ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

使い魔ファイト-10

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「ミスタ・コルベール! やり直しとか言いませんよね? 平民でもかまわないんですよね?」
「平民でもかまわない。というかだね、呼び出されたものが何であろうと契約しなければならない。それはいいんだが……」
 コルベール先生が見た先は、それはもう酷いことになっていた。
 なぜか使い魔が二人いる。しかも片方は全裸、おっぱいは普通。
 ところどころ黒くなった草原がぶすぶすとくすぶっている。何を使えばこんなことになるんだか。
「これはどういうことだね? どうして火の手が上がったんだ? なぜ二人の使い魔がいる?」
 ミキタカ! 出番! 出番! 言い訳ゴー!
「これはあくまでも推測なのですが。ルイズさんがサモン・サーヴァントを唱えたことにより、宇宙エネルギーが暴走、結果一面に照射され、真なるカオスが発生し、吸収しきれなかったダークマナを逃がすために大地がブラーニング現象を起こしたのでしょう」
 ミキタカ……あんたって人は……敵に回すと鬱陶しくて味方にしても鬱陶しい……。
「……もういい。君の推測はともかくとして、ミス・ヴァリエールなら多少の珍事が起きてもおかしくはないだろうからね」
 先生、あなたけっこう酷いです。
「火はいいとして、なぜ使い魔が二人もいるんだ? ミス・ヴァリエールでもこれはありえない」
「それは私もサモン・サーヴァントを唱えたからですよコルベール先生」
「なんだって……?」

「ルイズさんが唱えた瞬間、私の中に閃くものがあったんです。これは今やるしかないと思いました」
「君という男は……」
 顔の色が青くなって、瞬く間もなく朱に染め上がった。
 今のコルベール先生が何を思っているかは五つの子供にだって分かるだろう。
「あれほど言っただろう! 春の使い魔召喚は神聖なものだと!」
「分かります。とても神聖なんですよね。だからこそ失敗してはいけないと考えたのです」
 朱色がどす黒い赤になった。
「ミスタ・グラモン! 君は! 君という男は! いつもいつも! 本当に! 本当に! ああああ! よく! よく見たまえ私のこの頭! こうなった八割は君のせいだ!」
「ハハハ、謙遜することはありませんよ。私は何もしていません。全て先生がやったことです」
 うわあ……涼しい顔して言うなぁミキタカ。
 コルベール先生はがっくりと肩を落とした。顔色はどす黒い赤から紙のような白になり、わたしもう見てられない。
「ミスタ・グラモン……君は使い魔の重要性を理解しているのかね?」
「とてもよく理解しています」

 ミキタカが一言口に出すたび空気が重くなるような……気のせいよね。
「そうか……分かった」
 コルベール先生は足元がふらついていた。視線も定まっていない。あーあ、先生ってのも大変ねえ。
 わたしは先生になった将来の自分を想像してみた。生徒がミキタカで……あ、死にたくなったわ。
「だ、大丈夫ですか……ミスタ・コルベール?」
「……大丈夫に決まっているだろうミス・ヴァリエール」
 大丈夫って、大丈夫に見えませんよ? 大丈夫と半死人が同義語なら大丈夫なのかもしれないけど。
「早く……契約したまえ……」
 あ、そうだ。契約契約。コルベール先生なんかにかまってる場合じゃない。使い魔にするための契約しなくちゃ。
 ……って、あれ。どっちと契約すればいいの?
 老人はパイプをふかしている。強がりや見せ掛けじゃなく、芯からの余裕を感じた。
 羽織っていた毛皮の上着を全裸の女性にかけてあげる優しさもある。うん、なかなか期待できそうね。
 そしてその女性なんだけど。

「何やってんだボゲどもォーッ! あたしに近寄るんじゃあねェーッ!」
 うわ、ガラ悪っ。怖っ。肩にかけられた老人の上着を地面へたたきつけた。ひどっ。
「なんだオメーらその格好ッ!? どこだここはッ!? あたしの服をどこへやったッ!?」
 気持ちは分かるけどさ、少し落ち着こうよ。
「太陽が止まってるッ! なんでだよ!? グルグル回ってたはずなのにッ!?」
 え、何これミキタカ系の人? もう何ていうかどうしようもないね。
 老人は叩きつけられた上着を拾い、泥をはらってもう一度羽織りなおした。
 親切を仇で返されても怒らない泰然自若とした佇まいは、そこでふらついている髪の薄い人よりよっぽど先生みたいだ。
 持っていたパイプを軽く上下させた。挨拶をしているらしい。
「よろしーく……」
 なあんか妙なアクセントね。田舎の出身なのかな。
「若き魔術師が二人おられるようじゃが……わしの主になるのはどちらかな?」
 お、こっちは話が早い。やっぱり使い魔ってのはこうあるべきよね。

 ちょっとまとめてみよう。
 女の方はおっぱいがある。でも乱暴で口が悪い。主人を主人とも思っていないみたいだ。
 爺の方はおっぱいがない。でも親切で物腰が落ち着いている。使い魔として召喚された自覚もある。
 微妙なところだけど、これは爺さんに軍配が上がるんじゃないだろうか。
 うん。そうだ。ここは実際的にいくべきだよね。
「人の話聞いてんのかァー! なんで男同士のキスシーン見せ付けられなきゃなんねえんだッ!」
 えっ? えっ? えっ?
 って……あれ? ミ……ミキタカァァァァァァ!
 ぐっぐああああ、してやられた! 完全にしてやられた!
 人の使い魔横取りすんなこの妄想一直線! くっそお、爺さんはあたしがもらうはずだったのに!
 しかもなんか卑猥! この二人のキスシーンなんだかエロチックよ!

「爺と野郎のキスなんか誰が喜ぶんだボゲェッ! ファックがしたいなら家ン中でやれッ!」
 いや、これはこれでアリだと思うけどな。熊さんと美少年の応用的なものだと考えればいけるって。
「あたしをなめてんのか! ああ!? オメーらがその気ならこっちにも考えがあるからな!」
 男同士の口づけは和むべき場面だと思うけどな。彼女ってばより一層攻撃的になってるみたい。
 これ、放っておいたら手がつけられなくなるかもしれないわね。
 全裸で凄む自分を客観的に見ることさえできないみたいだし。
 よし、本格的に暴れだす前にさっさと契約して従わせよう。抜き足、差し足で忍び寄って……。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」
 よしよし、噛まずに言えた。自分の名前部分が一番難しいポイントってのもどうかと思うわ。
「五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」
 自分の背後で何やらくっちゃべってるヤツがいたら振り向くわよね。
 で、そこに……キスをする!
 よし、大成功! あまりいやらしくない感じでやれたはず。舌入れちゃダメなんだよね?
「何しやがんだテメェェェェェェ!」
 何ってナニよ。うふふ、初めてだったのかしら。たぶんわたしの方が年下なんだろうけど、リードしてあげちゃったわ。

「熱っ、熱っ、てか痛ェェェエエエエ!」
 うわ、本当に痛そう。左手に浮かび上がったルーンが痛そうで痛そうで。
 裸で蹲ってるのが見ていてかわいそうで、わたしのマントをかけてあげた。主人としての心遣いってところね。
 爺さんの上着と同じことをしたらそれなりの罰があるからそのつもりで。
 向こうを見ると、どうやらミキタカの方も滞りなく――ここへ至るまでの道のりは除くとして――儀式終えたらしい。
 サモンができないって言ってたからコントラクトも失敗するんじゃないかってちょっとだけ期待してたのに。
 爺さんの方もルーンが輝いているけど、それでも平然とパイプをふかしていた。やっぱりあっちの方がいいなあ。
「殺す……殺してやる……!」
 うわ、まだ物騒なこと呟いてるよ。これ完全に貧乏くじ引かされちゃったな。ミキタカ、後で覚えてなさいよ。
 女が顔を上げ、わたしと目が合う。その瞳に浮かんだ害意に鼻白んだ。だから怖いんだってばあんた。
 ちょこんと跳ねた後ろ髪はかわいいけど、目の下のこれ……彫り物? よりによってなんでまた顔に。
「か……」
 か?
「カァァァワィィィィィィィィィィ! お人形さんみたい!」
 この女、いったい何を言っているの? 私がかわいいって……そ、そんな当然のこと言ったって何も出ないんだからね。
 さっきまで確実にあったはずの害意はどこへやら、なんだか瞳が輝いている。
「髪の毛ふわふわっ! とってもキュートよキュウウウット!」
 ちょ、ちょっと、思いっきり抱き締めないで! ああっ、髪に指を絡めないで! どんな感情のふり幅よあんた!?
 ミキタカ! 爺さん! あんたら見てないで止めなさい!
「……それではこれで儀式終了。皆、戻るぞ」
 コ、コルベール先生、飛んでいかないで! 助けて! だ、誰かァァァ!



 神ならぬ私は知る由も無かった。
 この使い魔召喚の儀式によって、コルベール先生の中にある考えが芽生えたことを。


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