ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

第十二話『夢でもし会えたら』

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第十二話『夢でもし会えたら』

使い方のわからないものというのは、案外ほんの僅かな『思い込み』に起因したりする。
少し発想を転換させて違う方向から覗いてみると、それはなんでもないことだったりする。
無論、それではどうにもならないことは多々存在するのだが……。

ルイズは相変わらず、この『爆発』の原因がわからなかった。
おまけに命中率も悪いというのが、どうにも救いが無い。
なにせ、あんなデカイ的に、まったく、完全に、擁護の余地もなく、掠りもしなかったのだ。

そのデカイ的を操っていた者の名は、すぐに知れる事となる。

――『土くれ』のフーケ――――――

最近ここらを荒らしまわっている盗賊の名だ。
犯行現場にはいつも、挑戦的な言葉が残されている。
今回残されていた文面がこれだ。
『破壊の杖、確かに領収致しました――土くれのフーケ――』

「思うんだけどさー、どうせやるなら、犯行予告ぐらいしてもらいたいわよねー」
「そーねぇ、自己顕示欲の塊みたいな割に、臆病っつーかねー。
 それに、力づくで宝物庫をブチ破るってのも、すごいっちゃすごいけど――」
「スマートじゃない」
今回の事について、『責任』というものを持たないルイズたちは、かなり気楽に
この大胆不敵な犯行を批評していた。


だが、教師たちはそうはいかない。
大人というのは、本当は子供だってそうなのだが、『責任』というものがいつもついてまわり、
それはいつだって肩に重くのしかかってくる。
そして重要な事だが、大概の大人は責任なんかとりたくないと思っている。
つまりこの場で何が行われているかと言うと、醜い責任の擦り付け合いだ。
いや、醜いというのも酷な話かもしれない。が、誰かが責任を取らなければならないのだ。
「クソッ、『土くれ』め! 舐めた真似をしてくれる!! それにも増してだ!
 当直の方は何をやっておられたのですかなァ~!?」
その日の当直は、シュヴルーズだった。彼女が当直をサボったのは、この夜が最初ではない。
失態である。
しかしシュヴルーズに自分の失態を取り戻そうとする気概があるかはご想像に任せる。

あなたはこの光景を見てどう思うだろう?
『情けない。自分だったらこうするはずだ』、そう思うだろうか? あるいは違うかもしれない。
しかしどちらにせよそれは言っても詮無い事だ。あなたはそこにいないのだから。

結局のところ、物事というのは『そこにいる者』がどうにかするしかないのである。
そこにいなかった者がせめてできる行為は、ただ祈る事のみである。


――そして、ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールはそこにいた。

「もうワシ、しゃべってもいいかの?」
教師たちの言い争いに耳を傾けていたオールド・オスマンが突如口を開いた。
静かではある。だが、その声には不思議な重みがあった。
「被害はどれだけじゃった?」
「あ…、『破壊の杖』が盗まれまして、あと宝物庫の壁も被害が甚大です」
「ふむ、確かに…まさかゴーレムのパンチであの壁を破るとは、正直ワシにも思いが及ばんかった。
 直すのに少々手間がかかるの。……で、それだけか?」
少し考え、思い当たる事もなかったのか一人の教師が口を開く。
「それだけです」
「衛兵が二人死んでおる」
ルイズには初耳だったが、教師たちの何人かは『あっ』と思い出したような顔をしている。
どうやら、フーケのゴーレムを逃がすまいとして踏み潰されたらしい。
明らかな、無謀である。
「まあそこについてどうこう言うのはよそう。かくいうワシもそこにはおらんかった。
 これはワシ含め全員の責任じゃ。各人、心に戒めておきなさい」
ルイズは胸が痛かった。
自分は、そこにいたのだ。
自分が攻撃を外さなければ、その人たちは死ななかったのではないか?
名前も知らぬ、顔も知らぬ。まして平民である。気に留めたことなど一度も無い。

「さて、本題のフーケについてじゃが……目撃者は誰じゃ?」

そんな屁のように軽い命をも、自分は救う事が出来なかった。
貴族は強いのだ。尊いのだ。たかが平民ふたり救えずして、何の貴族か?

「ミス・ヴァリエール? お~い、聞いとるか?」

リンゴォの顔がちらつく。サイトならなんと言うか――サイト?


「聞いとるか!?」
「え!? は、ハイ! 聞いてますッ!」
ウソだ。本当はまるで聞いていなかった。
オスマンの声でやっと我に返る。
ルイズは『目撃者』としてゴーレムについてなどの証言をしたが、たいした情報はなかった。

「や~れやれじゃの。手がかりはなしか。これじゃ…追おうにも追えんのう」
「申し訳ありません…。フーケらしき人影も、ローブを被っていて…姿はわかりませんでした…」
キュルケが答え、オスマンは最後にタバサを見る。
「右に同じ」
「んむ…ところでミスタ・コールベー、ミス・ロングビルの姿は?」
「そういえば、見当たりませんね。こんな時に限って、どこで油を売ってるんだか。
 ところで、今回はだいぶ惜しかったですがわたしの名前は」
勢いよく扉が開き、学院長室のみなの視線が入ってきたミス・ロングビルに注がれた。
「わたくし…有能でしてよ」

「おお、ちょうどよかったの。今君の話をしておったところじゃ」
「申し訳ありません。『土くれ』の調査をしておりまして…少々手間取りました」
「その物言いだと、どうだったのじゃな? ミス・ロングビル」
ロングビルはその問いには答えず、オスマンに歩み寄って耳打ちをした。
オスマンはそれを聞きながらふんふん言っている。
「ふむ、成程。確かに有能じゃの。こんなところで油売っておる連中よりはよっぽどな。
 ああ、いや、それはわしの口から言おう」
何事かと思い聞き耳を立てたルイズだが、2、3の単語が聞き取れたのみだった。


「諸君、『土くれ』の居場所がわかった。よくやったの、ミス・ロングビル」
オスマンの言葉に部屋中がざわめき立つ。
「本当ですか!? 一体どうやって!!」
これにロングビルはいたって冷静に答える。
「簡単な事です…。聞き込みですよ。まあ、目撃者が早い段階で見つかったのは
 幸運としか言いようがないですが……」
聞き込み。魔法のように派手ではないし、実を結ぶかもわからない地味な手段である。
しかしそれ故、何かあったら魔法で、という感覚に凝り固まったメイジたちには
この単純極まりない手段を思いつくことも出来なかった。やるにしても、自分で動くはずが無い。
「場所は馬で四時間ほどの距離じゃ。王宮に知らせる間もない。
 学院内にてフーケ討伐・及び『破壊の杖』奪還の捜索隊を結成する!
 我こそはと思うものは、杖を掲げい!」

集団心理という言葉がある。社会心理学の用語であり、集団の雰囲気に流されやすくなったり、
あるいは誰かがその雰囲気を作ってくれるまでずっと押し黙っていたりする人は、
たいていがその言葉で説明できることが多い。
今学院長室にいる貴族たちがこの状態にあるのか、それともただ臆病風に吹かれただけかは
定かではない。が、とにかく、杖を掲げるものは一人もいなかった。
「おらんのか? おやおやどうした? フーケを倒せば名を上げるチャンスじゃぞ?
 譲り合いの精神はここでは無用じゃ、どんどんガッつけい!」
依然、杖を掲げるものは現れない。

譲れないものがある。意地と言ってもいい。

杖を掲げたのは、ルイズだった。


「ミス・ヴァリエール!? あなたは生徒ですよ!? 危険です、お退がりなさい!」
シュヴルーズはルイズを止めようとした。正しい。ルイズは生徒である。危険である。
だがそれはルイズにとって何の理由にもならなかった。
「誰も掲げないじゃないですか。たかが盗賊、ヴァリエールが退くには及びませんわ」
「嬢ちゃんは本気だぜ。アンタらに、それを止める権利があ――」
いつの間にか鞘から出ていたデルフリンガーを収める。その手のかすかな震えにキュルケは気付いた。

「ヴァリエール一人では、返り討ちにあうのがオチですわ!」
その姿を見て、高見の見物を決め込んでいたキュルケも杖を掲げる。
「君までそういうことを言うのかツェルプストー! 君も生徒なんだぞ!」
「お言葉ですがミスタ・ツルベール、ヴァリエールに負けっぱなしでは我が一族末代までの恥です!」

キュルケは隣で杖を掲げたタバサに気付いた。
「タバサ、アンタも来るの?」
「心配」
相手は、衛兵たちを容赦なく踏み殺す盗賊である。
キュルケとルイズでは殺される。もって8秒だろう。タバサはそう思った。だから杖を掲げた。
キュルケは己にとって唯一と言える心友である。みすみす死なせてはならない。
だからためらいなく杖を掲げた。

「おう、おるじゃないかイキのイイのが、では君らに頼むとしようかの」
シュヴルーズのみならず、他の教師もこれには口を揃えて反対した。
老いゆえに耳の遠いオスマンは、これを無視した。無能の声は聞こえない。


「オールド・オスマン、相手は土くれのフーケですよ? 教師でさえ、もしもという事が
 多分にあり得ます!」
「君はそうやってひとの心配ばかりしとるから髪の毛に嫌われるんじゃ! 君が行かん理由は
 わからんでもないが、行かんなら行かんで、もっとドッシリ構えんか!
 前に言ったはずじゃぞ? 信頼しろ、と」
それに、とオスマンは思い出したように続ける。
「この三人もなかなかのモンじゃぞ? まず、そう…ミス・タバサじゃが……
 若くして『シュヴァリエ』の称号を持つ騎士と聞いておる」
『シュヴァリエ』――その言葉で、空気がざわめいた。
「タバサ…わたし、今の今までそんなこと聞いてなかったんだけど……」
「言わなかったから」
「ああ…なるほど、なっとく……」
ルイズもこれには驚いた。使い魔からして只者ではないと思っていたが、まさかシュヴァリエとは――
同時に、もう一つの事を思った。一体、何をしたのか?
タバサの過去が気になったルイズだが、特に親しい中でもないため、聞くのはやめておいた。
なにせ、キュルケにも言っていないのだから。
「その隣のミス・ツェルプストーは、ゲルマニアの優秀な軍人を数多く輩出した名門中の名門の出じゃ。
 無論、彼女自身の炎の魔術も、かなりのものじゃ」
さっきまで驚いていたのに、自分の事を褒められた途端に、髪をかき上げアピールするキュルケ。
意識してのことではない。本能である。
「そしてミス・ヴァリエールじゃが……」
オスマンはルイズに視線を向ける。沈黙。
「…ミス・ヴァリエールじゃが…数々の優秀なメイジを排、じゃない、輩出したヴァリエール家の
 息女で……えー、つまり…だからして、その…なんじゃ将来有望で、末恐ろしいメイジじゃ。
 それにその使い魔は――おらんのォ……」
せめて使い魔でも褒めようと思ったオスマンだが、彼はそこにはいなかった。
遠見の鏡で一度だけ見た姿を思い出す。いなくて正解だったかも知れない。
(わし、あいつニガテ)

「まあとにかく、君は末恐ろしいメイジじゃよ」
勇がある。それは、勇なき力よりもよほど尊い。あるいは、蛮勇かもしれないが。
どうやら他の誰も戦おうとしない事を確認し、オスマンはルイズたちに向き直る。
「魔法学院は、諸君らの努力と、貴族の義務に期待する」
「杖にかけて!!!」
同時に三人が唱和する。かけたものは、三人それぞれである。
「では…馬車は学院で用意しよう。ミス・ロングビル」
「心得ております。オールド・オスマン」

ロングビルを含む四人が学院長室から出て行く。
それを見届けるとオスマンは残った教師たちを睨め回した。
「さっきのミス・ヴァリエールじゃが……『ゼロ』のルイズなどと呼ばれて、随分とまあ
 無能扱いされとるようじゃの? ま、確かに彼女の魔法はお世辞にも有能とは言い難いが……。
 わしが思うに…真の『無能』というのは、貴族の義務を忘れ、困難に挑戦する事に
 無縁のところにいる者たちのことじゃが…違うかの?」
誰も言葉を返せなかった。オスマンと目を合わせる者もいない。
「まあ……誰も君らを責めやせんよ。蛮勇で世が渡れるわけでもないしのう」
オスマンの声はまるで独り言のようだった。

ルイズはいったん三人と別れ、自室へと戻ることにした。
自分の使い魔、リンゴォ・ロードアゲインを呼びに行くためだ。
それをキュルケたちに伝えると、タバサは露骨に嫌そうな顔をした。
その途中、見知った影を見かける。
「こんな時間に何やってるんだ君は?」
「アンタこそ何やってんのよギーシュ?」
「ぼくかい? 先程の騒ぎで叩き起こされてね。何事かと思って外に出てみたんだが、
 どうも騒ぎは終わってしまったらしくてね、誰もいやしない」
騒ぎは現在進行形だというのに随分と鈍い男だ、とルイズは思った。
「すっかり目が覚めてしまったもんだから、彼女の部屋にでも出向こうかと思ってね」
馬鹿は放っておいてルイズは走り出した。馬鹿と話して時間を食ったからだ。

部屋の前まで辿り着いて、ルイズは思い出した。
「これから出会う男が……アンタを使う男よ、デルフ」
「初めて会う男と実戦に出るのかい…まだ嬢ちゃんのほうが使えそーだなァ」
その声がルイズには聞こえていなかった。眩暈がする。吐き気もだ。
ルイズはドアの前で倒れた。
「嬢ちゃん!? オイどーした嬢ちゃん!!」
力が入らない。立てない。
ルイズは気を失った。

ドアの向こうで、誰かが立ち上がる気配をデルフリンガーは感じた。


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