ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

歩き出す使い魔-5

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匿名ユーザー

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朝食を食べ終えたルイズとジョニィは教室に入った。
石造りの教室にはたくさんの生徒と、様々な使い魔がいた。
生徒たちは二人が教室に入るとゼロがどうとか平民がどうとか言いながら笑い始める。
笑われてるみたいだけど、とジョニィが小声で聞くがルイズは嘲笑を無視するとそのまま席に向かっていった。

「ルイズ。一つ聞きたいんだけど…。なんだい?そのゼロって。朝も呼ばれてたよね?」
「あんたには関係ないわよ」

ルイズは不機嫌な声で答えると席の一つに腰掛けた。ジョニィも黙って隣に座る。
ちょうどそこで扉が開き、中年の女性が入ってきた。

「皆さん。春の使い魔召還は大成功のようですわね。このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に様々な使い魔たちを見るのが楽しみなのですよ」

そう言いながらジョニィに視線を向ける。

「おやおや、また変わった使い魔を召喚したようですね、ミス・ヴァリエール」

シュヴルーズがジョニィを見てとぼけた声で言うと、教室中がどっと笑いに包まれた。

「ゼロのルイズ!召喚できないからってそのへんの平民を連れてくるなよ!」

一人の小太りな生徒がゲラゲラと笑いながら立ち上がった。なぜか彼の体には黄金長方形を見ることができない。

「違うわ!きちんと召喚したもの!ミセス・シュヴルーズ!かぜっぴきのマリコルヌに侮辱されました!」
「なんだと!?オレは風上のマリコルヌだ!」

二人が熱くなり始めたところでシュヴルーズは杖を振った。すとん、と二人が席に着き、ついでに笑っていた生徒達の口に粘土が押し付けられる。
まるでスタンド能力だ。ジョニィはあらためて魔法の凄さに感心した。

授業は滞りなく進行した。
内容は系統の説明やクラスなど基礎的なものらしく、ほとんどの生徒達はつまらなさそうに聞いている。
だが元の世界に戻る唯一の手段である魔法を学ばなくてはいけないジョニィは真剣に授業を聞いていた。
魔法初心者の彼にとって授業が基礎から始まるのはありがたかった。
シュヴルーズは『土』系統の魔法を教えるらしく、さっきから何度も『土』系統の魔法の重要さを説明している。
あまりの必死さに生徒達は若干引いているのだが。空気読めよ。
授業が進み、いよいよ実践となったところで唐突にルイズが話しかけてきた。

「ジョニィ。あんた…魔法も使えないのにそんな真剣に聞いてどうするのよ」
「だから言っただろ。僕には帰ってやらなきゃいけないことがある。そのためには魔法でもなんでも学んでやるさ」
「あのねえ…帰る方法なんてないって言ったじゃない。それに…」
「ミス・ヴァリエール! 授業中の私語は慎みなさい!」

そんな風に喋っているとシュヴルーズに見咎められてしまった。

「は、はい!すいません…」
「お喋りするほど余裕があるのなら、『錬金』はあなたにやってもらいましょう」

シュヴルーズがそう言って机の上の石ころを指差した瞬間、教室の空気が変わった。
真っ先にキュルケが立ち上がり反対する。

「先生!危険です!」
「なぜです?失敗を恐れていては何もできませんよ」

他の生徒達からも続々と反対の意見が上がるがシュヴルーズはまったく聞く耳を持たない。

一方、ルイズはこれはチャンスだと思った。
どうもジョニィは使い魔としての自覚がないらしい。
自分に対する尊敬とかそういう気持ちが微塵も感じられない。タメ口だし。
そんな彼がさっきから一所懸命魔法を学んでいるのだ。
ここで一つ魔法でいいところを見せればジョニィも見直すことだろう。
(この先100年間は二度と挑んで来たいと思わせないようにご主人様との力の差を見せてあげるわッ!)


「やります」

そう言ってルイズは立ち上がり、颯爽と教室の前へ歩いていく。

「ミス・ヴァリエール。錬金したい金属を強く心に思い浮かべるのです」

にこっと笑いかけるシュヴルーズに頷くと一呼吸置いてから呪文を唱える。

「承太郎さん!あなたの『スタープラチナ』だ!」
「まずいぜ…!もう少しだけ離れねーと…!」
「『魔法』を使わせるなーーッ!!」
「いいや限界だ!隠れるね!『今だッ』!」
「射程距離5メルトに到達しています!S・H・I・T!」

生徒たちが一斉に慌て始める。
ジョニィはルイズの実力を見るいい機会だと呑気に見ていたが、前の席の生徒が机の下に隠れるのを見てイヤな予感がした。
何かヤバイと思った瞬間、教室が光に包まれたのだ!

「うおおッ!?ジャイロォォーー!?石ころが「爆発」したッ!?」

ジョニィはルイズがなぜ「ゼロ」なのかをやっと理解したのだった。


めちゃくちゃになった教室の片付けが終わったのは昼休みの前だった。
罰としてルイズ一人で片付けを命じられてしまったため時間がかかってしまったのである。
もちろんジョニィも手伝った───というかほとんどジョニィがやったと言ってもいいだろう。
新しい窓ガラスを手配したのもジョニィだし煤だらけの教室にモップをかけたのもジョニィだ。
ルイズは教室の隅でいじけてただけみたいなもんである。

「ルイズ…僕のほうは終わったんだが」
「………」

無言。気まずい。
どうしたものかとジョニィがしばらく悩んでいるとルイズが口を開いた。

「…あたしがなんでゼロかあんたにもわかったでしょ」

そう呟いた。明らかに落ち込んでいた。
そしてなぜかその姿には見覚えがあった。

───いいところを見せるどころか恥を晒してしまった。
きっとゼロの意味を知ってジョニィもわたしを嘲り笑う。
そして見捨てる。役立たずと。誰からも認められない「ゼロのルイズ」と。
そう思うと悔しくて泣きたくなってきた。
そしてついジョニィにキツく当たってしまう。

「まあ、君の実力はだいたい解ったよ。あの爆発の威力はスゴかった」
「…言いたいことがあるならハッキリいいなさいよ!笑いたいなら笑いなさい!」
「…?ハッキリ言ってるじゃないか。君の実力もゼロの理由も理解した。別に僕は笑ってないだろ」

ゼロという言葉に反応してルイズはキッとジョニィを睨みつける。

「そう言って…きっと心の中では笑ってる!どんなに努力しても誰からも認めらない!
誰からも見捨てられる!わたしを「ゼロのルイズ」だって!」

ルイズは半分涙声になりながら続けた。

そこでジョニィははっとした。

先ほどルイズに見た誰かの姿は───僕だ。

魔法が使えないせいで誰からも認められない、そう言って一人ぼっちでいるルイズの姿は
歩けないせいで暗い病院で一人で絶望していたあのころの自分を思い出させた。
誰も関心なんか払わない。みんな見捨てる。観にさえも来ない。それが僕の進んでいる『道』
そう思っていた自分にそっくりだった。

ジャイロはそんな僕の限界を打ち破ってくれた。
ならば彼女にも───「何か」が必要なのではないか。
自分の限界を打ち破る、無限へと続く黄金の回転のような「何か」が。

「勉強もした!練習もした!それでも…できなかった!貴族なのに!メイジなのに! 魔法が使えないメイジなんて誰からも認められるわけがないわ!わたしは…わたしは!」

今まで溜め込んできたものを必死に吐き出すルイズの言葉をジョニィは遮った。

「『できるわけがない』」

「え…?」

「他の誰かができても自分はできるわけがない。いくら努力したってできるわけがない。君は今そう思っている。だから限界を感じている」

ジョニィはサンドマンとの戦いを思い出す。自分もそう思っていた。黄金の回転なんか『できるわけがない』と。

「でも本当に出来ないのか?僕の意見を言わせてもらえば君はあんな爆発を起こせるんだ。だったら…君が気付いてないだけで…何か小さなキッカケで…それを見つければできるのかもしれない」

ジャイロが自分の身を犠牲にしてまで教えてくれた黄金長方形を見つけた自分のように。

「そのキッカケが『何か』はわからないけど…。『少しずつ』…少しずつ『生長』すればいいじゃあないか…。今はゼロでも…その『何か』を探して少しずつ『生長』して…そして、そうすれば…最後に勝つのはそうやって『生長』した人間なんだから…」

そう言ってジョニィは教室を出て行った。
自分の言葉が希望になるかはわからないが…それでも『何か』のキッカケになればいいと願って。

一人残されたルイズは呆然と教室の扉を見ていた。

───今あいつは何を言ったのだろう。彼の言葉には経験に裏付けされた根拠があった。
笑われるものだと思っていた。見捨てられると思っていた。
だがジョニィはそうしなかった。わたしを認めて励ましてくれたのだ。今はゼロでもいいじゃあないかと。
そう思うとルイズは───ただ嬉しかった。
だが素直になれない性格とプライドの高さが災いして次にでてきた言葉は

「ななな、なによ!つ、使い魔のくせして偉そうに!ま、待ちなさい!」

照れ隠しにそう言うと赤い顔を隠してジョニィを追いかけるように教室をでていった。

───今日の昼ごはんはちょっと豪華にしてあげてもいいかな。

To Be Continued =>

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