ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

故郷! 魂の眠る場所 その③

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匿名ユーザー

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故郷! 魂の眠る場所 その③

広々とした緑の草原を、沈む夕陽が紅く彩る。
爽やかな風が流れると長い草が揺れてかすれあい、サワサワと音を立てた。
「これをジョータローさんに見せたかったんです」
茶色のスカートに木の靴、草色の木綿のシャツという私服姿のシエスタが、風でなびく髪を押さえながら承太郎に寄り添っていた。
「ね、綺麗でしょう? 田舎ですけど」
「……ああ」
承太郎は待っていた。シエスタが自分をここに案内した本当の理由を。
それを察してか、シエスタはさっきから落ち着かない様子で視線を泳がせている。
けれど意を決してシエスタは訊ねた。
「元の世界……って、何ですか? 東方から来たというのは否定してましたよね。
 ジョータローさんとお爺ちゃん、どこから来たんですか?」
「…………ここ以外の、ハルケギニアじゃない、別の世界だ。
 そこは地球と呼ばれていて、メイジは存在しないが、波紋やスタンドといった特殊な能力の持ち主が少数ながら存在する。
 いつか話した車や飛行機を一般市民が普通に利用している。
 一番の違いは月がひとつしかない事か……。シエスタ、信じるか?」
「ジョータローさんは、人をからかったりするような人じゃありませんから」
「……そうか」
それからシエスタは手の指をいじりながら、震える声で言った。
「父が言ってました。お爺ちゃんと同じ国の人と出会ったのも、何かの運命だろう……って。だから、よければ、この村に住みませんか?」
承太郎は答えない。それでもシエスタは勇気を振り絞って続ける。
「そうしたら私もご奉公をやめて、ジョータローさんと一緒に……!」
「俺には帰るべき世界がある」
はっきりとした承太郎の答えを聞いて、シエスタはうつむき両手で顔を覆った。


嗚咽を漏らすシエスタの肩に承太郎は手を伸ばしたが、指先が触れる間際、唇を噛みしめ――ゆっくりと指を戻した。
「それに……故郷には思い出がある。魂の片割れを持ち帰ってやりたい」
承太郎は昼の事を思い出していた。
竜の羽衣の所有者はシエスタの父だったため、譲ってもらえないかと交渉に向かったのだが――そこで祖父の遺言が明かされた。

『何としてでも『竜の羽衣』を陛下にお返しして欲しい』

シエスタの父は、シエスタの予定より早い帰省や貴族の来訪に驚きながらも、承太郎が石碑の文字を読めた事を知ると遠い目をしてその遺言を伝えた。
父にとって、祖父は自分を愛し育ててくれた大切な家族なのだ。
『親父はとても愛妻家で家族思いでな、お袋ともすごく仲が良かった。
 あんな風に老いたいと憧れたものだよ。本当に幸せそうだった。
 だがそんな親父唯一の心残りが……竜の羽衣だ。
 どこの陛下かは知らんが、返せるもんなら返してやってくれ』
それは祖父が異世界から来たと知らないゆえの言葉だったろう。
そうでなければ、承太郎にこの村で暮らさないかと誘いなどしない。
日食に飛び去った一匹の竜は、姿を消し――恐らく元の世界に帰ったのだから。

「俺は……シエスタの祖父の魂の片割れであるあのゼロ戦で元の世界に帰り、そして俺の国の陛下って奴に返してやりたいと思っている。
 多分今さらあんなもんを返されても困るだけだろうが、それでもシエスタの祖父の魂を故郷に還す意義は……あると思う」

シエスタの家族は大勢いた。
父母と七人の弟妹。シエスタは一番上の長女らしい。
お昼にはルイズ達貴族が来た事で大騒動だったが、今では落ち着きを見せている。
だが貴族達を歓迎すべく料理を作ろうという時に、
一番料理が得意なシエスタがいないという事で、ルイズが探しに出る事になった。
シエスタの家族は「貴族様にそんなとんでもない」と遠慮したが、姿の見えない承太郎の事も気になったため、ルイズは強引に探しに出たのだ。
そして、森の小道を抜けた先のちょっとした空き地から、広々とした草原を眺めている二人分の人影を見つける。
承太郎とシエスタだ。
何か話してるみたいだが、声が小さくてよく聞こえない。
無意識に忍び足でルイズは近づく。二人は自分に気づいてないらしい。
(うー……これじゃまるで盗み聞きしてるみたいじゃない。
 私は、ジョータローとシエスタを探しに来たんだから、声、かければいいのに)
そう考えて、声をかけようと、口を開いた瞬間。
「ジョ……」
「私も一緒に連れてってください!!」
シエスタの叫びに、ルイズの声はかきけされた。

「私も一緒に連れてってください!!」
瞳いっぱいに涙を浮かべたシエスタが、真っ直ぐに承太郎を見つめて叫んだ。
頬は紅潮し、手も唇も震えている。
けれど、とても綺麗だった。
「……解っているのか? 俺と一緒に行くって事は、もう二度と、この世界に……故郷に……家族の元に、帰ってこられないかもしれない」
「解ってます! そんなの、解ってます! それでも私、私は……」
ポロポロとこぼれた涙を、シエスタは承太郎の胸に押しつけた。
承太郎のシャツをギュッと握りしめ、すがるようにして言う。
「ジョータローさんが……好きなんです……」

「ジョータローさんが……」
その言葉が、
「好きなんです……」
ルイズの胸に、
「だから……だから私を連れてってください……」
突き刺さった。

胸が、苦しい。
息が、詰まる。
唇が、震える。
瞳が、濡れる。

次の瞬間、ルイズはきびすを返して走り出していた。
理由なんて解らない。絶対に解らない。
でもそれ以上その場にいる事ができなくてルイズは、逃げ出した。

ふと人の気配を感じたような気がして承太郎は森を振り向いたが、人影はどこにも無く、野うさぎや小鳥でもいたのだろうと判断した。
そして胸の中で泣くシエスタの両肩に、承太郎はそっと手を置いた。
「長いようで短い……そんな旅だった」
シエスタの震えが止まる。けれど、顔は胸にうずめたままだ。
構わず承太郎は話を続ける。
「……花京院……アヴドゥル……イギー……。
 命懸けの旅を共にした仲間が死んで……宿敵を倒し、俺達の旅は終わった。
 生き残ったのは俺と、俺のじじい、そしてフランスって国から来たポルナレフって奴だ。
 ポルナレフには家族がいない、そこでじじいはポルナレフを誘った。
 よかったら自分の家に来ないか……と。だがポルナレフは断った」
「……どう、して?」
「身内はいなくても……フランスは俺の祖国だと、言っていた。
 故郷には思い出があり、どこへ行っても必ず帰ってしまう所だと。
 ……シエスタ。おめーまで故郷を捨てるこたぁねー……」

承太郎のこんなにも優しい声は初めてだった。
だから、承太郎の想いの深さも肌で感じる。
それでも、それでも、それでも!
「それでも、貴方となら。貴方とならどこでもいい。
 貴方と一緒なら、異世界でも、世界の果てでも、構わない。
 貧しくても、ひもじくても、住む家さえ無くてもいい。
 ジョータローさんと一緒なら……そこが私にとって、幸せのある場所なんです」
「シエスタ……」
シエスタは感じた、肩に置かれている承太郎の手に力がこもるのを。
そして、ゆっくりと、身体を引き離された。
見上げる。彼の顔を。
いつものままの無表情。でも眼差しは優しく、そして、悲しげで。
ああ、それが答えなのかと、解ってしまう。
「……あまり遅くなると夕飯を他の奴等に食われちまう。家に戻るぜ」
承太郎の手が離れ、背中を向けられ、遠のいていくのを見た。
それでもあきらめきれないシエスタは、最後の悪あがきをする。
「じゃあ……待っててもいいですか?」
承太郎の足が止まった。
「私はただの、何の取り得も無い女の子だけど、待つ事くらいはできる。
 もし元の世界に帰ってしまったとしても、 いつか貴方がこの世界にもう一度来てくれるって信じて、待っていても……いいですか? ずっと、ずっと待ってます。だから」
「……おめーの事は嫌いじゃねーぜ。感謝もしている。
 だが……俺は誰かを連れて行く気も、誰かを待たせる気も無い」

承太郎が家に戻ってからしばらくして、目を赤くしたシエスタが帰ってきた。
そして普段承太郎やギーシュに食べさせているような日常的な料理で貴族達を歓迎した。
ルイズが帰ってきたのは、夕食を終え、何人かが寝室に案内されてからだった。
ルイズはたまたま起きていたギーシュに自分の寝る部屋を聞くと、それ以上誰とも口を利かず部屋に行き就寝した。

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