ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ストレイツォ-3

最終更新:

familiar_spirit

- view
だれでも歓迎! 編集
ルイズはふらふらと自室に戻っていた。
契約は成功した。
しかし成功なら何でもいいのか。
コルベールの言ったことは理解はできる。
喚び出して契約の後死んだ、と喚び出したが死んだので契約は結べなかった
では再度召還する時の説得力が違う。
その為だけにあの使い魔は生かされている。

貴族である自分は一段上の存在だとずっと思って生きてきた。
だからどこかで貴族の為に平民が死んでも当然だと思っていた。昨日までは。
今、あの使い魔は間違いなく自分のエゴの犠牲者だ。
召喚前に何があったかは分からないが、あの様子では魔法でも長くは持たない。

コルベールが大声で水のメイジを集めた時。
ルイズは自分が無力な無能のゼロであることをはっきりと理解した。
いや、そんなゼロだからこそ死にかけた使い魔が出てきたのかもしれない。
あの使い魔は無言でルイズにこう問いかけていた。
回復どころか使い魔を浮かせて運ぶ事すらできないお前さんは貴族か?

一人、メガネをかけた青い髪のメイジは使い魔を見た途端、無様に腰を抜かして
泣きそうな顔をしていたけど。
彼女にしたって魔法を使うことができるのだ。
そう、今洗濯室から出てきた髪の青い。
「あら、ルイズじゃないの」
キュルケだった。髪の青いメイジと一緒に洗濯室から出てくる。
髪の青いメイジは何故かこちらを見ようとはしない。
「しかしあんたも本当に腰を抜かしそうな使い魔喚んだわね」
青メイジが震えたように見えた。

「ふ、ふんっ。私に二言は無いのよ」
「戻ってきたって事は契約すませたの?」
「えぇ、契約は完了したわ」
「それなのにあの使い魔を病室に放りっぱなし?酷いんじゃないのソレ」
「下手に動かして死んだらどうするの!見たでしょうあなたもあの姿を」
青メイジの震えが一層酷くなった。ちょっとその子大丈夫なの。
「使い魔とメイジは一心同体だわ。死にそうだからこそ近くにいてあげるのが務めではないの?」
キュルケの言葉は正論だ。
無理矢理生かされ、死すら看取って貰えないなら余りにも悲しい。
ストレイツォの姿は今のルイズだ。
自信を砕かれ、今にも死にそうなその姿が自分に重なり、キュルケの一心同体という
言葉が余計惨めに響いた。

「私はっ。回復どころかレビテーションすら使えない私にどうしろっていうのよっ!」
気付いたらルイズは叫んでいた。
よりにもよってツェルプストーに向かって。
「貴方と違って魔法も使えない。失敗の果てに出た使い魔は死にかけ。所詮ゼロの私に貴」
ルイズの叫びはキュルケの平手打ちでとめられた。
「ミス・ヴァリエール」
突然の事に怒ることもできずにルイズは呆然とキュルケの言葉を聞いた。
「貴方あんまり私を失望させないで下さいな。貴方は魔法が使えなくとも貴族だったわ。
今まではね。誇りすら捨てると言うのなら名前をまずお捨てなさい」
そう言い捨ててキュルケはルイズを放って自分の部屋へと戻っていった。
その後を慌てて追った青メイジはキュルケの顔を見てまた震えた。

コルベールと家畜の血を持った黒髪のメイドが入ってくるまで
ストレイツォは二つの月を見ていた。
ニューヨークには月が二つあるんだぜ!チベットと違って!
田舎者のストレイツォだが馬鹿ではない。
持っている天文学の知識を総動員しても月が二つ見える現象の説明はつかなかった。
幻月かとも思ったがそれにしてははっきり見えすぎている。
とにかく声を取り戻して話をしなくては。

頭と胸しかない物体が突然動いたのに血を持った少女は相当驚いた様子だった。
前もってコルベールから聞いていなければ血を落としていただろう。
ストレイツォは驚く少女に礼を言うと急いで血を吸収した。
吸収した血は速やかに材料となり瞬く間に胸部臓器を再生させた。
少女は目をそらす時期を逸して結局再生を全部見てしまった。
そしてストレイツォが初めて口を開いた。
「コルベール先生」
コルベールの事はまだ医師だと思っている。
「いや凄い物だなその再生能力。逸失した臓器を瞬く間に再生するとは」
どんな幻獣だってこんな常識外れの再生力は持っていない。
「いやそんなことより。窓の外を見て欲しいのです」
「窓の外?一体何が」
「月が…見えますか」
「見えるね。今晩の月はなるほど美しい。君は風流だね」
「二つありますよね?」
「二つあるね?」

これで確定だ。自分の目がおかしい説は無くなった。
「二つって多くないですか?」
「たまに一つに重なる時もあるね。一つの方が美しいということかい?」
たまにも何も二つに見える時なんてあってはならない。
ストレイツォは次の質問を投げかけた。
「ここは、ニューヨークですよね?」
「ちがうよ。ぜんぜんちがうよ。ここはトリステインのトリステイン魔法学院だよ」
「アメリカのどのあたりですか」
「アメリカって(笑)いやいや笑っちゃいけないか。聞いたこともないね」
「アメリカを聞いたことがない。本当ですか」
「じゃあ、簡単に説明してあげるよ。私の知る限りこの付近にアメリカ
なんていう村や町はありません」
「いや村や町の名前ではなくて、大陸と国家の名前なのですが」
「ここはハルケギニア大陸のトリステイン国だよ。武器や防具は装備しないと効果がないよ」
「アジア、アフリカ、ヨーロッパ、オーストラリア等の地名を聞いたことは?」
「初耳だね」
「最後の…質問です地球って何か知っていますか」
「知らないね。どういう物なんだい」
決定的だった。
見たところ自分たちの住む天体が地球であることを知らないような未開の部族という訳ではない。
しかし英語は通じているのだがこれは一体どういう事だ。
試しにチベット語で話しかけてみた。
通じた。

「コルベール先生、あなたチベット語をどこでお習いに?」
「チベット語?いや私はさっきからトリステイン語を使っているが。君だって流暢にトリステイン語
で…ああそうかチベット語とは吸血鬼の言葉なのか。それなら安心して欲しい。使い魔のルーン
には意思疎通のための翻訳機能があるからね」
ますます意味がわからない。
しかしこれだけは確実だろう。
ここはどうやら地球ではない。少なくとも地球に衛星は一つしかない。
「大事なことを聞き忘れていた。君の名前は?」
「私の名はストレイツォといいます」
「ストレイツォ。うん吸血鬼っぽい名前だ。ミス・ヴァリエールは問題もあるが
優秀な生徒だ。よろしく頼むよ。落ち着いたら吸血鬼の事をいろいろと聞かせて
欲しいものだ」
そう言ってコルベールは出て行った。
メイドも一礼して慌てて去っていく。
残されたストレイツォは、服を持ってきて貰うんだった等と現実逃避をしていた。

ルイズは病室に向かいながら、先ほどのキュルケの行為を思いだしていた。
貴族同士であそこまで公然と手を上げるなど紛争の口実に使われてもおかしくない。
ましてや自分たちの家は仇敵とも呼べる間柄だ。
それだけにキュルケの言葉は胸にささり、叩かれた頬は熱を帯びた。
自ら誇りを捨てる者は貴族ではない。
あの時自分はあれだけ嫌だったゼロというあだ名を自ら使っていた。
キュルケに止められなければさらに何を言っていたかわからない。

「誇りを持つ者こそ、貴族」
そう呟いてぐっと胸を反らした。
何か怒りではない熱い物が胸の中にあった。
そうだ、あの使い魔はまだ生きている。
死ぬ最後の一瞬まで主人である私が見なくてどうするのだ。

病室に踏み込んだルイズは胸を再生したストレイツォを見て
キュルケの一心同体という言葉を噛みしめた。

「あぁ看護婦さん。すいませんが血と服を持ってきて欲しいのです」
「誰が看護婦よ。ひょっとして私にいってるのかしら。ってあんた声が」
「さっき先生が血を持ってきてくれまして。何とかここまで再生を」
「血って何よ。吸血鬼じゃあるまいし」
「私は吸血鬼です」
「はいはい吸血鬼吸血鬼。吸血鬼ぃー?!」
「しかもどうやら異世界からきた吸血鬼です。格好いいでしょう?」
「別に格好良くないわ。イセカイってどこの田舎よ」
「異世界。別の世界ということです。私の居た所は地球のアメリカ大陸、ニューヨークという都市でした」
「だからどこの田舎よ。でもまあ良かったわ。今にも死にそうだったけど元気になったじゃない。
足がないようだけど」
「足なんてただの飾りです。ところで看護婦さん」
「看護婦じゃない。良く聞きなさい。私の名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール!
誇り高き貴族よ!」
「私の名はストレイツォと申します。ええとルイズさん、私を河からここへ連れてきた
のは誰だか知りませんか」
「ご主人様と呼びなさい!貴方は私が召還した使い魔なのよ!」
「使い魔とはよく分かりませんが、ルイズさんが私をこのトリステインに喚んだ?」
「ご主人様!そうよ、私の華麗なる召還魔法でそのニューヨークとやらから喚んだのよ」

ルイズは話ながらだんだん気力がみなぎってくるのを感じていた。
使い魔がなんとただの死に損ないではなく、吸血鬼だというのだ。
吸血鬼を喚び出した話なんて聞いたことがない。
恐らく自分が初めてだろう。
「私を治療してくれた事は感謝しています。しかし私にはやらなければならない事ができた。
いずれ復活するだろう柱の男と戦うJOJOを助けなければならない」
JOJOは最後に自分を助けた。
それなのに自分は安易な自決の道を選んでしまった。
本来なら波紋法後継者である自分が柱の男と戦わねばならないというのに。
せめてあの時練った波紋を深仙脈疾走にしてJOJOに託すべきだったのだ。
「私をその召還魔法とやらで元の世界に還して欲しいのです」
「柱の男とかよく分からないけど、そんな事はできないわ」
「何故!理由を教えてください」
「召還魔法は喚び出すだけ。さらに再召還の条件は既存の使い魔の死亡だからよ」
「つまり…私を元に戻す方法は別であると?」
「私の知識に元に戻す魔法なんてないわ。でもニューヨークってそんな遠いの?馬で何日くらい?」
それを聞いてストレイツォは軽く絶望したがこう思った。
喚び出す事が可能なら必ず元に戻す方法があるはずだ。
JOJOを助けるという確固たる目的が出来た以上なんとしてもその方法を知らねばならない。
ルイズの知識はあてにならないが貴族というからには多少の権力はあるだろう。
博識そうなコルベールもいる。
ここは学院といっていたから知識を蓄える者は他にもいるはずだ。
「わかりました。私の探求のバックアップをしてくれるなら、その使い魔になりましょう」
「わかったわ!これで貴方は私の使い魔よ!」
「コンゴトモヨロシク。ところでルイズさん、血と服を持ってきてくれませんか」

そして偶然ルイズと出会ってしまった黒髪のメイドは家畜の血と服の用意を命じられた。
哀れメイドはさらに三回血を運び、その度にストレイツォの再生シーンを見てしまうのであった。

「全身再生しちゃったわね。さすがに吸血鬼だけあってわ、割と美形じゃないの」
「もう大丈夫。ではルイズさん、使い魔とは何をすれば?」
「ご主人様!そうね大雑把に説明すれば何でもよ。私が星を取って来いといったら
星を取ってきて、目でピーナッツを噛めと言えば噛むの」
「後者はともかく前者は不可能だよ」
「できるの?!ごほん。詳しく説明すれば使い魔は主人と感覚を共有し、主人の望む
アイテムを採取し、命に代えても主人を守り抜くの。でもダメね。感覚の共有はできないみたい」
「感覚の共有?こんな感じかな」
突然ルイズの視界が歪み爆音が轟き異臭が襲った。
あまりの変化に平衡感覚を失いよろめくルイズをストレイツォが支える。
「なななななな、何よ今のは。うっキモチワルイ」
「どうやら吸血鬼の感覚は人間には耐えられないようだね」
「…そのようね。二度としないでちょうだい…… 次は採取だけど」
「昆虫採集なら任せて欲しい。自信がある」
ストレイツォにはサティポロジアビートルを採集した実績があった。
人跡未踏のジャングルで滅多に見られないこの昆虫をねちねちと三万匹も集めたのだ。
「虫なんていらないわよ!硫黄やら宝石やらの貴重なアイテムを集めるの。これも
無理みたいね。残りは護衛だけど、これは出来るでしょう」
この世界に波紋は無さそうだし、近代兵器の攻撃にさえ耐えたストレイツォはうなずいた。
彼はまだこの世界のトンデモ兵器魔法をよく知らない。
「それなら任せて欲しい。よっぽどの相手以外負ける気はないよ」
彼はまだこの世界に幻獣がホイホイ居る事も知らない。
「頼もしいわね。じゃあ早速明日から私を守りなさい!吸血鬼を見せれば誰も
私を馬鹿になんてできなくなるわ!キュルケだって…」

「明日?分かっていると思うが私は日中出歩けないよ」
「はい?」
「いやだって。吸血鬼だから陽には弱いんだ」
「聞いてないわよ!あぁ吸血鬼だって聞いてた!あぁそりゃ陽に弱いわ!つまり日中は
カンオケで寝てるんだわ!そして夜な夜な私みたいな美少女の血を吸うんだわ!」
「吸わないけど。そう言う訳で私をどうしても紹介したいなら陽が落ちてからにして欲しい」
「護衛はどうするの!日中の!」
「夜なら誰も指一本触れさせはしない」
「意味無い!昼も守りなさい!」
「死んでしまうよ」
この後数時間に及ぶルイズのわがままの末にとうとうストレイツォは
黒いローブを五重にして全身をすっぽり覆い日中も護衛につく事を承諾させられる。
ローブの用意は退室の機会を失ってその場にいた黒髪のメイドが行った。
病室に行ったまま長い間戻ってこないルイズをじっと待っていたキュルケは
黒い長髪を持つ美形の男を連れて戻ってきたルイズを見て
(あの顔はあの死体?!やはりルイズは期待を裏切らない。面白くなってきたわ)
安心して眠りについた。

部屋に戻ったルイズはサービスシーンを行った後、洗濯をストレイツォに押しつけて寝た。
ルイズを10歳くらいの子供だと思っているストレイツォは仕方なしに引き受ける。
しかしルイズはどうやって自分をここに呼び寄せたのだろう。
魔法などと言っていたが、この世界は謎だらけだ。
明日から待ち受ける死と隣り合わせの日中護衛を思い出してストレイツォは静かに嘆息した。


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー