ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

使い魔ファイト-11

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匿名ユーザー

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 ゼロのルイズがとうとう使い魔を召喚した。よりにもよって平民の女だ。
 一緒に儀式をしていたキーシュも平民を召喚したらしい。こちらは老人とのこと。
 センセーショナルなニュースであるはずが、学院内の話題を独占するにはいたらなかった。
 なぜか? 皆、自分のことで忙しかったからだ。

 モンモランシーは、使い魔の蛙とともにギーシュの部屋の前から動こうとしなかった。
 使い魔の蛙は機械的な動作でドアを叩き続け、モンモランシーは人間的な必死さを込めて声を出し続ける。
「ギーシュ、どうしたの。いったい何をしているの。顔だけでも見せてちょうだい」
 返事は無い。が、気配はある。何事かを呟く声も聞こえる。
「ギーシュ! あなた食事もとってないでしょう! 体を壊してしまうわよ!」
「お嬢様、ここは男子寮です」
「だから何?」
「私達少しばかり目立っているようです。お声を落とされた方がよろしいかと」
「あんたは黙ってドアを叩いてなさいヨーヨーマッ!」
「分かりましたお嬢様……ゲロッ、ゲロッ……乗っかりてェェェ」

 キュルケは浮かれていた。
 召喚した使い魔は、他と比べて異質、かつ恐ろしく強い力を秘めているらしい。
 今はまだ水をお湯にするだけだが、秘めたる力はキュルケ自身にも伝わってくるような気がする。
 その力を魔法と組み合わせた時、誰もが想像しえなかった真価を発揮するだろう。
 戦場を縦横無尽に駆け回り、あらゆる名誉を手にした自分を想像する。
 その右隣にはまだ見ぬ運命の人が……。
「うっふっふ、全てがあたしに味方しているようね」
 キュルケは浮かれていた。
 思っていたよりもかなり早く、力を発揮する場を与えられる喜びに打ち震えていた。
 早くタバサを見つけ、偶然にも手に入れた素晴らしい情報を教えてあげなければならない。

 タバサは学んでいた。
 少しずつだが、確実に一歩ずつ歩みを進めていた。
 この使い魔は、ドラゴンの例に漏れず、無類の強さを持っている。
 だがそれを的確に使いこなすためには、覚えなければならないことが山ほどあった。タバサでなければとうに投げ出していたことだろう。
「ダカラー! ソーじゃネェーんだッツーの! わかんねェーなァー眼鏡サン」
「感覚的すぎ」
「風水ってのはそういうモンなの! エネルギーを感じンだよ、エネルギーをよォー」
 理論で説明できることの方が得意なのだが、文句を言っても始まらない。
 目的を果たすためには、千里の道を半歩ずつ歩かなければならないこともある。
「ソーじゃねェーんだって! アーモウいっそ毎朝小便でも飲めばイインじゃねェの?」
「いや」
「きゅイきゅイッ」
「うるさい」

 マリコルヌは自室で一人肩を落としていた。
 ゼロのルイズが平民を召喚した。本来ならば格好のネタである。
 ため息をつき、机の上を見る。そこには蛙のような生き物がいた。
 払い落とそうとしたが離れようとしない。食事、風呂、トイレ、ベッドの中、どこまでも主についてくる。
 ついてくるだけで何をするというわけでもない。ただ、ついてくるだけだ。
 目を通して見ることも、耳を通して聞くこともできない。心も通じていない。本当に何も無い。
 平民の使い魔がどんなものかは知らなかったが、これよりダメな使い魔はそういないだろう。
 こんなことを知られれば、ルイズにどれだけ馬鹿にされるか。考えるだけで憂鬱になる。
「まさかとは思うけど……他の人が召喚するはずだった使い魔じゃないだろうな」
 そもそも風上を名乗る自分が、なぜ蛙を召喚しなければならないのか。
 ロビンと名付けたその使い魔に目をやり、マリコルヌはため息をついた。

 マリコルヌも不幸ではあったろうが、ギーシュの比ではなかった。
 ギーシュは部屋の隅で震えていた。そこから動こうとはしない。動くことができない。
 食事はとることができないため痩せこけ、排便はその場で済ませるため、部屋の中が名状しがたい臭気で満たされている。
 それでもギーシュは動くことができない。モンモランシーを部屋の中へ呼ぶこともできない。
「なんでぼくが……どうしてぼくが……」
 ギーシュはこれまで快楽的に生きてきた。
 女の子に泣かれることは多々あったが、それもまた甘美な人生には必要なスパイスだ。
 まさか使い魔を召喚することで、これまでの人生を悔いるはめになるとは思っていなかった。
 何も高めなかった自分を、積み上げてこなかった自分を呪うことになるとは考えていなかった。
「ねっ。ねっ。彼女も呼んでるよ。外に出なきゃ飢え死にしちゃうよ。ねっ」
「うるさい……うるさい……黙れ……黙ってくれ……」
「ねっ。ご主人様なら背中見せずに生活できるよ。ねっ」
「やめてくれ……許してくれ……お願いだから……」


 幸運には上限があるが、不幸には下限がない。ギーシュは自分の幸運を知らなかった。
 ギーシュの使い魔は、自分の性質を押し殺してまで主人に仕えようとしている。
 使い魔としては最低限のことだったが、その最低限がどれだけ重要なことか。
 最低限が無いということは、最低よりも下に位置しなければならないのだ。


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