ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

使い魔ファイト-8

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匿名ユーザー

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 どっと疲れた。もう何が何やら。
 わたしがため息をつくとキーシュもため息をついた。
 わたしが顔を上げるとキーシュも顔を上げた。
 わたしが右手を上げるとキーシュも右手を上げた。
 こ、の、お、と、こ、は、あああああああああ……。
 ……いや違う。冷静だ冷静だ冷静にならなきゃダメ。こうやって怒らせるのがこいつのやり口。
 深呼吸を数度、真似するキーシュを無視して続けると、頭の血も降りてきた。
 落ち着こう。毛布の上に寝転がると、キーシュも隣に寝転がった。
 あんたねぇ、見る人が見たら絶対に誤解されるわよ。でも指摘したら負けだ。スルー、スルー。
「ねえキーシュ」
「キーシュだなんて。せっかくヒミツを分かち合ったんですから本名で呼んでください」
 グググ……耐えろ。苛立たせるのが狙いなんだ。
「そうね、やたら長い上に語呂が悪いからミキタカでいい?」
「とてもいいですね」
 名前馬鹿にされてんだから怒りなさいよっ、間抜けっ。
「ねえミキタカ。わたしが失敗した理由はわたし自身が一番よく知ってる」
 マリコルヌにさえ馬鹿にされるゼロのルイズだからね。情けない話だけど、事実だからどうしようもない。
「だけどなぜあんたがサモン・サーヴァントを誤魔化そうとしたの。ペットの二十日鼠でどうこうしようって、いくらあんたでもそりゃ無理よ」
「ルイズさん、私はサモン・サーヴァントができないんです」
 は?
「私はできる魔法とできない魔法がしっかりと別れているんです。私にサモン・サーヴァントは使えないんです。これは超数学で求めた真理です。間違いありません」
 超数学云々はともかくとして、前半部分は理解できた。
 そうだ、キーシュ――もうミキタカでいいよ馬鹿――ミキタカは、初歩の初歩が使えなかったり、応用中の応用が使えたりと、とてもちぐはぐなメイジだった。こいつならサモン・サーヴァントが使えないということも……あるかな?


「ですが、あなたは違います。爆発を起こしたことがそれを証明しています。絶対成功不可能な私と違って、ほんの少しの後押しさえあれば問題なく使い魔を呼び出すでしょう」
 え……そ、そう? そうかな? やだなぁもう褒めたって何も出ないからね。
「私がその後押しをします」
「後押しってどうするのよ。二人で召喚するわけにもいかないでしょう」
「いいえ、断固として二人で召喚します」
「あのね、妄想もほどほどにしておかないといつか脳みそ爆発するわよ。コルベール先生が許すわけないでしょう」
「まずはルーンの詠唱に合わせて煙幕を焚き、先生の視界を塞ぎます。もちろん魔法は使いません。ルイズさんも私も特殊なメイジとして覚えられているでしょうから、特有の現象ということで納得してもらいましょう」
 人の話聞かないのはもう慣れたもんね。だから悔しくなんかないもんね。
「そしてその後、ルイズさんは私を使ってサモン・サーヴァントを唱えます」
 ぼうっとしていたせいじゃない。
 モットーに従い、疲れきっていながらも頭の中ははっきりとしていた。
 はっきりとしていてなお、目の前で何が起きたのか理解することができなかった。
 隣で寝転がっていたミキタカの身体が解けた。
「召喚ができないとはいえ、私にも魔力はある。二人の力を合わせれば魔力も、成功率も二倍です」
 私はどんな間抜け面でその光景を見ていたんだろう。
 徐々にではなく、一斉にばらけていく。ミキタカの身体が、長い金髪が、鼻ピアスが、服が、全てが解け、一つの物体を形作っていく。
 わたしは半開きで口を開けてそれを見る。口の中が乾き始めたことにも気づかない。
「二倍の魔力で二倍の使い魔を召喚し、煙の中で私とルイズさんが一体ずつ契約する。二人で呪文を行使する形になりますから、どちらも使い魔と契約できるわけです」
 杖だ、これは。メイジの杖だ。
 口も消え、耳も目も鼻も消え、ミキタカの痕跡が一切無くなっているのに声は聞こえる。
 魔法じゃない。絶対に魔法じゃない。ベッドの上に寝た時点で、すでに杖は手放していたはず。それに一語の詠唱も無かった。それなのに、それなのに発動するなんて、そんな。ありえない。
「これが私のたてた作戦です」

「これ、幻覚?」
 やっとの思いで声を出した。発言も発声もどちらも間抜けに聞こえたのは気のせいじゃないと思う。
「幻覚ではありません。現実です」
 くっ、こいつに現実とか言われると無性に腹が立つな。
 待てよ……そうだ、そういえば。
 突然の怪現象に見舞われて混乱していたわたしの頭脳に一筋の光明が差し込んだ。
 そうだそうだ、ミキタカの出自だ。母親がエルフという噂があった。
 つまりこれは先住の魔法? だから杖が必要なかった? 詠唱も?
 そうか、ミキタカは先住の魔法を使えるんだ。だから使える魔法に偏りがあった。
 特定の魔法のみ天才的に使いこなしたのもそういうことか。
 うわ、すっごい腑に落ちた。納得。正体が分かると急に親しみを感じてくる不思議。
 いいなぁ先住の魔法かぁ。ちょっとだけ格好いいよね。すっごい強いんだっけ。わたしも使ってみたいな。
「だけど……見れば見るほど本当に杖ね」
「もちろん杖ですよ。ただし振り回したり殴りつけたりはやめてくださいね。感覚はそのまま残っていますから」
 何という事はない気持ちで杖に触れた。軽く握り、構えてみる。途端、
「おっおっおっおおおおおお!」
 すごいすごいすごいっ。これはすごいよ。わたしの中にとめどなく魔力が流れ込んでくる。
 この部屋の風景が、小物の一つ一つから毛布、ベッド、箪笥の裏の埃にいたるまで、全てが輝いて見える。
 熱い。身体が熱い。熱風が吹き、吹き返し、わたしの中で轟々と吹き荒れている。
 今ならできるような気がする。使うことができなかった、使えないせいで散々馬鹿にされてきた、どうしようもなく手の届かない存在だった、魔法を使えるような気がする。


「私の部屋で魔法はやめてくださいね」
 分かってるわよ。何よ、人の心でも読んでるのかしら。
「読んでませんよ」
 だったらいいけど。
「お願いします、ルイズさん。私と一緒に使い魔召喚の儀式をやりましょう。助けてほしいんです」
「……助けてほしい?」
「はい。助けてほしいんです」
 その言葉には真実味があった。そう、ミキタカにしたってここで退学するわけにもいかないんだよね。
 それに。ふうむ。これ、案外いけるかもしれない。それだけの説得力がある。先住の魔法ってやつは。
「どうしてもっ、助けてほしいっ……ていうなら手伝ってあげてもいいけど」
「そうですか。ありがとうございます」
 同情ではなく、わたしからの手助けという形なら、ごく自然に協力することができるって寸法ね。
 ミキタカめ、ルイズ使いがなかなか上手くなってきたじゃないの。どうせ偶然だろうけど。

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