ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

アホの使い魔-3

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「フゴ……」

柔らかな朝日が差し込んできて、億泰は目を覚ました。
固い床で寝てすっかり凝り固まった体をボキボキと解しながら、部屋を見渡す。
そして、まだぐっすりと眠っているルイズを見て大きくため息をつく。

「冗談じゃねーよなァー、ったくよー」

そう呟きながら億泰は窓辺へ行き、窓を開け放った。
朝の新鮮な空気と日差しを全身に浴びつつ、昨日の事を思い返す。




「それ、本当なの?」
「あたりめーだろ。
 んな事冗談で言ってなんだってーんだよォ~~」

十二畳程の部屋の中で、テーブルを挟んで二人は向かい合っていた。
億泰の手にはルイズから分捕った夜食用のパンが握られている。

「だって、そんな話を信じろっていう方が無理じゃない。
 メイジがいない、月が一つしかないだなんて。
 ね、アレでしょ?平民のくせに意地張ってるだけなんでしょ?」
「おいおい…『平民』はねーだろう?
 既に名乗ったし、初対面の人間に対して『平民』とはよう!
 口のきき方知ってんのか?」
「な、何よ!アンタこそ貴族に対する口のきき方知ってるの!?
 そんなに言うなら証拠見せなさいよ!証拠!」
「うっ……!」

そう言われて億泰は答えに詰まった。
頭の中には証拠になる景色は山ほどある。
しかし、実物として存在している物は一つとして無い。
学ランに財布しかないのだ。
鞄は『鏡』の前に落として来たし、需要が無いので携帯電話も持っていなかった。
しかも財布は補充寸前にトニオさんの所で食ってスッカラカンだ。
簡単に言うと何も無かった。

「ほら、無いんじゃない!」
「ああ、確かにねーよ。
 ともかくよー、オレを元の場所に戻してくれよ。
 信じてくれなくたっていいからよー」
「うん、それ無理」

その後ルイズに言われた話しは億泰に取って頭を抱えたくなる内容だった。
第一に、異世界を繋ぐ魔法なんて無い。
『サモン・サーヴァント』はこの世界の生き物を使い魔にするために召喚する魔法。
なんで億泰を召喚したのかの原理は解明不能で、
しかも『サモン・サーヴァント』は召喚の一方通行で、
一度召喚に成功すると使い魔が死ぬまで次に使う事はできない。
ルイズ様は偉大。
ルイズ様を崇めよ。
ルイズ様は貧乳ではなく微乳で美乳。
という内容を数十分に渡って言われ、その頃にはパンはすっかり消化されていた。

「とにかく、アンタが私の使い魔をやるって事は依然変わりないわね」
「……仕方ねーな。
 他に帰る方法が見つかるまでやってやるぜ、『使い魔』。
 で、使い魔って何すりゃーいーんだよォ~~?」

億泰としても帰る方法を知らず、しかも無いとまで言われ、
衣食住のアテも無いとくれば拒否する選択肢は無かった。
他の頭の良い連中なら逃げても生きれるかもしれないが、
自分はそこまで要領がよくないと自覚していたからである。

「まずは使い魔には目となり耳となる能力が与えられるの。
 ……けど、私達には無理みたいね。何も見えないもの。
 後は、秘薬とか主人の必要とする物の探索とか、
 一番重要な主人の身を守る事なんだけど……
 アンタじゃ無理ね、きっと。間違いなく」

オツム足りなさそうだし、とわざわざ最後に付け足された。
流石にこの時はカチンと来たので、『ザ・ハンド』の事を隠したのだった。



「んで、床で毛布に包まって寝かされて、
 キャミソールとぱ、ぱぱパンティー投げつけられて……」

そう言って毛布と一緒に床に転がっているルイズの下着に目を向ける。
思いっきり転がされてると気分が風船のように萎んでいくのがよく分かった。

「めんどくせェー」

下着を持ち上げると放り投げ、『ザ・ハンド』の右手で握りつぶす。
ガオンッという小気味の良い音と共に下着はこの世から永遠に削り取られた。
仗助や兄貴に『恐ろしい能力』とまでいわれたスタンドをこんな事に使う辺りが億泰たる所以かもしれない。
それを見て満足そうに鼻で笑うと、ルイズのベッドに近づいていった。

「オラ!
 さっさと起きやがれダボがッ!」

思いっきりベッドを蹴り飛ばす!
衝撃に勢いよく揺れるベッドに、ルイズは寝ぼけ眼で飛び上がった。

「ふぁや!?
 な、なななに!?地震!?」
「朝なんでよォー、とっとと起きやがれおじょーさま」
「はうぇ?ああ、そう、朝。
 で……あんた誰?」
「忘れてんじゃねーよ。
 てめーが使い魔にしたんだろォ?」

寝ぼけ眼のルイズの顔を見て、こいつこの年でボケてんのかと億泰は思った。

「あ、あー。
 オクヤスねオクヤス。召喚したんだっけ」

目をこすりながら起き上がると、ルイズは億泰に命令する。

「服」

椅子に掛けてあった制服をルイズへ放り投げる。
ネグリジェを脱ごうとしているのを見てつい背を向けた。
いくらペタンのルイズとはいえ、流石に直視するには免疫が足りていないのだ。

「下着」
「んな!?」
「そこのー、クローゼットのー、一番下ー」

寝ぼけ声で言われてムショーにムカついてきたが、
我慢して下着を適当に掴んで放り投げる。

「服」

クローゼットの上の段に有った予備の制服を投げてやる。

「……これ、なんのつもり?」
「服っつったじゃあねーか」
「違うでしょ!?着せてって言ってるのよ!
 平民のあんたは知らないでしょうけど、召使が居たら自分でなんて着ないの」
「おめーは自分の事くらい自分でできねーのかよ」
「文句言うなら、朝ごはん抜き。
 ほら、早くしなさいよ。朝ごはんに遅れるでしょ?」

そう言われるのとほぼ同時に、億泰の腹が鳴った。

「き…きたねーぞ」

そう愚痴りながら制服を手に取るしかない億泰を見て、
ルイズはふふんと満足そうに笑う。

そして、今日一日でキッチリと上下関係を叩き込むべく、
昨晩のうちに仕込だ『アレ』に億泰が引っかかる瞬間を想像し、
更に浮かび上がってくる笑みを噛み殺していた。



「ほへ~~~
 こいつが食堂~~っ……!?」

学年別に並べられた豪華な飾りつけのされた長テーブル三列に、
ローソクや花、そして果物の盛られた籠が載っている。
食事の内容も丸のままの鳥のローストに、魚の形のパイ、
そしてワインまで並べられている。

「っつーか朝飯にしちゃー豪華すぎねェ~~~?
 しかもトニオさんのにゃ及びそーにねーがァー、
 ヨダレずびっ!は間違いなさそーだぜぇ~~!」

わかりやすい位に喜ぶ億泰を見てルイズは最高にハイになっていた。
席についたルイズの隣にウヒョルンと座ろうとするのを手で制す。
そして親指立てて億泰へ向け、クルリと下に向ける。
貴族がやるにはあまりに下品だが、他の誰にも見られなければ問題ない。

「アンタのは、これ」

その先には皿が一枚。それも床の上に。
肉のかけらが虫眼鏡で見れば分かるほどの大きさで浮いているスープ。
その端に硬そうなパンが二切れだけ。
昨晩のうちに厨房に命令しといたメニューだ。

「なんじゃあこりゃあ~~?
 おめーはオレに食いてーもん食わせねーっつゥのかよー!」

億泰は思わず皿を持ち上げて中身を指差しながらルイズに抗議した。
その様にルイズはザマミロ&スカッと爽やかの笑みを浮かべる。

「あのね?使い魔はほんとは外。
 アンタは私の特別な計らいで、床。
 それに食べたい物食べさせたりしたらクセになるじゃない」
「アホ言ってんじゃね~~! オレは外に行くゼ!
 草むらにでも座りながら食った方がマシだァー!
 クソッ!どーせお前らが食い終わる方がず~~ッと後だから問題ねーよな!」
「え、あ、ちょ!ちょっと!?」

チクショー!と言いながらそそくさと皿を掴んで億泰は出て行ってしまう。
予想外の行動をされて、ルイズは慌てて呂律が回らなかった。
その姿が廊下に消えた辺りで、ようやく悪態をつく。

「何よ、つまんない。
 思い切り見せつけながら食べてあげようと思ってたのに。
 っていけないいけない……今朝もささやかな……っと」

そう呟き、周囲がお祈りを始めているのを見て慌ててルイズもお祈りに参加する。
そこに有った果物の籠の中身が大幅に減っているのにも気づかずに。

「はぁ~~ったく。
 毎度毎度こんな手は使ってらんねーよなァー、流石にィ」

外に出て建物に寄りかかりながら億泰は硬いパンをスープで流し込む。
そうして手にした果物を齧りだした。
食堂から出る寸前、『ザ・ハンド』で空間を『削り』幾つかの果物を
『瞬間移動』させて持ってきたのだ。
出る辺りで食前の祈りが始まったらしく、誰も注意を払っていなかったのが幸いした。

「それに肉とかも欲しかったんだけどなァ~~
 タンパクとか脂肪とかよぉ~~」

次からは一際スットロそうだったあいつからパクるかのォ~~~
と、昨日一番ハイテンションにルイズをバカにしていたメイジの顔を思い出してそう呟いた。






「ぶぇっくしょぉい!」

同時刻、マリコルヌは派手にくしゃみをしてしまい、
正面に座っていたタバサに『エア・ハンマー』で吹っ飛ばされていた。


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