ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

故郷! 魂の眠る場所 その②

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
故郷! 魂の眠る場所 その②

「竜の羽衣っていうんです」
空の旅にようやく慣れてきたシエスタが、承太郎に支えながら説明を開始する。
無関心そうに見えるタバサも、前を見ながら耳をすませていた。
コルベールは現地の住人の情報という事で興味津々という風に瞳を輝かせている。
「羽衣と呼ばれているのは、それをまとった者が空を飛べるから……なんですけど、実際にそれが空を飛んでる姿を見た人は一人もいないんです。
 持ち主は私のお爺ちゃんだったんですけど、ある日ふらりとタルブの村に竜の羽衣で現れたらしいんです。
 東の地からやって来た……と言っていました。
 でも誰も信じなかった。お爺ちゃんは頭がおかしかったって言われてます」
「何と。それでは竜の羽衣というのはデタラメなのかね?」
残念そうにコルベールが言い、シエスタは苦笑を浮かべる。
「お爺ちゃんは、竜の羽衣で空を飛んで見せろって村の人に言われたんですが、結局飛べなかくて言い訳ばかりしていたそうです。
 それで『もう飛べない』と言って村に住み着いちゃって、でも一生懸命働いて、いっぱいいっぱいお金を貯めて、 貴族の方に頼んで竜の羽衣に固定化の呪文までかけてもらうくらい大事にしてました。
 でも竜の羽衣の件以外では働き者でいい人だったらしく、最終的に村のみんなと仲良くなって、結婚もして家庭を持つようになったとか」
「ふむ、その孫がシエスタという訳か。しかし竜の羽衣は本当に飛ぶのだろうか?
 どう思う、ジョータロー君。君なら何か解るのではないかね?」
話を聞いていた承太郎は、しばしの沈黙の後語り出した。
「竜の羽衣が飛行機の類だとしたら、故障して修理不能になっちまったのかもな。
 何せハルケギニアには修理に必要な設備や部品が存在しねー。
 もし竜の羽衣を見つけても、空を飛べると期待しない方がいいかもしれん」
「それは残念……しかしとりあえず現物を見てみたいものだな。
 ガソリンで動いていたという事はエンジンで動いているのだろう?
 私の研究の参考になるかもしれん。ああ! 実に楽しみだ!」

シエスタの話は、承太郎とコルベール以外は半信半疑で聞いていた。
コルベールと違い機械に対する理解が無いし、所詮小さな村に住む平民に伝わる昔話といった認識である。
しばらくしてシルフィードがタルブの村上空に到着し、シエスタの指示で竜の羽衣を補完してある寺院の方向へと飛ぶ。
すると森の中にちょっと大き目の一軒家ほどの、古びた建物があった。
「あれです。あそこに竜の羽衣が保管されているはずです」
「寺院の手前が空いているな。タバサ、あそこに降ろしてくれ」
ゆっくりと寺院手前に舞い降りたシルフィードから、真っ先に承太郎が降りて、シエスタが降りるのに手を貸してやる。
それを見てルイズは、自分も――と思い手を伸ばしたのだが、承太郎はそれに気づかず寺院の様子を見ていた。
「入れるのか?」
「いえ、確か鍵がかかってたと思います」
「では私が解除しよう。構わんね?」
手を出したまま固まっているルイズの横から降りたコルベールが言う。
一応この村の住人であるシエスタの許可を取ってからというつもりらしい。
承太郎が視線を向けると、シエスタはニッコリと笑ってうなずく。
「それじゃ任せたぜ。ところでシエスタ、竜の羽衣以外には何もないのか?」
承太郎が鍵が開くまでの時間つぶしにと訊ねると、
シエスタは寺院の外にある磨かれた石碑を指差した。
「お爺ちゃんのお墓です。村の共同墓地はちゃんとあるんですけど、何でも竜の羽衣を見守りたいとかで、寺院の前にお墓を作ったんです」
「……そうか…………」
何気なく承太郎はその墓に近寄る。
もしかしたら自分の未来がこうなるかもしれないという不安を抱いて。
そして、承太郎は石に彫られている文字に気がついた。
「…………」
手入れをされていないのか汚れていて読めなかったため、手のひらで埃を払っているとシエスタが解説を始めた。
「お爺ちゃんは死ぬ前に、この墓石を自分で作ったんです。
 普通墓石は白いのに、お爺ちゃんは東方の風習なのか黒い石で。
 それから異国の文字で何か彫ったそうですけど、今まで読めた人はいません。
 孫の私にも教えてくれませんでした。何て書いてあるんでしょうね?」
承太郎はシエスタの一言一言を噛みしめるように心に刻む。
彼が、どんな想いでこの地で眠りについたのかを想像しながら。
「……ジョータローさん、どうかしたんですか?」
埃を払った文字に、承太郎はゆっくりと視線を這わせる。
「海軍少尉天田史郎、異界ニ眠ル」
「えっ……?」
シエスタは承太郎の視線を追った。墓石の文字。
(シローって……お爺ちゃんの名前。……え? あれ?
 どうしてジョータローさんが知ってるの?
 私まだ話してない……。それに、異界に眠る……ってどういう意味?」
シエスタは墓石の文字に視線を戻した。まさか、という予感。
「よ、読めるんですかッ!?」
驚いて再び承太郎の顔を見る。
承太郎は、シエスタの黒い瞳と黒い髪を見ていた。
「シエスタ……その髪と目の色、祖父に似ていると言われなかったか?」
「ええっ!? そ、そうですけど、どうして解ったんですか?」
互いに驚き合うは、同じ国の血を受け継ぐ者。

二人が何をしているのか気になってすぐ後ろまで近づいてきていたルイズも、二人に気づかれぬままやはり驚いていた。
なぜ自分達が読めない文字を読めるのか?

「開いたぞ。さあ、入ろう」
コルベールの声に、承太郎達とルイズが振り返る。
ギーシュ、キュルケ、タバサはコルベールのすぐ後ろで、寺院の扉が開く様をのんびりと眺めている。
そして承太郎達より一足早く竜の羽衣の姿を見た。
「……何これ? こんな物が飛ぶ訳ないじゃない」
キュルケが呆れた声で言うが、ギーシュは真面目に考察をしてみる。
「金属でできているみたいだな。これじゃ重すぎて飛ばすのには非効率すぎる。
 しかも翼もこんな風に固定されていては羽ばたけないだろう。
 仮にこれがジョータローの行っていた『ひこうき』だとして、いったいどうやって飛ぶのか全然想像できないな」
タバサはというと珍しげに竜の羽衣を眺めているだけだ。
コルベールは熱心にあちこち触っている。
「ふむ、固定化の魔法はしっかりしたものらしいな。
 金属の劣化などはほとんど見られないが……。
 ジョータロー君の意見がぜひとも聞きたいな。ジョータロー君、見てくれ」
一足遅れてやってきた承太郎とルイズとシエスタ。
ルイズとシエスタは、こんな物が本当に飛ぶのだろうかと半信半疑だ。
しかし承太郎は竜の羽衣を見て驚く。
これは、見覚えがある。日本では有名な物だ。
マニアでなくとも見覚えくらいはあるだろうし、一般人でも見て名前を当てられる人間もいるだろう。
それほどまでに有名な、第二次世界大戦に大空を駆けた兵器。
「海軍少尉……やはり……これは……!」

翼と胴体に描かれた赤い丸の国籍標識。元は白い縁取りが成されていたらしいが、その部分は機体の塗料と同じ濃緑に塗り潰されている。
黒いつや消しのカウリングに白抜きでかかれた『零八』の文字は、部隊のナンバーか何かだろうか。
承太郎は左手で機体をそっと撫でた。
手の甲のルーンが光る。なるほど確かにこれも武器。巨大な武器だ。
そしてこの機体の情報が頭に流れ込んでくる。
その名前も――。
「ゼロ戦……」
「ぜろせん?」
一同の視線が集まる。承太郎は静かに続きの言葉を口にした。
「俺の祖国がだいたい五十年ほど前、戦争で使っていた戦闘機……戦争のための飛行機だ」
「こないだ君が言っていたひこうきかい?」
「それじゃあ、本当にこれ、空を飛ぶんですか?」
ギーシュとシエスタの言葉に、承太郎はうなずいて答えた。
「シエスタ……おめーの祖父は、俺と同じ国から来たらしい」
「ええっ! そ、そうなんですか!?」
それに一番驚いたのはルイズだ。
なぜならば、ルイズだけは知っているからだ。承太郎の故郷が異世界だという事を。
しかし他の面々は、承太郎の故郷はハルケギニアのどこかだと思っている。
そしてもう一人、承太郎が異世界から来た事を知っているはずの人物は、特に驚いたりせず何かを考え込んでいる。
「……ジョータロー君。これは、飛べるのかね?」
「ちょっと待ちな」
コルベールに問われ、承太郎はゼロ戦に左手を押しつけ情報を探った。
機体の損傷は………………無い。無い? ならば飛べるはずだ。
他におかしいところは無いか探り、精神を集中すると、それが見えた。
「……燃料切れだ。ガソリン……竜の血と呼ばれていたアレを補給できれば飛べる」
「そうか……ふむ……なるほど。では、つまり………………おおっ! そうか!」

突然コルベールがガッツポーズを取った。
気のせいか一瞬、彼のU字ハゲ頭が電球のようにピコリーンと光った気がする。
「どうした? コルベール」
「ジョータロー君! 君は、帰れるかもしれんぞ! 元の世界に!」
衝撃が走る。ルイズの身体が、わずかに震えた。
ジョータローが、元の世界に、帰る?
それはずっと望んでいたはずの事なのに、なのに、どうして、こんなショックを受けるのか。
「元の世界? 何だか妙な言い回しだが、いったいどういう意味だい?」
ジョータローがこの世界のどこか遠くから来たと思っているギーシュが質問したが、それを無視してコルベールが説明を続ける。
「伝説によれば竜は二匹いた。竜は雄叫びを上げて現れた。
 そして一匹は消え、もう一匹はどこかに落下したという。
 これはその落下した方の竜だ。ならばもう一匹はどこへ消えたと思う?
 出発前にシエスタが話してくれたろう、思い出してみなさい」
「……シエスタの話じゃ日食の中に……日食か」
「そう! 日食だよ。こんな奇妙な竜が二匹いたら、どこかで見つかっている。
 だがそんな情報は無い……竜はこの世界にはもういない。
 いいかね、日食に消えたという事は、つまりこれに乗って日食に向かって飛べば!
 元の世界に帰れるかもしれないのだよ、ジョータロー君!」
誰もが目を丸くしていた。元の世界とは、いったい何の事かと。
正直に答えるべきではないと思ったコルベールは、咄嗟に東方のロバ・アル・カリイエの事だと誤魔化した。
しかし、シエスタにはそれが嘘だと解っていた。
だって承太郎に質問した時、ロバ・アル・カリイエから来たのではないと否定された。
そして帰る手段が解らないほど遠い所だと説明された。
本当の故郷の名前は教えてもらえなかった。それを知っているのは――。
シエスタはルイズを見る。ルイズは、何かをこらえるように唇をキュッと結んでいた。

夕方――承太郎は村の側に広がる草原を眺めていた。
シエスタと一緒に。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー