ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

見えない使い魔-10

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暗闇の中、ある男が浮かんでくる。そいつを殺そうと杖を向けるも、魔法が
出てこなかった。巨大なゴーレムが現れない。
なぜか。躍起になって何度も何度も杖を振るう。呪文を唱える。されど意味
はない。と、見かねたように男がこう言った。
「お前の持っているものは何だ」
そんなもの自分の杖に決まっている。そう言おうとしたが、違った。
手に持っていたのは、切り落とされた自分の指だった。

「最悪の寝覚めね」
ぼうっとした口調でそうこぼした。彼女はトリステイン魔法学院の宝物庫に
保管されてある破壊の杖を盗んだフーケである。盗難には成功したものの、
使い方がわからなかったので生徒たちを利用しようとした挙句、彼女たち自
身によって取り押さえられてしまい、監獄に閉じ込められている。
思い返せば思い返すほど間抜けなことをしたものだ。フーケはそう思った。
「でも、あの男……」
フーケがまぶたを閉じる。そうすると一人の男が浮かんできた。みすぼらし
い格好をした盲目の男、体格は大きく、そんじょそこらの兵士よりも立派な
体だった。名前はンドゥール。
彼女はここに来てから何度も彼が出てくる夢を見てきた。先ほどのようにど
こか怪談みたいなものから倒される瞬間の映像が繰り返し再生されるものと、
さまざまである。それらを見るたびに完治したはずの右肩と亡くした右手の
人差し指がうずくのだ。
復讐したい。完膚なきまでに叩き潰してしまいたい。そう願うが、彼女は杖
を没収されているので脱走などできはしない。
悔しくてたまらない。もう一度会いたい。フーケは強く歯を噛んだ。
「『土くれ』」
ふと、その誰がつけたか知れない二つ名が呼ばれた。鉄格子の向こう側に、
いつの間にか客が来ていたのだ。
「何用かしら。あいにくお茶もないんですけど」
「話をしにきたのだ。マチルダ・オブ・サウスゴータ」
その名前は、久しく忘れかけていた本名だった。

「ガンダールヴ?」
「そう、ガンダールヴじゃ」
ある日の夜、ンドゥールはオスマンに呼び出されていた。くれぐれも一人で
来るようにとのことだった。今回はルイズもついてこず、部屋の中でじっと
していた。
「おぬしの手には使い魔のルーンが刻まれているのは知っておるじゃろ? 
それがガンダールヴというもはや伝説となった使い魔と同じものなのじゃ。
なんでもあらゆる武器を使いこなしたとか」
「……どおりで。あれの扱い方がわかった理由もそれか」
「そうじゃの」
「それと、剣を抜いたときに筋力や敏捷性が上がることもそれに関係してい
るのか?」
「いや、それはさすがにわからん。なにせ資料が少なすぎるのでの。ともか
く、おぬしがガンダールヴという伝説の使い魔なのは事実じゃ。それと、お
ぬしが使う水の魔法じゃが、あれはいつから使える?」
「生まれつきからだがひとつ訂正する。あれは魔法ではない。スタンドだ」
「スタンド?」
オスマンが聞き返すがンドゥールはそれ以上言わなかった。
二人が静かに水を飲んだ。
「ま、ともかく両方とも隠しておいたほうがいいぞい」
「なぜだ?」
「仮に王宮に知れてしまえばまたぞろ調子に乗るやもしれぬ。そうなったと
き、矢面に立たされるのはミス・ヴァリエールじゃ。それはおぬしも望まん
じゃろ?」
「まあな。しかし、なるほど。なぜルイズを連れてくるなと言ったのかがわ
かった。あいつはアンリエッタ王女と親しい。あっさりと打ち明けるだろう」
「教師の心、生徒知らずじゃ」
オスマンは目を細めて笑った。

「……あ、帰ってきたわね」
「やあ! 失礼しているよ!」
ンドゥールが部屋に戻ると、ルイズと一緒になぜか興奮しているギーシュが
いた。
「なぜこいつがここにいる?」
「なんだい。その自慢の耳で聞いていなかったのかい。仕方ないね。この僕
が――」
「姫様から秘密の任務を任されたの」
「この僕が……」
「あんたが学院長室にいるときにちょうどお忍びでアンリエッタ様がこられて。
ギーシュは盗み聞きしてて、それに志願したの」
「あいだっ!」
ンドゥールが拳骨を振り下ろした。ギーシュの脳天にこぶができた。
「それで、どんな任務だ?」
「その……」
ルイズが語った内容は次の通りだった。
現在、隣国のアルビオンの貴族が反乱を起こし、今にも王室を倒してしまう
とのこと。その次にはこのトリステインに進行してくること。この国は脆弱
なためゲルマニアという国と同盟を結ぶためアンリエッタ王女は嫁ぐことに
なったのだが、その婚姻を破棄してしまう手紙をアルビオンのウェールズ皇
太子が持っていること。それを反乱勢に奪われる前に取り戻さなければなら
ない。

「難儀だな」
ンドゥールのため息でルイズは気が沈んだ。自分の感情が高まっていたとは
いえ、少しは考えるべきだったかもしれない。それでも、と、彼女は思う。
安請け合いではなかったのだ。敬愛する主人のため、古き友の力になるため
だったのだ。
光を映さない瞳を見て、しゃべる。
「ンドゥール、言っとくけどこれは反故にできないわよ」
「わかった。それで、いつ出る?」
その返事にルイズは拍子抜けした。
「明日、だけど、いいの?」
「いいもなにも、いくのだろ?」
「そうだけど……」
「なら準備をして早目に眠れ。ギーシュ、お前もな。遅刻するなよ」
ンドゥールはそう言って定位置に座った。ギーシュは頭を抑えながら静かに
部屋を出て行った。ルイズは尋ねる。
「あんた、反対しないの?」
「しない。なぜそう思う?」
「だってため息ついてたじゃない。やりたくないんでしょ?」
「お前が決めたのだ。俺はお前がその道を進みやすいようにするだけ。とり
たてて異議はない」
答えを聞き、ルイズは自分のベッドに潜り込んだ。パチンと指を鳴らして室
内の明かりを消すとンドゥールが横になる音が聞こえた。
(でも、たぶんぐっすりと熟睡していないでしょうね)
ルイズにはなんとなくそれがわかった。彼は眠りながらも耳を澄ませ、不審
な物音に注意を払っているのだ。
せめて、そんなことをする必要がないぐらい強くなりたいと思う。
理由はいまのところ彼女にはわからなかった。

翌朝、ルイズとンドゥール、そしてギーシュはまだもやが残っている空気の
中で出発の準備をしていた。長く馬に乗るためのブーツを履き、水や保存食
が詰まった荷物を馬にくくりつける。
「そういえばギーシュ、使い魔はどうするのよ」
「我が愛しのヴェルダンデかい? もちろん連れて行くさ。あれでも地中を
掘って進んでいく速度はなかなかのもんなんだよ」
おいでと、とんとんと地面をけった。もくもくと彼の足元が盛り上がり、大
きなモグラが姿を現した。
「ああ、今日も可愛いぞヴェルダンデ! どばどばミミズをいっぱい食べた
かい?」
モグラはフグフグと鼻を引くつかせる。ギーシュは自身の使い魔を強く抱き
しめ、すりすりと頬ずりをしだした。その様子を見てルイズはちょっと気分
が悪くなった。
「……まあ、ついてこれればいいわ」
そう言って彼女は背を向けた。そのとき、モグラが突如ギーシュを離れてル
イズに飛び掛った。
「な、なんなの! お、重!」
堪えきれずに地面に倒れてしまった。モグラは暴れるルイズの上を動き回り、
薬指にしている宝石に鼻を近づけた。そこでどっかんと蹴りを入れられる。
ンドゥールだった。

「大丈夫か?」
「な、なんとか。それよりも、ちょっとギーシュ! 使い魔の躾はしっかり
してなさいよ!」
「うう、悪かったよ。僕が悪い。だからヴェルダンデは許しておくれ。いつ
も僕のために宝石を捜してきてくれるんだ。さっきのもそうだったんだ」
ギーシュはいつもの高慢さからはほど遠く、真摯に謝った。ルイズは面食ら
いながらもそれを受け止める。そしてパンパンと服を叩いてから馬に跨った。
ンドゥールに手を伸ばし、後ろにつくように促す。
と、彼がふっと上空を見上げた。
「どうしたの?」
「空に何者かがいる」
すぐにルイズはンドゥールが向いているほうへ顔を動かした。そこには、確
かに大きな翼を持った生物、グリフォンに跨った人物がいた。
「何者だろうね? また『土くれ』のフーケみたいに泥棒に来たのかな」
ギーシュはそういいながら杖を構えた。いつでもゴーレムを呼び出せるよう
にしている。しかし、ルイズはその人物を見て、驚きの声を上げた。
「ワルドさま!」
「知っているのか?」
「ええ、でも、どうして彼が……」
そう言っている間にワルドと呼ばれた人物は三人の前に降り立った。つばの
広い帽子の下には精悍な顔があった。
彼はグリフォンから降りると満面の笑顔でルイズに駆け寄ってきた。もとも
と険しい顔は笑みを浮かばせると途端に父性があふれてくる。
「久しぶりだな! ルイズ!」
「え、ええ。でも、なぜあなたがここにいるの?」
「ああ。僕はいま、魔法衛士隊に所属しているんだ。このたび女王陛下から
君たちを手伝うように命じられたんだよ」
「魔法衛士隊?」
「親衛隊。でも、あなたは以前姫様がここに来られたときにいなかったわ」
「そのときは枢機卿の護衛についていたのさ。まだ平穏だったからね」

ルイズはどこか落ち着かなくワルドと会話をしている。
彼女の頬が若干赤くなっているところをギーシュが見て、おやと不思議に思
った。今までそんな表情などしたことはなかったのだ。知り合いだというこ
とは家柄を考えたら納得するが、どうやらそれだけではなさそうだ。
ワルドはようやく気づいたのかそばにいるンドゥールと成り行きを眺めてい
るギーシュに目を寄せた。
「ルイズ、彼らを紹介してくれないか?」
「あの、使い魔のンドゥールと、ギーシュ・ド・グラモンです」
「君が使い魔のンドゥールか! なるほど、盲目というのも事実だったのだ
な。それにグラモン元帥のご子息、これほど頼りになるものたちもそういま
い!」
大きく笑う。ンドゥールを知っているということはフーケの事件は耳に入っ
ているのだろう。
「いや、君のような人物が彼女の使い魔なら僕も安心だ。これからも僕の婚
約者をよろしく頼む」
『婚約者?』
男二人の声が重なった。
その片方、ギーシュは納得した。
(だからあんな顔をしていたのか)
それに彼から見てもワルドはかなりの美青年である。そのうえ魔法衛士隊と
いうだけで十分な名誉を持ち、周囲から多大な尊敬を集める。そのうえ隊長
と来た。これでは美点はあっても汚点はない。男として完全に敗北している
なあと彼は諦観して、ンドゥールを見た。相変わらずの無表情だったが、ど
こか鋭いものがあるとギーシュは思った。


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