ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

第七話 『微熱注意報』

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第七話 『微熱注意報』

ルイズが教室を爆破してから一週間が経過した。
トリステイン魔法学院本塔の最上階に学院長室はある。中にはこの部屋の主であるオスマンとその秘書のロングビルの二人しかいない。
ロングビルの筆が走る音だけが聞こえてくる。平和だ。
だがそこへけたたましい音を立ててコルベールが飛び込んできた。
「たた、大変れす!」
後退した額にびっしりと汗を浮かび上がらせ薄い髪は額に張り付いていた。さらには急いできたせいで息が上がって呂律がまわっていない。
対照的にロングビルは慌てず、優雅な手付きで水差しからコップに水を移しコルベールに手渡す。
「どうしたのですか、毛相を変えて?」
「ごく・・・ごく・・・プハァッ!いや、どうもお恥ずかしいところをお見せした。焦りすぎて血相を毛相と聞き間違えてしまいましたな」
「オホホ、それは愉快ですわ」
「ハハハ・・・ぐすん・・・ハッ!そうだ、大変なんですオールド・オスマン!」
コルベールが読んでも反応はなかった。室内でこれだけ叫んでいるのに手を組んだまま微動だにしないオスマン。
貫禄があるといえばそれまでだが、それ以上の『悟り』を感じさせる空気を漂わせている。
「・・・オールド・オスマン?」
異変に気付いたコルベールがオスマンの顔を覗きこむと――


「ハッ!す・・・すでに死んでいる!」
驚愕するコルベールの背後にいつの間にかロングビルが立っていた。
「私が息の根を止めた・・・スカートを覗いた時点でな・・・そして下着を守ることができた・・・
 やれやれだわ・・・どんな気分かしら?今まで散々名前を間違えられてきた相手の死体を目の前にして、背後から立たれる気分は?
 ようやく増毛剤の効果が出た頭をグワシッ・・・と掴まれる気分と言ったところかしら?」
「う・・ウオォォォ!ミス・ロングビルゥッ!」
コルベールは渾身の叫びと共に振り返ると腕を振りかぶりッ!
ガシィッ!
と、ロングビルの手を握った。
「よくやってくれました!私もいい加減腹に据えかねていて・・・次に間違えられたらプッツンすることは確実でした!まったくこの劣化版ダンブルドアときたら・・・」
コルベールはぶちぶちと愚痴をこぼしたが、最後は二人共満面の笑みで笑いあい、声を揃えて言った。
「「トリステイン魔法学院、完!」」
「ほっほう。ではこれからは誰が職場に下着(うるおい)をお届けするのかね?」
「「オールド・オスマン!」」
死んだはずのオスマンが平然と喋っている光景に二人は腰を抜かしてしまった。
「い、生きておいででしたか・・・」
「『金剛國裂斬』食らったときはさすがにお迎えが来たんじゃがな、可愛らしい女子じゃったものじゃでつい癖で覗いたら帰されちったわい・・・
 天国と言えば『飯は旨いし姉ちゃんはキレイ』と相場が決まっとるだけに勿体なかったのう・・・トホホ。しばらくはこの行き遅れの残り物で我慢するかのぅ」
天国までいって何やってんだこのジジイとコルベールは思ったが、背後に感じる殺意の波動が覚醒する前に話をしないと面倒になると悟った。
「それよりもこれを見てください!」
コルベールは持ってきた書物を渡した。それを見たオスマンはキリッ、と顔を切り替えてロングビルに退出するよう命じた。


「以前、春の使い魔召喚の儀式の際に気になるルーンがありましたので調べて見たら・・・」
「この『始祖ブリミルと使い魔たち』に・・・『ガンダールヴ』に行き着いた、と?」
コルベールは無言で頷く。「してその奇妙なルーンの持ち主は誰じゃ?」
「それが・・・『あの』ミス・ヴァリエールの呼び出した『人間』なのです!」
オスマンの目がクワッと見開かれた。その眼光に気圧されてコルベールが後退ってしまった。
「し、しかも、生徒間の噂ではありますが、なんでもあの『青銅』のギーシュと決闘をして圧勝したとか。しかも『魔法』らしきものを使ったという話しも聞きました。
 もっとも、ギーシュ程度が相手なので断定するにはあれですが・・・」
その言葉を聞いたオスマンの視線が射抜く。
「ギーシュ『程度』じゃと?そういうのはこれを見てから言うもんじゃ」
オスマンが机の引き出しから一枚の紙を取り出してコルベールに見せる。
「図書借りだし上位者名簿?」
オスマンがある箇所を示すと、そこには『ギーシュ』の名前があった。
「ここ最近奴は魔法書ばかり借りておるし、夜中に寮を抜け出して特訓しとるわい。そんな勤勉な生徒を捕まえて『程度』じゃと?教師が生徒を知らぬでどうしようというのか!」
オスマンの叱責にコルベールは返す言葉がなかった。


「以後気を付けよ。話を戻すぞ・・・伝説では一個軍隊を一人で相手取るほど強力な力を持っていた、とあったのう」
その言葉にコルベールは鼻息を荒くして捲し立てる。
「そうです!始祖ブリミルの呪文詠唱のための『盾』とまで呼ばれた規格外の存在!それが現代に蘇ったのですよ!あの『ガンダールヴ』がッ!」
「落ち着かんかい。で、その使い魔の契約者、ルイズと言えば・・・」
今にもイヤッホオーッと飛び上がりそうだったコルベールが途中で固まる。
「・・・魔法はからきし。まるで使えません。努力はしてるようですがなぜかさっぱり」
「ふむ、魔法が使えんメイジと伝説の使い魔がなぜ組んだのか。理由はわからんが、この件は私が預かるゆえ、他言無用じゃ。DO YOU UNDERSTAND?」
「YES! YES! YES!」
「わかったなら退がりたまえ。もう昼飯時じゃ」
コルベールはうやうやしく頭を下げると退室した。
一人になったオスマンは窓の外から空を見上げて呟いた。
「いい天気じゃ・・・まるで台風の目にいるような・・・のう」

ところ変わって食堂の裏の厨房。昼飯時ということもあり、人々は大分忙しく動き回っている。そんな厨房の片隅でウェザーは食事をしていた。
「おかわりならありますからね」
「ああ、じゃあお言葉に甘えようか・・・」
シエスタは微笑んで奥に消えた。
しかし助かるな。俺は今ルイズに飯を抜かれているから、シエスタがいなければかなりまずい状況になっていたな・・・。
腹が少し膨らみ落ち着いたのも手伝って、ウェザーは一週間前のことを回想し始めた。

一週間前へバイツァ・ダスト!

ルイズの言う通り、二人で掃除したら昼には終わり、なんとか昼飯を食いっぱぐれるのは防げると安心して、なぜか上機嫌なルイズと食堂へ向かうと、入口にシエスタが立っていた。
こちらに気付くと急いで駆け出してきて、ウェザーの前で俯いたが、意を決したのかウェザーを見上げた。
「あの・・・すいません。あの時逃げ出してしまって」
本当に申し訳なさそうに謝る。誠意が確かに伝わった。
「気にしなくていい・・・俺が勝手に買った決闘だ」
「それで、お詫びと言ってもなんなんですが、料理をご馳走しようかと・・・」
「あ、アンタ何言ってんのよ!そんなの許すわけないでしょ!」
隣で眉をピクピクさせていたルイズが口を挟んできたが、ウェザーは素早い動作でシエスタの肩に手を回してシエスタに厨房まで案内を頼んだ。
「ちょっとウェザー、なんでそっち行くのよ!アンタの食事はこっち!」
「カワイイ女の子が恥を忍んで誘ってくれたのを断る理由があるか?いや、ないね。第一そっちにあるのは食事じゃない、『何かの汁』だけだ」
どこか慣れた手付きで赤くなってるシエスタに寄り添うウェザーにルイズはわなわなと震えた。
「あ、あ、アンタなんか一ヶ月飯抜きなんだからーッ!」
あとメイド、肩組まれたからってどさくさ紛れにくっつきすぎよ!
その日、食堂でちょっかいかけてきたマリコルヌにルイズは『瞬獄殺』を決めたと言うがそれはそれ。


そして現在に至る。あれからルイズはマジで食事を抜いた意外で突っかかることはなくなった。部屋の掃除や洗濯はのらりくらりとかわしながらたまに手伝ってやる程度だ。
夜遅くまで魔法の練習をしているのか煤だらけで帰ってくることも多々あった。
「お待たせしましたウェザーさん」
「ああ、ありがとう」
あの後、ウェザーの食事抜きに対して責任を感じたシエスタが賄いを恵んでくれているので餓死は免れている。
監獄暮らしが長かったせいもあって、美味しいものに飢えてはいたが、この料理は至高の美食家さえ唸らすだろうと思えた。
そんな究極に近いスープを一口すする。
「ん?これは・・・」
「気付きました?マルトーさんが隠し味に『ネオホンコン』を入れたんですよ。有名なワインなんです」
「確かにこいつは上手いな。何と言うか、王者の風だな」
「全新?」
「系列」
「天破!」
「狂乱!」
「見よ!厨房は赤く燃えている!」
最後の方はウェザーの賛辞を聞いた料理長マルトー以下厨房の面々が叫んだものだ。
「そうだろう『我らが剣』!手に入れるのには苦労したが、お前のためなら躊躇なく使えるぜ!」
そうだそうだ!と厨房中で雄叫びが上がる。食品衛星によくないぞ。
シエスタと一緒に初めて厨房に行った日、扉を開けてかけられた第一声が『我らが剣』だった時は新手の宗教かと焦ったが、実際は気のいい料理屋集団だっただけだ。
マルトーやシエスタが笑うと、その陽気さに釣られるようにウェザーも微笑む。
平和な時間が過ぎていた。
しかし、今日はそんなウェザーを陰から覗きこむ赤と青とピンクの影があった。若いコックがそれに気付くと、三色は散り散りになって消えた。


ウェザーは放課後になるとギーシュを捕まえて外をぶらつく。目の前を三年生の女性が二人通り過ぎた。
「ナンパの仕方を知ってるかギーシュ?」
「そりゃあ、きっかけを作ってアタックあるのみだろう?」
「違うな。いいか?まず女とそこの木を比べるんだ。そこの木よりマヌケそうなら絶対に引っ掛かる」
そう言うやいなやウェザーは三年生二人に声をかけた。ウェザーの言う通り簡単に引っ掛かった。
「ヤッベ!カッコイイ!2人ともヤッベ!あんたどっち?どっちにすんのよ!」
騒いでいる四人の中から、やはりウェザーだけを見ている影が三色。建物陰から顔だけを出している。
「あ、あの盛りのついた犬~、顔見せないと思ったらナンパなんかしてるし!」
「きゅるきゅる」
「きゅいきゅい」
「しかもご飯抜いたらあのメイドに餌付けされてるし!」
「きゅるきゅる」
「きゅいきゅい」
「『俺はお前を信じるさ』とか言っときながらなんなのあれは・・・ってうわぁ!」
ようやく自分の後ろに二匹いたことに気付いたピンクことルイズ。
いきなり叫ばれてビックリしたのか赤と青――フレイムとシルフィードは全速力で逃げていった。
さっきまでは下からルイズ、フレイム、シルフィードの順に顔が並んでいたのだ。
「なんなのよあいつら・・・キュルケとその友達の青髪の使い魔よね?ってああ!」
ルイズが視線をウェザーの方に戻した時にはすでに四人は消えていた後だった。

ギーシュとナンパをした(結局ギーシュがモンモラシーに見つかり『特訓』するからと引きずられていき冷めたのでわかれた)日の夜にルイズの部屋に戻ると扉が開かないのだ。鍵がかかっている。
「おいルイズ、いないのか?」
へんじがない ただのるすのようだ。
一応隙間から風のセンサーを入れて見たが動くものはなかった。
さて、どうするかと思案に暮れていると何かが裾を引っ張った。足元を見ると暗がりでも明るいトカゲ、キュルケの使い魔フレイムがいた。
「どうした?お前も中に入れないのか?」
尋ねるとフレイムは律儀に首を横に振り、きゅるきゅると人懐っこく鳴いた。そして背を向け少し歩くとこちらを気にしてちらちら見てくる。



・・・ついてこいということらしいな。
フレイムは開いているドアの中に消えた。入れということらしい。そう言えばここは確か――
部屋の中は真っ暗だった。一応警戒して風のセンサーを放つと、フレイム以外に部屋の奥に一人動く反応があった。
「扉を閉めて」
ウェザーは言われた通り閉めた。
「ねえ、こっちにいらっしゃいよ」
「暗すぎて歩けん」
キュルケが指を弾くと部屋の中のロウソクがキュルケに向かうかのように火を灯した。
照らされたベッドにはベビードール姿のキュルケがいた。悩ましげな肢体が誘惑するかのようにくねる。
「どうしたの?いらっしゃいな」
色っぽい声が耳をうつ。百人の男が百人とも蕩けてしまいそうな声だ。しかしウェザーは戸惑う風もなくキュルケのベッドに歩み寄る。
「あなたはあたしをはしたない女だと思うんでしょうね」
「本能に忠実なのさ君は」
「そうね。でもどうしようもないの。あたしの二つ名は『微熱』」
キュルケのしなやかな指が立っているウェザーの足をなぞる。
「恋の微熱の前では理性なんてバターのように溶けてしまうわ。いけないことだとわかっていても止まらないの。わかる?あたしはあなたに恋をしているの。
恋はまったく、突然ね」
「嵐のようにな」
ウェザーは自分が誘われているとわかると、キュルケの肩を押してベッドに倒した。
「あら、あなたも気が早いのね。嫌いじゃないわ。でも、聞いて?あたしがあなたに恋をした理由を。
あなたがギーシュを倒した時、まるで雷で打たれたような衝撃を受けたわ。そう、微熱が情熱に変わった瞬間よ!」
キュルケは自分に覆い被さるウェザーの胸に『の』の字をなぞりながらうっとりと話し続ける。
「フレイムを尾行させたのはごめんなさい。あなたの事が気になってしょうがなかったの」
そこまで言うと首に手を回して、目をつむる。
ウェザーとキュルケの吐息が混ざり合い、一つになろうとした時、窓が叩かれた。そこにはハンサム顔の男がいた。
「キュルケ!待ち合わせ時間は過ぎてるというのに・・・」
「ペリッソン!ええと、二時間後に」
「話が違う!」



キュルケは胸の谷間から杖を抜くと煩そうに振るった。ロウソクの火が大蛇となり窓ごと男を吹っ飛ばした。
「まったく、無粋なフクロウね」
しかし休む間もなく男たちが壊れた窓に群がる。
「キュルケ!そいつは誰だ!」
「もう!フレイムお願い!」
フレイムが群がる男たちに向けて火を吐くと、全員仲良く落ちていった。
「あのね、ウェザー、あれは何でもないのよ?」
再びキスをしようと唇を近づけるキュルケに対してウェザーは冷めていた。キュルケの口を手で押さえて押し戻す。キュルケが上目遣いで寂しそうな顔をするが、ウェザーは気にしない。
「別に何股に対して怒っているわけじゃあない。恋は自由だが恋は嵐だ。来るときは激しく、去るときは突然だ・・・」
そのまま踵を返して部屋を後にしようとするとキュルケが足にすがりついてきた。
「お願い、待って!あたしは本気なの!」
泣きじゃくるように足に頬を擦り付けてくるキュルケわ振り払うことはできなかった。
だが、ウェザーは多少の罪悪感を感じようともキュルケを振りきるべきだったのだ。
「・・・アンタ何してるの」
瞬間、ウェザーとキュルケは凍りついた。声の主はわかっている。だが、その主からは創造もつかないような冷たい声だったのだ。
「・・・ルイズ・・・見てわかると思うが大したことじゃあないんだ」
「大したことじゃあない?女が膝立ちで腰にくっついてるのが・・・大したことじゃないわけないだろがあぁぁぁぁッ!」
プッツンしたルイズは素早く杖をウェザーに向けると『フライ』の呪文を唱えた。短い呪文だがウェザーならかわせる。もっとも、キュルケに下半身を捕まれてなればの話しだが。
「待てッルイズ!」
「光になれえぇぇぇッ!」
この夜一番の爆音が夜空に響いた。

この後ルイズと部屋に戻ったウェザーは、わなわな震えるルイズからツェルプストー家との因縁を聞かされ、理不尽に襲いかかる鞭をエアバッグで防ぎながら説得するために徹夜を余儀なくされ、その成果も更なる三ヶ月の飯抜きだった。

疲れた眼で昇り行く朝日を見て、今日も晴れるな、と確信した。

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