ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

開戦! 破られた不可侵条約

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開戦! 破られた不可侵条約

ラ・ロシェールの方角から聞こえてきた爆音で、タルブの村の人々は不安に駆られていた。
空を見上げてみれば、何隻もの船が燃えながら山肌にぶつかり森を燃やしていく。
恐らくラ・ロシェールの港にあった船だろうが、それにしては数が多い。
タルブの住人は知らない事だが、それは『来賓』を迎えるためのトリステインの艦隊だった。
しばらくすると空から巨大な船が降りてきて、シエスタが承太郎に自慢した美しい草原に、重い錨を下ろして上空に停泊すると、甲板から何匹ものドラゴンが飛び上がった。
「あれはアルビオンの艦隊じゃないか。不可侵条約のお触れが出たばかりなのに……」
村人達は家に隠れていた。そんな中、シエスタの父が船を見て言う。
そして、ドラゴン達が他の家に向かって炎を見て、父が叫んだ。
「いかん! 家にいると狙い撃ちにされるぞ、森に逃げろ!」
父が先導し家族そろって家から飛び出す。他の家からも森へと逃げる村人の姿があった。
森へ逃げ込みながら、シエスタは泣いた。
「草原が……ジョータローさんと一緒に見た草原が、戦場に……」

ワルドはレキシントン号の甲板から、タルブの村が焼かれる姿を見て笑っていた。
部下達が操る火竜の火力は圧倒的だ。
さらに巨大戦艦レキシントン号からはロープを使い次々と兵士が降りている。
タルブの村を占領し、トリステイン侵攻の拠点とする作戦はもはや成功したも同然。
草原の向こうから近在の領主のものらしい数十人の軍勢が突撃してきたが、竜騎士隊は空中から彼等に竜のブレスをお見舞いする。
「はははっ、圧倒的ではないか我が軍は」
「……けど、私はあんまりこういうのは好きじゃないね」
ワルドの隣にいる女、土くれのフーケは呟いた。これでは戦争ではなく虐殺だ。

作戦は大成功だ。アルビオンの――いや、レコン・キスタの軍勢はそう確信した。
しかし彼等は気づいていない、タルブの村を焼くという事がどういう意味を持つかを。
もし他の村なら、他の町なら、戦争だから仕方ないと『彼』は思ったかもしれない。
だがタルブの村を焼いたのなら『彼』は烈火の如く怒るだろう。そして――。

トリステイン魔法学院では、承太郎達が静かに日食とガソリンの完成を待っていた。
「間に合うだろうか……?」
ギーシュが呟く。日食まであまり時間が無い。
ゼロ戦を飛ばすためのガソリンはまだコルベールが錬金している最中だ。
錬金に集中させるため、承太郎達はゼロ戦を飛ばすための広場で待機している。
その場にはルイズとキュルケとタバサもいた。見送りは生徒四人とコルベールのみ。
「ジョータロー。トリステインに遊びに来る時は、故郷のお土産よろしくね」
キュルケは能天気とも取れる発言をして、場を明るくしようとした。
が、ルイズがやけに落ち込んでいるので、どうにもこうにも。
今生の別れじゃないんだから、そこまで暗くならなくてもいいのにとキュルケは思う。
タバサはというと、ガラにもなくソワソワと承太郎を見ている。何だろう?
用があるならとっとと言えと承太郎が言おうとした時、ルイズがさみしそうに告げた。
「来たみたい」
一同の視線が学院の塔へと向けられる。
太陽光で頭を輝かせるコルベールが大慌てで走ってきていた。
「……おや? ミスタ・コルベールは手ぶらのように見えるが……」
「そうね。がそりんの入った樽はどうしたのかしら? 五本くらい必要なんでしょ?」
ギーシュとキュルケが首を傾げる。ルイズもだ。
しかし承太郎とタバサは、コルベールの表情からよくないものを感じていた。
何か、あった。
その予感を肯定するように、コルベールは叫んだ。
「たたた、大変だ! 戦争だ! 諸君! アルビオン軍が攻めてきた!」
「ええっ!?」
驚きの悲鳴を上げたのは誰だったか。
構わずコルベールは承太郎達の前までやって来ると、説明を開始した。

新生アルビオン政府の客を迎えるため、トリステインは艦隊を率いてラ・ロシェールに出迎えにいった。
だがアルビオン艦隊の撃った礼砲に対し、答砲を撃ったところ、なぜかアルビオン艦隊のひとつの船が炎上し落下した。
アルビオン艦隊はそれをトリステイン艦隊の攻撃と判断し撃ち返してきた。
圧倒的な火力の差によりトリステイン艦隊はほぼ壊滅。
その後アルビオン艦隊は侵攻を開始したとの事だ。
「陰謀だわ! レコン・キスタは最初からトリステインを攻める気だったのよ!」
ルイズが叫ぶ。アルビオン軍をレコン・キスタと呼んだのは、彼女にとってのアルビオン軍は後にも先にもウェールズ皇太子率いる軍だからである。
「やれやれ……出発間際に大変な事になっちまったな」
面倒事は御免というような口調で承太郎は言った。
ハルケギニアの政治や戦争に、異世界の自分は積極的に関わるべきではないし、以前アルビオンに行った事もルイズが行くから仕方なく同行したまで。
それに戦争ともなれば、自分がどうこうして解決できる問題ではない。
この時はまだ、そう考えていた。
「大変ねえ。ゲルマニアからの援軍は間に合いそうにないけど、どうなるんです?」
軍人の家系のキュルケが訊ねると、コルベールは話を続けた。
「うむ、それで、その、アンリエッタ姫殿下が、軍を率いてタルブの村に出陣したとか」
「姫様が!?」
「タルブの村だと!?」
ルイズと承太郎が叫ぶ。ギーシュも驚きのためのけぞっている。
「アルビオンの艦隊は、その、タルブの村に侵攻し、大変な事になっているらしい。
 それに怒った姫殿下が、自ら先頭に立ち戦場に赴いたとか……」
「コルベール! ガソリンはできているのか!?」
承太郎が物凄い剣幕で怒鳴った。あまりの迫力にコルベールは一瞬声を失う。
「あ……で、できてる。運んでこようとしたところで、この事を聞いて……」
「だったら今すぐガソリンを持ってきて、ゼロ戦に入れろ! 今すぐだ!」

日食までまだ時間がある。今すぐ竜の羽衣を飛ばす必要は無い。
「いったいどうするつもり!?」
「それと宝物庫を開けさせてもらうぜ。鍵はどこだ」
ルイズの質問を無視して、承太郎はコルベールに質問する。
「宝物庫の鍵かね? オールド・オスマンが持っているが、しかし、許可がいる。
 いったいどうするつもり……」
「破壊の杖、あれも元々は俺の世界の武器だ。丁度いいから拝借させてもらう」
「まさか……君はッ」
承太郎の考えを理解したコルベールは、真剣な表情を作り落ち着いた口調になった。
「オールド・オスマンはアルビオン軍の侵攻を知り、お忙しい立場にある。
 宝物庫を開けるには少々時間がかかるぞ」
「ならぶち破らせてもらうぜ。構わないな?」
「……君の好きにしたまえ。では急いでガソリンを取ってくるとしよう」
きびすを返し塔へと戻っていくコルベール。
続いて承太郎も宝物庫のある塔へと向かって走り出す。
「ちょ、ちょっとジョータロー! ミスタ・コルベール!
 いったい何なのよ、どうする気なのよー!」
ルイズがわめくと、タバサは場違いなほど冷めた声で言った。
「彼は、戦うつもり」
「え?」
戦うって、誰と? 決まってる、レコン・キスタだ。
タルブの村を守りに行くつもりだ。

使い魔の品評会の最中、フーケのゴーレムが叩いていた塔の壁に到着すると、承太郎はスタープラチナで一気に飛び上がり、壁にラッシュを叩き込む。
「オラオラオラッ!」
フーケのゴーレムでも手こずった壁を粉砕した承太郎は宝物庫の中に入り、以前見た黒い箱を見つけると、それを開き、破壊の杖を取り出した。
左手のルーンが光る。

承太郎より一足早く戻ってきたコルベールは、早々に竜の羽衣へガソリンを入れる。
ルイズ達はどうしていいか解らず、事の成り行きを見守っていた。
すると破壊の杖を担いだ承太郎がやって来て、ルイズ達には見向きもせず竜の羽衣に乗り込む。
「コルベール、急げ!」
「待ちたまえ。これが最後の樽だ」
その樽の中のガソリンを入れ終わるまでが、彼等に残された最後の時間。
そう悟った瞬間、ルイズは叫んだ。
「駄目よジョータロー! 一人で行って、何ができるの? 戦争なのよ!」
「……破壊の杖と竜の羽衣。うまく使えば何とかなるさ」
「なる訳ないじゃない! 戦争を一人で止められる人間なんていないわ!
 そんなの伝説やおとぎ話の中に出てくる英雄くらいの……」
そこまで言って、ルイズはハッと気づいた。
「そうだ。俺は伝説のガンダールヴ……タルブの村は、俺が守ってみせる」
「ジョータロー……」
同じだ。ウェールズと同じ、彼には『覚悟』がある。もう止められない。
彼は行ってしまう。戦うために、守るために、命を懸けて。

伝説のガンダールヴ。
最強のスタンド使い。
異世界からの来訪者。
ゼロの使い魔。
空条承太郎が行く。

「よし、ガソリンを入れ終わったぞジョータロー君!」
「ああ、解ってる。メーターも満タンだ」
承太郎は操縦席の機器を操作し、エンジンをかけた。
左手のルーンは光りっぱなしだ。すでに彼は臨戦態勢にある。

「危ねーぜ、離れてな」
承太郎の言葉に皆が離れる。が、一人だけゼロ戦に駆け寄った。
タバサだ。
「何してやがる、邪魔だ」
「これ」
小さな手が小さな水筒を差し出す。
「タバサ特製はしばみ茶七号。私の最高傑作」
「こんな時に、そんな物を……」
エンジン音が大きく響く。その音に負けないようタバサは声を大きくした。
「ヨシェナヴェの方がおいしいかもしれない。
 でも、絶対おいしいから。飲んで欲しい。お願い」
わずかに逡巡した承太郎だが、ルーンの光る左手でその水筒を受け取った。
そしてふたを開けると、一気にあおる。
ゴクン、ゴクンと、承太郎ののどが脈打つのをタバサは信じられないような目で見た。
微笑を見せて承太郎は空になった水筒をタバサに返す。
「……うまかったぜ。闘志が燃えるようだ。……あばよ」
タバサは喜びに震えながらうなずき、水筒を持ってゼロ戦から離れた。

風防を閉じて竜の羽衣が走り出す。承太郎を乗せて。戦地へと向けて。タルブの村へ。
「……って、飛ばないじゃないか!」
ギーシュが半狂乱で叫んだ。あれだけ引っ張っておいてこのオチはないだろうと。
「いや、あれは飛び立つのに助走が必要なんだ。
 速度を上げて、あのプロペラを風で回して、えーっと、とにかく! 飛ぶのだ!」
どんどん速度が上がっていく竜の羽衣を見て、ルイズは弾かれたように走り出した。
「待って! 私も、ジョータロー! 私も行く!」
しかしルイズの足ではとても追いつけず、竜の羽衣はグングンとスピードを上げる。
そして華麗に飛び立つ……事なく、壁に向かって衝突コース。
承太郎は悟った。ジョースター家の人間は空を飛ぶ乗り物に乗るべきではないと。
「やばいな……滑走距離が足りねー……」

カランと水筒を投げ捨てたタバサは、竜の羽衣に向けて杖を振った。
直後、強風が竜の羽衣の前方から吹いてくる。
プロペラの回転速度が上がる。車輪が、浮く。
「おっ、おお……!」
コルベールは感動に打ち震えた。
鉄の塊が、竜の羽衣が、飛行機が、ゼロ戦が飛ぶ!!
飛び上がったゼロ戦は、外壁をスレスレで飛び越し、学院の外へと飛び出た。
飛んだ。飛んだ飛んだ! ゼロ戦が飛んだ!
「飛んだぞおおおぉぉぉぉぉぉっ!!」
両の拳を天に掲げてコルベールは叫んだ。力いっぱい、腹の底から。
しかし――ルイズはへたり込み、離れていく竜の羽衣を呆然と見上げる。

これで、終わり?
これで、お別れ?
これで、もう……。

そんなルイズを見て、ギーシュも覚悟を決めた。
ゼロ戦を見上げているタバサの両肩をガシッと掴んで、とても真剣な眼差しを向ける。
「他国の出身者である君に戦争の手伝いをしてくれとは言わない。
 だから! 友達としての頼みを聞いて欲しい。手助けだけ頼みたい!
 君の使い魔で僕をタルブの村へ連れてってくれ! 僕も戦う、ジョータローと共に!」
その言葉にハッとルイズは振り返った。
後を追う方法がある。ギーシュは後を追うつもりだ。だったら。
「解った」
タバサが口笛を吹くと、塔の陰からシルフィードが飛んで現れた。
シルフィードが地面に降りると、真っ先にギーシュが飛び乗る。
続いてタバサも。
「タバサ、君は来なくてもいい。君は留学生だろう?
 ゲルマニアか、ガリアか、ロマリアか、どこの国かは知らないが、 この戦いに参加したら祖国に迷惑がかかるかもしれない。
 行くのは僕だけでいい、タルブの村に着いたらシルフィードは帰すよ」

だが、ギーシュのその言葉を聞いて、もう一人シルフィードの背に登ってきた。
「はぁ~い。同盟国のゲルマニア出身の私なら問題は無いわよね?」
「キュルケ!? どどど、どういうつもりだ!」
「私もジョータローが心配なの。さ、タバサ。行きましょう」
タバサがうなずくと、シルフィードが翼を広げた。
「ま、待って! 私も!」
言われなくても待ってましたとばかりにタバサとキュルケは彼女を見た。
置いていかれまいと慌てて走ってくる、ルイズを。
「遅いわよ」
そう言って微笑んで、キュルケはルイズに手を差し出した。
迷わすその手を取ったルイズは、キュルケに手伝われてシルフィードの背中に。
「ああ、もう。行くのは僕だけでいいというのに……」
「あら? 一人だけ格好つけようたって、そうはいかないわよ?
 という訳でミスタ・コルベール。行ってきますので留守番よろしく~」
キュルケがにこやかに手を振ると、コルベールはやれやれと首を振った。
「本来なら止めるべきだが、止めても君達は行くのだろうな。
 生憎徹夜でガソリンを錬金して精神力を使い果たしたため、魔法で止める事もできん……。自分の命を第一に行動しなさい。
 臆病なくらいで丁度いい、君達はまだ若いのだから、君達の命は国の宝なのだ」
「あら、生憎私達はすでに情熱と勇気で熱く燃えたぎってますのよ?」
自信たっぷりなキュルケの言葉に、他の三人もうなずいて同意した。
この熱く燃える心の炎は誰にも止められない。
「出発」
タバサの命令に従いシルフィードが羽ばたき、空へ。
すでに遠ざかり小さくなってしまった竜の羽衣を追いかけて。
四人の小さなメイジ達は目指す。
承太郎、シエスタ、大切な仲間を守るために。
一同はタルブの村へ!

 

 

 

 

 

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