機会に
偉大な老師は話題を変える。
「さて、今宵は『フリッグの舞踏会』じゃ 『破壊の杖』も無事戻ってきたので
予定通り執り行うぞ」
四人は釈然としない気持ちだったが、本人がいいと言っているならしょうが
ない。キュルケ達は無理やり気持ちを切り替えることにした。
「そう言えばそうでしたわね・・・フーケの騒ぎで忘れておりましたわ」
「今日の主役は君達じゃ 用意をしてきたまえ しっかり着飾るのじゃぞ」
いつもの好々爺に戻ってそう言うオスマンに礼をして、四人はドアに向かった。
ルイズはその場を動かないギアッチョに眼を向けたが、「先に行ってろ」と
言うギアッチョに心配そうに頷くと、慣れない松葉杖に苦戦しながら出て行った。

「何か・・・ワシに聞きたいことがあるようじゃの」
そう言うと、オールド・オスマンはギアッチョに向き直った。ギアッチョは黙して
老翁を見つめている。オスマンはそれを肯定と受け取った。
「言ってごらん できるだけ力になろう 彼女達を助け、フーケを捕らえて
くれたせめてもの礼じゃ」
それからオスマンは、隣に控える雑草一本ない頭頂部を持つ教師――コル
ベールに退室を促した。一体何が始まるのかと期待していたコルベールは
今正にかぶりつこうとしていたケーキを取り上げられた子供のような顔で
部屋を出て行った。それを見届けてからギアッチョは口を開く。
「『破壊の杖』・・・あれをどこで手に入れた?」
キュルケが抱えていたあれは、間違いなく自分の世界の兵器、ロケット
ランチャーだった。何故あれがこっちの世界にある?自分の故郷、
イタリアに戻る方法は存在するのか?・・・
全てを聞き終えたオスマンは、少し驚いた顔をしながらもこの兵器の由来を
語りだした。曰く、この杖は自分の命の恩人が持っていたもので、その男は
既に死んでこの世にいない。そして彼が何故、どうやってこの世界に来た
のかはこのオスマンにもさっぱり分からないということだった。
「・・・・・・そうか」
ギアッチョは黙ってそれを聞いていたが、やがて諦めたようにそう言った。
何せルイズが連日徹夜で調べてくれても見つからなかったのだ。そう簡単に
分かるとは、ギアッチョも思ってはいなかった。オスマンはすまんの、と
一言謝罪を述べてから、
「しかしおぬしのこのルーン・・・これについては分かるぞ」
ギアッチョの左手を取ってそう言った。

アルヴィーズの食堂、その二階のホールが今夜の舞踏会場だった。中は
色とりどりに着飾った貴族達で溢れ、平民なら頼まれても入りたくないような
豪奢な雰囲気が漂っている。が、ギアッチョは勿論そんなことに躊躇など
しない。ずかずかと入り込んで好き放題に飯を食い、シエスタについで
もらったワインを豪快に飲んでいた。さっきまではキュルケと話をしていたが、
ちょっと踊って来ると言って彼女はホールの中央へと歩いていったので、
ギアッチョは今デルフリンガーと会話をしている。
「いやー、しかしダンナも使い魔として召喚されるぐれーだからなんか能力は
持ってんだろーなとは思ってたが いやはやこんな化け物じみた魔法を
使えるたぁね!おでれーたよ俺は」
うんうんと何か一人で納得しているデルフだった。
「あれは魔法じゃあねー スタンドっつーオレの世界の能力だ」
デルフは基本的には己の使い手に味方するあまり主体性のない剣なので
特に情報をバラされる心配はない。そういうわけでギアッチョはルイズの他に
このデルフリンガーにだけは隠し事をやめている。
「ほー そうかい しかしおっそろしい能力だよなぁ・・・無詠唱で一瞬の
うちに空気までも氷結させるなんざよー あいつらメイジにしてみりゃあ
まさに魔人の所業だね あん時ゃ流石の俺もブチ砕けそうだったぜ」
スタンドとは精神のヴィジョン。つまり彼らメイジの扱う魔法と、本質的には
同等のものだと言える。もしもギアッチョのスタンドがなんらかの形を取る
ものであったならば、彼らには恐らくその姿が見えていたはずだ。デルフ
リンガーには、本人はまだ気付いていないが強力な魔法吸収能力がある。
デルフがあの極寒の世界でブチ割れずに済んだのは相当に強力な固定化が
かかっているということともう一つ、彼が所持しているその力がスタンド・・・
精神の力に密かに反応して発動していたせいなのだが、彼がそれに気付くのは
もう少し後の話だった。

テーブルの上で意外な健啖ぶりを発揮しているタバサや性懲りもなく次々と
女性を口説いてはモンモランシーに殴られているギーシュを見ながら、
ギアッチョはホールの奥へと進む。はたしてルイズはそこにいた。
「よぉ」
上から降ってきたその声に、ルイズは握っていたフォークを置いて顔を上げる。
「何してんだ? こんなとこでよォ~」
自分を見下ろすギアッチョから眼を逸らして、ルイズは答えた。
「・・・わたしは主役なんかじゃないもの」
一人で勝手に突っ走って仲間に迷惑をかけ、そして自分の身まで危うくし挙句
己の使い魔まで亡くしかけたのだ。そんな自分にどうして土くれのフーケを倒した
ヒーローになる資格があるだろうか。キュルケ達に説得されて一応は着飾って
来たルイズだったが、入場した途端にホールの門に控える衛士に大声で紹介を
され、彼女はもう恥ずかしいやら悲しいやらで一目散に壁際の席まで逃げて
きたのだった。
「本当なら謹慎をくらっていてもおかしくないのに・・・場違いにも程があるわ」
ギアッチョは頭を掻いた。そりゃあいくら皆無事で済んでるからと言ってそう
簡単に開き直れるわけもないだろう。
全く手のかかるガキだ、とギアッチョは溜息をついた。
「ま・・・反省するのは結構だがよォォー てめーが主役じゃないなんてこと
だけはねーぜ」
「え・・・?」
きょとんとしているルイズを見下ろして、ギアッチョは続ける。
「あの時てめーが討伐隊に志願しなきゃあどうなった?おそらくキュルケは
手を上げないだろう・・・それならタバサも志願する理由はねえ ギーシュの
野郎も立ち聞きもそこそこに逃げていっただろうよ そして教師共が
行かされることになれば・・・フーケを逃していたか、もしくは殺されていた
可能性もあった」
ギアッチョは眼鏡を中指で上げて、こう結論した。
「てめーが杖を掲げたからこそ、今のこの状況があるってわけだ」

ルイズはしばらくギアッチョを見上げて呆然としていたが、やがて我を取り
戻すと、ぷいと横を向いて言う。
「・・・な、何よ 危うく丸め込まれそうだったけど・・・結局は上手いこと言って
励まそうとしてるだけじゃない 余計にみじめになるだけだわ」
ネガティヴまっしぐらである。そんなルイズにギアッチョはもう一つ溜息を
つくと、座っている彼女の目線に合うようにしゃがみこみ・・・その綺麗な
鳶色の瞳を覗き込んで、
「嘘じゃあねえ」
ただ一言、こう言った。

ルイズは当惑している。ギアッチョはいつも通りの凶眼で、ルイズをいつも
通りに睨んでいるだけだ。だけど何故だか今、その瞳の奥に優しさが
見えた気がして――有り得ないことだと自分に言い聞かせつつも、一度
そう思ってしまったルイズは彼と眼が合っているのがどんどん恥ずかしく
なって、結局すぐに眼を逸らしてしまった。この使い魔は本気で言っている
のだろうか?いや、そんなわけはない・・・今日わたしがしたことを知ってて
誰が本気でそんなことを言う?・・・・・・でも、もし本気だったら?
やや混乱気味のルイズの頭の中で肯定と否定がぐるぐる回る。

・・・もし、本気だったら。

「・・・・・・嘘じゃないなら」
ルイズは横を向いたまま、スッと手を差し出す。
「・・・・・・お・・・踊りなさいよ・・・」
ギアッチョは思わず「ああ?」と言いかけたが、更に一つ溜息を吐き出すと、
すっくと立ち上がり・・・ルイズの手を取った。
「・・・・・・一回だけなら付き合ってやる」

意外にも――実に意外にも、ギアッチョはダンスが上手かった。やり方
など一切知らないらしく本当に適当なダンスだったが、ロクに左足が
使えないのですぐにバランスを崩すルイズをリードして、足一つ踏むこと
なく踊っている。
「・・・う、うまいじゃない・・・あんた」
それは当然だった。ギアッチョはスケートでアスファルトを時速80キロ以上で
走る男である。バランス感覚には相当なものがあった。
――ったくよォォーー 寝ても醒めても殺しに塗れてたオレがなんだって
こんなところでガキ相手にダンスを踊ってるってんだァァ?
ギアッチョはルイズを見た。更にバランスが崩れやすくなるというのに、
赤く染まったその顔はギアッチョから背けられたままだ。「全く不器用な
ガキだな・・・」と、ギアッチョは今度は心の中で嘆息する。
――とっとと帰りてーところだが・・・もう少してめーの面倒を見てやると
するぜ しょーがねーからよォォ~
世にも不機嫌に見える顔で、しかしギアッチョは踊り続けた。

「おでれーた!」
さっきまでルイズが座っていた席に松葉杖と共に立てかけられている
魔剣は、実に機嫌の悪そうな男と彼から眼を背け続ける少女という、
全く不可解な組み合わせのダンスを見ながらそう叫んだ。
「しかも使い魔とご主人様だ!こんなダンスは見たことねえ!」
デルフリンガーはもう一度、心底面白そうに叫ぶ。
「こいつはおでれーた!」


<==To Be Continued...


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー