ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロの来訪者-9

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「ふんふんふーん♪」
食堂で食後の紅茶を楽しむ少女、ゼロのルイズはご機嫌だった。
今日のデザートは彼女の好きなクックベリーパイなのだ!
なにやら食堂の一角が騒がしくなっている気もするが、彼女にとって今は誰にも
邪魔されたくない至高の時間なのである。
使い魔がそっちの方に行ったような気もしたが、当然無視した。


「まったく、あの馬鹿ったら…」
食堂で食後の紅茶を楽しむ少女、香水のモンモランシーは先日の事を思い出して
不機嫌になっていた。

「ギーシュ、ポケットから壜が落ちたぞ」
「おお!その香水はモンモランシーのものじゃないか!」
「つまりギーシュ、お前はモンモランシーと付き合っている。そうだな?」
「ち、違う!彼女の名誉の為に…ケ、ケティこれはその…
 ヒィ!も、モンモランシー!?違う、違うんだ!」
「ヘイ!ケティ、マスク狩りの時間だ!」
「OKモンモランシー!」
「クロス!」「ボンバー!」
「ウギャー!キン○マ―ン!」
「すまないギーシュ!僕が壜を拾わなければ…」
「いいんだ…それより、誰か僕の顔を見て笑っていやしないか?」
「誰にも…誰にも笑わせはしない…」
「ありがとう…マルコメミソ」
「マリコルヌ!風上のマリコルヌだよ!?」


つまりは、付き合ってる男に二股かけられたのである。
気位の高い彼女には、とてもとても許容しがたい出来事であった。
気位が高くなくても許容できない話だと思うが。
それでも謝られると許したくなってくるのが、余計に腹が立ってくるというかなんというか。
「どうぞ」
そんなことを考えていると、メイドがデザートを机に持ってくる。
当然貴族である彼女が『ありがとう』等と、平民に一々礼を言うわけも無く、
配った彼女を見ようともしないでクックベリーパイを口に運ぶ。
「…ちょっと、そこの貴方」
「え、私ですか?」
ケーキを配ったメイドが、貴族に呼び止められた事に当惑して立ち止まる。
「これ…どういう事?」


シエスタはこれ以上ないというぐらい脅えていた。
目の前の貴族、学生といえど魔法を操り、平民である自分にとって絶対的な存在が
自分に怒りをぶつけているのである。
「申し訳ございません!どうか、どうかお許しください!」
体の震えが止まらない。
「お許しください、ですって?
 貴族である私の口に、平民である貴方の髪の毛を入れておいてお許しください?」
「お願いします、どうかお許しを!」
涙が溢れてくる。
平民の自分が貴族に粗相をして唯ですむはずが無い。
周りを見ても、他のメイドは見てみぬフリをし、貴族は何事かと一度は見るものの、
平民が貴族から罰を受けているとわかれば、あとは特に関心をしめさない。
助けなど望むべくも無いのだ。


シエスタにとって不幸だったのは、モンモランシーの機嫌が悪かった事だ。
そうでなければ怒りこそすれ、基本的に野蛮な事を嫌う彼女が『お仕置き』を
する事もなかっただろう。
「覚悟はいいかしら?」
魔法の杖を取り出し、残酷に告げる。
「どうか…」
脅えるメイドに、嗜虐心をそそられたモンモランシーが杖を振ると、
メイドの頭上から水が降り注いだ。
「あら、似合ってるじゃない?」
ずぶ濡れになった姿を見て、にっこりと微笑むモンモランシーの姿に、
シエスタは更なる恐怖を覚える。この程度で済むはずが無いのだ。
「あぁ……ぁ……」
「さあ、次は…」
魔法を繰り出そうと杖を振り上げた瞬間、誰かがその腕を掴んだ。


「やめないか!」
育郎が食堂での騒ぎに気付き、駆け寄って見た物は、杖を振り上げる女生徒の前で、
先日世話になったシエスタがずぶ濡れになって震える姿だった。
「な、何よ貴方!?平民が気安く貴族にさわらないでよ!」
女性が抗議の声をあげるが、無視して育郎が尋ねる。
「君は何をやっているんだ!?」
「ハァ?この子の持ってきたデザートにね、髪の毛が入ってたのよ。
 粗相をしたメイドにお仕置きして何が悪いのよ?」
「な!?そんな事で…」
「さっさと離しなさいよ!」
モンモランシーが、呆然とする育郎の腕を振り払おうとするが、
掴まれた腕はまったく動かない。

「彼女に謝るんだ」
静かに、だが強い意志を持って育郎の口から出た言葉を、モンモランシーは
鼻で笑って拒否する。
「謝る?何で貴族の私が平民に謝らなきゃいけないの?
 それに悪いのはこの子の方じゃない」
「君が怒るのもわからないわけじゃない…でもこれはやりすぎだ!」
「な、なによ…」
なんだなんだと、周りの生徒が2人のやり取りに気付く。
「おい、平民が何やってるんだ!」
「あれは…ゼロのルイズの使い魔じゃないか?」
「主人が主人なら使い魔も使い魔だな…」
周りの生徒が騒ぎ出した事により、少し弱気になったモンモランシーが勢いを取り戻す。
「さあ、早く手をはなしなさい!」
しかし育郎は手をはなそうとはせず、モンモランシーを見据える。
「彼女に謝るんだ…」

な…なんなのこいつ!?

生徒達に囲まれても、まったく物怖じせずに自分を見る育郎に、モンモランシーは
恐怖とまではいかないが、言いようのない不安を感じていた。その時、

「君!今すぐその汚い手を、僕の愛するモンモランシーからはなすんだ!
 さもなくば、このギーシュ・ド・グラモンが相手になってやろう!」


ギーシュは先日の事を謝る為に、愛するモンモランシーを探していた。
ポケットには今月の小遣いの大半をはたいて買った指輪が入っている。
「これを精一杯の愛の言葉と共に渡せば、彼女もきっと許してくれるに違いないさ」
彼は女の子が好きで、特にかわいい女の子が好きで、さらに女好きの家系という
環境で育ち、あとちょっと頭が弱かったりするため、つい二股なんてしてしまったが、
それでもなんのかんの言って、モンモランシーが一番好きなのである。
「モンモランシーならまだ食堂にいたわよ」
彼女の友人の言葉に従って食堂に行って見れば、なんとモンモランシーが平民、
ゼロのルイズが呼び出した使い魔に凄まれているではないか!
当然の如く、彼は愛するモンモランシーを助ける、というよりは相手が平民なので、
どちらかというと彼女にいい格好を見せる為に、前に出たのであった。
「ああ、ギーシュ!」
そんな思惑も見事に的中したようで、不安になっていた彼女が元気を取り戻す。
「聞こえなかったのか?手をはなすんだ…」
彼なりの凄みを効かせて育郎に薔薇の形をした杖を向ける。
「ほ、ほら早くはなしなさいよ。痛いじゃないのよ!」
「あ、すまない」
やっと手をはなした育郎を見て、モンモランシーは先程の不安を思い出し、怒りに震えた。

この平民にどんな罰を与えてやろうか?
平民が貴族に向かって生意気な目を向けてきたのだ…
そうだ!ギーシュのゴーレムを使って痛めつけてやろう!


「まったく、貴方にも躾が必要なようね、ギーシュ!」
「ああ、任せてくれたまえ、モンモランシー…」
「とにかく、シエスタさんに謝るんだ」
「そう、このメイドにあやまって」
「ふっ、何がなんだかよくわかんないけど…すまないね、君」
「は、はぁ…」
「………って違うわよ!ギーシュ、貴方も何言うとおりにしてるの!?」
「え、でも君が謝れって?」

「貴族の僕たちが、何故平民なんかに頭を下げなきゃいけないんだ?」
事の経緯を聞いたギーシュがやれやれと首を振る。
「そうよ!大体平民の貴方が私に気安く触れるなんて…」
「そうだ、僕の愛しいモンモランシーになんてことをするんだ?
 だいたい、そのメイドが悪いんだろう?」
「…だからと言って、ここまでする事は無いだろう」
育郎が呆然とするシエスタを快方する。

うーん、なんだか変なことになってきたぞ?

ギーシュの予定では、今頃は格好よく現れた自分がこの平民を叩きのめし、
モンモランシーからお礼のキスでも貰っているはずなのである。
それがこの平民と来たら訳のわからない事を言って、予定とは違う方向に
話が向かっている。

そういえば何で僕がメイドに頭を下げてるんだ?思い出したら腹が立ってきた。
モンモランシーも機嫌が悪くなってるし…よし、ここで一つ良いとこを見せよう!


「モンモランシー…彼の言うとおり謝ってあげてもいいんじゃないか?」
「な、何を言ってるのよギーシュ!」
先日の一撃で頭のどこかが壊れてしまったのかと、驚きながらギーシュを見る。
「ただし、僕に勝ったらだ………『決闘』だよ!!」
オオーッ!と周りから歓声が上がる。
「『決闘』?」
「そうだよ、正々堂々戦い、負けたほうが勝った方のいう事を聞く。どうだい?」
「そんな!?」
おどろく育郎を、脅えているととったギーシュは、調子に乗ってさらに続けた
「貴族から『決闘』を申し込まれたんだ、まさか断るは言わないよな?
 いや、所詮『ゼロのルイズ』の使い魔…主人同様出来損ないなら、
 臆病風に吹かれてもしかたあるまい…」
その言葉に周りの生徒達から笑いが起こる。
「…わかった、受けよう」
「そんな!?育郎さん駄目です!」


育郎が女生徒を止めた時、シエスタの目には彼がおとぎ話の勇者の如く映った。
物語のなかから出てきた英雄が自分を救いにきてくれたのかと。
しかし、時が立つにつれ怖くなってきた。育郎はただの平民なのだ、
それが貴族と『決闘』だなんて…自分のせいで育郎が殺されてしまうかも知れない、
そう思うと先程より強い恐怖が襲ってくる。
「イクローさん、相手はメイジなんですよ!?殺されちゃいます!」
「殺される…だって!?」
驚いた育郎の顔を見ると胸の中が罪悪感でいっぱいになる。
もっとも、育郎が驚いたのは、生命の危険を感じたからではないのだが。
「僕はヴェストリの広場で待っている…逃げるなよ?」
ギーシュがそう言ってモンモランシーと一緒に去っていく。
「私が…私が悪いんです…だからイクローさんがこんな事を…」
ついには泣き出してしまうシエスタ。
「いいんだ…大丈夫だから」
「何が大丈夫なのよ!」
いつの間にか現れたルイズが育郎を怒鳴りつける。
「あんたどういうつもりなのよ、貴族と『決闘』だなんて!?
 ちょっと馬鹿力だからって調子に乗らないでよ…ほら、一緒に謝ってあげるから」
「それは出来ない…」
「なんでよ!?いい、メイジに平民は絶対に勝てないの!
 心配しなくても、誰もあんたを臆病者なんて言わないわよ…」
「…違う」
「な、何が違うのよ…」
育郎にとって臆病者と呼ばれることなど、どうという事は無かった。
シエスタの事もあったが、逃げればルイズも馬鹿にされてしまう、
それが彼に『決闘』を受ける決心をさせたのだ。

「シエスタさん、彼の言っていた広場はどこですか?」
「駄目!?駄目です!」
涙を流しながら必死で止めようとするシエスタをなだめながら、
育郎は近くにいた生徒に広場の場所を聞く。
「何やってるのよ!?やめなさいって言ってるでしょ、ご主人様の命令なのよ!?」
「…それはできない」
「………もう知らない!ギーシュの馬鹿にボコボコにされればいいのよ!!」
走り去るルイズの後姿を見送り、シエスタを他のメイドに任せてから、
育郎は広場に向かった。

果たして、僕はあの力を使わずにすむのか?

そう考えながら…




「何か俺忘れられてねーか?いらない子認定されてね!?」
そのころデルフリンガーは言いようの無い不安を感じ、思考がネガティブになっていた。


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