ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

使い魔は刺激的-9

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匿名ユーザー

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 ヴェストリの広場。魔法学院の西側に位置する広場で、日中も薄暗く、それ故に人もあまり寄り付かない。
 そんな場所に一人の少女と二人の少年が誰かを待ち受けるように佇んでいた。
 少女は広場の中央で腕を組み、少年たちは離れてその様子を伺っている。
「……遅いわね」
「……遅いな」
「……遅いね」
 中央で仁王立ちする少女の独り言に、そこから離れて佇む少年たちが答える。
 彼女たちは決闘を行なうべく、そしてそれを見守る為に、決闘相手を待っているのだが
 その相手が一向に姿を現さない。時間だけが緩やかに過ぎていく。
「……来ないわね」
「……来ないな」
「……来ないね」
 10分程経過しても未だに相手は現れない。少女は今朝の決闘相手とのやり取りを思い出し、
 また無視されたんじゃないかと少し不安になる。
「ひょっとしてさ……」
 小太りの少年がボソリと呟き、残りの二人の視線が集まる。
「場所…知らないんじゃないかな?」
「……アンタが連れて来るんじゃなかったの?」 
「…知ってると思ったんだ」
 少女の質問に被りを振る少年。気まずい空気が流れる。
「使えないデブね」
 少女の放った言葉が思春期の繊細な心に突き刺さり、少年は座り込んで嗚咽を洩らす。
 人気のない広場に少年の泣き声だけが木霊する。
「オレ……探してこようか?」
 広場を包む空気に耐え切れなくなったもう一人の少年が少女に問いかける。
 少年の眼から、この場から逃げ出したいと言う感情が溢れ出ていた。
「ダメ。一人にしないで」
 普段の横暴さからは到底考えられない言葉を少女が紡ぎ出す。
 その眼にはうっすらと涙さえ浮かんでいた。
 もう限界だった。

「ここがヴェストリの広場さ」
 広場の入り口から聞こえた声。それは悪しき闇を吹き散らす一陣の風。
「ありがとう。助かったわギーシュ」
 メイド服を着た少女が、薔薇の造花を持ち泣きはらした顔の少年に感謝を述べる。
 少年はそれに手を振って答えると広場の隅に行き、座り込んで再び泣き始める。
 その傍には小熊ほどもある大きなモグラが慰めるように寄り添っていた。
「お…遅かったじゃない!!」
「トリッシュ!来てくれたんだね!!」
 トリッシュと呼ばれた少女は決闘相手の少女と彼女の主の少年に交互に目をやる。
「……泣いてた?」
「「泣いてなんかない!!」」
 殆ど同時に否定し袖で眼を擦る二人。その仕草で泣いていたことは一目瞭然であった。
「ヤッホー!ルイズ来てあげたわよー!」
「キュルケ!アンタなんで来てんのよ!!」
 トリッシュたちの後に続いて二人の女性が広場に現れた。  
 燃えるような赤い髪と、褐色の肌に包まれた豊かな胸の谷間を惜し気もなく見せつける少女と、
 透き通る青空のような髪と、雪のように白い肌を持つ少女。
 対照的二人。だが、親密な雰囲気が漂う不思議な少女たちであった。
「ちょっとね、向こうがアレなもんだから」
 ルイズと呼ばれた少女がキュルケと呼んだ少女の言葉に首を傾げる。
「危険」
 青い髪の少女の言葉で尚更訳が判らなくなった。
「と、ともかく!邪魔はしないでよ!!」
「判ってるわ。ちゃんと、負けるところ、見ててあげる」
 決闘相手を無視して言い争いを始める二人を見て、トリッシュは一つ溜息を吐くと
 ルイズの立つ中央へと歩みを進めた。

「遅れて悪かったわね」 
 近くで聞こえたトリッシュの声でルイズは漸くその存在に気付くと、いつも通りの笑みを浮かべ
 嘲りと侮蔑が込められた眼でトリッシュを凝視する。
「てっきり怯えて逃げ出したのかと思ったわ」
「アンタ相手に逃げ出す必要はね~わよ」
 ルイズの挑発を意に介さず、トリッシュは逆にルイズを挑発する。ルイズの瞳が怒りに燃えた。
「き、貴族と平民の違いを、ア、アンタの身体に教え込んであげるわ!」
「そのセリフ、聞き飽きたわよ」
 頭に血が昇ったルイズが呪文を唱え杖を振り、トリッシュが立っていた場所が爆風に包まれる。
 それが開始の合図となった。

「ハズレよ。ヘタクソ!」
 トリッシュは魔法が発動する前に横に飛び、爆発を回避してそのままルイズを中心に円を描くように走る。
 怒り心頭となったルイズが呪文を唱え、トリッシュの後を追うように爆発が続く。  
「逃げてないで戦いなさいよ!この臆病者!!」
 ルイズが叫び、広場に敷かれた石畳や広場を囲う壁がルイズの起こした爆発によって穴が開く。
 最初は攻撃魔法の呪文を詠唱していたが、どんな呪文でも爆発が起きるので詠唱時間の長い
 四系統魔法の呪文を止め、コモン魔法の呪文にルイズは切り替えていた。
 コモン魔法の呪文は四系統魔法のルーンを用いた呪文とは違い、唱えるメイジによって違う。
 幾つかの、呪文の効果を発揮する為の言葉を入れさえすれば、使用者は各々自由に呪文を
 創ることができるのである。
 魔法発動の間隔が短くなり、爆発が逃げ回るトリッシュへと徐々に迫る。
 しかし、トリッシュは焦ることなく静かな眼でルイズを観察する。
 彼女は仲間たちの敵スタンド使いとの戦闘の経験談や、自身の僅かながらの戦闘経験によって、
 観察することの重要性を認識していた。
(ルイズの起こす爆発は……銃弾のように『なにか』を打ち出して…それが触れたものを…
 …爆発させる……その『なにか』が見えないって~のが怖いわね)
 例えば炎が襲ってくれば回避や迎撃、防御などの選択肢が生まれるが、なにも見えず感じることもできない
 ルイズの魔法は、知らなければ防ぎようのない恐ろしい能力である。
 事前にルイズのことを知らず、様子見の為に逃げ回ると決めたトリッシュは幸運であった。

「ほらほらどうしたの?もっと早く逃げないと追いついちゃうわよ!!」
 向かって来ずに自分の周りを逃げ回るだけのトリッシュを見て、落ち着きを取り戻したルイズが
 笑いながら魔法を唱える。余裕ができたのか、命中率も上がり始めていた。
 だが、トリッシュは逃げ回るだけ。まるでなにかを待つように―――
「偉そうなこと言っといて逃げ回るだけ?所詮は…う、げほっ!」
 トリッシュは、ルイズの精神力(授業で習った)が尽きるか、又は早口で呪文を唱える
 ルイズがむせて攻撃が途切れるのを、ずっと逃げながら待っていたのである。 
 体力にも限界がある為、いい加減近づこうと思っていた矢先であった。
「それを……待ってたわ!!」
 ルイズが喉を押さえてむせている。この好機を逃すまいとトリッシュはルイズに向かって走る。
 距離が縮まり、そのまま殴りかかる寸前にルイズが顔を上げる。笑っていた。
「引っ掛かったわね!」
 ルイズの叫びと同時に、トリッシュの左足が、爆発した。


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