ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

アンリエッタ+康一-9

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匿名ユーザー

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静かな夜の王城の一室。
ランプの明かりが室内を照らし出し、3人の姿を描き出す。

「本当なのですか…」
「はい。ありのままにお話しております」
信じたくはない。だが状況から考えてそれが真実である可能性はとても高い。

だが頭では理解しても、心が納得できない。
生まれてこのかた、人の心を推し量ることなどない生活だった。
そんな自分に初めて直接ぶつけられた激情はドス黒い「悪意」だった。

心を他人の感情で塗りつぶされてしまいそうな、この感覚。
振り切るように押さえ込むようにしてアンリエッタは言った。
「アニエス殿が言うなら、本当にそうなのでしょうね。………この城の中に内通者がいるというのは」

あぁ、と手で頭を押さえながらアンリエッタは呻いた。
「このことを姫様に報告するのは迷いましたが、内通者がいるのでは信頼でき、かつ報告しても問題ない者が姫様以外におりませんでしたので」
苦味を噛み締めながらアニエスが言う。

今日の昼に宿で手に入れた板に書かれた内容は驚くべきものだった。
この王城に入り込んだ内通者が記した城内への侵入方法。
しかもその内容にはアンリエッタに近しい者たちしか知らないこともあった。
恐るべき綿密さと正確さの周到な計画である。

これだけのことを調べだし、計画を組み立て、不都合があれば掻き消す。
少しずつ、少しずつ、この内通者はナメクジが這うようにしてアンリエッタの足を絡めとっていた。
長い時間を掛けたのだろう。この計画の執念深さが、板切れからヒシヒシと感じる。

「それは構わぬのです、アニエス殿。ですがわたくしは恐ろしい。
この城の中に、わたくしの足元に何者かが潜んでいるなどとは……」
顔から血の気が引いた、白い面相が恐怖に歪む。

恐怖するアンリエッタを見て、康一は思う。
アンリエッタはこの国、トリステインの姫であるが中身は普通の女の子と変わらない。
街の女の子と同じように甘いものが大好きだし、憧れの人に懸想もする。
普通のなのだ。ただ普通の女の子なのだ。

お姫様という型がアンリエッタをお姫様たらしめている。
国という型がアンリエッタを姫にしてしまっている。
人が、民が、こうあってほしいと望む姿が結果、アンリエッタを今こうして怯えさせているのだ。

康一は許せないと思った。
かつての杜王町で女の子が泣いていた。
15年も昔に殺人鬼の手に掛かり、ずっと心で泣きながら町を守る人を待ち続けていた幽霊の女の子。
あの誇り高い女の子の姿がアンリエッタに重なって見えた。

「逆…ですよね……」
「…ぇ、?」
俯くアンリエッタが面を上げ、康一を見つめる。

「とんでもなくムカッ腹が立って来ました……
なんでそんな下種ヤローの為にアンリエッタさんがビクビクしてなきゃなんないんですか?
どうしてブルブル震えてるのがアンリエッタさんじゃないとならないんですか?」

「逆なんじゃあないんですか?」

ズンッ!

「ブルブル震えて怯えてるのは、その下種ヤローのほうなんじゃあないんですかッ!」

爆発するような言葉のエネルギーがアンリエッタとアニエスを突き抜けた。
今の康一は殺人鬼「吉良吉影」との戦いの最中と同等の精神力を発現している。
たとえスタンドを持たない二人であってもその「凄み」は十二分に感じ取れた。

「コ、コーイチさん?何を仰って……」
「大切なのは今ッ、僕達は敵を追い詰めているってことですッ!」
アンリエッタは話を切られたうえに、康一が何を言っているのかさっぱり分からなかった。

「昨日アンリエッタさんを襲ったヤツらは失敗なんかすると思ってなんかなかった。 でも僕がたまたま先に召喚されちまったもんで失敗したッ!」

「だったら怯えて逃げ回るのはソイツらの方だッ! 証拠を残したうえに犯人をとっ捕まえられちまったんですからねッ!」

「確かに、一理あるな…」
アニエスがアンリエッタに向きなおる。
「姫様。確かに現状をみるとこれは、こちらから攻めるいい機会です」
「攻める…?」

呆然としたように反復するアンリエッタ。
これまでの人生で、守られることはあっても攻めることなどなかった。
まさに彼女の理解の外にある考え方である。

「し、しかし攻めるといってもどうやって…」
「姫様、貴女様のお力をお忘れですか?」
問われて困惑の表情を見せるアンリエッタ。
「姫様、貴女様は姫様であられましょう?」

ハッとするようにアンリエッタの表情が光を帯びる。
そうアンリエッタはトリステインの姫であり、将来のこの国の担い手。
文字通り、国を動かす力を持っているのだ。

そして自分には貴族としての、王族としての誇りがある。
貴族・王族とは民の先頭に立ち、先を切り開く者。

その最たる自分が命を狙われた程度で屈する訳にはいかないッ!
否ッ、今までの自分の積み重ねてきた人生が許さないッ!

スッと瞳を開く。
まだ脆く不安定ではあるが、確かに瞳には決意の片鱗があった。
「…まず御二人に礼を言わせていただきます。
このわたくしに王族としての誇りをよくぞ取り戻させてくれました」


「そしてわたくしはトリステインの姫としてお願い申し上げます。
どうかッ、この未熟なわたくしめにお二人の力をお貸しくださいッ!」

康一が、アニエスが、笑った。
「勿論ですッ!」「無論ッ!」

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