朝起きて、頬に生まれかけたニキビを見つけた。
これは幸運の報せなのか。それとも不幸の前兆なのか。それを考えるだけで胃が痛い。
窓を開けて新鮮な空気を入れる。心地よいはずの風が、なぜかとても冷たい。
予想以上に緊張している自分に気づく。おっぱいおっぱいおっぱい。ダメだ、緊張が解けない。
あきらかに昨日の儀式よりガチガチしてる。
だってね、完全ないかさまじゃないにしても、かなりドラスティックな方法をとるわけじゃない。
そりゃ緊張もするっていうのよ。相変わらずミキタカは涼しい顔してる。こいつばっかりは本物だ。
「よく晴れた。本日も召喚日和だね」
みんなが休んでいる状況でわたし達だけが呼び出されているということに緊張する。
先生とわたしとミキタカ、三人だけで召喚の儀式をしなければならないことに緊張する。
コルベール先生の軽口さえもわたしを緊張させる。
要するに全部が全部緊張の種になる。
「ねぇミキタカ。大丈夫なのよね?」
「イヤーソレホドデモアリマセンヨ」
褒めてないっての! どういう流れで褒めてることになるのよ?
「さて、それではミス・ヴァリエールから始めなさい。ミスタ・グラモンはそこで見ているようにね」
あーあ、ミキタカ目ぇつけられてやんの。まぁあいつのことだから何とかするだろうけど。
さて、わたしはわたしで作戦通りにがんばりますか。とりあえず適当に詠唱はじめーっ。
ぶつぶつぶつぶつっと。……まだかな。もうちょっとか。
あーあ、本当にいい天気だね。お日様も高いし雲ものんびりしてる。
こんないい天気にわたし達何やってるんだろうね。なんだか空しくなってくるなぁ。
みんな今頃何やってるんだろ。キュルケあたりは男とおしゃべりかな。マリコルヌは使い魔の自慢。
モンモランシーとギーシュはいちゃいちゃしてるんだろうな。ゲホンゲホン。
ゴホッゴホッ、わたしも使い魔できたら、ゲホゲホゲホゲホッ、みんなに自慢、ガホガホッ。
「ミス・ヴァリエール! 儀式は中断だ! どこにいるんだ、ゴホゴホッ、見えん、ゴホッ、逃げなさい、早くッ! ゲホゲホッ」
コルベール先生ゲホゲホゲホッ、ていうかこれ、えっ、ゴホンゴホンッ、火っ?
「ルイズさん、ルイズさん」
え、え、え、うわ、ゴホゴホゴホッ! ゲホゲホゲホゲホッ!
「安心してください、大した火ではありません。煙を優先しましたからね」
グェホグェホグェホグェホッ! 目ぇ痛っ、目ぇ痛っ、痛いっ痛いっ!
「でもその分すぐに消えてしまいます。さ、手早くどうぞ。私の力を存分に振るってください」
ゴボゴボゴボゲボゲボゲボゴボゴボッ、こおのミキタカアアアアッ!
「どうしたんですか?」
ま、まずい、このままだと退学の前にこいつに殺される。早く早く杖を振るってルーンルーンルーン。
惑乱の最中、わたしはどう唱えたのかも分からずに呪文を唱えた。
それが功を奏したのか、それともミキタカの力が物を言ったのか。悔しいけどたぶん後者ね。
爆発は起きなかった。
やったのか? それともやはり失敗なのか?
あれだけもうもうと立ち込めていた煙が、突風に追い立てられ、見る見るうちに晴れていく。
いつの間にか杖から元に戻っているミキタカ、大慌てのまま固まっているコルベール先生、そしてもう二つ、何かがいた。
二だ。すごい。一じゃなくて二だ。ここまで上手くいくなんて。
わたしは自分をたたえ、ミキタカに感謝した。超数学の存在を本気で信じかけた。
ああ、何度目になるだろう。自分で自分が嫌になる。
何から何までそんなに上手くいくわけがないじゃないの。だってわたしはゼロのルイズ。
嫌ってほど分かってるはずなのにねぇ。人生って辛い。
煙が晴れていくにしたがって、呼び出された存在が露になっていく。
人生始まって以来最大の高揚状態にあったわたしの心は、煙が消えるに従いしぼんでいった。
そりゃしぼみもするよ。せっかく大成功ってところでこれじゃね。冷や水ぶっかけられるってもんじゃない。
そこには二人の平民がいた。そう、平民だった。見るからに平民だった。
メイジ召喚したらそれはそれで大問題だけど、平民ってどういうことよ。
ドラゴンやグリフォンじゃなきゃ嫌だなんて子供みたいなことは言わないけどさ……でも平民て。
「やりました。成功しましたね、ルイズさん」
これを見てそう言えるミキタカに乾杯。あんた、とことん大物だよ。
平民召喚ってさ……これはこれで退学ものなんじゃないの? コルベール先生も大口開けてるよ?
一人は老爺。いくつくらいだろう。とにかく年をとっていることだけは確かね。
妙に澄んだ瞳からは、膨大な経験に裏打ちされた高い知性が垣間見える。
腰もまっすぐで、この状況下、わたし達も含めた中でただ一人落ち着いていた。目が合ったわたしに微笑む余裕さえある。
平民は平民なりに、けっこうたいした人物なのかも。
そしてもう一人は……ランキング的には中の中ってとこか。大きさも張りも乳首との兼ね合いもそこそこかな。
年の頃は二十代前半に見える。気の毒なことに呆然としていた。
そりゃそうだよね。いきなり裸で呼び出されたりしたらわたしだって困る。
「あんたが絡むと裸ばっかりよね」
「ばっかり? 初めてだと思いますが」
「……そうね。初めてね」
あぶないあぶない、ここでバレたらカンッペキにアウトじゃないの。気をつけなさいよルイズ。
これは幸運の報せなのか。それとも不幸の前兆なのか。それを考えるだけで胃が痛い。
窓を開けて新鮮な空気を入れる。心地よいはずの風が、なぜかとても冷たい。
予想以上に緊張している自分に気づく。おっぱいおっぱいおっぱい。ダメだ、緊張が解けない。
あきらかに昨日の儀式よりガチガチしてる。
だってね、完全ないかさまじゃないにしても、かなりドラスティックな方法をとるわけじゃない。
そりゃ緊張もするっていうのよ。相変わらずミキタカは涼しい顔してる。こいつばっかりは本物だ。
「よく晴れた。本日も召喚日和だね」
みんなが休んでいる状況でわたし達だけが呼び出されているということに緊張する。
先生とわたしとミキタカ、三人だけで召喚の儀式をしなければならないことに緊張する。
コルベール先生の軽口さえもわたしを緊張させる。
要するに全部が全部緊張の種になる。
「ねぇミキタカ。大丈夫なのよね?」
「イヤーソレホドデモアリマセンヨ」
褒めてないっての! どういう流れで褒めてることになるのよ?
「さて、それではミス・ヴァリエールから始めなさい。ミスタ・グラモンはそこで見ているようにね」
あーあ、ミキタカ目ぇつけられてやんの。まぁあいつのことだから何とかするだろうけど。
さて、わたしはわたしで作戦通りにがんばりますか。とりあえず適当に詠唱はじめーっ。
ぶつぶつぶつぶつっと。……まだかな。もうちょっとか。
あーあ、本当にいい天気だね。お日様も高いし雲ものんびりしてる。
こんないい天気にわたし達何やってるんだろうね。なんだか空しくなってくるなぁ。
みんな今頃何やってるんだろ。キュルケあたりは男とおしゃべりかな。マリコルヌは使い魔の自慢。
モンモランシーとギーシュはいちゃいちゃしてるんだろうな。ゲホンゲホン。
ゴホッゴホッ、わたしも使い魔できたら、ゲホゲホゲホゲホッ、みんなに自慢、ガホガホッ。
「ミス・ヴァリエール! 儀式は中断だ! どこにいるんだ、ゴホゴホッ、見えん、ゴホッ、逃げなさい、早くッ! ゲホゲホッ」
コルベール先生ゲホゲホゲホッ、ていうかこれ、えっ、ゴホンゴホンッ、火っ?
「ルイズさん、ルイズさん」
え、え、え、うわ、ゴホゴホゴホッ! ゲホゲホゲホゲホッ!
「安心してください、大した火ではありません。煙を優先しましたからね」
グェホグェホグェホグェホッ! 目ぇ痛っ、目ぇ痛っ、痛いっ痛いっ!
「でもその分すぐに消えてしまいます。さ、手早くどうぞ。私の力を存分に振るってください」
ゴボゴボゴボゲボゲボゲボゴボゴボッ、こおのミキタカアアアアッ!
「どうしたんですか?」
ま、まずい、このままだと退学の前にこいつに殺される。早く早く杖を振るってルーンルーンルーン。
惑乱の最中、わたしはどう唱えたのかも分からずに呪文を唱えた。
それが功を奏したのか、それともミキタカの力が物を言ったのか。悔しいけどたぶん後者ね。
爆発は起きなかった。
やったのか? それともやはり失敗なのか?
あれだけもうもうと立ち込めていた煙が、突風に追い立てられ、見る見るうちに晴れていく。
いつの間にか杖から元に戻っているミキタカ、大慌てのまま固まっているコルベール先生、そしてもう二つ、何かがいた。
二だ。すごい。一じゃなくて二だ。ここまで上手くいくなんて。
わたしは自分をたたえ、ミキタカに感謝した。超数学の存在を本気で信じかけた。
ああ、何度目になるだろう。自分で自分が嫌になる。
何から何までそんなに上手くいくわけがないじゃないの。だってわたしはゼロのルイズ。
嫌ってほど分かってるはずなのにねぇ。人生って辛い。
煙が晴れていくにしたがって、呼び出された存在が露になっていく。
人生始まって以来最大の高揚状態にあったわたしの心は、煙が消えるに従いしぼんでいった。
そりゃしぼみもするよ。せっかく大成功ってところでこれじゃね。冷や水ぶっかけられるってもんじゃない。
そこには二人の平民がいた。そう、平民だった。見るからに平民だった。
メイジ召喚したらそれはそれで大問題だけど、平民ってどういうことよ。
ドラゴンやグリフォンじゃなきゃ嫌だなんて子供みたいなことは言わないけどさ……でも平民て。
「やりました。成功しましたね、ルイズさん」
これを見てそう言えるミキタカに乾杯。あんた、とことん大物だよ。
平民召喚ってさ……これはこれで退学ものなんじゃないの? コルベール先生も大口開けてるよ?
一人は老爺。いくつくらいだろう。とにかく年をとっていることだけは確かね。
妙に澄んだ瞳からは、膨大な経験に裏打ちされた高い知性が垣間見える。
腰もまっすぐで、この状況下、わたし達も含めた中でただ一人落ち着いていた。目が合ったわたしに微笑む余裕さえある。
平民は平民なりに、けっこうたいした人物なのかも。
そしてもう一人は……ランキング的には中の中ってとこか。大きさも張りも乳首との兼ね合いもそこそこかな。
年の頃は二十代前半に見える。気の毒なことに呆然としていた。
そりゃそうだよね。いきなり裸で呼び出されたりしたらわたしだって困る。
「あんたが絡むと裸ばっかりよね」
「ばっかり? 初めてだと思いますが」
「……そうね。初めてね」
あぶないあぶない、ここでバレたらカンッペキにアウトじゃないの。気をつけなさいよルイズ。