ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

第四話 『決闘日和 ~格の差~』

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第四話 『決闘日和 ~格の差~』

雨は小雨程度だが、ヴェストリの広場に集まった人間の熱気で蒸発しそうだった。
「諸君!決闘だッ!」
少年が薔薇の造花を掲げた。ギャラリーの熱気が跳ね上がる。
ウェザーがチラリと観客の方を見ると、キュルケが青髪のチビと話していた。
そこから少し離れた位置にはルイズがいた。腕を組み、冷たい視線をこちらに向けている。「自業自得」だとその眼は訴えていた。
「ギーシュが決闘するぞ!相手はルイズの平民だ!」
ギーシュは観客たちに愛想を振り撒いている。一回り観客にこたえると、ようやくウェザーを見た。
広場の真ん中に立つ二人。
「逃げずによく来たね平民君。その無謀さは褒めてあげよう」
オペラ歌手にでもなったつもりで喋っているのか、抑揚がおかしい。
「だが、僕は慈悲深い。僕の魔法に痺れてしまう前に、土下座して『ゼロの使い魔ではギーシュ様には勝てません。
どうかこのゼロのルイズに連れてこられた哀れな平民めに寛大な御慈悲を』と言えば許し――」
「黙れ小僧。蹴り殺すぞ!」
前口上を切られてギーシュは明らかに苛立っている。
「・・・最後のチャンスを棒に振ったな。これは決闘だからね、死んでも恨んでくれるなよ!」
ギーシュが造花をフェンシングの選手のように立てて構える。本当に格好つけたがりな奴だ、とウェザーは呆れた。
だが、これでメイジとやらの能力がわかるだろう。ウェザーもただで決闘を受けたわけではない。
「・・・もっとも、シエスタの件も気になるがな」
というか、実際ウェザーはギーシュが怒っていた理由を知らなかった。
ただ、自分を助けてくれた人間がギーシュの様なイヤな奴にペコペコ頭を下げているのは気に食わなかった。
罪には正当な罰が下る。だが、シエスタのあの微笑みを地に擦り付ける理由はないはずだと信じていた。

「何か言ったかね?」
「いや・・・」
「ならば始めよう!」
そう宣言し、ギーシュが造花を振るうと花びらが一枚、宙に舞ったかと思うと・・・
「いでよ!ワルキューレ!」
甲冑をまとった女型人形が現れた。
「それが『魔法』ってやつか?」
「そうとも。僕はメイジだ。魔法で戦うことに文句はあるまいね?」
「構わんさ・・・どのみちお前は蹴り殺すからな」
「ふ、虚勢は止めたまえ。おっと、言い忘れていた。僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュだ!
従って青銅のゴーレム『ワルキューレ』がお相手するよ!」
それを合図にワルキューレがウェザーに突進してきた!しかしウェザーは動こうとしない!
ワルキューレが拳を振り上げ、下ろそうともただ前を見続けている!
観客たちが早くもやってきたクライマックスに興奮する。ルイズが顔を両手で覆う。
ギーシュが勝利を確信する。ワルキューレの拳がウェザーの脳天に――――振り下ろされなかった。
「な、なんだ・・・」
ギーシュがそうこぼした。ワルキューレは拳を振り上げた姿勢で動かなくなってしまったのだ。
「『青銅』・・・か。『魔法』と言ってもこんなものか?」
誰もが我が目を疑い声をなくすなかで、ウェザーだけが平然としている。
そして隣の家の扉をノックするような気軽さでワルキューレを叩いた。するとなんとワルキューレがぼろぼろと崩れていく!
「な、なんだよ・・・『錬金』を失敗しただけか」
「おいギーシュ!しっかりやれ!」
活気を取り戻した観客がギーシュを焚き付けるが、ギーシュ依然、驚愕していた。
(あり得ない・・・僕の『錬金』は完璧だった。パーフェクトだ!そうさ、僕はあんな平民ごときに敗れはしないッ!)
つま先立ちで歩いてくるウェザーを睨み付け更なる『錬金』を発動する!
今度は七体の武装した『ワルキューレ』がッ!同時にウェザーに雪崩かかるッ!
「ギーシュの奴本気だぞ!」
「イケェーッ!ワルキューレェ!」

ギーシュは勝利を確信した。『錬金』に落ち度はない。ワルキューレも自分の最大数の七体出した。
何の力も持たない『平民』に敗けるはずがないと。
しかし悲しいかな、今ギーシュが相手にしているのは特別な力を持った『男』だったのだ。
当然のようにワルキューレは七体まとめて止まった。
「数が増えたところで・・・何も変わりはしない・・・」
観客たちも異変に気付き始めたらしく騒ぎ出す。
「おい見てみろ!ギーシュのワルキューレが変色しているぞ!」
「青から緑にだ!」
ワルキューレたちの体には所々緑のカビのようなものが浮き出ていた。
「な、何を・・・何をしたァーッ!答えろッ!」
ウェザーは固まったワルキューレたちを、まるでルーブル美術館にならぶ芸術のように眺めながら答えた。
「『金属』が『酸素』とくっつくと、『酸化』して『錆』るだろう?酸素濃度が高ければ高いほどに、『錆』は早くなる・・・。
『青銅』だって『金属』だ。当然錆びるわな・・・」
「錆だと?バカなッ!金属が錆びるのに一体どれほどかかると思っているッ!」
「言っただろ・・・酸素濃度が高ければ高いほどに錆は早いとな・・・」
そう。ウェザーは自分の周りの酸素濃度を著しく上げたのだ。
それにより『青銅』でできたワルキューレは錆てしまい、間接部が動かなくなってしまったのだ。そして錆びれば当然脆くもなる。
「ダメだな・・・どれもころも美術館には並べられない駄作ばかりだ・・・ゴッホにはほど遠いな」
全てのワルキューレを蹴り壊してウェザーは再び歩き出す。
「う・・・ううう・・・」
ギーシュは混乱していた。まさかただの平民に自分のワルキューレがやられようとは。それもゼロのルイズの使い魔のだ。
あるはずがないことが起きている・・・もしや自分はとんでもない奴を敵に回したのではないのか?


そこでギーシュは自分が後退りしていることに気付いた。
「バカな・・・この由緒正しき武の誉れ高きグラモン家その四男たるギーシュ・ド・グラモンがッ!平民ごときにィィィッ!」
ギーシュは自分を叱咤するかのように叫び、造花の杖をウェザーに向けた。
「『錬金』だけが魔法ではない!」
ギーシュが唱えた呪文は『石礫』。石を相手に向けて飛ばすといういたってシンプルな魔法だが、生身の人間には十分な殺傷力を秘めている。
その石礫がウェザー目掛けて放たれたのだ!
「さあ、その酸素濃度とやらでこの魔法を防いでみろォーッ!」
ウェザーは、しかし動じた風もなく飛来する石を見ている。石は真っ直ぐウェザーの体に向かい飛んでいき、もはや当たる直前であった。
「勝った!ヘビー・ゼロ完!」
「ほーう、じゃあ誰があのルイズの使い魔をするんだ?」
「な、何だってーッ!」
何とウェザーに向かって飛んだ石が直前でそれたのだ!
「・・・今度は見えたぞ・・・一瞬だったが、お前の周りのその雲のようなものがそらしたんだ・・・だが・・・ますますわからない・・・お前はホントに平民なのか・・・?」
もはや立ち尽くすだけのギーシュの耳元に顔を近づけてウェザーが呟く。
「今のは空気の層だ・・・そして俺は平民じゃない・・・」
力の抜けたギーシュの肩を押さえつけ膝立ちにさせ、思い切り振りかぶり顔面に蹴りを叩き込んだッ!
「ぐぎばっ!」


盛大に血をぶちまけながら吹き飛ぶギーシュ。杖はとっくに手放している。しかしウェザーは向かって来るのだ。
ルールを知らないのもあるが、完全に戦意をブチ割らなければ後々厄介だし、周りの奴らにもある程度『力の差』を見せておくべきだと判断したのだ。
ギーシュの胸ぐらを掴み引き起こす。
「うあ・・・参った・・・降参だ・・・」
「お前が降参でも周りの奴らは俺の障害になる可能性はある・・・『錬金』とやらで椅子を作れ」
落ちた杖を握らせて青銅の椅子を作らせ、座らせる。観客たちが何をする気なのかとざわついている。
「す、座ったぞ・・・一体何をする気なんだい?」
怯えるギーシュの背後から耳元でささやく。
「雷に当たった人間を見たことはないか?」
それだけでギーシュは気付いた。否、気付いてしまった。ウェザーがしようとすることを。
「き、君は雷を操れるとでも・・・」
「さあな・・・」
曖昧な答えが恐怖を一層煽る。
雷を操るなど不可能だと頭が理解していてもさっきの不可解な現象と雷に打たれた丸焦げの自分の姿が沸き起こる

「電気椅子って知らないか?俺の居たところの死刑囚を殺すための道具だ。血液が沸騰して体中に水ぶくれができる・・・目は笑えるくらい飛び出して割れるんだ・・・青銅はさぞかし電気を通すんだろうな・・・
 だが俺は慈悲深い・・・『キザったらしなメイジではあなた様には勝てません。どうかこの思い上がったた哀れなダメ貴族めに寛大な御慈悲を』と言えば許してやる・・・」
「・・・わ・・・わかった・・・」
もはや心の折れたギーシュはこの提案に一も二もなく飛び付きたかった。
しかし、観客たちの中にただ一人心配そうにこちらを見ている者がいた。
(モンモラシー!なぜ君がそんな顔をするんだ!)
ウェザーは知らないが、この決闘の発端となった原因がギーシュの二股であり、その相手の片方があの『香水』のモンモラシーなのである。
(モンモラシー・・・君はこんな無様な僕にも慈悲の眼差しをくれるんだね?嗚呼、すまないモンモラシー!僕の女神よ!君を失望させたくはない!)
死んでいたギーシュの眼に少しではあるが確かに黄金の光が宿った!
「・・・やはりそれは無理だ・・・僕は男してはダメかもしれないが、せめて・・・せめて彼女の前では胸を張っていたい・・・最後に君の名を教えてくれないか?僕を倒した男の名前を」
「・・・ウェザー・リポートだ」
「ウェザー、君は強かった」
「・・・じゃあな」
ウェザーが肩に手を置くと、いよいよ最期の時が近づくのがわかる。父上母上兄さまがた、先立つ不幸をお許しください。ルイズ、バカにして済まなかった。そして、モンモラシー・・・愛しているよ。


「ドカン!」
「うわあぁぁぁぁあぁッ!」
「ギーシュ!」
耳元で叫ばれ肩を叩かれただけなのに、ギーシュは気絶してしまった。
すぐさまモンモラシーがかけより助け起こす。気絶しただけだとわかり安堵のため息をもらすと、キッと、ウェザーを睨み付けた。しばらく視線が交錯したが、ウェザーが先に視線を外して歩いていった。人垣が一気に割れる。
「アンタ・・・何したの?」
ウェザーに追い付いたルイズが困惑した表情で尋ねる。しかしウェザーは答えない。
「アンタ・・・なんでそんな悲しそうな顔をしてるの?」
「・・・何でもない。このあと授業だろう?」
セリフと同時に予鐘がなる。観客たちもざわつきながらも教室目指して帰っていく。ルイズもウェザーを気にしながらも教室へ向かう。
ウェザーは思い出していたのだ。ペルラとのことを。
年齢的にもそうだが、倒れた少年を介抱する少女の図はかつて自分が絶望した時と同じだった。
しかしギーシュの眼には輝きがあった。あの時自分になかったものを持つギーシュを少し懐かしいと思い、ほんの少し羨ましいと思った。

いつの間にか雲は割れて、隙間から漏れる陽射しがギーシュとモンモラシーを照らしていた。

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