ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

サブ・ゼロの使い魔-21

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匿名ユーザー

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キュルケとタバサが急いで降りてくる。勝利を喜びあいたいところだが、今は
そんな場合ではない。
「ルイズッ!!足見せなさい!!」
シルフィードから飛び降りるや否や駆け出してきたキュルケがルイズの足を
とった。傷口を確認しようとして、思わず悲鳴を上げそうになる。
「――ッ!」
それはそうだ。骨が折れたとか肉がえぐれたとかいうレベルではない。
ルイズの左足首から先は、文字通りちぎれ飛んでいるのである。
よほど痛いのだろう、ルイズはギアッチョにしがみついたまま声も出さず
首を曲げることすらしない。しかし何が彼女を支えているのか、それでも
ギリギリで意識は保っているらしい。
タバサがルイズの左足を持ってきた。それを元のように切断面に当て、
ギアッチョに支えるように指示し、タバサはそこからキュルケと共に水の
詠唱を始める。
「・・・治んのか?」
言ってしまってからギアッチョはルイズの前で聞くべきではなかったかと
少し後悔したが、キュルケは少し笑ってそれに答えた。
「大丈夫よ、まだ時間が経ってないからなんとかくっつくはず・・・ もっとも
私達は水のメイジじゃないから、あくまで応急手当しか出来ないけどね
はやく学院に戻ってちゃんとした治療を受ける必要があるわ」
なるほどな、と呟いてギアッチョは腰を下ろす。支えてくれと言われても
ルイズが未だにしがみついているのでかなり難しい。しかし今彼女が
戦っているであろう言語を絶する痛苦を考えると、少し離れろとか
ましてどっちを向けだのどこに座れだの言えるはずがないので、
ギアッチョは仕方なく彼女を半ば抱き込むようにして足を支えた。
そんな自分の姿を見て、ギアッチョは自嘲気味に笑う。
――このギアッチョがガキを抱えて何やってんだ?暗殺者から保父に転職ってか?
しかし軽口を叩きながらも、自分が徐々にここに馴染みつつあることを
ギアッチョは薄々自覚し始めていた。

ガサリ、という茂みを掻き分ける音が聞こえ、ギアッチョ達は一斉に振り向いた。
満身創痍でよろめきながら現れたギーシュはルイズを抱きかかえるギアッチョ
という有り得ない光景に数秒言葉を失ったが、「遅かったじゃない」という
キュルケの言葉に我に返ると、「ただいま」とだけ返事をして彼は糸が切れた
かのようにその場に転がった。

ギーシュにこっちで起きたことをあらかた伝え終わる頃には、ルイズの
応急処置も終わっていた。
「動けるか?」
とギアッチョが聞くが、ルイズはふるふると首を横に振る。ギアッチョは
やれやれと言うように息を吐き出すと、キュルケとタバサに眼を向けた。
「悪いが・・・オレ達も治療してくれねーか 力が余ってんならだがよォォ」
その言葉に頷いて、キュルケはギーシュの治療に取り掛かった。
「切り傷だらけじゃない」
彼女は驚いてギーシュを見る。そんなキュルケにギーシュは辛そうに笑い
ながら答えた。
「正直泣きそうだよ 早いところなんとかしてくれたまえ」
「まだそんな軽口が叩けるなら問題ないわね」
フーケを倒し、ルイズの足もとりあえずの処置が済んだ今、キュルケは
ようやく余裕を取り戻してきた。横目でギアッチョを見ると、タバサが治療を
施しているところだった。

本当に、この男は一体何者なんだろう。全身血だらけだというのに辛そうな
顔一つ見せないギアッチョを見ながらキュルケは思う。何が凄いとかどこが
おかしいとか、そういう次元の問題ではない。ギアッチョの一挙手一投足、
その全てが常にキュルケの理解を超えていた。殺人に一切の躊躇を持たない
こと、戦闘に慣れすぎていること、よく分からないことでキレまくること、そのくせ
普段は冷淡なまでに静かなこと、あと変な服とか変な眼鏡とか変な髪形とか、
そしてそれより何より彼の魔法――魔法としか思えない何か――・・・。
自分の火球を消し去ったと思えばギーシュの魔法を完全に跳ね返し、
あのフーケのゴーレムをも一撃で土に返す。こいつの能力は一体どこまで
いけば底が見えるのだろうか。ギアッチョがその力を発揮するたびに、
彼女達は彼への評価を改めざるを得なかった。

ギアッチョはいつも同じ文句を唱えている。「ホワイト・アルバム」・・・発動に
必要な言葉はそれだけらしい。だがルイズがギアッチョを召喚した時、
あの男は一言も呪句を発さずルイズを凍らせていたはずだ。してみると
あの言葉は発動の為のキーワードというよりは、己の精神を励起させる為の
合言葉と捉えたほうがいいのだろうか?そこまで考えて、キュルケはあとで
聞いてみるか、と思考に蓋をする。今はそれよりもっと気になっていることがあった。
「踏まれた時」
タバサがキュルケの疑問を代弁する。
「どうやって?」
治療を続けながら、タバサはその蒼い瞳だけをギアッチョに向けた。
要領を得ない質問だったが、ギアッチョはその意味するところを理解した。
だがこいつらにスタンドのことをバラしていいものだろうか。数秒の思案の
後、ギアッチョは当たり障りのないレベルで答えることにした。
「・・・あの木偶の足と地面との間に氷の支柱を作った 完全には間に合わ
なかったんで御覧の通り地面にめり込んだ上に小石が刺さって血塗れ
だが・・・薄切りハムみてーになっちまう前にギリギリ完成出来たってわけだ」
ギアッチョのタネ明かしに、その場を目撃していないギーシュまでもが眼を
丸くした。
「ギリギリって・・・飛び込んでから足が完全に地面につくまでの一瞬で
そこまでやってのけたって言うの!?」
キュルケが思わず口を挟む。ギアッチョはこともなげな顔でキュルケに眼を
遣るが、内心自分でも驚いていた。
ホワイト・アルバム ジェントリー・ウィープス。膨大なスタンドパワーを消費
して、空気をも凍らせる力を引き出すホワイト・アルバム最大最強の能力。
しかしいくらなんでもあの0.5秒にも満たない時間で完全に足を固定し切れる
とはギアッチョも思っていなかった。言わば捨て身の賭けだったのである。

そしてそれ以上に驚いたのがゴーレムの凍結粉砕だ。ジェントリー・
ウィープスを発動していることを計算に入れても、あれは速過ぎる氷結速度
だった。ギアッチョはデルフリンガーに眼を落とす。ビクッ、とその刀身が
震えた。相変わらず情けなく怯えているが、こいつを握った瞬間に加速した
ことをギアッチョは思い返していた。思えば加速してからゴーレムをブチ砕く
まで、自分はずっとこいつを握ったままだった。
――こいつを抜くと力が強化されるってわけか・・・?身体能力だけでなく
・・・オレのスタンドまでも
ギアッチョはじっとデルフリンガーを見つめると、おもむろに声をかけた。
「おいオンボロ」
「はヒィッ!!」
お・・・俺は何回殴られるんだ!?次はどこから襲ってくるんだ!?俺の
そばに近寄るなァァーーー!!と叫びたかったデルフだったが、
「てめーがいなきゃあルイズは死んでた・・・助かったぜ」
「え」
ギアッチョの意外すぎる一言に、彼は口――のように見える鍔――を
開いて固まった。てっきりさっきとっさに彼に命令してしまったことを
怒られるのかと覚悟していたのに、ギアッチョの口から出てきたのは
正反対の言葉だったのである。ギアッチョはその妙な髪形の頭を掻いて
続けた。
「それとよォォ~~ その卑屈な口調はもうやめろ いい加減鬱陶しいぜ」
「・・・・・・ダンナ・・・」
敬語は使わなくていい、とギアッチョは言外に言っている。デルフリンガーは
この暴君に自分が認められたことに気付き、
「・・・へへっ」
彼の口からは思わず笑みが漏れた。

ギアッチョの胸にかかっていた圧力がすっと無くなる。ルイズを見下ろすと、
彼女はギアッチョに押し付けていた顔を上げ、キュルケ達から見えないように
ごしごしとこすっていた。ギアッチョはそこで初めてルイズが泣いていたことに
気付いたが、黙ってルイズが落ち着くのを待つことにする。
「・・・・・・・・・ギアッチョ・・・あの・・・・・・」
しばらくして少し気を取り戻したらしいルイズが、恐る恐るギアッチョを見る。
怒られるのを恐れているのだろうということは理解出来たが、ギアッチョは
そんなルイズの心を忖度することなく、氷のような声で問いかけた。
「どうしてあんなことをした?」
その声にルイズの身体が一瞬こわばる。
「・・・それは・・・」
「オレが昨日言ったことを覚えてなかったと そういうわけか? え? おい
おめーはこいつらの再三の制止を振り切って地上に残った そうだな
そしてそのせいでフーケに逃亡を許しかけ・・・その上てめーの命まで
失うところだった それを踏まえてもう一度聞くぜ」
何故あんなことをした、とギアッチョは繰り返した。
ルイズは顔を俯かせ、しばらく沈黙を続けていたが、やがて絞り出すように
声を出した。
「・・・・・・だって・・・・・・ギアッチョが・・・」
「ああ?」
オレのせいかこのガキ、と怒鳴りかけたギアッチョだが、
「ギアッチョが・・・幻滅する・・・から」
その後に継がれた言葉を聞いて、彼の顔は「はぁ?」という形に固まった。
俯いていた為そんなギアッチョの顔を知らないルイズは、とうとう完全に
見放されたと思い込んだらしい。地面を見つめたまま肩を震わせている。

ギアッチョは心底困惑していた。すると何か?こいつはオレに見直して
もらおうとしてこんなバカをやらかしたってわけか?
ギアッチョは改めてルイズを見る。俯いていて表情は分からなかったが、
悄然と落としたその小さな肩は彼女の感情を如実に物語っていた。
――どーしろってんだ
彼女が自分に相当な依存をしていたことに気付き、ギアッチョは心底
困惑した。生前――そして死んでからも――子供から好意を向けられた
ことなど一度たりとてないギアッチョである。初めて向けられた、それも
殆どすがりつくような好意に彼が戸惑うのは当然のことだった。
――こいつの様子がおかしいのはそういうことか・・・
およそプライドの高いルイズらしからぬ行動の理由がようやく解った
ギアッチョだったが、
――だからどーしろってんだ
結局目の前で死にそうに落ち込んでいるルイズに何と声をかければ
いいのかは解らないわけで。万策尽きた彼は・・・もっとも策が一つとして
浮かばなかっただけなのだが、とりあえずこういうことに慣れていそうな
ギーシュを見た。ボロボロの顔でにやにや笑いながらこっちを見ている。
よし、殺す。次にキュルケに目を向けた。実に楽しそうな眼でこっちを
見ている。てめーも覚えてろ。最後にタバサに眼を向ける。いつも通りの
読めない顔でこっちを見ていた。
ギアッチョはチッ、と大きく舌打ちをした。考えたって解らねーならとにかく
いつも通りに喋るしかねーかと開き直る。失敗したらてめーをボコってやる
という意思を込めてギーシュを一つ睨んでから、ギアッチョはルイズに向き
直った。

「顔を上げな 聞いてなかったみてーだからよォォー もう一度だけ言って
やるぜ」
ルイズがゆっくりと上げた顔を覗き込みながら、ギアッチョは「いいか」と
前置きした。
「てめーに出来ることをしろ 勝ち目もない敵に無為無策で突っ込んで
行くのは『覚悟』でもなんでもねぇ・・・ただの自殺だ」
ギアッチョはルイズの宝石のような瞳を睨みながら続ける。
「ええ? 解るかルイズ 『覚悟』は道を作る意思だ・・・てめーの暴走は違う」
そこまで言って、ギアッチョは返事を求めるように言葉を切った。ルイズは
ギアッチョの強いまなざしから逃げたい気持ちをなんとか抑えて、一言
「・・・はい」
と答えた。
――何でオレはこんなガキに説教してんだ・・・? こういう役目はオレじゃあ
ねーだろ ええ?おい 
ギアッチョは心の中で一人ごちると、小さく嘆息してから今一番彼女に必要な
言葉を口にする。
「・・・いいかルイズ 失敗なんてのはよォォ 誰にでもあるもんだ 重要なのは
そこじゃあねー そこから成長出来るかどうかだ ええ? 違うか?
てめーの失敗なんてオレは気にしちゃあいねーんだ ま・・・次同じようなことを
やらかしゃあ今度はブン殴るがよォォ」
その言葉でルイズの瞳はまず驚愕に見開かれ、次に何かをこらえるように
細くなり――そして最後に、堰が決壊したように涙が溢れ出した。
ギアッチョはそんなルイズを呆れたような安心したような眼で見ると、オレの
仕事は終わりだと言わんばかりに立ち上がった。
――我侭だったり素直だったりプライドが高いと思えばよく泣いたり・・・
全くガキってのは解らねーな
ギアッチョは新入りに兄貴と呼ばれていた仲間を思い起こし、改めてこんな
キャラはオレじゃねえと強く思った。


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