ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロの兄貴-23

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匿名ユーザー

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『老化執行中 脱出進行中』

「てめーにも…覚悟してもらうぜ…」
その言葉と共にワルドの腕を掴む手に力が入る。
「うぉぉぉぉぉおお!我が風の偏在ィィィイイイ!最後の力を振り絞れェーーーーーーーーッ!!」
一瞬。老化する僅かだがほんの一瞬早く分身が放った風の魔法がワルドの腕を切り飛ばしたッ!
ズキュン!
「チッ・・・!」
斬り飛ばされた腕のみ老化し、干からびたそれを投げ捨てもう一度直を仕掛けるべく掴もうとするが脚に力が入らなくなり膝を付く。
「くそ…だが…危なかった…腕一本犠牲にした価値はあったというものだ…!」
あれ程のダメージを受け印の効果で無理矢理体を動かしここまできたのだ。限界などとうに超えている。
「私の…腕一本の代償としては高くついたが…ここはウェールズを斃せただけでもよしとせねばなるまい…!」
残った右手で杖を握り中空に浮く。ワルドの方も一瞬だが老化させられた事と左腕を失った事で、もう分身は消えている。
「この城はじきに我が軍が落す…!そうなれば今の貴様達ではどうしようもあるまい…愚かな主人共々薄汚い傭兵にでも首を取られるがいい!」
逃げようとするワルドに対して広域老化を再び仕掛けようとするが、気を失ったのか突っ伏してブッ倒れているルイズが視界に入り
(…殺すより生かす方が先かッ!)
ここで広域老化からの直触りを行えば恐らく、いや確実に敵中突破するだけのパワーは残らない。そう思いワルドを見逃した。

デルフリンガーを杖にして立ち上がる。戦闘はほぼ不可能だが移動は辛うじて可能だった。
ルイズに近付き起こそうとするが、起きようとしない。
軽く、デルフリンガーの柄で頭を小突くが、それでも起きない。
水でもあればブッかけ叩き起こすところだが生憎ここにはそんな物は無い。
ブチ破った扉の外の方から足音や怒号、悲鳴などの叫びが流れ込んでくる。
ここで起こそうとして時間を食ってはマズイ。そう判断しグレイトフル・デッドの指が三本しか無い手で器用に抱えあげる


「兄貴ィ……船はもうとっくに出ちまったがどうするんだ…?」
「考え無しに残るかよ…隠し港にタバサを待たせてある」
「敵は五万だぜ?突破できるのか…?」
「勝ち戦が確定した敵ってのは無駄死にを避けるもんだ…
  残ったスタンドパワーを全て最初に注ぎ込むッ!それで駄目なら…そんときゃあ最期の最期まで敵のノドに食らい…付くまでだ」
「やっぱり兄貴はスゲーや!そうだな、たかが5万。兄貴にとっちゃあ飯を食いに行くようなもんだな」
その言葉と共にルイズを抱えたグレイトフル・デッドの体から煙が流れ出す。
礼拝堂の外に出ようとするが倒れているウェールズに気が付いた。…老化はしていない。
氷で冷やしているものを除けばグレイトフル・デッドで老化しないものは『無機物』と『死んだ生命体』だけになる。
ゴールド・エクスペリエンスが終わってしまった生命を呼び戻す事ができないようにグレイトフル・デッドも終わってしまった生命を老化させる事などできやしない。
斃れているウェールズに近付きその指に嵌っている大粒のルビーを抜き取り言葉を紡ぎだす。
「その覚悟だけは…認めてやる…それに免じてオメーの言葉は伝えといてやるよ…」
そうして、自分がブチ破った扉に向き直りウェールズの死体に背を向けると
「アリーヴェデルチ」
ただそれだけを言い残し礼拝堂を後にした。

城の中に一人だけの足音が静かに鳴り響く。
城の外は未だ大砲の音や兵士達の叫びが聞こえるが、それに反して城の一角だけは静寂に包まれていた。
朽ち果てたメイジや兵士達の死体を踏み越えながらただ前に突き進む。

―――死は誰にでも訪れる。例え貴族だろうと平民だろうと平等に。

王軍はウェールズの戦死も手伝い士気が下がり城の内部にまで突入され全滅が確定している。
ならばここで全員を巻き込もうが問題無い。この城に残った連中はその覚悟ができているはずだ。文句を言われる事などあろうはずもない。
隠し港へ向かうまでに呻き声をあげ辛うじて生きているヤツらも居たが、その生き残りの全てにトドメを刺す。
無論、王軍、貴族派の区別などしない。淡々と、そして平等に命を狩り獲る。
比率で言えば貴族派の人数が圧倒的に多かったし王軍の生き残りの貴族などほぼ皆無だったがそれでも数人は居た。
だが、それでもトドメを刺した。どの道広域老化が解除されれば包囲され殺されるか捕縛され処刑される運命だ。
なら早めに楽にしといてやるという気になっただけことだ。

周りの呻き声すら聞こえなくなった頃には城の内部に突入してくる部隊は皆無になっていた。
この戦いは貴族派の勝利が確定している。だからこそこんな訳の分からない…老化などで死にたくないという感情で支配されている。
主力部隊が傭兵で構成されているならその感情は加速度的に膨れ上がる。
傭兵はあくまで金で雇われた存在であり、雇い主に忠誠を誓う存在ではない。
金で雇われているからこそ傭兵は無謀な突撃などはしたりしない。命が無ければ報酬を受け取ることもできないからだ。


ぶっちゃけハッタリである。スタンドパワーなぞスデに尽きている。
グレイトフル・デッドそのものは発現させる事はできるが、老化を起こすだけのパワーは無い。
最後の力を使えばまだやれない事はないだろうが、それでは離脱するだけのパワーが無くなる。脱出経路が存在するのに特攻する気など毛頭無い。
全力で城の中で老化を引き起こし、敵の戦意を喪失させこれ以上の介入を防ぐ。
人これを良く言えば『策略』悪く言えば『ペテン』と言う。

その目論見は成功したようだが、あまり長くは持ちそうもない。隠し港へ続く道以外の生き残った敵はそろそろ老化から回復している頃だ。
その連中が外に出れば、今度こそ夥しい数の敵が雪崩れ込んでくる。
そうなる前に目的地にたどり着かねばならないが、負傷も手伝いギリギリと言ったところだろう。

だが、歩いている途中に再び膝を付く。
「血が少しばかり足りねぇな…」
急所は避けたとはいえ5体のワルドの攻撃を受け続け血を流しすぎている。
立ち上がり歩を進める。止血する道具など無い上に時間すら残されてはいない。
壁を支えに手を付き港に向かうが、その壁にも血の跡は残されていた。


鍾乳洞の港の穴の上でホバリングをしているシルフィードの上でタバサとキュルケがプロシュートの到着を待つ。
ヤバくなったら逃げろとは言われていたがギリギリまで待つつもりだった。
「さっきまで静かだったけど、そろそろ危なくなってきたわね…」
再突撃が行われ、遠くから兵の叫びや破壊音などが徐々に近付いてきているが肝心の者はまだ現れない。
しばらく時間が経ちこの港にも反乱軍が雪崩れ込んでくると思ったその時
――来た
宙に浮き運ばれているルイズの後ろに血に塗れたプロシュートがゆっくりとだが歩いている。
タバサがシルフィードに命じ二人に近付く。
「その怪我はどうしたの!?」
「説明してる暇…はねーぞ…」
港の入り口の方から兵士達の声が聞こえ、敵がもうそこまで迫っている事を理解させた。
「ワルド子爵は?」
「あのヤロー…は敵だ」
「…よく分かんないけど逃げた方がいいって事ね」
「掴まって」
這い上がるようにシルフィードに乗り込むと穴の中へと降下を始める。
それと時を同じくして貴族派のメイジや兵士が港に雪崩れ込んできた。


「間一髪ってとこだったけど…その傷大丈夫なの?」
壁に打ち付けられ出来た傷は打撲などが殆どで出血自体は大した事は無いがワルドと分身にやられた傷はそうも言ってられなれない。
他の傷はシルフィードに積んできた包帯や薬などで止血もする事はできたが、大腿部に受けた一撃がヤバイ。
動脈の一部が傷付き血が止まらないでいる。下手すればトリステインに帰り着く頃には失血死だ。
キュルケとタバサの顔が青くなる。系統が水でない以上治癒の魔法は使えないし、使えたとしても秘薬など無い。
プロシュートが深く息を吐く。それを見て、まさか諦めたのではないかと思った二人がその両眼をで見るがそんな絶望したような目は見せていない。
「折れた剣…アレまだあるか?」
「……え?ええ、そりゃあの武器屋に突き付けてやろうと思ってたから持ってきてるけど…なにに使うの?」
「…火出してくれ」
キュルケが火球を作ったのを確認すると折れた剣を手に取りその中に刀身を突っ込む。
(メタリカがありゃあこんな事しなくても済むんだがな…)
適度に熱せられ刀身が赤熱するとそれを火球の中から引き抜き息を吸い再び深く息を吐き厚く巻いた布を咬むと……

刀身を…その傷口にッ!『ブッ刺したッ!!』

ドジュゥゥゥ
「…ッ!~~~がッ!!」
一瞬血が流れ出るが赤熱した刀身に焼かれ瞬時に血は止まる。
焼いて傷口を塞ぐ。最も原始的だが最も確実に血を止める方法だ。
当然、その痛みは半端無い。傷口に刺された痛みとその傷口を焼かれる二重奏曲とも言える激痛が駆け抜ける。
1秒…!2秒…!3秒…!4秒…!5秒…!
その行動に半ば放心したように見ている方もやっている方もその5秒がやけに長く感じられ4秒と5秒の1秒間の間に
『8秒経過!ンッン~~♪実に!スガスガしい気分だッ!歌でもひとつ歌いたいイイ気分だ~~
 フフフフハハハハ。100年前に不老不死を手に入れたが……これほどまでにッ!絶好調のハレバレとした気分はなかったなァ…
  フッフッフッフッフッ、ジョースターの血のおかげだ。本当によくなじむッ!最高に『ハイ!』ってやつだアアアアアアハハハハハハハハハーッ 9秒経過ッ!』
(長いんだよ…ボケがッ!)


やけにテンションの高い幻聴が聞こえ心の中で突っ込みを入れ5秒経ち血が止まったのを見ると剣を引き抜き投げ捨てる。
少なくともこれで失血死の可能性は無くなった。

赤熱した剣を引き抜くまで意識を保っていたという精神力そのものが賞賛に値されるものだが
さすがに、度重なる傷の痛みと極度の疲労により意識を落し未だ気絶しているルイズの方に倒れ込んだ。

―――主に忘れられた中庭の池。
その池に浮かぶ小船の中にルイズが居た。
10年前ならワルドがこの場所から連れ出してくれただろうが、今は違う。
信頼を裏切り、ウェールズを殺し、自分すら殺されかけたことを思い出し泣いた。
泣いていると船が動き島の湖岸から船に手がかけられ引き寄せられる。
それに気付き手の先を見る。
プロシュートとなにやら得体の知れない化物がそこに立っていた。
その化物に抱きかかえられ船から地面に降ろされる。
「泣いてんのか?」
そう言われ、子供のように頷くと―――思いっきり殴られた
「この腑抜けがッ!なんだ!?あのザマは!?ええ!?」
さすがに踏まれこそしないが襟首をグィィッと掴まれ顔を引き寄せられる。
「いいかッ!オレが怒ってんのはなてめーの『心の弱さ』なんだルイズ!
  そりゃあ確かに『ワルド』にいきなり裏切られたんだ!衝撃を受けるのは当然だッ!自分まで殺されかけたんだからな。オレだってヤバイと思う
 だが!オレ達チームの他のヤツならッ!相手に裏切られたとしてもうろたえたりはしねぇッ!たとえ腕を飛ばされようが脚をもがれようともなッ!!
  オメーはマンモーニなんだよ…ルイズ!ビビったんだ…甘ったれてんだ!分かるか?え?オレの言ってる事
 『裏切り』のせいじゃあねぇ。心の奥のところでオメーにはビビリがあんだよ!
  『成長しろ』ルイズ!成長しなけりゃあオメーは栄光を掴めねぇ!」
唐突に殴られ半ば放心しながらそれを聞いていたが、使い魔に殴られた事に怒ろうとした。
だが、怒ろうにも相手の方がそれを上回っており……目が覚めるまで説教が続き、さっき泣いていた事とは別の意味で『泣きたくなった』



軽い衝撃を受け目を覚ます。
薄く目を開けると空と自分の顔の横に使い魔の顔があった。
夢と違うのは体のあちこちから血を流している事だ。少し顔を動かすとキュルケとタバサが珍しく慌てた様にしてこっちを見ている。
風に紛れて鉄と何かか焦げたような臭いが流れ、血と何かが焼けた臭いだろうと思い、自分が助かった事を認識する。
体を動かそうとするが動かない。
当然だ。倒れたプロシュートの体が半分ぐらい自分に重なっている。
血の臭いとその重さにそれを退けようと思ったが、あの時自分の魔法を信頼し命を賭けてくれた事を思い出しそのままにしておこうと思った。
ワルドの分身に襲われる瞬間まで魔法を撃っていたが、そこからの記憶無い。
生きているという事はワルドに勝ったのだろうが…そのせいでプロシュートがこんな大怪我をしてしまったという事に少し悲しくなった。
「……この腑抜け野朗が…!」
そう呟くような声にハッっとする。思わずその顔を見るがその目を閉じたままだ。
「…オメーは…マン…ーニなんだよ…ッシ」
……さっきまで夢の中で受けていた説教とほぼ同じような事を言っている事に『実は起きてるんじゃないか?』と思い動く方の手で顔をつねってみる。
起きていれば多分えらい事になっていただろうが、反応は無い。

その後も半ばうわ言のようにそれが続いているが、ただ違うのは相手が自分ではなく時折聞こえる『ペッシ』という人物であるという事だ。
それが誰なのか気にはなったが
『ブッ殺…と心の中で思っ…なら…その時スデに…動は終わって…るんだ』
という危険極まりない言葉に、帰ったらはしばみ草を食べさせてやろうかと思いになり流れる雲をぼんやりと見ながら再び目を閉じた。


「分かったよ!プロシュート兄ィ!兄貴の覚悟が!『言葉』でなく『心』で理解できた!」
そう叫ぶ弟分はもうマンモーニの目はしていない。
別世界にいる弟分に覚悟が伝わったかどうか分からないが、少なくともこの夢の中のペッシはマンモーニではない。
「やれ…やるんだペッシ…オレはお前をここから見守っているぜ…」
このペッシにすらそれが聞こえているか分からないが、それでも今は見守ろうと思った。

プロシュート兄貴 ― 左脚にひび 右大腿部に火傷 全身打撲 出血多量

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//第五部,プロシュート
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