ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ストレイツォ-2

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沼の底からわき上がる気泡のようにゆっくりとストレイツォは覚醒した。
頭にもやがかかっているようだった。
体の大部分の感覚も無い。
(波紋の量が足りずに、生き延びたか)
JOJOに敗北し、自決のため河に落ちた最後の記憶が蘇る。
(ここは病室か?ということは死にきれず意識を失った私を誰かが河からすくい上げたのか)
そしてその誰かとはJOJOだろうなと考えた。
あの決闘はJOJOとそばにいた少年、自分が人質にとった女性しか見ていない。
いかに都会とはいえ夜の河に落ちた自分を第三者が見つける可能性は低いだろう。
JOJOはまだ話を聞きたがっていた様子だし、死ななかったのも運命というやつか。
そこまで考えたストレイツォの耳に聞き慣れない声が飛び込んできた。
「ミスタ・コルベール。本当にやらなければならないのですか?あの得体の知れない
死体っぽい亜人と」
これは声質からして少女だな。年は10くらいか?
「ミス・ヴァリエール。あれはちゃんと生きています。それに良く考えてご覧なさい。
使い魔召還は神聖な儀式です。喚び出した者と契約をしないなどという選択はありません。
それに再度召還に挑戦したとして確実に成功する自信が貴方にあるのですか?」
こちらは男性だ。声からしてそれなりの年。
「しかし回復の魔法でも下半身を再生することはできません。いずれは死んでしまいます」

「ミス・ヴァリエール。使い魔が契約の前に死ぬ事と、契約後に死ぬ事には大きな違いがあります」
「しかし、ミスタ・コルベール…」
「しかしはありません。さぁ、いつ容態が変化しないとも限りません。早く契約を」
会話が止んだ。少女が何かぶつぶつ言いながらベッドに近づいてくる気配がする。
そしてベッドの周りを覆っていた白い布を勢いよく開け放った。
目が会った。見たことも無い少女だ。
「先生!亜人が意識を取り戻しています!」
その声を聞いた男の方も急いで布の内側に入ってきた。
「気がつきましたか。貴方は見たところ亜人のようですが言葉は通じますか?」
通じている。自分はチベットから来たが英語は話せる。
しかしストレイツォの考えは声にならなかった。
肺が大部分焼けたせいでうまく発声ができない。
仕方なしにストレイツォは首を縦に振ることで意志を伝えた。
「どうやら通じているようですね。見たところ(まだ胸には穴があって中が見える。文字通り)
肺が無いようですから声は出せないでしょう。しかし肺がなくてどうやって生命維持を…
このような生命力と再生力を持つ亜人は初めてです」
亜人とは自分のことか?吸血鬼にとって重要な器官は脳でありそれだけで生存は可能だ。
(吸血鬼の事を知らないのか。知っていればこんなに無防備に近づいたりはしないだろう。
それにJOJOの姿も見えない。どうやら私は第三者に救われたようだな。
この二人は医師と見習いの看護婦だろうか)
考え込んでいるストレイツォを尻目に少女は近づいてきていた。
う~。初めての相手が頭と胸と右腕だけの謎の亜人なんて。
顔はまぁ整っているけど内臓丸見えだし… うっ、見ちゃダメよ私。
なんて事を考えながらルイズはストレイツォに顔を近づけて呪文を唱えた。

考え事をしていたストレイツォは見習い看護婦が検診をするにしては顔が近いことを見逃した。
そして二人の唇がほんの一瞬だが重なる。
(今のは口づけ?いや熱を計ったのかも。まさかニューヨークの最新医療)
少し田舎者なストレイツォが見当違いな事を想像している途中激痛が走った。
激しい痛みにストレイツォの筋肉が勝手に反応してびくびくと震える。
(この看護婦波紋使いだったのか!とぼけた振りをして隙を狙っていたということか
くやしいっ ビクビクッ でも筋肉が反応しちゃうっ)
ルイズはそんな上半身だけで震える亜人を気味悪そうに見つめていた。
やがて痛みは収まり右腕に違和感を残し消えた。
(波紋ではないのか。別にくやしがるほどの事ではなかったな)
「契約、終わりました」
男性医師が右腕を取って観察して言った。
「契約おめでとうミス・ヴァリエール。ふむ、珍しいルーンだ」
ルーン?首をねじ曲げ右腕を見ると手の甲に見たこともない文字のような物が浮かんでいた。
(一体なんだこれは。さっきの痛みは波紋でないとすれば何だ。ここはどこだ。お前達は何だ)
様々な疑問が浮かぶが声に出せない。
目で二人に問うと少女の方がぽつりと言った。
「あんたは今から私の使い魔よ。短い間かも知れないけど、しっかり働…けそうもないわね」
そう言うとふらりと病室から出て行った。

残った男は早速ストレイツォに話しかける。
「ミス・ヴァリエールはああ言ったが君は死なない。私の生徒がしっかり回復させたし、
回復魔法の専門家も学院にはかなりいるからね」
とするとこの杖を持った男が命を救ってくれたようだ。
そういえば全身を駆けめぐった波紋傷が治されているのを感じる。
魔法というのがわからないがそういう医療法なのだろう。
「私の名前はコルベールという。さっきのレディーがミス・ヴァリエール。君の名前も聞きたいが
しばらくは無理そうだ」
確かに波紋傷は治されているが依然再生は始まらない。
単純に材料が不足しているのだ。
ちぎれた部分は波紋で蒸発しているから何か食べて補わなくては。
そこまで考えて自分の食べるものが目の前にあると気付いた。
そうだ、自分は吸血鬼。となれば食べるものは。
(馬鹿な。仮にも命の恩人を毒牙にかけるなど、お前はそこまで墜ちたか)
吸血鬼になって間もないストレイツォはまだ人血を吸ったことはなかった。
メキシコからニューヨークまでの道すがら少しでも事件になることは避けたかったし、
下手をすればおぞましいゾンビを増やしてしまう吸血を本能的に忌避したのだ。
変わりに動物の血肉を摂取したが、それらはエネルギーにはなったが味気ないことおびただしかった。
DIOは人間を超えると言っていたが、恐らく人間を超えるということは人間の捕食者になるという
意味も含んでいるのだろう。
その証拠に道々人間を見るたびになんとも言えない食欲がわき上がってくるのを感じていた。
吸血鬼の嗜好だろうか、人間の匂いがとてつもなく食欲をそそるものに変化していたのだ。

人間は牛や豚を食べる。
それは人間が牛や豚より強いからだ。
ならばその人間より圧倒的に強い自分は人間を食べるべきではないのか。
そのような考えすらどこからともなくわき上がってきた。
若返ることと引き替えに自分が失った物の大きさを思い知らされた。
そのような苦悩を知るよしもないコルベールは質問を続ける。
「多少質問をしたいのだが、いいかな?首を振って答えてくれればいいのだが」
とりあえず食欲を抑えるための紛らわしになればとストレイツォはうなづいた。
「ではまず。君は人間かね?」NO
「まぁこんな人間はいないな。では次に、君の種族はみなこのような再生力を持つ?」YES
「ふむ、突然変異種ではないということか。ではもしや君の種族はトロール?」NOトトロじゃないもん!
「違う。ということは。異常な生命力を持ち、日光に弱い。…君は吸血鬼か?」少しためらったがYES
日光に弱いと言うことも知られている以上、隠し続ける事は不可能だ。
「ふぅー。やはり吸血鬼。まさかとは思ったが。しかし吸血鬼が使い魔に呼び出されるなど聞いたことが
無いのだが」
そう言って男は少し距離を開いた。
先ほどから杖を持ち一見気楽そうに質問してくる男には全く隙が見られない。
自分の正体にある程度の予測はついていて、いざという事態に備えていたという訳か。
「一つ言っておくが私をディナーにしようなどと思わないで欲しい。君を殺すとミス・ヴァリエール
がまた召還の儀式をしないといけないからね」
男の言葉にハッタリはない。
攻撃方法は不明だが自分を十分葬るだけの力があることはわかった。

「しかし、襲いかかるつもりなら意識が戻ってすぐか、契約をする時か、
意識を失った演技を続けて機会を待つでしょう。その点君は素直にこちらの質問にも答えてくれた。
使い魔のルーンも刻まれたし敵意はないと考えてよいでしょう」
契約?先ほどの謎の治療行為のことだろうか。
「もしも君が目覚めて暴れ出すようなら私の責任で浄化するつもりだったが、その心配はとりあえずないようだね」
暴れるつもりなどない。そもそもそんな余力がない。
そんな感情を込めた目で見つめたおかげか男は警戒を解いた。
「何にせよ契約の儀式は終了して、君は使い魔になったんだ。召喚前に何か大変な事態に
巻き込まれていたようだが、ここは安全だよ。ゆっくり傷を治すことができるさ」
そう、まずは傷を治して声を取り戻さなくては。
「吸血鬼はやはり人間の血が好みなのだろうが、提供するわけにはいかない。家畜の血で悪いが
用意させるからそれで我慢して欲しい」
味にこだわらなければ肉体の再生に問題はない。
うなずくと男は部屋から出て行った。
開かれた布から窓が見える。
外は夜だ。

(夜?!私は一日気を失っていたというのか)
ストレイツォの感覚では五時間ほどしかたっていない。
だとすれば今は夜明けに近い時間のはずだ。
元々鍛えられた人間の感覚とさらに吸血鬼の超感覚を持つストレイツォの
体内時間はかなり正確なはずだった。
(やはり相当弱っているようだ。ここまで感覚が狂うとは)
それにしても星が多い。
かなり輝度の低い星もくっきりと見える。
そう、月も出ていて…月も……
ストレイツォは目をつぶってみた。
空裂眼刺驚の打ちすぎでちょっと視力落ちちゃったかな?かな?
目を開けてみた。
どうみても月は二つあった。


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